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隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1351.視線

2013年05月16日 | サスペンス
 
読 了 日 2013/04/30
著  者 永嶋恵美
出 版 社 光文社
形  態 単行本
ページ数 299
発 行 日 2012/08/20
I S B N 978-4-34-92841-4

 

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年8月にこの本が出たときに、Amazonから新刊の紹介があって、気になっていたタイトルだ。探したら、木更津市立図書館で貸出可になっていたので、借りてきた。
気になっていたのは10年ほど前に読んだ、石沢英太郎氏の作品と同じタイトルだという単純な理由だ。
石沢氏の方は短編だったが、ドラマ化もされていて、僕はそのドラマを見て、なかなかよくできており、面白く見たので原作を探して読んだのだった。、
僕はミステリー小説を読むのと同様にミステリードラマを見ることも好きで、特に原作のあるドラマはできる限り見逃さないよう気を付けて、TV番組欄などでチェックしている。
ドラマから面白い原作を探したことも数あることからも、ドラマのチェックも馬鹿にはできない。

 

 

短いプロローグがちょっとした話の伏線を示しており、鈍感な僕は終盤近くになって「ああ、そうか、なるほど!」と気が付く。一般に動態地図と呼ばれて、様々な企業などでも重宝している住宅地図の、現地調査員を主人公としたストーリーだ。
ミステリーの探偵役には、従来いろいろな職業が充てられてきて、もう種が尽きたのではないかという人もいるが、こうした話を読むとまだまだあるものだという思いを持つ。
僕はこうした地図の実在する会社は株式会社ゼンリンしか知らないが、本書のような動態調査をして、定期的に更新していることを初めて知った。アルバイトや非正規労働者をもって、地区ごとに歩いて1軒ごとの表札を調べていくのは、時間と手間のかかる仕事だろうと想像する。
ネットで調べたら、ゼンリンでは全国で28万人もの調査員を動員して、表札調べを行うそうだ。そうして集められた正確な情報は、デジタルマップの元ともなって、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーが、車に搭載するカーナビゲーションシステムに組み込まれているという。

 

 

の売れた一本柱を失って、観客動員数が下降して衰退気味の劇団に所属する芳沢夏帆は、非正規社員という形で、住宅地図会社の調査員をしている。劇団員だけでは暮らしていけるだけの収入にならないから、大半の劇団員は何らかのアルバイトをすることになる。現実の世界でも中小の劇団の運営は、厳しいようでここに描かれているごとく、副業で生活しているのが事実のようだ。
いずこの世界も夢を追って暮らしていくのは、楽ではないのだろう。
1件ずつ歩いて表札を見てあるく姿は、時によっては不審者と見られることもあって、いろいろと苦労もあるようだ。そうした活動の中で事件は起こる。
あまり係りがあるようには思えないが、僕はこの小説を読んでいて、ふと、前に読んだ渡辺容子氏の「左手に告げるなかれ」を思い起こした。主人公のたたずまいが似ていると感じたからだろうか?

 

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1350.ビッグボーナス

2013年05月13日 | サスペンス
ビッグボーナス
読 了 日 2013/04/27
著  者 ハセベバクシンオー
出 版 社 宝島社
形  態 文庫
ページ数 356
発 行 日 2005/02/28
I S B N 4-7966-4486-5

 

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びたび僕がここで話題にするBS11(イレブン)で放送中の番組、「宮崎美子のすずらん本屋堂」にほとんどレギュラーで出演しているコメンテーター、解説者の一人が著者のハセベバクシンオー氏だ。
この番組は以前同局で放送されていた書評番組「ベストセラーBookTV」をリニューアルした番組だ。メンバーも入れ替わり、MCに女優の宮崎美子氏を迎えて、2012年4月から始まった。1年が経過して、宮崎美子氏のMCもすっかり板についた感じで、交代でレギュラー出演するコメンテーターたちとも、宮崎ファミリーを形作っている。
書店でたびたび見かけていたから、本書と著者の名前は知っていたが、この番組で著者を見ているうちに、その人柄が好ましく思えて、著作を読んでみようと思った。
ところで本書は、宝島社の「このミステリーがすごい!」大賞で、第2回大賞を受賞している。それでも僕が手を出さなかったのは、何となく僕の好みに合わないのではないか、とそんな気がしていたのだ。最近は僕の食わず嫌いも少しは直ったかと思っていたのだが、まだこの本のように無意識に敬遠してしまうことが結構あることに気付く。
そうして見逃している本は数多いのだろう。僕の面白本探しも楽ではない。

 

 

最近はパチンコ店もパーラーなどという名前で、広い駐車場を持った郊外型の店舗に変わり、若い女性にも入りやすくなった遊技場となっているようだ。僕は若いころほんの少しの間やっただけで、その後パチンコをしなくなっているので、詳しくは知らない。
いつごろからかそのパチンコ店にスロットマシンが置かれて、同様に多くの顧客を集めているらしい。パチンコもスロットも表向きはゲームだから、勝った客は得点に応じて景品と交換できる仕組みとなっているが、実際にはその景品を買い取るところがあって、現金を得ることができる。要するにギャンブルだ。
サラリーマン時代の同僚に、スロットに凝っているのがいて、情報収集のためだけにパソコンを買い、僕は頼まれてその設置からネット接続などをサポートしたことがあった。情報収集と言っても、特定の店が流している機械の出玉情報だから、それほど参考になるとは思えなかったが、同僚によればそれでもそうした情報でも、あると無いとでは大いに違うのだそうだ。
そうしたパチンコ店を舞台としたストーリーは、渡辺容子氏がいくつか書いており、ギャンブルにはまった人々の悲喜劇を描いている。

 

 

書はスロットマシンをモチーフとしたストーリーで、業界の裏表や顧客の欲望を煽る情報屋の物語である。
前述のとおり僕は詳しくないが、店舗の情報や、マシンの情報を載せた専門誌もあるらしい。そんな雑誌にマシンの攻略法を売るという広告が載っており、高額の代金を支払ってそうした情報を買う客もいるらしい。
ギャンブルに無関心なものが聞けば、そうしたものが眉唾だと思うだろうが、ギャンブルに首までつかっている者にとってみれば、甘い誘惑が一獲千金の夢を見させてくれるのだ。
マシンメーカーの社員の中には、マシンにある方策を施すことによって、大当たりを―つまりその大当たりを業界用語でビッグボーナスというのだそうだが―揃えることのできるように、ROM・すなわちマシンに取り付けるマイクロ・コンピュータを交換してしまうという輩がいて、その方法を攻略法と称して、情報を販売するところに流すというのだ。
マシンメーカーの社員だった「俺」が、当時の上司と結託して立ち上げた情報屋の推移が、この物語の主軸だ。

 

