「談合」で茨城県龍ケ崎市の副市長ら逮捕、千葉県南房総市では市の職員に懲役1年6月求刑
3月3日に、茨城県龍ケ崎市の副市長ら2名が逮捕された記事を乗せました。
茨城・龍ケ崎市の副市長ら2人逮捕 官製談合防止法違反の疑い(TBSニュース) - 住みたい習志野
3月11日には
千葉県の南房総市でも官製談合の疑いで市の教育委員会職員に懲役1年6月求刑、というニュースもありました。
南房総市 官製談合起訴事実認める 市教委職員 懲役1年6月求刑 : ニュース : 千葉 : 地域
南房総市については、「落札率99%が異常」ということで談合がバレてしまいましたが、
習志野市も99%の「不自然な」落札率が再三市議会で追及されています。大丈夫なんでしょうか?
落札率99%「異常」南房総市職員ら逮捕 習志野市は大丈夫? - 住みたい習志野 (goo.ne.jp)
入札と談合についてのお話し
今回ブログ読者の方から、「談合とはどういう犯罪なのか、説明して欲しい」というご要望をいただきました。そこで今日は、入札と談合のお話です。
私たちは「買い物はできるだけ安く」と思うけど、なじみのお店との付き合いも考える
私たちは必要なものを買ったり、何か仕事を頼んだり、あるいは家の修繕をしてもらったりと、日々いろいろな契約をして暮らしています。そして経済学では、人は最も効用が大きくなるように、合理的に行動するものだということになっています。しかし現実には、例えば洗濯機を買うのに大型量販店に行った方が安いに決まっているが、駅前の電器店とは永年の付き合いがあるし、具合が悪ければすぐに飛んで来てくれるから、割高でもあの電器店にしようか、などと合理性だけで暮らしているわけではありません。
国や自治体は「最小の費用で最大の効果を」と無駄がないように税金を使わなければならない。だから「入札」という制度がある。
ところで、国や地方自治体も、日々いろいろなものを購入したり、業務を委託したり、あるいは新しい施設を建設させたり、いろいろな契約を締結しています。ただその場合、支払われるお金は国民・市民が払った税金ですから、無駄がないように、最小の費用で最大の効用が得られるように、という合理性が非常に強く追及されることになります。
そこで、入札という制度が採用されています。広く世の中に、「その仕事を最も安く、確実にやってくれる人」を募って、競争してもらうのです。
公正な競争にするため、市の「予定価格」は秘密
例えば、甲市で新しく公民館を建てることになったとします。この場合まず、市は設計を決めたら、これがおよそいくらかかる工事なのか積算をします。これを「予定価格」と言います。そして工事内容を公告(広く一般に知らせること)し、入札を募るわけですが、この予定価格は秘密になっており、入札を開いてみて、予定価格以下で最も安い金額を入れた者に工事を発注することになるのです。材料を安く確保できる独自ルートを持っているとか、ハイテク・ロボットを駆使して人件費を抑えることができるといった者がこの仕事を取ることになるはずです。
なお、もし入札がすべて予定価格を上回っていればやり直し、もしかすると予定価格の算定の方がおかしかったのかも知れません。
例えば、予定価格が1千万円で、秘密が保たれているケースです。正常な入札例です。
A社、B社、C社の3社での入札
1回目の入札金額(予定価格に達せず再度入札)
A社 1,200万円
B社 1,250万円
C社 1,400万円
2回目の入札金額(予定価格に達せず再度入札)
A社 1,100万円
B社 1,030万円
C社 1,050万円
3回目の入札金額(A社に落札)
A社 800万円
B社 950万円
C社 990万円
3回目でA社に落札し、予定価格より200万円安く落札できたことになります。つまり、入札のメリット(競争による経済効果)として200万円安くなり、落札率は80%です。
この落札率が南房総市や習志野市のように99%などと「不自然な数字」になると「予定価格が事前に業者に知らされたのではないか?」と疑われてしまうことになります。
なお、安かろう・悪かろうというのでも困ります。予定価格の他に、いくら安くても要求を満たす工事をする以上、これ以上安いのはおかしいだろうという「下の線」を設けて、それ以下の入札はアウトとする場合(これを最低制限価格という)もあります。
談合は入札の信頼性を破壊する犯罪
こうして、「情実や思い付きで契約するのではなく、誰の目にも合理性が明らかになるようにして契約を結ぶ方法が入札」なのです。そして談合とは、この入札の信頼性を破壊してしまう犯罪なのです。
入札では、予定価格や最低制限価格が明らかにされることはありません。また、他社がいくらで入札したのかもわからないようになっています。ですから、仕事を取ろうと思ったら、まず予定価格がいくらなのか予想することが重要になってきます。それを超えてしまえば失格ですし、他社に勝とうとするあまり、安くし過ぎてしまえば、最低制限価格に引っかからないまでも、儲けのない仕事になってしまうからです。
賄賂(わいろ)で予定価格を聞き出し、逮捕、という事件
そこで、苦労して予定価格を予想し、他社の出方を予想していくよりも、いっそズルいことをしてしまえばいいじゃないか、と考える不心得者が出てくるのです。市の幹部に賄賂を贈って、予定価格を聞き出し逮捕された、などというニュースはそこに関わってくるわけなのです。
