傷だらけの果実 | ||
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読 了 日 | 2014/02/20 | |
著 者 | 新堂冬樹 | |
出 版 社 | 河出書房新社 | |
形 態 | 単行本 | |
ページ数 | 317 | |
発 行 日 | 2012/09/30 | |
I S B N | 978-4-309-02131-7 |
早、BSイレブンの看板番組となった(多分、僕の独りよがりではないと思う)「宮崎美子のすずらん本屋堂」には、毎回多彩な作家をゲストとして迎え、MCの宮崎美子氏(番組の中で彼女自身は店主と言う言い方をしている)と楽しいトークを繰り広げている。
僕はテレビ局の内情をよく知っているわけではないが、こうして番組が広く視聴者に膾炙されるには、番組プロデューサーの腕が物を言うのではないかと感じている。勿論番組の制作にはプロデューサーのみならず、大勢のスタッフが係っているだろう。各部署でそれぞれ自分の持ち場をこなすためには、やはりリーダーの番組に対するモチベーションや、制作プロセスの把握が成功への鍵を握ることになるのではないか。
僕はこの番組がどの程度の視聴率を上げているのか知らない。しかし、感覚として徐々に成果を上げているのではないか、という印象を持っており、一ファンとして密かな喜びを感じているところだ。
そして、先日放送100回を迎えて特集番組が組まれた。厳しい環境の中100回を迎えることができたことは、大変喜ばしいことで、一ファンとしても同慶のいたりだ。
特集番組は、各界から有名無名の人たちが、推薦する書籍合計100冊を紹介すると言う企画で、テレビタレントの石井正則氏をプレゼンターとして行われた。
だがまったく期待はずれに終わった。推薦人の推す数冊の中から1冊を解説すると言う形式だから、中にはまともにその1冊も話に出さないと言うこともあったりして、「100回を迎えての100冊を紹介」と言う主旨からも外れているし、フリップを持った人物を素通りするだけなんていう人は、何のために出たのか分からない。
思うに週ごとに新たな作家を迎えつつ、番組を構成することがやや困難になったか? このところ過去の総集編だとか今回の特集とかで、何かお茶を濁しているような感があるのは、僕の偏見だろうか? いや、僕の偏見であって欲しい。
看板番組の名をおろそかにするような企画はできるだけ避けて欲しいものだ。ファンとして一言苦情を呈したい。と言ってもたった一人の年寄りの繰言に耳を傾ける人もないか・・・・ネ。
本書も2年ほど前になるがこの番組に出演した、著者・新堂冬樹氏の作品だ。新堂氏と宮崎氏のトークに此の作品の面白さを感じて、木更津市の図書館で借りてきた。 そういうことで、時々僕は番組の中で紹介される本を、参考にしているので変なことで番組がなくならないことを願っているのだ。
て、本の話だ。僕はタイトルから想像していたストーリー展開と、大筋のところで合致していたので、その点は逆にちょっとがっかりしたが、最後の一捻りはさすがだ。ただ、テレビ番組の中では宮崎氏が「ノワールの旗手である著者が、新境地の作品・・・」とか言っていたが、僕はこれが初めての新堂氏の作品なので、他の作品との比較は出来ないが、何と言うか手馴れた感じのストーリー構成に思えた。
ひとかどの芸能プロデューサーにのし上がった黒瀬裕二が、プロダクション各社から、売り込みに訪れた女性タレントを前に、その昔大学生時代に一流のプロデューサーを目指して、同窓の女子大生を一流タレントに仕上げるべく奔走していた頃を回想する、というこの作品を読んで、僕は幾つかの映画を連想した。
その一つは日活映画「勝利者」だ。日本映画の新しいスター、石原裕次郎氏の映画だ、と言った方がいいだろう。1957年、昭和32年のこの映画が公開された頃まだ僕は高校3年生だった。中学生だった弟と一緒に、欠かさずに裕次郎映画を見たものだった。
なぜ本書を読んでこの映画を連想したのか、勿論ストーリーはまったく違う。多分僕の中ではこの映画を石原裕次郎氏の映画と捕らえてはいるが、ストーリーの主役は元ボクサーでクラブのマネージャー山城役を演じた三橋達也氏の方だと感じているからだろう。
それを本書の主人公、プロデューサーの黒瀬裕二と重ね合わせているのだ。
そしてもう一つは、1964年に公開されたアメリカのミュージカル映画「マイ・フェア・レディ」だ。黒瀬裕二にこの映画の中のヒギンズ教授を重ね合わせていたのだ。
僕の記憶のお粗末さは今までに何度もここで書いてきたが、それでも本を読んでかなり昔に見た映画のシーンを、一瞬にして思い起こすこともあるという記憶の不思議さに、驚いてもいる。
本書での黒瀬裕二の思いと、「勝利者」の山城マネージャーの味わった思いとは異なるが、「マイ・フェア・レディ」のレックス・ハリスン氏演ずるヒギンズ教授が試みるプロセスに、共通のものを感じるのだ。
まあ、読書も映画鑑賞もそこで感じるものは、それぞれ人によって違うだろうから、僕の感じた思いに違和感を感じる人がいるかもしれない。それでも僕は、そんなところにも読書の楽しみを見つける喜びを感じているのだ。
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