私が24歳のころ、夫の実家に入りました。
コバちゃんは56歳でした。
何もできない私にコバちゃんは、婦人の友社出版の料理の本を3冊くれました。
これを読んで学びなさいと言いました。
私はそれを読んで料理の基礎を学びましたが、コバちゃんが教えてくれることもありました。
ある日甥っ子たちが遊びに来た時のお昼を作ろうとしました。
焼きそばがあったので、野菜や肉を炒めて焼きそばを入れてさらに炒めていたら、コバちゃんが代わって炒め始めました。
私は菜箸で炒めていましたが、コバちゃんはステンレスのフライ返しを使って、ガチャガチャとやっていましたが、そのうちに焼きそばがフライパンに焦げ付いてしまうので、そのステンレスのフライ返しでそばを切りながら炒め始めました。
出来てみたら、それは焼きそばにはほど遠い、焼きそばのチャーハンみたいでした。
私は、せっかくの焼きそばなのにとても残念でした。
この時ちょっと、コバちゃんは料理が上手くないのかもと思いました。
コバちゃんはいろいろと教えてくれることがあり、それは私は嫌ではなかったのですが、教えてくれる時、コバちゃんの口が臭うのが辛かった。
それは歯の臭いか歯茎の臭いかはわからなかったが、コバちゃんも口によく手を当てることがあったので、自分でもわかったようでした。
ある日からコバちゃんは歯医者に通い始めました。
そして、今日は二本抜いてきた。と言うことがあるかと思うと、数日経ってまた、今日は三本抜いてきたと言うのでした。
そして、今のコロナでもないのにマスクをして過ごしていました。
とうとうコバちゃんは歯を全部抜いてしまったのでした。
あんな丈夫そうな大きな前の出っ歯も、無くしてしまいました。
あれは整形手術だったと思います。
コバちゃんは自分の顔が嫌いだと言ってました。顔よりも歯が嫌だったのかもしれません。
コバちゃんのアルバムの写真に、ボールペンでグリグリっと落書きがたくさんあるのをみたことがあります。
いつか大人になったら嫌いな歯を抜こうと思っていたと言ったこともありました。
そしてコバちゃんは総入れ歯にしたのでした。まだ56歳でした。
コバちゃんは小さくて大きな劣等感から、解放されたかった。
そしてコバちゃんの顔は、別人になった。
と同時に、今まで膨らんでいた前歯が小さくなったので、唇の周りがホタテのようにしわしわになった。
でもコバちゃんはとてもご機嫌でした。
なりたかった自分になったから。
コバちゃんは小さい時から、可愛いと言われたことがなかったと言っていた。
大きなお家のお嬢様だったのだから、お金を出せば歯の矯正もあったと思うのに。
子供の歯の矯正をするのは、意味があると思う。一生の問題だとも思う。
今日はなぜか、コバちゃんのことを思い出した日でした。
怪物みたいな強い女性でした。
とてもとても、私は敵わない人でした。
発表会が終わったら、お墓参りに行こうかな。