まだ長女が8ヶ月か9ヶ月くらいの頃。
清瀬にいる友人の家に遊びに行くのが息抜きだった。
歯医者に行くのに長女をみててくれると言ってくれたのでそれもあった。
その歯医者は女医だったが、この前歯はもう治療してももたないと言った。
で、また来るのも大変なので抜くことにして、抜いてもらった。
前歯なのに抜いたのだ。
前歯の抜けた顔は悲惨だった。
家に帰って、ここに歯をブリッヂで入れると12万円かかることをコバちゃんに言うと、「そんなもの保険でやれることをやりな」と言う。
それだと銀歯なの。と言うと。
フン、抜いたんだからしょうがないよ。と。
フン…と言ったのには驚いた。
私は正直すぎたと、今は思う。
まだ25歳。57歳のコバちゃんに対応する力はついてない。
私はその頃生徒もいて収入も結構あった。だから「保険でやった」と言って白い歯にすれば良かったのに。
銀歯にしたの。
可愛くないんだよこれが。
神樂みたいだった。前歯だから笑わないようにした。
その直後主人の姉がコバちゃんに電話してきた。
聞いていると、前歯が欠けたらしい。
コバちゃんは「前歯なんだからいい歯にしなさいよ」と答えていた。
げーーー!今なら私はこう言うな。
私に対するのとは違っていた。
やはり自分の娘は別なのだな。
でもほんとにわかりやすい。
こういう大人がいるのだと、まんまるの目になって驚いたのを覚えている。
まだ同居したて。
子育て、レッスン、家事、すべて無我夢中のころで、誰も味方のいないひとりぼっちだったころだ。
亡くなった姑の悪口ではない。
事実のことだ。
こんなの序の口でね。その後色々な目に遭うのだった。
今の私は、コバちゃんが作ったのだ。
意地悪いなと思うことがあるが、コバちゃんからのことで、今の私がある。
血は繋がってないが、私はコバちゃんに育てられたから。
意地の悪いところは、教わったことだ。
人への思いやりというものは、実の親から贈られたものだ。
そんなふうに思っている。
27歳の頃、長女をおぶって駅近くの歯医者に行った。
銀歯を外してもらって、とても良い白い歯に直してもらった。
帰ってからコバちゃんには何も言わなかったが、コバちゃんは笑顔の私を二度見しただけだった。
もしかしたら、後悔などしてたのかな?
ないない、それはない。
あの窮屈な、銀歯の2年間はキツかったな。
昔のことを思い出すことが増えた。
歳をとった証拠かもね。