木啄も庵はやぶらず夏木立 芭 蕉
木啄は、「きつつき」と読み、現在は「啄木鳥」と書く。
啄木鳥は、けら・けらつつき・寺つつきなどとも呼ばれる。種類が多く、小げら・赤げら・青げらなどが普通。山地の暗い密林に棲み、堅い嘴(くちばし)で幹をつつき、幹に穿孔(せんこう)する昆虫を食べる。
この句は『おくの細道』に、
当国雲厳寺の奥に仏頂(ぶつちやう)和尚山居の跡あり。「竪横の五尺
にたらぬ草の庵結ぶもくやし雨なかりせば」と松の炭して岩に書き付け侍
りと、いつぞや聞こえ給ふ。その跡見んと、雲厳寺に杖を曳けば、……
山は奥あるけしきにて、谷道はるかに、松・杉黒く、苔しただりて、卯
月の天今なほ寒し。十景尽くる所、橋を渡つて山門に入る。さてかの跡は
いづくのほどにやと、うしろの山によぢ登れば、石上の小庵、岩窟に結び
びかけたり。妙禅師の死関、法雲法師の石室を見るがごとし。
とあって、掲出されている。
「寺つつき」とさえ呼ばれている啄木鳥が、軒を破らないのは、仏頂和尚の徳の高さによるのだ、という心が裏に籠められている。その点が、この句を理にかたよらせて弱くしていると思う。
俳句は、事実の報告や説明ではなく、“詩”なのである。それも17音の。
俳句は3つの「きり」が大切と言われる。「はっきり・すっきり・どっきり」、つまり、「はっきりした情景・すっきりした調べ・驚き、発見のどっきり」の3つが大事なのだ。
雲厳寺は、栃木県大田原市(黒羽)にある臨済宗の寺。
仏頂和尚は、鹿島根本寺二十一世住職。訴訟のため、仏頂和尚が深川臨川庵に仮寓していた天和のころ、芭蕉は仏頂に就いて禅を学んだ。
啄木鳥は、秋の季語であるが、ここでは現実体験としてとらえられておらず、ここは「夏木立」が強く一句を動かしている。もちろん「夏木立」が季語である。
「鬱蒼たる夏木立の緑の中に、仏頂和尚の結ばれた尊い庵の跡がのこって
いる。軒を破るというあの啄木鳥も、さすがにこの庵は破っておらず、
師がここで行ない澄まされていたころの様が、今も偲ばれて心澄む思い
がすることだ」
落雷のあと止めたる夏木立 季 己
木啄は、「きつつき」と読み、現在は「啄木鳥」と書く。
啄木鳥は、けら・けらつつき・寺つつきなどとも呼ばれる。種類が多く、小げら・赤げら・青げらなどが普通。山地の暗い密林に棲み、堅い嘴(くちばし)で幹をつつき、幹に穿孔(せんこう)する昆虫を食べる。
この句は『おくの細道』に、
当国雲厳寺の奥に仏頂(ぶつちやう)和尚山居の跡あり。「竪横の五尺
にたらぬ草の庵結ぶもくやし雨なかりせば」と松の炭して岩に書き付け侍
りと、いつぞや聞こえ給ふ。その跡見んと、雲厳寺に杖を曳けば、……
山は奥あるけしきにて、谷道はるかに、松・杉黒く、苔しただりて、卯
月の天今なほ寒し。十景尽くる所、橋を渡つて山門に入る。さてかの跡は
いづくのほどにやと、うしろの山によぢ登れば、石上の小庵、岩窟に結び
びかけたり。妙禅師の死関、法雲法師の石室を見るがごとし。
とあって、掲出されている。
「寺つつき」とさえ呼ばれている啄木鳥が、軒を破らないのは、仏頂和尚の徳の高さによるのだ、という心が裏に籠められている。その点が、この句を理にかたよらせて弱くしていると思う。
俳句は、事実の報告や説明ではなく、“詩”なのである。それも17音の。
俳句は3つの「きり」が大切と言われる。「はっきり・すっきり・どっきり」、つまり、「はっきりした情景・すっきりした調べ・驚き、発見のどっきり」の3つが大事なのだ。
雲厳寺は、栃木県大田原市(黒羽)にある臨済宗の寺。
仏頂和尚は、鹿島根本寺二十一世住職。訴訟のため、仏頂和尚が深川臨川庵に仮寓していた天和のころ、芭蕉は仏頂に就いて禅を学んだ。
啄木鳥は、秋の季語であるが、ここでは現実体験としてとらえられておらず、ここは「夏木立」が強く一句を動かしている。もちろん「夏木立」が季語である。
「鬱蒼たる夏木立の緑の中に、仏頂和尚の結ばれた尊い庵の跡がのこって
いる。軒を破るというあの啄木鳥も、さすがにこの庵は破っておらず、
師がここで行ない澄まされていたころの様が、今も偲ばれて心澄む思い
がすることだ」
落雷のあと止めたる夏木立 季 己