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1346.誘拐

2013年05月01日 | サスペンス
誘拐
読 了 日 2013/04/14
著  者 五十嵐貴久
出 版 社 双葉社
形  態 文庫
ページ数 389
発 行 日 2012/05/13
I S B N 978-4-575-51498-8

 

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し前に“誘拐”のストーリーを読んで、誘拐をテーマにした作品は数多いなどといったことを書いたなと思いながら本書を手に取り、レジに向かった。手にはもう1冊、辻村深月氏の単行本「鍵のない夢を見る」持っていた。
3月初め以来、およそ1か月ぶりのいすみ市行きだった(4月6日~7日のこと)。妹たち二人が交代でおふくろを見舞っていたから、僕の出番がなかったのだ。
今年6月の誕生日が来ると、大正生まれのお袋は、96歳になる。物忘れがひどいこと、腰の曲がりで屋内でも杖が必要だという以外は、悪いところはないのだが、高齢による身体機能の衰えはいかんともし難く、料理―自炊などもしなくなっている。
にもかかわらず、彼女は一人暮らしをかたくなに守っているのだ。しかし、そんな状態だから、3日おきくらいに行って、風呂を沸かしたり、食事を作ったり、洗濯をしたりの介助を必要とする。ますます高齢化が進む社会の中で、懸念される老老介護の問題を、かつては他人事のように聞いていたが、自分のこととして受け止めざるを得ない状況になりつつある。

 

 

まあ、それはともかくとして、しばらくぶりのいすみ市行きは、さっそく僕の足を行き付けの古書店へと向かわせて、頭書の行動へと走らせたのだ。いつもいつもというわけではないが、この古書店では、僕が読みたいと思う比較的新しい単行本などが、安く手に入るから、いすみ市のお袋を訪ねた際には、立ち寄るのが習慣になっている。というようなことで、今回は2冊の古書を手に入れた。

ミステリーの謎ということについては、いろいろと意見があるだろうが、僕は永遠のテーマともいえるのが、密室事件ではないかと考えている。密室を抜け出すアイディアは、もうすでに出尽くしたといわれながらも、いまだに密室事件はこれでもかと言わんばかりに、描かれ続けているのが現状だ。
同様に犯罪者側から見たら、これほど割に合わない犯罪はないだろうといわれるのが、営利誘拐だ。誘拐事件も先に書いたように、あらゆる作家たちによって、小説のテーマとして取り上げられてきた。こちらは密室事件とは根本的に異なるのが、実際の事件として後を絶たないことだろう。しかし、実際に発生した誘拐事件は99%以上は失敗に終わっているようだ…。営利誘拐の最大の弱点は、身代金の受け渡しに犯罪者との接点があるということだろう。さらには、人質の扱いという厄介な問題も発生することだ。そうした事柄が失敗に導かれるのが実際の事件なのだろう。
だが、ミステリーに描かれる誘拐事件は、方法や形を変えて、今後もますます多くの面白い作品が発表されていくのではないか。こうした本を読んでいると、そんな期待も湧いてくる。

 

 

にも同様のことを書いたかもしれないが、初めての作家の作品を読むときは、期待と不安が入り混じる。
だが、そんな不安は全くの杞憂だった。物語に引き込まれて手に持ったコーヒーが冷めるのにも気づかず、ページをめくるのももどかしい思いだった。
僕が下手な紹介をすると、ぶち壊しになる恐れがあるから、詳しいことはかけないが、ストーリーは大角観光をリストラされた中年の社員が一家心中を図るという事件からスタートする。リストラの進行役を押し付けられた形の秋月孝介は、自責の念に駆られるが、さらに彼に追い打ちをかける事件が発生する。
秋月の中学生の娘・宏美がマンションのベランダから飛び降りたのだ。一家心中を図った家族に彼女の同級生がいたのだ。宏美は自殺をする直前、同級生の家族を死に追いやったのは、お父さんの責任だとなじっていた。
秋月孝介は心中した家族の葬儀に参列したのち、退職する。
そして、いよいよそこから本番のストーリーへと突入だ。北の核開発による圧力を排除するために、韓国との共同声明の予備交渉が終わり、韓国の大統領が来日して、正式な条約が結ばれることとなった時である。
時の首相・佐山憲明が溺愛する孫娘、狭山百合が誘拐されるという事件が勃発する。

後から読み返せば、あっと驚くような伏線も張り巡らされていることがわかるのだが、誘拐事件その他の犯罪については、その首謀者である秋月孝介側からの視点で、語られるという倒叙推理の形式がなされている。
だが、一筋縄ではないのだ。

 

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1337.64(ロクヨン)

2013年04月04日 | サスペンス
64(ろくよん)
読 了 日 2013/03/26
著  者 横山秀夫
出 版 社 文藝春秋
形  態 単行本
ページ数 647
発 行 日 2012/10/25
I S B N 978-4-16-381840-5

 

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めて読んだ著者の作品は、第5回松本清張賞を受賞した「陰の季節」を収録した短編集だった。2003年のことだから、もう10年になるのか、といつもながらのことだが月日の流れの速さを実感する。
よくは知らない警察内部事情でも、作品に描写されているリアル感に驚いた。同時にそこからあふれ出るようなサスペンスにも、心躍らせた。
そのあと僕は惹きつけられるように、著者の作品を読むことになる。TBSテレビでのドラマ化も、僕の読書に拍車をかけた。上川隆也氏の二渡警視は、原作とは少しイメージが違ったが、それでも原作、ドラマ双方を僕は夢中で読み、そして視聴したものだ。一連のD県警本部にまつわるストーリーは、刑事の事件捜査とは別の観点から、警察サスペンスの魅力を、僕に教えてくれた。
最後に読んだ「看守眼」が2006年3月で、数えたら全部で9冊。夢中で読んだ割に少ない。短編が多く、長編は「半落ち」1冊だった。この「半落ち」については、直木賞にノミネートされた際のエピソードが話題になった。小説の内容に関して選考委員が「・・・そんなことはありえない云々・・・」といったことに、横山氏が今後直木賞には係らない旨の宣言をしたといったことだった、と覚えている。
僕はどちらに加担するわけではないが、作り物の小説の内容に「あり得ない」などというのは可笑しいのでは?と思ったり、横山氏もそうしたことは聞き流して沈黙していた方がよかったのでは?とも考えたりしたものだ。

 

 

さて、どのくらい前からだろうか?本書「64(ロクヨン)」が書評番組などで取り上げられ、売上ランキングで上位を占めるようになったのは。話題はしばらく著者の作品から遠ざかっていた僕の気を引くに十分だった。いずれ早い機会に読んでみようと思っていたら、2月末にいすみ市の母を訪ねた際、行きつけの古書店・ブックセンターあずまで、本書を見かけて安かったので(この店ではBOOKOFFなどの古書店チェーンより単行本がかなり安く値付けされているので)買ってきた。
この作品は別冊文藝春秋に11回にわたって掲載されたものを、単行本化に当たり全面改稿を施したとのことだ。ずっしりと重く分厚い単行本は、あまり係りはないのだが、そうしたことが内容の充実さを表しているような感じがして、手にした時から期待が高まった。それが贔屓目というやつなんだろう。

