すとう信彦 & his band

社会起業家(チェンジメーカー)首藤信彦の日常活動とその仲間たち

フランスの高校生組合

2011-02-03 18:42:09 | Weblog
予算委員会も消化試合化してきたのか、それとも小党のパフォーマンスの場だ、とでも斜めに見ようが、国会の低調な議論を聞くにつけ、民主主義の本質的な機能がこの国の民主主義システムに欠けているとしか思えない。それは決して国会議員だけの問題ではないと思う。ワイドショーであれほど激烈に批判するコメンテーターが街にでてデモをするわけでも、新しい政治運動を起こすわけでもない。
今回のフランス出張の時に、フランスで何かあると数十万のデモを起こし、現実に政府の政策を阻止し、改正させた高校生組合(UNL)の会長に会う機会があった。次はそのインタビューである。これまでも大卒を対象とする新雇用法案など、いうなれば「大人」の問題になぜ高校生がこれほど激しいデモを展開するのか、不思議に思っていたが、話を聞けば、「なるほど」と感心する以上に、「ああ、本当の民主主義ってこういうものなんだ」思わざるをえなかった。


UNL会長へのインタビュー
1月19日8:00 進学校として有名なアンリ四世高にかようUNL(全国高校生組合)会長(President)のVictor Colombani君と学校近くのカフェで落ち合いUNL(全国高校生組合)についてインタビューを行った。通訳はパリ大使館佐竹博厚書記官。

Q1: フランスにおける高校生組合はいつごろから、また何をきっかけにできたのか?
A1: 1993,94年ごろ3人の高校生によって始まった。
97年には第一回全国総会が開かれた。最初はフィヨン教育相の教育改革案(VAC)に反対し、やがてドビルパン首相の若者雇用政策(CPE: Contrat de Premiere Embauche)に反対した。最近ではサルゴジ大統領の年金改革案に対して立ち上がってデモを行ったのはご存じのとおり。そうしたデモ活動だけでなく、関係大臣や官僚と直接会って、自分たちの主張を伝えている。
Q2: 組織はどうなっているのか?
A2: UNLの活動は内部評議会で運営方針を決める。10名の全国協議会委員がいる。
 この組織はアカデミー(学区)ごとの組織でもある。県ごとに支部長を選び、支部長の互選によって、全国協議会委員を決める。
Q3: 高校生なのに自分たちと直接関係のない年金改革などにあれほど大規模にデモが展開できるのか?
A3: 当初の教育改革(VAC)は、自分達高校生に直接関係があるから立ち上がった。雇用政策は若者(26歳以下)の共通の問題だから立ち上がった。今は高校生だが、大学卒業なんて、もうすぐ目の前だ。高卒の47%が失業し、大学卒の失業率も高い。特に、高校生の44%は職業学校の生徒であり、雇用は目の前の関心事だ。
年金改革に関しては、それは高校生にとって45年先の問題だとも言われたが、現在でも若者(16-26歳)の失業率は22.8%であり、これが将来さらに悪化し不安定化する可能性が考えられる。失業者の連鎖の中で、高齢者の年金支給が遅れれば、中高年が職にかじりつき、その結果、若者の就職の機会は減少する。現在でも、大学卒業後に定職につくのに平均6年かかり、27歳になってやっと就職できるありさまだ。
Q4:日本の若者は政治に関心をもっていない。高校生は政治に関心がないし、大学生も政治にしらけた感情をもっているが、フランスの場合はどうか?
A4:こうした若者の政治への無関心は別に今に始まったことではない。むしろ現在はそうした無関心はすくなくなってきている。大学生でも、授業を抱えていて、政治活動をするのは大変だ。しかし、フランスでは若者は伝統的に政治に関心があり、また教師も政治的な問題を授業でも話す。雇用改革(CPU)や今回の年金改革では、高校生の活動がさまざまなメディアで報道され、より広範な反応につながっていった。
フランス全土で高校は4000校あるが、その四分の一の1000校で登校拒否やデモ参加で授業が成立せず、休校に追いやられた。
今回の年金改革でも、最初はこのような対応を考えていたわけではない。しかし、皆で分析し、議論しているうちにサルゴジ大統領の本当の意図が読み取れるようになり、反対の意思を示すようになった。
まず他校を訪問し、高校生同士で他校の意見を聞きあっているうちに、年金改革案に反対の気運が広がっていった。高校生同士の議論では、改革案がもたらす真の結果は何か?国家財政の状況はどうか、教員の削減につながるのではないか...など議論され、この問題に高校生の関心を喚起した。
他校訪問では、年金改革だけでなく、その高校が抱える個別の問題など、たとえば、ひとクラス何人で教育が行われているかなど、教育条件の問題なども討議する。
Q5: 今回、インタビューを申し込んだときに、スタッフが常駐する事務所でないので、授業の合間を縫ってインタビューを打診し、早朝の始業前に会うことになったが、そのような組織でどうして50万人もの高校生のデモを組織できるのか?
A5: UNLは7000人の高校生組合員で構成されている。組合費は年間7ユーロのみで、それ以外は徴収していない。これで電話料などの基本的な事務費を出している。それ以外に教育省や自治体などからも補助金があり、これは全費用の40-50%に相当する。
主張を大臣や官庁に直接ぶつけるので、各メディアがそれを取り上げる機会が多い。このことが精神的なバックアップになっている。
事務所は高校にあり、1名の常駐スタッフがいるが、近々大きな集会を予定しており、その準備などで不在になることが多く、常時、対応できる状況にはない。大規模な集会や大会の時には非常勤で学生のスタッフを雇用する。
デモをよびかけるのは、高校生同士で電話をかけたりして、関心を喚起し広げる。そこから大きな集会が開けるようになる。そこに人があつまり、関心をシェアすることになり、そのネットワークが広がっていく。
今回の年金改革問題では、幸運にも、直前に全国大会があり、そこでデモをうつことが決定された。そうした状況が報道され、UNL以外の一般高校生もそれぞれ勝手に街へ出てきてデモし、それにUNLが合流することによって、一挙に巨大なデモになっていった。
Q6: デモは警官と衝突したり、負傷したりでリスクが高い。また、学生が反政府のデモに参加すると、それがデータベース化されて就職や社会で不利になるリスクはないのか?
A6: デモの際の肉体的な負傷の可能性などのリスクだが、デモはきちんと計画され、管理されているので、リスクはない。政治参加の経歴を警察がデータベース化したり、社会生活で不利になったりすることはフランスでは禁止されている。むろん裏でそのようなデータが作られている可能性は否定できないが、それがそれほど当局に活用されているとも思えない。
                      以上(文責 首藤)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。