スポーツ時代小説を書いているとタイムスリップというシチュエーションをよく考える。
走りのプロだった飛脚が現代にタイムスリップしてきたら、マラソンや駅伝で活躍できるか、ということも考えた。
佐川急便のキャラクターにもなっている飛脚。
かなり速いイメージがあるが、実際のところはどうだったのであろう?
「上方・下方抜状早遅調」という記録が残っている。
ややこしい名前だが、カミガタ シモガタ ヌキジョウ ソウチ シラベと読む。
京~江戸間の運行表であり、鉄道でいえば時刻表に当たる。
実物は東京都港区の物流博物館に展示がある。
博物館のホームページには写真が載っているが、無断掲載禁止なので、興味がある方はこちらからご覧ください。
江戸~京間は、約500km。
せっかく上のややこしい名前の資料によると江戸~京間の標準所要時間は63時間とある。このことから、500÷63≒8km/時が飛脚の速さだと分かる。
少し補足すると、宮~桑名間は夜行の船便を使用しているので、時速が12km/時まで上がっている。
いっぽう、小田原~箱根のような難所も8km/時で走り抜けている。
マラソンの世界記録を見てみると、男子が21.1km、女子が19.2km。
ニューイヤーズ駅伝だと、20.9km(2025年・男子)。
比べるまでもなく、時速8kmというのは軽いジョギング程度である。
飛脚を爆速で走るなどといった表現も見かけるが、数字だけを見たら、それほど速くないことが分かる。
飛脚に求められたのは短時間の爆走ではなく、長時間コンスタントに走り続ける能力だったのである。しかも、毎日のように走るのだから、明日へ疲労を残さない走り方も求められた。
今に残る写真を見ても、飛脚の足は驚くほど太いが、サラブレッドではなく、頑丈な農耕馬を思わせる。
現代のマラソンの急激な高速化に日本人がついていけなくなっているのも、案外、こんなところにルーツを見いだせるのかもしれない。