 

 

書も先に出たD県警が舞台だ。主人公はD県警の広報官・三上義信警視。彼の視点でストーリーが語られていく。彼の娘・あゆみは家出をしており、全国26万人の警察官が娘の行方を気にかけている、という背景がその後の三上の言動に縛りをかけているという想定だ。
今回の問題は、D県警内部の捜査関連の部署である刑事部と管理部門の警務部の確執がテーマとなっており、その底にたった1週間しかなかった昭和64年(この年の初めに昭和天皇の崩御ということがあって、年号は平成に変わった)に起こった未解決事件があった。
当時7歳だった女児が誘拐されて殺された事件である。14年前に起こりいまだ解決を見ていない事件は、いつしかその年の年号から「64(ロクヨン)」と呼ばれていた。そんな状況の中D県へ警察庁長官の視察に来るという。その表向きの目的は64の被害者宅を訪問して焼香することだというのだが、その裏には・・・。
折も折、交通事故を起こした事件の発表で、加害者主婦の匿名という警察発表に記者クラブの面々は納得できずに、広報官に詰め寄るのだった。
さらに、長官の訪問の準備のために、誘拐事件被害者宅を訪れたが、女児の父親は長官の訪問を断る。広報官・三上は窮地に立たされる。
そんな三上の前に見え隠れする二渡の姿があった。果たして彼の目的は?

著者の作品から長い間遠ざかっていたとは思えないほど、前に読んだD県警のシリーズ同様の緊迫感が蘇ったが、期待していた二渡の出番がわずかだったのだけが、少し心残り?

 

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1332.プラ・バロック

2013年03月20日 | サスペンス
プラ・バロック
読 了 日 2013/03/14
著  者 結城充孝
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 425
発 行 日 2011/03/20
I S B N 978-4-334-74922-4

 

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ざわざAmazonの古書店に注文して取り寄せたのだから、どこかで書評を読んだか聞いたかしたのだろうが、その辺のところはきれいに忘れた。最近はそんなことが多い。もう何度も同じことを書いてきたが、物忘れは歳のせいではない、とは言うものの近頃忘れることが多くなっている。なんということのない漢字が書けなくなったり、ボキャブラリーが貧困になったりと、やっぱり歳か?
この文章を書く時も、「アレ、どういう言い回しだっけ?」などと思うことが度々ある。僕はそんなことのために普段から、先行き文章を書く時に必要だと思われる単語などを、ノートにメモしておくのだが、用意した言葉はなかなか使う機会が訪れない、といった具合だ。
「困ったもんです。」モンデス山脈、ア、これは前に一度使ったギャグだった。

 

 

さて、本書は光文社が主催する第12回日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作である。最近は印象として、そっちこっちにミステリー文学賞があるもので、追いかけきれなくなっている。
一時期は、しばらく読書の世界から遠ざかっていたもので、この読書記録を始めて文学賞の受賞作を一つの指針としていた。最初のころは江戸川乱歩賞、横溝正史賞くらいが主だったのが、その後日本推理作家協会賞、サントリーミステリー大賞なども含まれて、次第に多くなっていった。
受賞作が即僕の好みとはならないことも多々あったが、概ねそうした受賞作は水準の高い作品が多く、ミステリー読書の醍醐味を満足させてくれた。しかし、こう多くなってくると、それを追いかけるのは実質不可能だ。冊数にすればそれほどではないにしても、他にも読みたい本は続々と出てきて、クラシックともいえる昔の作品だって読みたい。人間の欲には限りがない。(僕だけの問題か?)

 

 

はロール・プレイング・ゲームをしない。以前、宮部みゆき氏の「R.P.G.」という作品を読んで、面白いと感じたが、僕自身はR.P.G.(ロール・プレイング・ゲーム)が苦手で、ゲームを行うことはないが、ゲーマーたちにとっては、はまるゲームらしく、著者の宮部氏もその一人だと聞いている。
はまったら面白いのだろうな、とは思うがやってみようとする気力がわかないのだ。本書にはR.P.G.ではないが、コンピュータによるバーチャルな世界が描かれている。一時期騒がれた仮想現実の世界については、その後あまり聞かれなくなったが(若しかしたら、僕だけが知らないのかもしれないが)、ネット上でコミュニティが作られて、そこだけに人とのコミュニケーションを図る若者たちを、批判的にみる報道がなされたこともあった。
僕はどちらかといえば、パソコンのない世界など考えられない口だから、ネット依存の若者たちを一概に批判する立場にはない。逆にある一面では、羨ましい感じを持つほどだ。

本書は、ネットのバーチャルな世界ではアゲハと名乗る女性刑事・クロハ(本書では登場人物たちの名前が、一部を除いてカタカナ表記になっている)の活躍を描いた警察小説だ。倉庫街のコンテナーの中に14体もの遺体が発見された。殺人か???集団自殺か???
と、こんな具合ストーリーはでスタートする。僕がR.P.G.をしないということを書いたのは、どうもこの物語をよく理解できないことが、コンピュータゲームをしないことが原因だろうか?と考えたからだ。期待していた割に、面白さが伝わって来ないのは、僕の好みではないということも要因の一つか。残念。

 

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1324.秘められた伝言

2013年02月21日 | サスペンス
秘められた伝言
DYING TO TELL
読 了 日 2013/02/20
著  者 ロバート・ゴダード
Robert Goddard
訳  者 加地美知子
出 版 社 講談社
形  態 文庫上下巻
ページ数 299/316
発 行 日 2003/09/15
ISBN 4-06-273840-6
4-06-273841-4

 

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者の描くストーリーはサスペンス・ロマンとでもいうのだろうか。ウィリアム・アイリッシュ作品とは少し趣の異なる、しかし哀愁を感じさせてひきつけられる。それは遥か昔の事柄が、何らかの形で現在に影を落としている、というシチュエーションに共通の思いを抱くからかもしれない。
と、普通ならこういうような書き出しで僕の記事は始まるのだが、実は本書は読むことになったのは全くの予定外のことだったのである。過日いすみ市大原で一人暮らしを続ける老母を訪ねた際に、僕はうっかりその夜読む本を、終盤間近なところまで読んでいた「靴に棲む老婆」だけしか持っていかなかったのだ。僕は寝る前が一番読書がはかどるから、毎晩蒲団の上で読むのを習慣としている。
その日は持って行った「靴に棲む老婆」をたまたま昼間読み終わってしまって、さて夜読む本がない、といった状況を作ってしまったのだ。仕方なくブックセンターあずま(いすみ市に行くといつも立ち寄る古書店だ)に行って、本書を買ってきたのだ。ゴダード氏の本は「千尋の闇」などを先に読むつもりでいたのが、そんなわけで急遽変更となった。
僕の読書はそんな風にして進むから、予定も計画もあったものではない。

