壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

窪田元彦写真展

2010年01月25日 23時09分06秒 | Weblog
          曾良何某は、此のあたりに近く仮に居を
          占めて、朝な夕なに訪ひつ訪はる。我喰
          物営む時は、柴折りくぶる助けとなり、
          茶を煮る夜は、来たりて軒をたたく。性
          隠閑を好む人にて、交り金を断つ。ある
          夜、雪を訪はれて、
        君火を焚けよき物見せん雪まるげ     芭 蕉

 雪の中を訪ねてくれた喜びにはずんだ気持が、まさに語りかけるような口調となって流れ出ている。「君火を焚け」という字余りは、この口調を生かす働きをしている。『笈日記』の「君火たけ」の形は、この流動感をまったく殺してしまうようである。

 「君」は、前書きにより曾良(そら)のこと。曾良は、岩波庄右衛門正字(まさたか)といい、後、河合惣五郎とも称した。信州諏訪の出身。『鹿島紀行』・『奥の細道』の旅に、随行した人である。
 前書きの「交り金(こがね)を断つ」は、「断金の交り」で、非常に深い交わりをいう。
 「雪まるげ」は、雪まろげ・雪まろばし・雪こかし、などともいい、雪を転がし丸める子どもの遊び。これが季語で冬。

    「わざわざ雪の夜を訪ねてきてくれた君へのもてなしに、よいものを見せてあげよう。
     君は炉にどんどん火を焚いてくれ。ひとつ私は庭先の雪で、雪丸げをこしらえて見せ
     よう」


 『窪田元彦写真展』(「銀座・画廊宮坂」)へ行ってきた。
 「Beyond the silence,Paris-Venice]と題する、パリとヴェニスの写真展である。写真家・窪田元彦氏の心眼と感性とでとらえられた、パリとヴェニスの風景が何とも心地よい。
 パリとヴェニスの最高の見どころや、滅多に見に行かぬ夜の光景などなど、本当に旅行している気分になれた。タダで海外旅行ができた上に、お茶とおいしいお菓子付き、非常に得した気分である。
 「画廊宮坂」の宮坂祐次さんといえば、この1月10日に、『宮坂通信 縮刷完全復刻版』と『画廊は小説よりも奇なり』の二冊を上梓された。私家版なので書店には並んでいないが、今、関係者の間では話題沸騰、売れに売れているようだ。
 今日も『画廊は……』に登場する「裏切られたその人は死んだと思え」の倉上さん、雨の千葉さん、「嚢中の錐」の水上さんなどともお話しできた。
 「嚢中の錐(のうちゅうのきり)」とは、『史記』(平原君伝)にあることばで、「内に才能のある人はたちまち外に現れることのたとえ」である。
 ちなみに、禅語にある「閑古錐(かんこすい)」は、心の安らいだ状態をたたえる語で、「真・善・美・聖をふみこえた大いなる愚の世界」をいうようである。
 「三度の武田」にとって、「画廊宮坂」は、まさに「閑古錐」の境地に浸れる絶好の〈喫茶画廊〉なのである。いくら感謝しても仕切れない……!


      嚢中の錐や冬雲 日矢放つ     季 己