森岡 周のブログ

脳の講座や講演スケジュールなど・・・

人間であること,それ自体が報酬

2013年10月30日 20時33分40秒 | インフォメーション
昨日から今日にかけて,やっと自分の机に座ったという感じです.昨日は卒論指導,ゼミなどをするとともに,人間発達学の授業を行いました.情動を育てる意味での触覚コミュニケーションおよび視覚コミュニケーションの重要性を子どもの発達ならびに神経科学の視点から解説し,乳幼児期の発達のために,どのような環境設定を行うかについてその手続きを話しました.次週は視線・アイコンタクトと情動,そして視線追従,それから模倣,指さし,共同注意の発達に向かいます.二項から三項関係への発達です.その後自己認知・他者理解に進みます.

大学院の授業では頭頂葉の機能,とりたてて昨日は一次感覚野の階層性処理の細かなところまで話しました.講演では絶対のこんなところまで話せないという3-1-2野の特異性について話し,上頭頂小葉,下頭頂小葉へと進みました.身体性・手の機能の際に,ここから話していきます.Dr Mountcastle,Dr Iwamuraの業績による科学の進展が大きいです.連合野に向かえば,Dr Sakataになっていきます.岩村先生と酒田先生の業績は日本人として誇りをもたらせてくれます.10年以上たっても「タッチ」はゆるぎない名著です.

その後のゼミでは,保屋野君がTPJにおける視点取得,右・左下頭頂小葉の機能的差異(自己認知・他者理解)などを解説し,自己の研究計画を話してくれました.情動から文脈理解,そして抽象的なものを他者に伝達する,その下から高次な人間の機能の変遷について神経科学の手法を用いて解明し,右脳損傷の非言語コミュニケーションの問題に迫ることができればと思います.それにはストーリーが大事です.

本日は大学紀要の査読をした以外はすべて学部卒論に捧げました.もう少しです.金曜日は晴れ舞台です.考えれば考えるほど発見がある.発見の連続になっています.データを眺め,データの関連付けを考える.安易に文献考察に走らず,自前のデータ内で何が言え,何が言えないかを徹底的に考えるということの大事さを指導の中から感じることができます.そして,早く終わっている者は,他者を助け一緒に作業をする,この利他性,win-winの関係性がその後の彼らの情動(こころ)の形成に重要であることは言うまでもありません.このwin-winといった機能,自己犠牲を払えば,他者も自己犠牲を払う,この関係性こそが人間を豊かにするものです.time pressureとう環境がそのwin-winの関係性を引き起こします.人生には,仕事には,time pressureが必要なのです.それは自己の学習だけでなく,他者との良好な関係性を築くためにも.

学部生の研究には院生,院修了者にも協力してもらっています.先ほどは修了生の大松さんにmPFCの活動における情動喚起の意味について考えてもらいました.昨日は赤口君がM1の前で発表し,貴重な意見を頂きました.実習にいっていた病院の指導者たちが院生にいて,その前で自分の研究を公表することはとても緊張したと思いますが,報酬にもなったと思います.経験が脳を育てるわけです.そして彼らのように,仕事をしながら患者さんのために研究をする,その姿勢にあこがれるプロセスを通じて,人が人というものを伝承していくのです.目先のカッコよさ,スマートさでなく,このような執念の中での光を求める姿にあこがれることができれば,それは世の中をつくっていく人材にいずれなっていくでしょう.そう思えば,人間であること自体がもうすでに報酬というわけなのです.