 

 

しかし、買ってきてしまってから僕は間に合わせに読むのに2巻組はしんどかったかな、と反省。
だが読み始めてしまえば、2巻組でも3巻組でも変わりはない。物語はランスロット・ブラッドリーという青年が幼馴染のループ・オールダーと連絡が取れなくなったという、その姉からの要請でループを探すというストーリーだ。ループの家族はその姉のウィニフレッド、下の姉のミルドレッド、そして兄のハワードの3人暮らしだが、ハワードは今でいうところの知的障害者だった。男の働き手のない家族の生活費は、ループから毎月送られていた金に頼っていたのだ。
そのループと連絡が取れなくなったということは、即暮らしが成り立たなくなるということだ。気が進まぬランスだったが、彼は子供のころループに命を助けられたこともあって、ウィンの必死の頼みを断ることは出来ず、ループが最後にいたと思われるロンドンへと旅立つのだった。
僕はウィリアム・アイリッシュ氏の「幻の女」を引き合いに出すまでもなく、人探しのストーリーが好きだ。いや、人探しだけではなく、過去を遡って謎の根源を探すというストーリーを多く読んできて、そのどれもがミステリーとしての一つのパターンを踏襲して物語を形作っていることに、読む喜びを感じてきたのだ。

 

 

回のロバート・ゴダード氏の世界は、今まで読んできたものと少しばかり趣が違って、行動的な(というより行動的にならざるを得ない状況に追い込まれる)主人公の動きを追うストーリーだ。しかも一部の舞台を日本に取るなど、日本の読者へのサービス?(そんなことはないか!この舞台設定のために、ゴダード氏は10日ほどの日本滞在で綿密な取材を行ったということだ)

 


???

 

過去に起きた大きな事件の謎を追っていたと思われるループを追って、ロンドンからベルリンへ、そして東京から京都へ、さらにはサンフランシスコへと舞台は移っていく。姿を消した友人の足跡を追うランスロットの前に、怪しげな人物たちは次々と現れて、敵味方の判別も難しい中で、ついには悲しい事実を知ることになるのだが・・・・。そこで物語は終わらない。ループの追っていた謎の正体が明らかになる時、ランスを取り巻く環境はなすすべもない状況に追い込まれる。
1963年に起きた大きな事件の連鎖に絡むなぞとは? その謎の正体を推測したランスの身にも、危機が迫る。

冒険活劇ドラマかと思えるストーリーは回り舞台と、次々と現れる登場人物たちの関連が絡まる糸のごとき様相を見せて、クライマックスへと突入するのだ。

 

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1314.日蝕の街

2013年01月21日 | サスペンス
日蝕の街
読 了 日 2013/01/18
著  者 勝目梓
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 253
発 行 日 1999/06/20
I S B N 4-344-72831-6

 

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の読書記録では初めての作家だが、勝目氏の作品は若いころ結構読んできた。どんな作品をどのくらい読んだかは、当然のことながら記憶の底から漏れている。小気味のいいアクション作品だったということしか覚えてないが、その読みやすい文体にひかれていた。
先達ていすみ市のブックセンターあずまで目について、何となく読みたくなって買ってきた。
勝目氏は、文学作品を目指して同人誌などに発表していたが、挫折して中間小説―それも官能的なバイオレンス小説―に転身した後は、数百冊の作品を生み出したという多作家だ。
そうした多くの作品の後を追えずに、読むのをやめてしまったのかどうかは、今となっては思い出せないが、どうでもいいことか。もちろん僕が読んだ作品も多くは官能的なバイオレンスといった作品だが、エロスとバイオレンスの官能小説にしては粘着質なところはなく、すっきりと後味のいい印象が今も残っている。
そんなところがファンの心を掴んでいるのかもしれない。

 

 

1932年生まれだという著者は、もう80歳を超えているはずだ。ネットで検索すると、2010年を超えてもなお、自伝的小説の中で、自らの生と性を見つめて、それまでの作品の生まれた根源を明らかにしている?ようだ。
気まぐれな読書を続ける僕が、作家を、それもだいぶ年長者である著者を考察することなど、まことに以ておこがましい限りだが、老境に達してもなお著者は、純文学への想いを持ち続けているのではないかという気にさせる。
数百冊の作品の中のたった1冊を読んで、そうしたことを感じる僕の方が、少しおかしいのか。そんなことを思いながら読んでいると、内容にかかわらず著者の作品を生み出す際の、エネルギーのようなものが伝わってくるような気がするのだ。多くの作品を次々紡ぎだす、これでもかといった声が聞こえてきそうだ。

 

 

またま手にしたこの作品は、フリーのルポライターを生業とする鷲津洋人の一人娘・久美子が誘拐されるというスタートを切る。得体のしれない二人の男によって拉致された娘は、男たちによって凌辱の限りを尽くされる場面が描かれるのは、他の作品と共通したところだ。
大した資産もない鷲津はなぜ娘の久美子が誘拐されたのかと思ったが、犯人の狙いは鷲津の妻・和子の兄にあった。国会議員の荒木が和子の兄だった。犯人は鷲津に対して荒木に身代金・2千万円を用意させるよう命令してきた。鷲津は警察に連絡しようとするが、荒木と妻・和子に説得されて、娘の命を第一と考え犯人の要求に応じることにする。
身代金受け渡しの場所で、犯人の指示通りにそこにあったバイクの荷台に金を縛ってその場を立ち退く。だが、バイクで立ち去ろうとした一味を一台の車が追ってバイクを転倒させた。バイクに乗っていた犯人は逃げ果せたが、身代金はバイクとともに炎に包まれた。バイクに追突した車は偶然の事故か?
この事故をもとに鷲津は事件の裏に、身代金目当ての単なる誘拐事件ではないのでは?という疑問を持つ。

鷲津の感じた疑問は現実となって、終盤に入ると事件は別の様相をを見せ始めるのだ。

 

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1307.人喰い

2012年12月25日 | サスペンス
人喰い
読 了 日 2012/12/17
著  者 笹沢佐保
出 版 社 徳間書店
形  態 文庫
ページ数 284
発 行 日 1991/03/15
I S B N 4-19-569279-2

 

