木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

水蜘蛛

2014年01月27日 | 江戸の武器
水蜘蛛、という道具がある。
伊賀者が使った大きなカンジキのような道具だ。
この道具は、水の上を歩くものとして知られている。
しかし、実際に試してみると、子供の体重ですら支えきれない。
上野市観光協会が発刊している『観光100問答』は、安価でとても優れた書物だと思うが、この書でも水蜘蛛については間違いを犯している。

Q:水蜘蛛は浮かないのか?
A:いろいろ実験をしてみた結果の結論であるが、水蜘蛛は残念ながら実用できる道具ではないと言わざるを得ない。


と記し、水蜘蛛は『万川集海』に載っているが、著者の藤林保武が中国の書籍から試しもしないで孫引きしたから、図らずも嘘になった、と結論付けている。
理由としては、『万川集海』に箔をつけるため、と言う。
果たして、この指摘は的を射たものなのだろうか。

水蜘蛛の件は、少し冷静に考えてみれば、分かる。
伊賀者が堀を渡る際に、水蜘蛛に乗って「うんこらせ」と現れたら、それこそ弓矢、あるいは鉄砲のいい餌食となる。
こんな大掛かりな道具を使うより、ふんどし一丁で泳いで渡ったほうが、よほど発見されにくい。

実は、水蜘蛛とはドロドロの湿地帯を歩く道具であった。
水ではなく、泥を相手にしていたから、水蜘蛛は十分実用に耐えたのである。

これまた逆に考えると、伊賀者が湿地帯を歩かなければならない回数と言うのは多かったのだろうか。
この問いにも『否』と答えざるを得ない。

泥沼地を城の周りに設けるというのは、築城技術が未発達の昔は効果があったが、『万川集海』が発刊された延宝年間にあっては時代遅れであった。
泥沼地がなくなるにつれ、水蜘蛛も実用度を失っていく。
忍術書とは、門外不出、秘伝書であると言われるが、『万川集海』は求められた訳でもないのに、わざわざ幕府に提出されている。
『有限会社 伊賀者』の企画書のようなものだ。

書の中には大袈裟な表現も目立つ。
『水渇丸』なる丸錠があるが、一日三粒飲めば、四十五日の間、水を口にしなくても大丈夫だという。
あり得ない話だ。

現代でも、車の性能を計るのに、燃費率というものがある。
リッター何キロ走るか、というやつだ。
これはサーキットのようなところをプロドライバーが慎重に走って得た最高値だ。
一般の人が公道で出すのは、ほとんど無理な数値である。いわゆるカタログ値だ。
伊賀者の記載は、カタログ値としても無理だが、外に対しては伊賀者を超人と思わせるための広告とし、内にあっては暗示効果を狙って書いたのかも知れない。
水蜘蛛には暗示効果はないが、広告としては効果があっただろう。
時代遅れになって実用的ではない水蜘蛛に、本来の使用目的ではない「水上を歩く」といった方法を意図的に付したとも考えられる。

そう考えると、伊賀者は、意外にもPRマンとして、長けていたとも言える。


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