たびびと

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世界遺産観光地から開発途上国まで、世界各地の心あたたまる、すてきな風をお届けします。

食事への招待

2012年04月20日 | ホンジュラスの風
ジェシカの家に遊びに行ったことがある。

遊びに行ったというよりは、通りで偶然出会い、家まで案内してくれただけだが。

「家近くなの。よってく ?」
素直に彼女の後をついていった。

わずか20mほど歩く。彼女が通りの片隅で立ち止まった。
「ここよ。入って」

右手に彼女の家があった。
貧しい開発途上国の田舎町。その中でもかなりの貧困レベルだった。

家といっても、日本で想像するような家ではない。
山に落ちている材木、木の枝をかき集めた、ただのほったて小屋。日本の物置よりひどい。
窓はない。壁の一部は、日本でいうごみ袋だ。
塀も同じ。長い枝を集め、何本かまとめて針金で巻いたものを使っている。

中に入ると、彼女の兄弟姉妹が6人ほどいた。
お母さんはハンモックに揺られながら、赤ちゃんを抱いていた。
2人の姉妹は彼女に似てとても美人だ。

家の中は狭く、家具はなかった。
何となく居心地がよくなく、落ち着かなかった。見てはいけないものを見てしまったような感覚だ。
あいさつをして、一言二言家族と言葉をかわすと、ぼくは逃げるようにして、そこから去った。

数日後のこと。

ジェシカを食事に誘った。
すんなりOKをもらう。

約束の時間に家まで迎えに行く。
「お待たせ。さあ、行きましょう」
彼女はお母さんと一緒に家から出てきた。

「一緒でいいわよね」
「ああ、もちろんだよ」
思いがけない展開に少々驚いた。

彼女の生活レベルでは、外食をめったにすることができない。
だから、母親においしいものを食べさせてやりたいという親孝行心だろう。
そんなことを思いながら、歩いた。

お姉さんが兄弟姉妹の面倒を見るので、留守中は問題ないとのことだった。

「好きなところでいいよ」
「わかった」

店の選択は彼女に任せた。
お母さんと何やら楽しそうに話をしている。
どこに行くのか話をしているらしい。
タクシーを使おうと言ったのだが、歩いていくことになった。

歩くこと15分、町はずれの住宅街にある、食堂に着いた。
食堂といっても、普通の人が、家の前に炭火用の道具をならべただけのシンプルなもの。
軒先にいすとテーブルが並んでいる。

家の前の通りは舗装されていない土の道。車道からは一つ中へ入った通りなので、車は通らない。

彼女の家族とその食堂の人は顔なじみのようだった。

メニューはない。
ジェシカと母親が適当に何かを注文した。

家の横には、大きな鍋につくり置きしてあるスープや煮物が。
ハエが何匹か飛んでいるが、誰も気にしていない。

隣では、酔っぱらった男性2人組みが話をしている。盛り上がっているようだ。
Imperialというビールが何本も机の上にならんでいる。
ぼくは、もう一つの銘柄Port Royalの方が好きだった。
薄めの味だが、かつてモンドセレクションで入賞したこともある。味に深みがあり、生まれて初めてビールがおいしいと感じた逸品だ。

炭火焼きの台からは、おいしそうなにおいが。
食堂のおばさんも時々会話に入り、おしゃべりを楽しむ。

夜6時に到着したが、もう10時前。
楽しい時間が過ぎるは早い。

勘定をすませて、家に引きかえすことにした。

夜とはいえど、まだまた熱い。行きと同じ道を3人で歩いた。

「お腹が一杯、心も大満足」
ジェシカはスペイン語の有名なことわざを何回も繰り返した。
そのときの笑顔は、まるで子どものようだった。

パンアメリカハイウェイを首都の方向に歩く。
ジェシカと、母親と一緒に。
ぼくは自転車をゆっくり引いていく。

「どうもありがとう。とってもおいしかった。また会いましょ」
家の前で彼女と別れた。

開発途上国の人は「もらうこと」に遠慮しない。
持つべき国が貧しい国に寄付をするのは当然と考えている。

そう思っていた。

本当にそうなのだろうか。

どこへでも好きなレストランに食べに行こうと誘った。
海辺の観光地には、多くの高級レストランが並んでいる。
少し遠いから、タクシーを使っていいとも言った。
ちょっとしたぜいたく、会食の定番は、その海辺のレストランだからだ。

彼女と母親が選んだのは、歩いて数十分の大衆食堂。

ぜいたくの限りをつくす、政府高官。富裕層。
彼女たちが一生働いても買うことのできない高級車を何台も保有。運転手付きで。

今日も、そして明日も。この経済格差はなくなることがないように思える。

人の心の中にある葛藤が、この社会へ映し出されているのだろうか…

革命は一人ひとりの心の中からおこらねばならない…
いかなる社会制度改革も、世の中の問題を解決することはできない…

ジェシカのほほえみを見ながら、クリシュナムルティの言葉を思い出していた。




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