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本推理作家協会賞の受賞作である本書は、以前から読みたいと思って買っておいた本だ。何時ごろ買ったのかは覚えていないが、BOOKOFFの定価ラベルが105円ではなく、100円となっているところを見れば、相当前だったことが分かる。
例によって、読むのが後回しになったのは、もっと他に読みたい本が出てきたからだろう。気まぐれの読書は、たくさんの本の間をさまよう。出版界が不況を伝える中でも、僕にとっては次々と出てくる新作ミステリーになかなか追いつけないでいる。まず第一に経済という大きな壁が立ちはだかっており、第二に加齢による?読む速度の衰えなどが原因だ。経済的な問題はいかんともしがたいが、読む速度は読書に専念すればある程度は補えるのだが…。
読書人の中には1日1冊以上という読書量を誇る人もいるが、僕にすれば驚きの一言だ。
いまのところ、買い貯めた2~300冊の本を残りの人生で消化できるのかが、当面の課題だ。新作を読まなければ2~3年でそのくらいは読めるのだろうが、新しい本も読みたくなるのは必至で、悩ましい問題だ。

 

 

さて、笹沢氏は多作家としても知られており、そうした作家の本をどちらかといえば敬遠している僕が、何冊も読むのはやはりサスペンス作家としての上手さからだろう。高々2冊や3冊で、作家を評価するなどおこがましいが、若いころこの著者の作品はいくつか読んでおり、本格探偵小説をサスペンス豊かに表現するストーリーに感銘したこともあるのだ。
この読書記録を始めてからは、NHKテレビドラマで見た「危険な協奏曲」(「危険な隣人」をもとに脚色したドラマ)で、笹沢氏の原作を知り読んで、改めてサスペンス小説の醍醐味を感じた次第だった。もちろん原作とドラマとでは印象の異なる部分もあるが、小説と違ってドラマや映画では、映像で見せることが主力となる表現だから当然のことだろう。
そうしたことを心得ていれば、原作のドラマ化では両方を楽しむことができるというものだ。
本書もテレビドラマになっている。1961年、1970年、1985年と3回もドラマ化されているということが、小説の面白さを表しているのではないか。残念ながら僕はそのどれも見てないのだが、そのうちCS放送ででも放送されるときがあったら、見たいと思っているが、多分儚い望みだろうナ。

 

 

城由記子、佐紀子の姉妹が辿った数奇な運命がこの物語の主軸である。「佐紀子ちゃん」という書き出しの、姉・由記子が妹にあてた手紙の文面からストーリーはスタートする。
花城由記子は勤務先の会社、本多銃砲火薬店の本多昭一と結婚を前提とした交際をしていた。昭一は会社のワンマン社長・本多裕介の息子だった。だが、お決まりも如く、昭一との結婚は周囲の反対により難しかった。そうした状況を記した手紙は、昭一の子供を身籠っていた由記子が、昭一とともに死への旅路を前にした遺書だったのである。
やがて、山梨県の昇仙峡で昭一の死体が発見される。しかし、ともにいたはずの花城由記子の死体はそこになかった。
心中したのではなかったのか?事件は意外な方向に展開を見せる。
今となってはかなり古さを感じさせる時代背景だが、本格ミステリーに恥じない結末を見せるストーリーは、先行きを予断させない成り行きを示す。独善的な社長の会社運営に対抗して、労働組合が立ち上がる姿が描かれるところなどに、この時代の社会情勢を感じさせて、そうしたこともミステリーの伏線となっているところが、このストーリーの面白さとなっている。

 

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1306.人間動物園

2012年12月22日 | サスペンス
人間動物園
読 了 日 2012/12/15
著  者 連城三紀彦
出 版 社 双葉社
形  態 文庫
ページ数 317
発 行 日 2005/11/20
I S B N 4-575-51044-0

 

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書が各誌のミステリーランキングにノミネートされていたのはついこの前だという印象があったが、2002年の作品だと知って、ずいぶん前のことだと驚く。
当時のミステリチャンネル(現在のAxnミステリー)のBOOK倶楽部でも話題に上がっていたような気もする。番組は豊崎由美、香山二三郎、杉江松恋、大森望という錚々たるミステリー評論家が内外のミステリーについて語るというもので、12月には年1回その年のミステリー優秀作を決めるということもやっている。
そんな中で紹介されていたことを記憶していたのだ。僕は著者の作品だと「戻り川心中」しか読んでないので、著者がその後どんな作品を書いているのか知らなかった。それと、ミステリーランキングにそれほど登場してなかったのではないか(僕の記憶の中だけの話で、間違っていたらごめんなさい)、ということもあり目につかなかったのかもしれないが。

 

 

犯罪者にとって営利誘拐ほど難しく、かつ割に合わない犯罪はない、といわれる中で現実の社会でも、フィクションの世界でも誘拐事件は後を絶たない。過去に何冊くらい誘拐事件を扱ったミステリーを読んだか覚えていないが、まだ読んでない誘拐ミステリーも数多くある筈だ。
若いころ読んでもう一度読み返してみたいと思っている中に、高木彬光氏の「誘拐」なども入っている。現実の事件はともかくとして、ミステリーの世界ではいかに画期的な誘拐事件を描くかということに、作家たちは頭を絞るのであろう。
こんなことを書いているのは、もちろん本書が誘拐事件だからだ。中身を想像できないような「人間動物園」というタイトルに、どんな内容かと思いながら読み始めて、誘拐事件だとわかる。
しかし、ストーリーの進行に従って、ところどころで人が動物に例えられる記述があるが、タイトルに込められた意味は終盤に至って初めて解明される。

 

 

庫カバーの後ろ側に記されたあらすじの最後に、2003年版「このミステリーがすごい!」で、国内ミステリー第7位にランクされていた旨が記載されており、結構話題になっていた割には、低いランキングに僕はちょっと納得のいかない思いを抱く。
しかし、読み終わって、終盤の事件の真相が複雑すぎて、というか話の二転三転が返って、評価のマイナスにつながったのか、という感じも持った。こんな話を読むと、まだまだ新たな誘拐ミステリーも生まれる可能性を示唆するようで、ミステリーの世界も奥が深い。

 

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1303.殺人交響曲

2012年12月13日 | サスペンス
殺人交響曲
読 了 日 2012/12/06
著  者 草野唯雄
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 234
発 行 日 1987/10/25
ISBN 4-04-150425-2

 

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店の棚でよく見かける著者の名前だが、僕はよく知らなかった。たくさんの著作が並べられているのは以前から目について知っており、そのあまりの多さに手を出しかねていた。
そうなのだ、僕はBOOKOFFなどでずらっと並んだ同じ作家の本を見ると、それだけで敬遠してしまうという癖がある。たまにはそうした作家の作品も参考までに1冊くらい読んでみようか、という気になったとしても、どれから手を付けていいのか迷ってしまうから、結局手を出すのをためらってしまうのだ。
この本はブックセンターあずまといういすみ市大原の古書店で、たまたま目について目次を見たら、短編集だったので買ってきた。帰ってから早速ネットで著者の略歴などを調べて見ると、なんと1915年生まれとあるから、今年97歳か?現在はもう執筆活動はしていないようだが、著作の一覧によれば最後の作品が1997年となっている。それにしたって、82歳まで創作活動をしていたのかと驚く。

