隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1145.ジーン・ワルツ

2011年03月29日 | メディカル
ジーン・ワルツ
読 了 日 2011/03/28
著  者 海堂尊
出 版 社 新潮社
形  態 文庫
ページ数 330
発 行 日 2010/07/01
ISBN 978-4-10-133311-3

 

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ばらくぶりで著者の本を読む。宝島社のこのミステリーがすごい!大賞を受賞した、デビュー作「チームバチスタの栄光」は瞬く間にファンの心をつかみ、ベストセラーとなりドラマや映画にもなった。
その後間を置くことなく次々と発表されたシリーズ作品および関連する作品は、最初の作品で舞台となった架空の都市と同じく、桜宮市やその周辺を舞台として、登場人物も重ね合わせながら、壮大なドラマを展開する。
僕はそうした手法?が、森博嗣氏のシリーズにも見られることで、興味深く見てきた。僕の読み終わるのが早かったのか?森氏の作品はこのところ新作を見てないが、物語としては余韻を残しているようなので、いくつかのシリーズの続編を期待している。

同様に海堂氏の作品もできるだけ追って読むようにしてきたが、追いつけなかった。医師という多忙な職業をこなしながら、精力的に作品を発表していく姿に、あっけにとられるような感じを持ちながらも、尊敬してきた。天は二物を与えずと言われてきたが、天だってたまには間違えて、一人の人間に二物も三物もあたえてしまうこともあるのだろう。(そうして足りなくなったしまって、たまに半分しかもらえなかった人もあったりして・・・。そんなこたア、ねえか!)

 

 

著者の今回の作品は、不妊治療や体外受精など産婦人科学がテーマとなっている。
今までにも僕が読んできた本の中には、同様の問題を提起した作品がいくつかあって、特に不妊の悩みについては、切実な思いを抱く多くの女性(女性に限らないか?)がいることを知った。幸いにして僕は若くして二人の子供に恵まれたから、子供のできない夫婦の悩みは実感として分からないが、当人たちにとっては深く悲しい思いなのだろうと想像する。
本編の主人公・曽根崎理恵は帝華大学医学部の助教で、顕微鏡下における体外受精のエキスパートである。彼女は大学での研究の傍ら、定期的に地域医療を担う産婦人科マリアクリニックで、妊婦たちの診察を続けてきた。
マリアクリニックで曽根崎理恵が診療を続けている妊婦は5人。年齢も境遇も違う彼女たちは、それぞれに多様な悩みを抱えながら、マリアクリニックでの曽根崎の診察を受けていた。

 

 

堂氏は今までに、作品の中で医療をつかさどる厚生労働省の行政の在り方に、疑問を投げかけたり、あるいは批判的な主張を描いたりしてきた。この作品でもそれは変わらずに、大学医学部付属病院に対する規制によって、地域医療の崩壊を招いているといった問題が底流として描かれる。
だが、ここでの何よりの問題点は体外受精と代理出産だ。曽根崎理恵が多くの難関を乗り越えて、どういう結末を迎えるのかというのが、この物語の面白さだ。終盤には先ごろ終息を迎えたアメリカのドラマ「ER緊急救命室」を思わせるような、手に汗握る場面も展開されるが、曽根崎理恵の周到な計画・企みは思わぬ方向へと終結する。
しかし、いくつかの未解決と感じられる問題もあり、それは巻末解説の東えりか氏の著者への質問により、もう一つの作品「マドンナ・ヴェルデ」によって明らかになる、ということが書かれている。
この作品と表裏一体をなすと、著者の言うもう一つの作品「マドンナ・ヴェルデ」はドラマ化されて、今月4月19日から6回にわたってNHK総合テレビで放映される予定だ。ドラマを見るか、それとも作品を先に読むか、迷うところだ。

 

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