隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1443.裁かれる判事

2014年03月03日 | リーガル
裁かれる判事
読 了 日 2014/02/19
著  者 小杉健治
出 版 社 集英社
形  態 文庫
ページ数 308
発 行 日 1992/10/25
I S B N 4-08-749860-3

 

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時の言い方なら、「ウッソー!」と思われるようなことが次々と起こるのが現実の世だから、ミステリーのストーリーを考える方も大変だろう。「事実は小説より奇なり」と昔から言われるように、あってはならないことも事実として起こる。 だから、めったなことでは驚かなくなっている筈なのだが、この作者のストーリーにはいつものことながら、驚かされる。まず、法曹の専門家でもない作者が、その世界の様々な事情に通じていることに驚くのだ。

しばらく初めての作家の作品が続いたので、手持ちの本の消化が鈍った。気になるタイトルの殆どが図書館にあることがわかり、まあ、考えれば当たり前のことなのだが、僕の気持ちの中には本は買って読むものだ、という固定概念が依然として強く残っているから、その当たり前のこともふと忘れがちになるのだ。
だから相変わらず寂しい懐も省みずに、またぞろ古書店を巡り歩くことにならないよう、自制しているのだが・・・。

 

 

買い集めた著者の作品(BOOKOFFなど古書店に顔を出す都度、著者の作品を探しては買っていたので、未読の作品が数冊たまった)の中から今回ピックアップした本書はタイトルが示すごとく、ある殺人事件の容疑者となった判事をめぐる物語である。
裁く側の裁判所判事が、殺人事件の容疑者となるというシチュエーションは、冒頭に記述したようなそれほど驚くべきことではないのかも知れない。なにしろ、政治家や警察関係者、あるいは教育者など、一般市民から見ればある種の権威を持った人たちの犯罪は、大なり小なり日常茶飯事のごとく、テレビや新聞種となっているからだ。

だが、ストーリーは無実の罪で起訴された判事の、疑いを持たれた判事自らの反省とともに、冤罪を完全に晴らすと言う執念とも言える言動が、このストーリーの一本の柱となっており、終盤のクライマックスはその謎が焦点となる。

 

 

葉地方検察庁松戸支部の判事・寺沢信秀は、同僚からも堅物と言う評価を得ている真面目一方の判事だった。
担当した暴力事件の被告・岩田栄治郎はかつて暴力団の構成員だった。金銭の貸し借りのトラブルで、経営している自分の店に呼び出した男に暴力を振るい、重傷を負わせたという罪状で起訴されていた。
前科もあることから今回の裁判では実刑の判決が見込まれていた。そんな状況の中、岩田の妻は寺沢を呼び出して、色仕掛けで岩田の釈放を頼み込むのだった。危うく誘惑に負けそうになるのをこらえたその夜、岩田の妻はホテルの一室で死体となって発見された。その上ホテルの入り口付近で岩田の妻と寺沢とのツーショットの写真が寺沢のもとに送られてきたのだ。
あまつさえ、岩田の妻と寺沢が連れ立って歩いていたと言う目撃者が現れるに及んで、寺沢は重要参考人として身柄を拘束される。

ストーリーはその後法曹界を目指し、司法試験に挑もうとする寺沢の義妹・杉原早紀子が、義兄の無実を信じ独自に調査をはじめるという展開になるのだが、物語の進展は一筋縄ではない。
状況証拠から容疑が固まったとして、逮捕された寺沢だったが、彼が過去に扱った事件の判決に不満を抱え、逆恨みを持った人物などが絡んで、複雑な様相を見せていくのだ。
僕はこうした著者の作品に共通する、過去の事件が人々の生活や環境を変化させて、事件を生み出すと言う図式が好きで、読みついで来た。
本書でもう14冊目となるが、まだ買い集めた蔵書が数冊あるから、また折を見て読み続けて行きたい。

 

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