 

 

過去に2度も江戸川乱歩賞の候補に上ったというから、相当の書き手であることは間違いないだろう。他にも宝石賞の佳作や、日本推理作家協会賞の候補となったりしているが、受賞の栄冠には縁がなかったと見える。
いや、なにもミステリー賞を受賞しなかったから駄目だということではない。そうした賞を受賞しなくとも、名作を書いている作家は数多くいるし、特に江戸川乱歩賞を取り損なって、人気作家となっている人だっているくらいだ。(僕がフォローしなくてもいいか、フォローにもなってないな)
この本だって多くを期待して買ったのではなく、6篇の短編集だからどんな傾向の作品を書くのだろうということを知るには、格好の1冊だと思ったのだ。しかし、初めて出会った1冊だから、できれば面白いに越したことはない。

 

 

んな思いを持ちながら読み進める。表題作ともなっている最初の「殺人交響曲」は、タイトルから音楽が関係してるのかと思ったら、音楽とはあまりかかわりがなかった。だが、表題作ともなっているだけあって、本格謎解きのストーリーは途中で読者への挑戦もあり、凝った内容だ。近頃ではあまり見かけなくなったが、米国のミステリーの巨匠ともいえるエラリイ・クイーン氏の国名シリーズが有名で、わが国でも高木彬光氏がいくつかの作品で使っている読者への挑戦は、著者のフェアな謎解きの現れである。
そうかと思えば、2作目の「火事泥作戦」では、スタートが状況説明を省いた構成で、読者を煙に巻くといった塩梅だ。一つとして、同じ傾向の作品はなく、次々と変わった作品に振り回されるといった印象だった。
巻末にある五代虹太郎氏(評論家?)の解説では、著者が技巧派として知られていると書いているが、なるほどとうなずける。またいつか、江戸川乱歩賞候補となった「大東京午前二時」や、「抹殺の意志」を探して読んでみようかと思う。

とここまで書いて改めてブログに登録してある著者の項目を見たら、なんと前に一度短編を読んでいるではないか。佐野洋氏が編纂した「ミステリー総合病院」の中に、「蘇った脳髄」という医学ミステリーが乗っていたのだ。何ともお粗末な話だが、僕の物忘れは今に始まったことではないから、「またか」と思ってお終いだ。
もう一度読み返してみよう。それにしても「ミステリー総合病院」はまだ処分はしてなかったはずだが、どこへしまったかな?

 

収録作
# タイトル
1 殺人交響曲
2 火事泥作戦
3 ガス
4 男はつらいよ
5 何となくスローなデカ
6 肩の血

 

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1299.遠隔推理 氷室想介の事件簿

2012年12月01日 | サスペンス
遠隔推理
読 了 日 2012/11/27
著  者 吉村達也
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 327
発 行 日 2004/10/20
ISBN 4-334-73764-1

 

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の住んでいる 木更津市の周辺には、BOOKOFFの店舗が3か所ある。木更津、君津、袖ケ浦の三市に一か所ずつだ。
同じBOOKOFFながら、当然のごとく少しずつ品揃えは違う。だから時に応じて僕はそれぞれの店舗を訪れて、読みたい本を探す。一 番多くいくのは場所柄木更津市の店だが、売りに行くのは圧倒的に袖ケ浦市の店である。
何となくそこが一番高く買ってくれるという気がしているからだ。多分それは僕の思い込みなのだろうが、一度そういう思いを抱 くと、毎回処分するのはこの店だということで、利用している。この三店は距離的にも近いから、どの店に行くにしても時間も大 した違いはない。
というようなことで、先日しばらく行かなかった君津店で、本書を見かけてタイトルも気になり、初めての作家ということもあり 買ってきた。

 

 

衝動買いは時によってがっかりする内容のものもあるが、本書は全体に面白 く読んだ。
主人公の氷室想介は精神分析医(サイコセラピスト)で、巻末の著作紹介によればシリーズ作品が多く著されているようだ。ここ では下記の初出一覧のように8編の短編で構成されている。
氷室想介は、毎回事件に関わるわけではないが、各編の末尾では事件に関わった人物の心理分析などが彼の口から語られて、あた かも実在のセラピストが事件関係者の心理分析をしているかのごとく感じられて、ドキュメント風の雰囲気を漂わせる。
最初のエピソード「シザーズ‐鋏‐」は女子中学生が担任の教師によって殺害されるという事件だ。この事件では途中で教師の独 白があって、犯人であることがあっさりと明かされるところは倒叙ミステリーの様相を示すのだが、事件を追求する刑事との会話 が刑事コロンボを思わせる展開で興味深い。
八つのストーリーはそれぞれ異なる展開を示して、先述のごとく倒叙ミステリーもあれば、オカルト風や、中には蒲団のように謎 の提示編と解決篇に分けられて、読者への挑戦を試みたものまであって、ちょっとしたミステリー博覧会だ。

 

 

通して言えるのは、形は変わってもいずれも最終的には、論理的に謎を解明するという本格ミステリーをなしているところが好ましい。その代表といえるのが表題作ともなっている「遠隔推理」だ。タイトルから類推出来るように、遠く離れた場所の事件のデータを送ってもらうことで、氷室想介が推理するという1篇だ。形を変えた安楽椅子探偵である。
そうかと思えば、「鏡の中に悪魔が見える」や、「心霊写真」のように、一読オカルトめいたスタートはどんな結末になるのだろ うと、期待を持たせながらやはり明快な解決を見せる。しかし、個々の収められた8編(7編)の作品は、どれもが追い詰められた 人間を事件に奔らせるという設定で、加害者にも同情の余地があるというストーリーとなっている。
まあ、僕にとってはそんなことより、明快な論理で事件を解明するというほうに、興味を惹かれるのだが・・・・・。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 シザーズ-鋏- 小説新潮 1998年6月号
2 鏡の中に悪魔が見える 小説宝石 1998年3月号
3 夏を抱きしめて 小説宝石 2001年10月号
4 蒲団-謎の提示編- 小説宝石 1998年12月号
5 蒲団-謎の解明編- 小説宝石 1999年1月号
6 深夜バスの女 小説宝石 2001年6月号
7 遠隔推理 小説宝石 2001年2月号
8 心霊写真 小説宝石 1997年8月号

 

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1295.彼女は存在しない

2012年10月23日 | サスペンス
彼女は存在しない
読 了 日 2012/10/23
著  者 浦賀和宏
出 版 社 幻冬舎
形  態 文庫
ページ数 446
発 行 日 2003/10/10
I S B N 4-344-40441-6

