壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

紙衣

2010年01月23日 21時50分17秒 | Weblog
          ある人の会
        ためつけて雪見にまかる紙衣かな     芭 蕉

 紙衣を無邪気にためつけている芭蕉の姿が感じられて、なつかしい句である。こうして雪見に興じている姿に、寂しいが、ほのかな明るさが見られるようだ。貞享四年(1687)十一月二十八日の作。

 「ためつけて」は、着古されて、癖がついたり皺ができたりしている紙衣(かみこ)を、伸ばし直して、の意である。それが袴(はかま)や肩衣(かたぎぬ)でなく、紙衣であるところにおもしろみがあったわけで、雪見に出かける心のはずみが感じられる用語である。
 「まかる」は、参る、出かける、ということをやや興にまかせて言った口調。
 「紙衣」というのは、紙子、紙小などとも書き、厚紙に柿渋を引いて晒して乾かし、揉み和らげて、一夜、露に晒して臭みを抜き、それから衣服に仕立てたものである。天和・貞享のころ大いに流行した。

 季語は「紙衣」で冬であるが、この句では「雪見」がはたらいている。

    「自分の紙衣も着古して皺や癖が出来てしまった。雪見の会に出かけるのだから、せめて伸ばして、
     折り目を正して、さっぱりさせて出かけよう」


     ポケットの点滴はづみ冬帽子     季 己