しかし、予定価格を聞き出しただけでは、他社がどういう数字を出すかまではわかりません。そこで談合ということが行われるのです。
誰でも入札できる「一般競争入札」と、入札資格をしぼる「指名競争入札」
ところで入札には、一般競争入札と指名競争入札があります。公告したことを実施できるなら「だれが入札してもいいという一般競争入札」に対して、「入札できる者を予(あらかじ)め絞るものを指名競争入札」といいます。例えば、「入札できるのは、千葉県に本店があり、建設業登録をした者で、これこれの実績がある者」といった形で入札資格が絞られます。なぜでしょう。一般競争入札では、安く落札したことはしたが、全然聞いたことのない業者だ、本当に信用できるのだろうか、という審査も必要になってしまうからです。
指名競争入札は「談合」の温床
しかし、指名競争入札にすると、同じ業界で顔なじみの集まりになってしまいますから、これが談合の温床になるとされているのです。
甲市の公民館について、指名競争入札になり地元のA建設、B建設、C建設が競うことになったとしましょう。ここに不正なルートから、実は予定価格が10億円だという情報が洩れてきます。もしここで、各社がまともな企業努力をして競えば、仮に8億5千万円ぐらいに下げられるものとしておきましょうか。しかし、予定価格がわかっているのなら、わざわざそんな苦労をして自分の儲けを減らす必要はありません。ここで「業界のドン」と言われるような人物の出番です。今回の公民館はB建設にやらせよう。おい、B建設。この入札は9億9900万円でお前が落とせ。A建設は1億1千万円で出して、わざとアウトになれ。C建設は辞退にしろ、と指令を出します。その代わり、公民館建設を請け負ったB建設は、A建設に下請仕事を回してやったり、辞退したC建設に謝礼を渡したりして「共存共栄」を図る。本当は8億5千万円で建ったはずの公民館に9億9900万円を使って、損をしたのは納税者だった、というのが談合というものの構図なのです。また、「いわゆる手抜き工事が起るのも、材料や手間を削って謝礼などを捻出しようとした結果だ」と言われています。
落札率が高い(=予定価格と落札価格がほとんど同じ)と、不正が疑われる
ここで注目されるのは、予定価格10億円に対する落札価格9億9900万円の割合です。この例では99.9%、これを「落札率」というのですが、事前に予定価格を知っていたと言わんばかりの数字ですね。「たまたま」ということもあり得ますが、統計を取ってみるとその「たまたま」ばかりが異常に続くことがある。競馬の予想でも、そんなことはあり得ない。そこで警察の内偵が始まることになるのです。
「地域経済を守る」?と言ってズルをするのが「談合」という犯罪
談合とはこういう不正なのですが、後を絶たない理由として、「地域経済を守る」ということがよく言われます。一般競争入札にして、よそから資本力や技術力のある企業が入ってくると、地方の建設業など歯が立たない。仕事をみんなヨソモノに持っていかれてしまう。昔から共存共栄でやって来たのだから、入札などと余計なことをするな、という地元経済界の声がある。そして、今回問題になっている官製談合というのは、役所がこれに乗ってしまって、役所の方から予定価格を漏らしてやったり、談合の場を設けてやったりする。役所の側は、地域経済を守ってやっているつもりになっている、というおかしな犯罪なのです。
入札改革ということで、書面入札だと、各社の担当者が顔を合わせてしまうので談合につながる。電子入札なら、他社の動きがわからないので談合が難しくなる、といったことも言われているのですが、それでも談合が起るということは、実は役所側も一枚かんでいる。納税者の利益などより地域の経済界に忖度(そんたく)しなければ、といった実情があるのだと言われています。そうだとすれば、今回の龍ヶ崎のような事件はまだまだ続くことでしょう。
談合をする人物には「俺は地域経済の共存共栄のために一肌脱いでやったのに、なぜ犯罪者扱いされるのだ」などと、悪いことをしたという意識がないことも珍しくありません。談合は、納税者の納めた税金を食いものにする犯罪なのだ、ということをしっかり根付かせる必要があるでしょうね。
(談合をめぐる過去の犯罪)
一般競争入札 - Wikipedia
国でも問題になっています
(菅首相の長男の「接待」後、東北新社事業認定)
(携帯料金値下げ「指示」の後、NTTと政治家、官僚が「NTTの迎賓館」と呼ばれる麻布十番の高級レストランで「会食」。NTTドコモ携帯料金値下げ幅をどうするか、などについて密談していたのでしょうか?)
内部文書入手 NTTが総務大臣、副大臣も接待していた(文春オンライン) - Yahoo!ニュース
ちなみに、習志野市の「dポイント還元キャンペーン」では、NTTドコモに習志野市が900万円支払い、総額5000万円を使うそうです。
今日は群馬県前橋市。こういうことは犯罪だとは知られていないのか。それとも禁止しようとする方が無茶なのか。官民癒着の談合ズブズブ列島、民側の責任も重い。
南房総市の事件で判決。「入札制度の根幹を揺るがすもので、悪質性の高い犯行」