壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

夕涼み

2008年07月15日 21時59分07秒 | Weblog
 夏の夜の楽しみの一つに、夕涼みのひと時がある。特に、関西では、夕凪の、風ひとつない蒸し暑さが、夏の夜を、とても家の中では過ごせないものにしている。

        夕すヾみ糺(ただす)の岸や崩るらむ     暁 台

 京都の人々が、家の中を空にして、賀茂川の土手へ涼みに出る。その人だかりの多さを詠んだ暁台(きょうたい)の句は、決して大げさなことではない。
 ただし、クーラーの普及した昨今では、こんな納涼風景を見ることはない。
 けれども、自然の川風の心地よさは、また格別である。

 夏の季語の一つに「川床」がある。「川床」と書いて「ゆか」と読むが、「かわゆか」とも読む。また単に「床」と書くこともある。
 川床の発祥は、京都四条河原の夜涼という。
 江戸時代、六月七日から十八日にかけ、茶店や酒亭が、賀茂川の河原に桟敷を設けて料理をもてなした。ちょうどこのころは祇園会の期間で、雪洞(ぼんぼり)の灯が川面に映え、賑わったという。
 今は期日に制限はなく、先斗町、木屋町の料亭が、座敷から川に向けて縁を張り出し、納涼床を造る。
 蒸し暑い京都ならではの風物だが、この趣向は各地に広がり、東京品川の釣宿でも、海に張り出した涼み床を見ることが出来る、と聞いてはいるが、実際に行ったことはない。
 「川床(ゆか)座敷」、「貴船川床(きぶねゆか)」も季語だが、貴船川床のほうが、賀茂川の川床よりも個人的には好きだ。

   「四条の河原涼みとて、夕月夜の頃より、有明け過ぐる頃まで、川中に
   床を並べて、夜もすがら酒を酌み涼を追うた賀茂川べりの床涼み」
 と、芭蕉もその筆に書き残している。
 「夏は河原の夕涼み」と、『祇園小唄』にあるのがそれである。

 大阪では、赤い灯・青い灯の道頓堀や、戎橋・心斎橋のそぞろ歩き、瀬戸内海や有明海では船を浮かべて夜釣りと洒落れるのも、釣好きにはたまらぬ夕涼みであろう。
 船でおすすめは、何といっても琵琶湖の、外国船によるナイトクルージングである。

 江戸の町でも、其角の句に、
        千人が手を欄干や橋すヾみ
 とあるように、両国橋や吾妻橋など、隅田川に架かる橋々には、大勢の涼み客が出たことであろう。


      相聞の句など隅田の夕涼み     季 己