勤務先の事務所は住んでいる市ではなく、隣の市にある。下宿先からバスで約30分。通勤ラッシュはない。それでもバスは結構混んでいて、座れないこともある。
この事務所に、週に数回は顔を出す。他の日は、巡回や研修などで、県内各地に足をのばす。
この隣の市には、スペイン語のアルシデス先生が住んでいる。高校のスペイン語の先生だ。無理を言って個人授業をお願いした。毎回先生の勤務先の高校で授業を受けている。
これまでに2人の先生にスペイン語指導をお願いしたが、1人は約束の日に連絡なしの不在が連続して中止。もう1人の先生は、朝から夜まで高校の英語の授業を担当することになり、多忙を理由にこちらも中断した。
このアルシデス先生は、ラテン人には珍しく、きちんと時間通りに集合時間に現れる。そして教え方も上手い。スペイン語文書の添削も、適度に赤が入る。この添削指導でスペイン語指導力のレベルがよくわかる。上手い先生は、生徒のスペイン語レベルを見ながら、適度に訂正をすることができる。
ある日のこと。スペイン語の個人授業が終了し、高校から歩いて100メートルほど先のバス通りでバスを待っていた。
30分に1本の間隔で路線バスがやってくる。
バスのタイプは様々。中型のマイクロバスあるいは日本の路線バスと同じ大型のバス。年式はとてつもなく古い。
どのバスもエンジンはきちんと手入れしてある。スピードはそれほど出ないものの、乗車中に故障したことは、2年間のホンジュラス生活の中でほんの数回だ。
夕日を向かいにバスを待つ。暑さは相変わらず。
バス通り向かいにある小さな雑貨屋で、氷菓子を1レンピーラで購入する。コップに牛乳と砂糖を入れ、アイスの棒を差し込み冷凍したものである。味はいちごとかいろいろあるが、食品添加物で色付け、味付けされたものが多い。現地のフルーツを使ったものもある。
ぼくは牛乳味を購入することにした。
バスを待つこと数十分、目の前に見知らぬタクシーが停車した。
若い運転手が語りかける。
「乗ってきな。チョルテカまでだろ」
ぼくは少しびっくりした。
しかし、彼はチョルテカのタクシー運転手であることをすぐに理解した。
ぼくを市内で何回か見かけ、今仕事帰りで家に帰ることを知っているようだった。
彼は、この隣の市まで客をのせてきて、その帰りのようだった。
「バス代しか払えないけど、それでいいの」
彼はニッコリと微笑んだ。
「もちろんさ。さあ乗りな」
ぼくは安心して助手席に乗り込んだ。
交通規則があるのだろうが、ホンジュラスでは交通事故が多い。
そもそも田舎には信号がない。だからここでもよく交通事故を見かける。
首都の環状線では大きな交通事故を見かけることがある。車がつぶれていて救助を待っている様子はとても痛々しい。
助手席の死亡率が高いということを知っていたが、ぼくは気にせず、彼の隣に座った。
やはりタクシーは早い。バスだと移動に1時間かかることもある。しかし、タクシーだと数十分。
彼とは、彼がタクシー運転手をして何年になるのか、ぼくが何をしているのか等を話した。彼は若いがまじめに、そして楽しくタクシーの仕事をしていることがわかった。
自宅まで送ってもらうのも申し訳なかったので、バスで降りるときと同じ市内入り口の公園前で降ろしてもらった。
事務所の指導では、見知らぬ人の車、タクシーに乗ることは誘拐等の危険性があるので、禁止されている。でも彼の明るい表情が、ぼくの緊張を一瞬にして緩和した。
自転車ですぐに一周できてしまう小さな街に住んでいた。道を歩いていると次々と知り合いに出会う。挨拶だけのこともあれば、長々と立ち話をすることもある。時には座り話も。
ぼくがアジア人ということもあり、知り合いにはならなくても、存在は結構多くの人が認知してくれている
田舎にありがちな噂というのはあまりない。心地よい広さの街なので、少々羽目を外しても大丈夫。もちろん、勤務先の先生方の間ではすぐに噂になってしまうのだが…。
若いタクシー運転手の好意がとても嬉しく、さわやかに一日を終えることができた。
田舎街の人々とともに生きている喜びは素晴らしい。
