明石夜泊
蛸壺やはかなき夢を夏の月 芭 蕉
「蛸壺(たこつぼ)」は素焼きの壺で、海中に吊り下げ、蛸の入るのを待って引き上げる。明石では蛸が多くとれたので、実際にその様子を見聞したものと思われる。
蛸壺は、眼前の海中に深く沈められて、その上に、明けやすい夏の月が照り渡っている。
蛸壺の中で何の懸念もなく、蛸の夢見ている姿がふと胸に浮かぶ。その夢は一夜明ければはかなく破れ去るものだということに、深い感慨を催す。
明るく冴えた月も、明るければ明るいほど、明けやすくはかない夏の月であることを感じさせる。その明るい光の中で、蛸への哀隣は、芭蕉の短夜の旅泊の思いと、ひそかに通い合っていたものであろう。
「明石夜泊(あかしやはく)」は、「明石に一泊して」というのを、漢詩的に言ったもの。
四月二十五日付惣七宛書簡に、「此の海見たらんこそ物にはかへられじと、明石より須磨に帰りて泊る」とあって、実際は、この日須磨から明石へ行き、さらに須磨に引き返して泊まっているので、「明石夜泊」は、この句の効果を上げるための仮構である。俳句は、事実の説明や報告ではないので、このようなことは、よくあるのだ。
季語は「夏の月」。その明けやすい短夜の月の感じが、みごとに蛸壺の蛸のはかない夢と滲透した使い方である。
この蛸壺の蛸が、どこかの国の首相に思えてならない。
「蛸は壺の中で、はかない一夜の夢をむさぼっている。短い夏の夜が明け
ると、海から引き上げられてしまうのも知らずに。その海上を、短夜の
月が無心に照らしていることだ」
こころ足る夜のベーグル蕃茄熟る 季 己
※ 蕃茄(とまと)
蛸壺やはかなき夢を夏の月 芭 蕉
「蛸壺(たこつぼ)」は素焼きの壺で、海中に吊り下げ、蛸の入るのを待って引き上げる。明石では蛸が多くとれたので、実際にその様子を見聞したものと思われる。
蛸壺は、眼前の海中に深く沈められて、その上に、明けやすい夏の月が照り渡っている。
蛸壺の中で何の懸念もなく、蛸の夢見ている姿がふと胸に浮かぶ。その夢は一夜明ければはかなく破れ去るものだということに、深い感慨を催す。
明るく冴えた月も、明るければ明るいほど、明けやすくはかない夏の月であることを感じさせる。その明るい光の中で、蛸への哀隣は、芭蕉の短夜の旅泊の思いと、ひそかに通い合っていたものであろう。
「明石夜泊(あかしやはく)」は、「明石に一泊して」というのを、漢詩的に言ったもの。
四月二十五日付惣七宛書簡に、「此の海見たらんこそ物にはかへられじと、明石より須磨に帰りて泊る」とあって、実際は、この日須磨から明石へ行き、さらに須磨に引き返して泊まっているので、「明石夜泊」は、この句の効果を上げるための仮構である。俳句は、事実の説明や報告ではないので、このようなことは、よくあるのだ。
季語は「夏の月」。その明けやすい短夜の月の感じが、みごとに蛸壺の蛸のはかない夢と滲透した使い方である。
この蛸壺の蛸が、どこかの国の首相に思えてならない。
「蛸は壺の中で、はかない一夜の夢をむさぼっている。短い夏の夜が明け
ると、海から引き上げられてしまうのも知らずに。その海上を、短夜の
月が無心に照らしていることだ」
こころ足る夜のベーグル蕃茄熟る 季 己
※ 蕃茄(とまと)