壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

謹慎を解く

2008年01月10日 20時48分51秒 | Weblog
 散歩がてら、氏神様の“すさのお神社”へ行く。
 「第14回 奥の細道矢立初めの俳句大会」の作品を届けるためだ。応募者が減ってきたので是非、ということで、昨年から参加したのであるが……。
 実は、第1回大会の当日句会には参加しているのだ、ひょんなことから。

 13年前の3月の最終日曜日のこと。
 すさのお神社に、たまたまお参りに来たところ、第1回大会の、当日句を募集していた。
 受付の前を通り過ぎようとしたとき、立派な身なりをした老紳士と、受付の人との会話が耳に入ってきた。老紳士を仮に、Aさんとしておこう。
 「Aさん、今日もあなたが一位ですなあ」
 「イヤー!」と、Aさんは右手をジャケットの襟にやり、ふんぞり返ったように見えた。
 Aさんの去った後、受付の人たちの話を、聞くともなしに聞いていた。
 それによると、Aさんは、関東一円の俳句大会を荒らしまわっており、Aさんが参加すると、たいてい一位、悪くても二位、だから今日もAさんが一位になるだろう、とのこと。
 「おもしろい、それなら一丁、勝負してやろうじゃないか」と、いやしい心を起こしてしまった。千円を支払い、投句用紙を受け取る。

 まず、季語を何にするか、辺りを見回す。桜が満開。これはみんなが作るからパス。木々の芽吹きが、命の輝きを感じさせてくれたので、季語を“木の芽晴”と決める。
 つぎに、俳句は挨拶でもあるので、すさのお神社に敬意を表し、復刻なった芭蕉句碑を題材にすることにした。
 最後に、選者の顔ぶれを見て、大方の選者の好みに合わせ、句意がすぐに解るように仕立てあげた。
 こうして、卑しい心根で作りあげた句が、狙い通り?に、一位になった。二位とダントツの差で。
 二位は、Aさんであった。このときの、Aさんのさびしそうな顔。
 心の底から、Aさんに申し訳ないことをしてしまった、と深く反省をした。Aさんにとっては、一位になることが、楽しみ、生きがいであっただろうに。それを無残にも奪い取ってしまったのだ。邪悪な心で。
 「もう二度と、“賞狙い”の句をつくるまい。この大会への参加をやめ、謹慎しよう」と、強く心に誓った。

 いまは、「俳句は、つくるものではなく、つぶやくもの。絵を描くように、歌うように」と、心に念じながら詠むのだが、駄句ばかり。
 季語と己が一体となった句が、生涯に一句でも詠めたら、思い残すことはない。

 謹慎を解いた昨年は、もちろん、念じて詠んだ句「蟻穴を出づるや前途三千里」を出したのだが、入賞はおろか、30位までの入選にも入らなかった。
 けれども、選者の一人、江東区俳句連盟会長・宮下玲華氏が、天賞(1位)に選んでくださったことには、感謝している。
 自分の句の理解者が、一人でもいるということは、何と心強いことか。


     ポケットにしまつておきし寒昴    季 己