壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

字書き職人

2008年01月05日 23時46分11秒 | Weblog
 「温もりと優しさがあふれる天然木に、テレビや雑誌でおなじみの豊口広が、その場でお書きします。(奈良・手書き表札)」というキャッチコピーに誘われ、池袋東武の「日本の職人100人展」に、出かけて行った。
 暮れの大掃除のとき、表札の汚れが気になったからだ。二十数年も玄関に掛けっぱなしになっていたのだから、汚れるのは当然であろう。
 けれども、「表札は玄関の顔、やはり取替えよう」、そう思って出かけたのだ。

 豊口広(とよぐち・こう)という名前は知らなくとも、思わず微笑んでしまうような独特の文字、たとえば、「日本盛」、「あさげ・ひるげ・ゆうげ」、「柿の葉寿司」(平宗)というラベルやパッケージの文字には、出会ったことがあると思う。
 豊口さんは、「書家」と呼ばれるのを嫌って、「字書き」と自称し続けているので、周りの人たちは、「字書きの豊さん」と呼んでいる。
 その「字書きの豊さん」は、独学で「楽書(らくしょ)」という、現在の書体を身につけたという。独特の丸味をおびた作風は、人をひきつける魅力がある。
 
 「木曽檜でお願いします」と注文すると、にっこり笑い、木曽檜に、筆で直接、文字を書く。人と人とが、まあるく笑顔でつながりあえたら…、そんな祈りを込めて。
 なるほど独学だ。筆をぐいぐい檜に押し付け、墨を木にねじ込んでいるような感じがする。
 仕上がった文字は、木の温もりに、筆のやわらかくて丸味をおびた大胆な字だ。思わずにっこりするような字ではあるが、その反面、“もっと頭を垂れよ”との、無言の教えとも感じられる字でもある。
 これで今年は、我が家の玄関先も明るくなり、「ようこそ」と笑顔で、来られる方を迎えられること、間違いなし。

      表札の 木の香墨の香 日脚伸ぶ     季 己