隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

向日葵の咲かない夏

2010年08月04日 | サスペンス
向日葵の咲かない夏
読 了 日 2010/7/12
著  者 道尾秀介
出 版 社 新潮社
形   文庫
ページ数 470
発 行 日 2008/8/1
ISBN 978-4-10-135551-1

 

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者にとって新しいほうの作品を先に読んでしまって、話題の本書が後になった。
前に読んだ「シャドウ」もそうだったが、この作者は子供を主人公に描くのが得意なのか?
本書もいきなり小学校4年生のミチオ君と、その妹で3歳のミカちゃんとが現れて、この二人が主人公?と、ちょっとした驚きと同時に引いてしまいそうになったが、ストーリーの展開がそうはさせなかった。
もう、僕にとって悠久のかなたとなった子供の世界は、とくに現代の子供たちの世界は全く想像できないので(僕には孫がない)、こうした物語の中に描かれる彼らを見て、そんなものかと思うしかない。
僕の子供のころと比較するのはナンセンスというものだろう。
というのは、先達て読んだ宮部みゆき氏の「小暮写眞館」に出てくる小学生のピカちゃんにしろ、本書のミチオ君にしろ、物語中の人物とは言え、かなりしっかりしていて、自分の考えを持ったりしているから、感心したり驚いたり。もう、負けそう!

 

 

だが、読み始めて間もなく、この物語には予想もしてなかった人の蘇りの肯定を根底に作られていることが分かり、何となく僕の漠然とした期待から外れているような思いを持った。だが、そうした思いをどこかに置き忘れるようなストーリーの展開に、引きずられていった。
読者である僕にとって、もう一つ受け入れ難い設定は主人公の少年と、彼に対する半ば精神的な虐待とも思える母親の態度だった。(その前提となる事件?は終盤で明らかにされるのだが…)
前述のごとく、それでもなお僕がお終いまで読み続けることができたのは、やはり全体のストーリー展開と構成にあるのだろう。
事の始まりは、夏休みに入る終業式の日に、ミチオが担任の岩村教師から頼まれて、欠席していたS君に返された作文を届けたことだった。いじめを受ける方での問題児だったSと比較的交流のあったミチオが自分から引き受けたことだったのだが、彼がSの家を訪ねると、そこには首をつって死んでいるSの姿があった。
ミチオは急ぎ学校に引き返して、岩村教師にそれを伝えたのだが、警察に連絡して刑事と現場で落ち合った教師は、それらしい形跡はあったものの、Sの死体は消えていた! というのだ。

そして、ある時Sの生まれ変わりがミチオの前に現れる。生まれ変わったSによれば、自分が死んだのは自殺ではなく、教師の岩村に殺されたのだというのだ。
そこからミチオと3歳の妹ミカと、生まれ変わったSと、3人で岩村教師の告発に向けての活動が始まる。

 

 

ともと不条理な世界と、現実の世界との融合で物語が構成されているので、細かいところで不都合が生じるのは仕方がないところなのだが、僕にとってはいささか好みからはずれた作品だ。こうした作品は文章だけで味わう作品(映像不可)なのだろうが、読み終わってから返り見て、「あれ?」と思う個所がいくつか思い浮かぶ。
だが、根底に蘇りが認められた世界なのだから仕方がないか!?と、解ったような解らないような気持ちの整理がつかないような不可解な印象を残した。(好みの問題?)
似たような超現実的な世界を舞台とした作品は他にもたくさんあるのだろうが、たとえば宮部みゆき氏の作品には趣は違うものの、ファンタジックな作品も多数あるが、それはそれで受け入れ難いという印象はない。
僕は1冊しか読んでないので、偉そうなことは言えないが、この作品は山口雅也氏の「生ける屍の死」の世界に近いのではという印象を持った。この作品が多くの読者の支持を得たということに、僕の感性が人と違うのかも知れない、とも思われるが、もしかしたらこうした作品が嫌いだという人もいるのではないか?どうだろう。

 

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