ある晩、偶然ジェシカに出会った。
パンアメリカハイウェイ沿いにあるホテルの裏側にある道。
人通りのほとんどない細い道。薄暗かったが、すぐ彼女だとわかった。
小さな町なので、道で知り合いに出くわすことがよくある。
ときには、通りにいる人のほとんどが知り合いだということもある。
その日は夜の仕事がお休みだった。
「来週のお祭り、いっしょに行こうよ」
彼女が誘ってきた。
全国から何万にもの人が集まる年に一度の大イベントが控えていた。
通りは、人が歩く隙間がなくなるくらいに混雑するという。
通りで何があるのか?
小型トラックを改造した車が多数やってくる。そのトラックは舞台になっていて、女性、男性の有名、無名グループが流行りの曲に合わせて、踊りをおどる。
ディスコモービルと言われている。
懸命にお祭りのことを説明してくれた先生たちが口をそろえて言う。
「その日の夜は家でゆっくりするよ。危険だから」
祭りの前日、首都テグシガルパで会議があった。祭りの日までに帰ることができるかどうかがわからない。
「ちょっと用があって難しいな」
いっしょに行けない理由を説明した。
彼女の表情が変わった。
残念というよりは、怒りの表情である。
「どうして」
何回か同じ言葉を繰りかえすが、納得しない。
「他の女性と一緒に行くのでは」と疑っている。
ラテンアメリカの女性は、男性もそうだが、嫉妬深い。日本人の想像をはるかに超えている。
グアテマラに勤務していたとき、ラテン人女性と結婚した事務所駐在員から話を聞いたことがある。ぼくが結婚する前のことだ。
「いやー、職場の女性とお昼も一緒に食べに行くことができないよ」
日本では、お昼の時間になると、学食、社員食堂、外の食堂などへ、同じ部署の人と食事に行く。慣例だろう。
彼の場合、日本ではなくグアテマラに滞在してはいるが、職場の同僚の女性と一緒に食事に行くことができなかった。
奥さんが激怒するというのだ。
年齢差などを考えると、その職場の女性はつきあいの対象となるような女性ではなかったが、それは一緒に食事に行っていいという理由にはならなかった。
「他の人も一緒ならいいんですよね」
「いやー、どうだろう。厳しいなー」
彼は苦笑いをしながら答えた。
ジェシカとの立ち話が続いた。
夕食の時間が過ぎている。家に帰らねばらなかった。
「もう行かないと」
彼女は急に顔を近づけ、いきなりキスをしてきた。
とても強い勢いで、くちびるを噛むようなしぐさをした。
愛情からではなく、怒りのこもったものだった。
勘違いの嫉妬である。
身の危険を感じたぼくは、彼女に「おやすみ」とあいさつをした後、即座にその場を立ち去り、後ろを振り返る勇気がなかった。
多くの方に楽しい旅をしていただければと思います。
応援のクリックをどうもありがとうございます。
パンアメリカハイウェイ沿いにあるホテルの裏側にある道。
人通りのほとんどない細い道。薄暗かったが、すぐ彼女だとわかった。
小さな町なので、道で知り合いに出くわすことがよくある。
ときには、通りにいる人のほとんどが知り合いだということもある。
その日は夜の仕事がお休みだった。
「来週のお祭り、いっしょに行こうよ」
彼女が誘ってきた。
全国から何万にもの人が集まる年に一度の大イベントが控えていた。
通りは、人が歩く隙間がなくなるくらいに混雑するという。
通りで何があるのか?
小型トラックを改造した車が多数やってくる。そのトラックは舞台になっていて、女性、男性の有名、無名グループが流行りの曲に合わせて、踊りをおどる。
ディスコモービルと言われている。
懸命にお祭りのことを説明してくれた先生たちが口をそろえて言う。
「その日の夜は家でゆっくりするよ。危険だから」
祭りの前日、首都テグシガルパで会議があった。祭りの日までに帰ることができるかどうかがわからない。
「ちょっと用があって難しいな」
いっしょに行けない理由を説明した。
彼女の表情が変わった。
残念というよりは、怒りの表情である。
「どうして」
何回か同じ言葉を繰りかえすが、納得しない。
「他の女性と一緒に行くのでは」と疑っている。
ラテンアメリカの女性は、男性もそうだが、嫉妬深い。日本人の想像をはるかに超えている。
グアテマラに勤務していたとき、ラテン人女性と結婚した事務所駐在員から話を聞いたことがある。ぼくが結婚する前のことだ。
「いやー、職場の女性とお昼も一緒に食べに行くことができないよ」
日本では、お昼の時間になると、学食、社員食堂、外の食堂などへ、同じ部署の人と食事に行く。慣例だろう。
彼の場合、日本ではなくグアテマラに滞在してはいるが、職場の同僚の女性と一緒に食事に行くことができなかった。
奥さんが激怒するというのだ。
年齢差などを考えると、その職場の女性はつきあいの対象となるような女性ではなかったが、それは一緒に食事に行っていいという理由にはならなかった。
「他の人も一緒ならいいんですよね」
「いやー、どうだろう。厳しいなー」
彼は苦笑いをしながら答えた。
ジェシカとの立ち話が続いた。
夕食の時間が過ぎている。家に帰らねばらなかった。
「もう行かないと」
彼女は急に顔を近づけ、いきなりキスをしてきた。
とても強い勢いで、くちびるを噛むようなしぐさをした。
愛情からではなく、怒りのこもったものだった。
勘違いの嫉妬である。
身の危険を感じたぼくは、彼女に「おやすみ」とあいさつをした後、即座にその場を立ち去り、後ろを振り返る勇気がなかった。
多くの方に楽しい旅をしていただければと思います。
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