ナイトクラブの階段を降りる。
負けたボクサーがリングからおり、退場していく心境だ。
外に出る。光がまぶしい。
呼び込みを続けている男が目に入る。
話すことなく、黙ってその場を立ち去った。
100m歩くと、冷や汗かひいた。正常な感覚がもどる。
更に100m。ようやくお腹もすいてきた。
気分を一新しようと、街の人通りに目をやる。通りは何もなかったかのように平和。
昼時なので、背広を着る人が目立ち始めた。ランチの時間だ。
横断歩道をわたると警察官が交通整理をしている。
大臣、事務次官、局長などのお偉いさんと協議、会議を頻繁に持つ仕事をしている。
かけひき、交渉が得意になっていた。
「とりあえず、言ってみるか」
警察官を呼び止めた。
「お巡りさん、交通整理ごくろうさまです。忙しいところすいません。実は…」
まず相手の労をねぎらい、警官である立場を尊重しながら話しかけた。
警官は道の端へ行くように指示した。そしてぼくの話をじっくり聞いてくれた。
「よくあるんだよな。君、観光客だろ。証拠がないと何もできないんだよ。
観光局で相談してみな。何か力になってくれるかもよ」
すぐ先にあるビルを指差した。
観光情報を集めるついでに、その観光事務所に行くことを決めた。
ビルに到着。
エレベーターで5階に上がる。
今度の相談相手は女性。30代前半といったところか。
少し恥ずかしいが、今さら後にはひけないので、事細かに事情を話しはじめた。
彼女は笑うことなく、まじめに話を聞いている。
「ごめんなさい。でも、お金を取り戻すのは難しいわね」
同情してはくれたが、対応はできないと断わられた。
恐喝あるいは詐欺をしたという証拠がないからだ。
領収書ももらっていない。
あの場面で、「領収書お願いします」と言ったら、書いてもらえたのだろうか...
女性担当官に一連の話をしながら、被害を受けたのにもかかわらず、ウキウキしてきた。
初めて訪問する国で、詐欺の報告をしている自分の姿が何となくおかしかったからだ。
「生きてるなー」という自分を実感していた。躍動感まで感じていた。どこかぼくはおかしいのかもしれない。
人に相談したせいか、心もすっきり。
中華料理ビュッフェのお店に入り、無事の生還を一人で祝った。
翌日、その店の前を通るとる、男がまた声をかけてきた。
「今日もどうだ」
彼は昨日、店内で何がおきたかを知らないのだろうか。
「もうひっかからないよ」
彼は笑った。
君子危うきに近づかずだ。
この後、いろいろな経験を積み、大都会ほど、このようなぼったくりがよくあることを学んだ。
負けたボクサーがリングからおり、退場していく心境だ。
外に出る。光がまぶしい。
呼び込みを続けている男が目に入る。
話すことなく、黙ってその場を立ち去った。
100m歩くと、冷や汗かひいた。正常な感覚がもどる。
更に100m。ようやくお腹もすいてきた。
気分を一新しようと、街の人通りに目をやる。通りは何もなかったかのように平和。
昼時なので、背広を着る人が目立ち始めた。ランチの時間だ。
横断歩道をわたると警察官が交通整理をしている。
大臣、事務次官、局長などのお偉いさんと協議、会議を頻繁に持つ仕事をしている。
かけひき、交渉が得意になっていた。
「とりあえず、言ってみるか」
警察官を呼び止めた。
「お巡りさん、交通整理ごくろうさまです。忙しいところすいません。実は…」
まず相手の労をねぎらい、警官である立場を尊重しながら話しかけた。
警官は道の端へ行くように指示した。そしてぼくの話をじっくり聞いてくれた。
「よくあるんだよな。君、観光客だろ。証拠がないと何もできないんだよ。
観光局で相談してみな。何か力になってくれるかもよ」
すぐ先にあるビルを指差した。
観光情報を集めるついでに、その観光事務所に行くことを決めた。
ビルに到着。
エレベーターで5階に上がる。
今度の相談相手は女性。30代前半といったところか。
少し恥ずかしいが、今さら後にはひけないので、事細かに事情を話しはじめた。
彼女は笑うことなく、まじめに話を聞いている。
「ごめんなさい。でも、お金を取り戻すのは難しいわね」
同情してはくれたが、対応はできないと断わられた。
恐喝あるいは詐欺をしたという証拠がないからだ。
領収書ももらっていない。
あの場面で、「領収書お願いします」と言ったら、書いてもらえたのだろうか...
女性担当官に一連の話をしながら、被害を受けたのにもかかわらず、ウキウキしてきた。
初めて訪問する国で、詐欺の報告をしている自分の姿が何となくおかしかったからだ。
「生きてるなー」という自分を実感していた。躍動感まで感じていた。どこかぼくはおかしいのかもしれない。
人に相談したせいか、心もすっきり。
中華料理ビュッフェのお店に入り、無事の生還を一人で祝った。
翌日、その店の前を通るとる、男がまた声をかけてきた。
「今日もどうだ」
彼は昨日、店内で何がおきたかを知らないのだろうか。
「もうひっかからないよ」
彼は笑った。
君子危うきに近づかずだ。
この後、いろいろな経験を積み、大都会ほど、このようなぼったくりがよくあることを学んだ。