すとう信彦 & his band

社会起業家(チェンジメーカー)首藤信彦の日常活動とその仲間たち

オバマが目指すもの

2009-01-21 23:21:09 | Weblog
オバマ大統領就任演説はキャンペーン期間のあの明るい、変革や希望を期待させられる単純なメッセージと異なって、重い、しかも不透明で複雑な未来を見据えた含みのあるものとなった。その意味で新しい歴史に参加しようと駆けつけた200万人には、参加の満足と同時に、何かわかりにくいものを心に残したのかもしれない。
歴史に大改革を期して登場する人物は必ず、自分を過去のそうした役割を演じた人物になぞらえて表現するものだ。オバマ氏の場合は明らかにリンカーン大統領だ。彼の就任演説はあるいみ、家父長が家族に向かって、社会の困難さをそこで自立していく子供一人一人に言い聞かせているような感じがする。リンカーンは南北戦争による疲弊や南北対立の解消のシンボルであると考えられよう。しかし、同時にわれわれがリンカーンに対して思うイメージは「人民の人民による人民のための政治」すなわち民主主義政治とは何かという定義の伝道者としてのそれでもある。
ここにオバマ氏の語られていない側面があるのではないか。必ずしも順調とはいえない生育過程、国内での偏見、さまざまな異国での体験...そうした背景をもつ政治家が当時まだイラク戦争の評価が定まらない時期から、激しくイラク戦争を批判して大統領候補へ名乗りを上げてくる情熱というか情念には、単にアメリカを救いたいということ以上に、リンカーの持つより高度な普遍性というか、思想の提言というか、彼の第二の意義への傾注があるのではないか?
その意味で、この演説はケネディほどの高揚感をもってアメリカ国民に受け入れられたものとは言いがたいが、複数の演説シナリオライターの原案の中からこれを選び推敲したオバマという政治家の高い精神性と同時に、すさまじい意欲を感じないわけにはいかない。聴衆の反応に合わせることもせず、早口で語り終えたオバマ新大統領の就任演説ではあったが、その文言は、今後に彼が実現しあるいは実現しようとした政策の後世の評価ともあいまって、長く記憶されるテキストとなるだろう。