今日も街との一体感を感じながら、シャワーの後、シーツ一枚の敷かれているシンプルな籐のベッドに横になった。
この事務所に、週に数回は顔を出す。他の日は、巡回や研修などで、県内各地に足をのばす。
この隣の市には、スペイン語のアルシデス先生が住んでいる。高校のスペイン語の先生だ。無理を言って個人授業をお願いした。毎回先生の勤務先の高校で授業を受けている。
これまでに2人の先生にスペイン語指導をお願いしたが、1人は約束の日に連絡なしの不在が連続して中止。もう1人の先生は、朝から夜まで高校の英語の授業を担当することになり、多忙を理由にこちらも中断した。
このアルシデス先生は、ラテン人には珍しく、きちんと時間通りに集合時間に現れる。そして教え方も上手い。スペイン語文書の添削も、適度に赤が入る。この添削指導でスペイン語指導力のレベルがよくわかる。上手い先生は、生徒のスペイン語レベルを見ながら、適度に訂正をすることができる。
ある日のこと。スペイン語の個人授業が終了し、高校から歩いて100メートルほど先のバス通りでバスを待っていた。
30分に1本の間隔で路線バスがやってくる。
バスのタイプは様々。中型のマイクロバスあるいは日本の路線バスと同じ大型のバス。年式はとてつもなく古い。
どのバスもエンジンはきちんと手入れしてある。スピードはそれほど出ないものの、乗車中に故障したことは、2年間のホンジュラス生活の中でほんの数回だ。
夕日を向かいにバスを待つ。暑さは相変わらず。
バス通り向かいにある小さな雑貨屋で、氷菓子を1レンピーラで購入する。コップに牛乳と砂糖を入れ、アイスの棒を差し込み冷凍したものである。味はいちごとかいろいろあるが、食品添加物で色付け、味付けされたものが多い。現地のフルーツを使ったものもある。
ぼくは牛乳味を購入することにした。
バスを待つこと数十分、目の前に見知らぬタクシーが停車した。
若い運転手が語りかける。
「乗ってきな。チョルテカまでだろ」
ぼくは少しびっくりした。
しかし、彼はチョルテカのタクシー運転手であることをすぐに理解した。
ぼくを市内で何回か見かけ、今仕事帰りで家に帰ることを知っているようだった。
彼は、この隣の市まで客をのせてきて、その帰りのようだった。
「バス代しか払えないけど、それでいいの」
彼はニッコリと微笑んだ。
「もちろんさ。さあ乗りな」
ぼくは安心して助手席に乗り込んだ。
交通規則があるのだろうが、ホンジュラスでは交通事故が多い。
そもそも田舎には信号がない。だからここでもよく交通事故を見かける。
首都の環状線では大きな交通事故を見かけることがある。車がつぶれていて救助を待っている様子はとても痛々しい。
助手席の死亡率が高いということを知っていたが、ぼくは気にせず、彼の隣に座った。
やはりタクシーは早い。バスだと移動に1時間かかることもある。しかし、タクシーだと数十分。
彼とは、彼がタクシー運転手をして何年になるのか、ぼくが何をしているのか等を話した。彼は若いがまじめに、そして楽しくタクシーの仕事をしていることがわかった。
自宅まで送ってもらうのも申し訳なかったので、バスで降りるときと同じ市内入り口の公園前で降ろしてもらった。
事務所の指導では、見知らぬ人の車、タクシーに乗ることは誘拐等の危険性があるので、禁止されている。でも彼の明るい表情が、ぼくの緊張を一瞬にして緩和した。
自転車ですぐに一周できてしまう小さな街に住んでいた。道を歩いていると次々と知り合いに出会う。挨拶だけのこともあれば、長々と立ち話をすることもある。時には座り話も。
ぼくがアジア人ということもあり、知り合いにはならなくても、存在は結構多くの人が認知してくれている
田舎にありがちな噂というのはあまりない。心地よい広さの街なので、少々羽目を外しても大丈夫。もちろん、勤務先の先生方の間ではすぐに噂になってしまうのだが…。
若いタクシー運転手の好意がとても嬉しく、さわやかに一日を終えることができた。
田舎街の人々とともに生きている喜びは素晴らしい。
今日も街との一体感を感じながら、シャワーの後、シーツ一枚の敷かれているシンプルな籐のベッドに横になった。