 

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月30日に社会福祉法人薄光会の定例理事会があって出席した帰り、君津市の国道沿いにあるBOOKOFFに立ち寄った。日曜日ときて店内はたくさんの客でにぎわっており、活字離れが言われている割に、まだ本を読む人も多いと感じるが、半分以上の人はコミックの売り場だった。
例によって僕は105円の文庫棚を見るとはなしに見て歩く。105円の棚に新しい本を見つけることはないのだが、たまには気になっていた本を見つけることもあって、馬鹿にはできない。
本書はそこで目について買ってきた本だ。ちょっと厚めでタイトルが目につきやすかったのだが、何より気を引かれるタイトルで、読んでみようと思ったのだ。帰ってから発行日を見ると初版は2003年だが、この本は第8版でまだ今年6月に出たばかりだ。作品自体は年数がたっているとはいえ、今年発行の本が105円の棚に並ぶのは珍しい。
初めて見る作者の名前だ。講談社のメフィスト賞を受賞してデビューしたようだ。メフィスト賞は受賞した作品を出版するだけという賞のようだが、ここから出た作家でベストセラー作家になった人も多いから、侮れない。

 

 

2-3日かけて読み終わり、最後になってトリッキーな作品だということは、わかるには分かったのだが、僕の好みからは外れており、帯に書かれたキャッチコピーに期待していたほどの面白さは感じられなかったのは残念。
多重人格を扱ったストーリーであることを、読み始めてから知って、「しまった!」と思ったが遅かりし。せっかく買って読み始めた本を途中で投げ出すわけにはいかず、とにかくどんな結末に至るのだろうということだけを期待して読んだ。
海外の作品では多重人格を扱ったものが数多くあるが、僕はあまり興味がわかず、読んでみたいとも思わない。幼少時に虐待された子供がその事実から逃避するために、別の人格を作り出して、虐待から逃れようとするのが、多重人格を生み出す元となっているようだが、僕がそうしたことに興味を持てない一番の理由は、やはり理解できないということだろう。
ミステリーのトリックの中に、叙述トリックというのがある。世界的に有名なところではアガサ・クリスティ女史の作品の一つがあげられる。僕は叙述トリックはドラマや映画には不向きだと思っていたが、一昨年フジテレビ系列で天野節子氏の「目線」がドラマ化されたのを見て、やはり原作での驚きが映像となってしまっては、その面白さが半減するという感想を持った。全体としてはそれほど出来が悪かったわけではないが、ミステリーをドラマ化することの難しさを感じた。

 

 

ころが読み終わってから、本書はもしかしたら映像化も面白いのではないかと思った。映像化の難しさを逆手にとって、トリックを構成することができるのではないかと思ったのだ。
本を読んでない人には何を言ってるのかわからないだろうが、それを書くとぶち壊しになる。僕の好みに合わないから面白くなかった、というのは簡単だが、それでは何のための読書記録かわからないから、このような他の楽しみ方を見つけて、想像するのもまた違った面白さだ。
というようなことを書くと、本書が全面的に叙述トリックというような印象を与えるが、実はそうではない。その他にもトリックがあるのだ。これから読む人はそのへんのところも心得ておくと、より楽しめるのではないか。「読者よ、欺かれることなかれ!」というタイトルもあったが・・・・。

 

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1294.誘拐児

2012年10月15日 | サスペンス

 

誘拐児
読 了 日 2012/10/15
著  者 翔田寛
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 428
発 行 日 2011/08/12
I S B N 978-4-06-277013-2

 

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ステリー文学賞としては一番古く、歴史も長いのが江戸川乱歩賞だろう。(その前に探偵作家クラブ賞というのがあったか)今は亡き江戸川乱歩氏が私財をもって制定した賞であることはあまりにも有名な話だが、当初は(三回目くらいまで)ミステリー小説に限らず、ミステリー界に貢献したことに対して贈られる、という趣旨のものだった。3回目からミステリー作家の登竜門という形になって、広く作品を募集することになり、その第1回の受賞者が今は亡き仁木悦子氏だった。もうだいぶ昔の話となった。
僕もまだ若く、今以上にミステリーに夢中だったころで、賞ができた時のいきさつも、探偵雑誌「宝石」などで読んで知っていた。今思えばずいぶんと前の話だ。60歳を起点として目標を決め改めてミステリーを読み始めてから、江戸川乱歩賞作品だけは全部読んでおこうと思ったのも、他の賞に比べて受賞作の質の高さから、賞の権威を感じているためだ。
そう思いながらも、まだ全部は読めないのが現状だ。なにしろ、他にもいろいろ読みながら毎年受賞作が現れるのだから、追いかけるのも大変だ。
本書は例によって、先日いすみ市に行った際、いつも立ち寄る古書店で、見かけて買ってきたものだ。つい最近スカパーHDのAXNミステリーで見た、「講談社のリブラリアンの書庫」という番組に著者の翔田寛氏が出演して、著書「逃亡戦犯」(講談社文庫)についてインタビューを受けていた。そういえばこの著者の受賞作も未だだったなと、思っていたとき古書店の棚で見かけたので、何となくタイミングを感じて買ってきたのだ。

 

 

古今東西といっていいだろう、誘拐を扱ったミステリーは数えきれないほどあるのではないか。僕もこの記録の中で何冊か読んでおり、これから読みたいと思っている作品もいくつかあるほどだ。
若いころ読んだ中では高木彬光氏の「誘拐」が印象深い。当時実際に起こった事件を題材として描かれた作品は、ミステリーファンだけではなく多くの読者に衝撃を与えたのではなかったか。この読書記録を始めてからも天藤真氏の「大誘拐」をはじめ、いくつかの誘拐事件を扱った作品がある。エド・マクベイン氏の「キングの身代金」などもその一つだ。犯罪の中では犯人にとって一番難しく割に合わないのが「営利誘拐」だとされているのに、実際の事件もミステリー作品においても、次から次へと後を絶たないのも「誘拐事件」だというのはどういうわけだろう?
そうした難しい条件をクリアするためか、事件発生の舞台を戦後間もなくまだ闇市の盛んな時代とし、それから10数年後の昭和30年代前半のまだ戦後の混乱を引きずっていた頃の話としている。作中いろいろと扱われている大道具小道具が、ちょうどそのころ高校卒業時期と重なっているので、僕にとってはいささか甘酸っぱいような、苦いようなその当時の暮らしなど、懐旧の思いが湧いてくる。

 

 

