隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0972.バカラ

2009年03月26日 | サスペンス
バカラ
読 了 日 2009/3/26
著    者 服部真澄
出 版 社 文藝春秋
形    態 単行本
ページ数 525
発 行 日 2003/5/15
ISBN 4-16-320920-4

 

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構前にヤフーのオークションで手に入れた単行本ながら、読まずにいたというのは僕にとって珍しいことではない。タイトルからギャンブルの話しかと思って、気になる作家の本として買ったものの多少敬遠していたのかもしれない。 だが、結論から言ってしまえば本書はバカラ賭博を描いたギャンブルの本ではない。タイトルのバカラは象徴的な意味で使われているもので、アングラ賭博場の様子などが描写される場面は出てくるのだが、作者の狙いは少しそこから外れたところにあるようだ。

 

 

多少敬遠気味だったといって、僕はギャンブルが嫌いかといえば、決してそんなことはないのだが。実は20代前半のころ勤務していた漁業会社-といっても税法上会社組織を形作っているが、昔ながらの網元だった-の納屋と呼ばれる、住み込みの漁師の宿泊や予備の漁網を保存したり修理をする建物で、頻繁に行われていたのが花札賭博だった。
漁師の日常を表現する言葉に「板子一枚下は地獄」ということがよく言われていたが、それはかなり昔のことで、僕が勤務していたころは少しの風でも出漁を見合わせるという徹底した安全確保がなされていた。
後に網船(あんぶね)と呼ばれる本船は100tほどの鉄船へと作りかえられていったが、当時はまだ60tクラスの小さな木造船であったから、ちょっとした時化模様でも出漁はしないという事であったのかも知れない。
そうした時化になると納屋で開帳されるのが花札賭博だった。テラ銭を取る胴元がいるわけでもない仲間内の賭け事とはいえ、時にはかなりの現金が飛び交う場になったから、あまりおおっぴらに言えることではないが、今では不況や、不漁のあおりで7軒有った揚操網(あぐりあみ=巻網)漁業の網元は廃業してしまっているから話せることだ。そんな中でいろいろな人生を垣間見てきたので、博打で身を持ち崩すというような話には、いささかの拒絶反応を示すのだろう。話が長くなった。

 

 

版社、螢窓社の「週刊エクスプレス」を担当するジャーナリスト志貴大希をメインキャラクターとして、同じく「週刊エクスプレス」に関わる契約記者の明野えみる、IT産業の雄「ゲートライン」を率いる日継育(はぐむ)を中心にストーリーが展開される。
前半で、志貴大希がアングラ賭博場でバカラ賭博に嵌って抜き差しならない状態に陥っている様子が折に触れて描写され、先行きの不安感を誘う。一方、明野えみるは情報源として付き合ってきた公安の福田から、公営ギャンブル擁護という立場での記事を載せて欲しいという依頼を受ける。彼女は日継を始めとする各界のリーダーの談話を取って公営ギャンブルの認可が間近に迫っているかのような印象を与える記事を「週刊エクスプレス」に打ち上げる。
片や、志貴大希はアングラ賭博の実態を追うという明野えみるとは対極の立場を取る企画を推進していた。そして、新興国の大使館を使って行われていると見られる賭博場に著名人が出入りしているという情報を掴んだが・・・。

 

まざまな人物が交錯するエピソードが次々と展開するストーリーは、行き着く先を全く予感させずに進んでいくが、些細なことだが、収束部分で一部説明不足があり、少し残念な気がした。が、最終段階で描写される部分は、2000年に公開されたアメリカ映画「ペリカン文書」を思わせるところで、エンディングにふさわしい内容になっており、僕は好きだ。
もちろんのこと内容は映画とは全くの別物で、僕が好きだというのは映画と同じ雰囲気を漂わすところ、作品を非難する意味ではない。
この作者の描く膨大なストーリーは、いつもながらダイナミックな躍動感や、胸躍らせるエピソードに、ワクワクさせられ、読み終わったときふっとため息の出るような読後感を味わえる。

 

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