壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

庵はやぶらず

2009年07月23日 21時18分39秒 | Weblog
        木啄も庵はやぶらず夏木立     芭 蕉

 木啄は、「きつつき」と読み、現在は「啄木鳥」と書く。
 啄木鳥は、けら・けらつつき・寺つつきなどとも呼ばれる。種類が多く、小げら・赤げら・青げらなどが普通。山地の暗い密林に棲み、堅い嘴(くちばし)で幹をつつき、幹に穿孔(せんこう)する昆虫を食べる。

 この句は『おくの細道』に、
     当国雲厳寺の奥に仏頂(ぶつちやう)和尚山居の跡あり。「竪横の五尺
    にたらぬ草の庵結ぶもくやし雨なかりせば」と松の炭して岩に書き付け侍
    りと、いつぞや聞こえ給ふ。その跡見んと、雲厳寺に杖を曳けば、……
     山は奥あるけしきにて、谷道はるかに、松・杉黒く、苔しただりて、卯
    月の天今なほ寒し。十景尽くる所、橋を渡つて山門に入る。さてかの跡は
    いづくのほどにやと、うしろの山によぢ登れば、石上の小庵、岩窟に結び
    びかけたり。妙禅師の死関、法雲法師の石室を見るがごとし。
 とあって、掲出されている。

 「寺つつき」とさえ呼ばれている啄木鳥が、軒を破らないのは、仏頂和尚の徳の高さによるのだ、という心が裏に籠められている。その点が、この句を理にかたよらせて弱くしていると思う。
 俳句は、事実の報告や説明ではなく、“詩”なのである。それも17音の。
 俳句は3つの「きり」が大切と言われる。「はっきり・すっきり・どっきり」、つまり、「はっきりした情景・すっきりした調べ・驚き、発見のどっきり」の3つが大事なのだ。

 雲厳寺は、栃木県大田原市(黒羽)にある臨済宗の寺。
 仏頂和尚は、鹿島根本寺二十一世住職。訴訟のため、仏頂和尚が深川臨川庵に仮寓していた天和のころ、芭蕉は仏頂に就いて禅を学んだ。
 啄木鳥は、秋の季語であるが、ここでは現実体験としてとらえられておらず、ここは「夏木立」が強く一句を動かしている。もちろん「夏木立」が季語である。

    「鬱蒼たる夏木立の緑の中に、仏頂和尚の結ばれた尊い庵の跡がのこって
     いる。軒を破るというあの啄木鳥も、さすがにこの庵は破っておらず、
     師がここで行ない澄まされていたころの様が、今も偲ばれて心澄む思い
     がすることだ」 


      落雷のあと止めたる夏木立     季 己