て本書の大筋だが誘拐事件といっても、事件そのものは一昔前のことなのだ。そしてその10数年後、主人公の男性が母親の臨終の言葉から、自分が幼い頃その母親によって誘拐されたのではないか、という疑問を持つというストーリだ。
そこにはさらに殺人事件が絡んでくる。惣菜屋の店員をつとめたり、、家政婦紹介所の斡旋を受けての家政婦の仕事をしたりというごく平凡な女性が扼殺されるという事件だ。一見何のつながりも無さそうな事柄が、終盤に向かって少しずつ関連を見せてくる。まだまだ終戦後の復興途上だった時代背景が、そんなこともあっただろうと妙なリアル感を持たせる。

 

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1293天使の眠り

2012年10月13日 | サスペンス
天使の眠り
読 了 日 2012/10/10
著  者 岸田るり子
出 版 社 徳間書店
形  態 文庫
ページ数 393
発 行 日 2010/07/15
I S B N 978-4-19-893188-9

 

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に読んだ「密室の鎮魂歌(レクイエム)」に次いで3冊目の著者の作品だ。といっても2008年からもう5年が経とうとしている。前の2冊が本格ミステリーだったので、いつかほかの作品も読もうと思いながら、月日が過ぎた。というパターンがだんだん多くなってきた。それだけ多くの作家の作品を読んできたということなのだろう?!以前は気に入った作品に出会うと、我慢ができずに次々と同じ作家の作品を、探しては読むことをしてきたような気もする。
できるだけ広く浅くを目指してはいるのだが、若いころのように無限とも思われる時間があるわけではないから、読書の時間は有効に使おうと心がけてはいるのだが…。
本書も図書館で単行本の背を見て、どんな内容なのだろうと関心を持ったが、そのままになっていたところ、たまたま古書店の文庫棚で見かけて、買ってきた。
終りまで読んでから、一応面白く読めたという感想を持ったのだが、主人公の男性の心理状態に、どうしても感情移入ができなくて、途中いささか退屈な感じを抱くこともあった。

 

 

13年前に偶然知り合った子持ちの女性と同居することになったが、ある日突然女性と娘が、失踪する。 そして、京都医大に勤務する秋沢宗一は、13年後同僚の結婚式場で、席札に亜木帆一二三とその隣には田中江真の名前を見かける。亜木帆一二三こそ13年前に秋沢の前から娘とともに姿を消した女であった。田中江真はその娘だ。ということは同名異人であるわけもなく、やがて席に着いた二人を見て、彼はさらに驚く。一二三の顔は全くの別人であった。
物語はこんなスタートを切って始まる。

13年前に数か月同居生活を送った相手に、偶然出会った男が再び出会って、どういう心境を抱くのか?というようなことは僕には想像できないが、というより執着心が湧くということに理解ができなくて、多分それは自分が歳をとった証拠か!
そんな思いを持ちながらの半ばまでが、先に書いたように少し辟易の感を持った次第だ。

 

 

かし、そうしたプロセスも終盤におけるミステリーの真相が解明されるに従って、中盤までの中にいくつかの伏線が張ってあったことに気づいて、なるほどと納得させられる。
半分はメディカル・ミステリーと言っていいほどの内容が、ミステリーの根本をなしていることも、真相解明の決め手になっていることも、残念ながら書けないが、いろいろな病気もあるものだ。

京都大学の山中伸也教授のノーベル賞受賞の話題で世間がわいている時に、こうした作品を読むのも時宜を得たような気がしている。

 

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1291.享年0.1歳

2012年10月02日 | サスペンス
享年0.1歳
読了日 2012/10/02
著 者 和田はつ子
出版社 講談社
形 態  
ページ数 303
発行日 1999/06/15
ISBN 4-06-264635-8

 

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者を初めて知った作品「心理分析官」を読んだのは、データを見たら2001年12月のことだった。しばらくぶりで著者の本を手に取って、同じ主人公のシリーズであることに、何か感慨深いものを感じている。
当時確かなことは覚えていないが、心理分析官という仕事に強く惹かれていたことを思い出す。まだビデオもVHSテープが主流だった時代に、レンタル落ちなどの中古ビデオを販売する店で、アメリカのTVドラマ「プロファイラー」を見つけて6巻ほどを続けざまに買ったことがあった。
それについてはずっと以前にも書いてきたが、とにかくコーンウェル女史の「検屍官」シリーズや、オスカーを多部門にわたって獲得した映画「羊たちの沈黙」(のちに原作も読んだが…)などに魅せられた僕は、関連した読み物、ドラマ、映画にはまっていた。それまであまり好きでもなかったサイコサスペンスも、事件解明に乗り出す捜査官や分析官に惹かれて、次々と探しては読んだことも、もうすでに懐かしい思い出だ。
月日の過ぎる速さを実感するこの頃だが、一方ではこの読書記録を始めてから、まだ13年だということが信じられないような時間の遅さをも感じてもいる。そんなところが人間の感覚の不思議さでもある。

 

 

ここしばらくマイクロソフトのプレゼンテーションソフト、パワーポイントのテクニカルレッスンに嵌っていたため、読書のほうがすっかりおろそかになっている。春に年1回監事監査の報告に使う以外に、福祉施設の発表などの際にサゼッションをしていることで、パワーポイントが欠かせなくなった。
一昔前と比較すればその表現力は格段に豊富になっていて、アップルのプレゼンにも負けないのでは、と思っている。デフォルトとして備わっているアニメーションに加え、ちょっとした手間で簡単な自作アニメーションも作れる。
そんなことから、近々新しい制度に移行を余儀なくされている、会計基準の資料を基にプレゼンを作ってみた。誰に見せるためのものではないが、やっているうちにいろいろと他でも使えるような表現方法がわかってきて、結構楽しい作業に時間を忘れて没頭する始末だ。本当はプレゼンは表現方法ではなく、「だれを対象に、何を伝えたいのか」、という基本的なことが大事で、それを忘れるといくらテクニックに勝っていても、対象者に伝わらないという結果に陥る。そうしたことを再度わきまえて、来年春の報告に生かすことを考えようか。

 

 

つものごとく脇道が長くなった。
タイトルが示すように、本書は嬰児殺しをテーマとした、サイコサスペンスもここに極まれり、といった内容なのだが、不思議と呼んでいる最中も読んだ後もそれほど後味は悪くなかった。
主人公である心理分析官・加山知子は、シリーズ作品のいくつかはテレビドラマにもなったが、サイコサスペンスはあまりお茶の間向きではなかったようで、その後制作されたという話は聞かない。それでも最近は凄惨な殺人現場が出てくるようなドラマが、結構放送されている。時代が変わるとそんなドラマも受け入れやすくなっているのだろうか。
もっとも近頃はドラマ同様の、いやそれ以上の事件が現実の世界で起きているから、ドラマの内容も追随しているのかも。特に目を引くのは子供に対する虐待だ。虐待された子供が将来どうなるのかといったことは、考えないのだろうか?この本の中でもそうしたことが根底のテーマとなっていて、何か最近の世相に合わせたかのような印象を受ける。

 

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