【今後の展開】『SQ』前後まではショートカバーが日本株の戻りをけん引か?
コロナ前の水準回復した日経平均、一時マイナス圏 識者はこうみる
Reuters Staff
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[東京 4日 ロイター] - 4日の東京株式市場で続伸して始まった日経平均は、2万3000円が意識される水準まで上昇した後は足踏み状態となり、マイナス転換する場面もみられた。市場関係者の見方は以下の通り。
<みずほ証券 投資情報部部長 倉持靖彦氏>
日経平均はほぼコロナショック前の水準まで回復した。感覚としてはほぼ全値戻しとなるため、利益確定売りが出るのは自然な流れだ。新型コロナウイルスの感染拡大抑制に伴い、各国が経済活動再開に向けて動き始めた。大規模な景気対策も実施されており、経済活動再開への動きが世界的なコンセンサスになりつつある。これまでは思惑で買っていたが、今週は思惑が事実に変わるのを実感できた1週間となったのではないか。
物色も広がっており、出遅れ株にも買いが入るようになった。ただ、物色の拡大は踊り場形成のシグナルでもあるため、当面はもみあいが継続する可能性がある。
一方で、ITや半導体関連ではコロナ前の水準よりもさらに上昇する銘柄がみられる。新型コロナ以降、テレワークの拡大などを受け、より高度な技術が求められるようになった。データセンターや半導体装置にこれまで以上の設備投資が行われるようになり、価格が上がりやすいステージに入りつつある。ポストコロナの産業構造の変化は今後の大きな注目ポイントとなる。
<東海東京調査センター シニアストラテジスト 中村貴司氏>
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マーケット関係者の中では、ショートポジションが積み上がった状況から、6月限メジャーSQ(特別清算指数)算出まで高く、日経平均で2万3000円台の相場にというのがコンセンサスになっているが、そうした想定を上回るアップサイド・リスクがあるとみている。
現在は買い戻しが中心で、騰落レシオ、RSIなど過熱感を示すテクニカル指標の異常値を許容している格好だが、実際に2万3000円を回復した場合は、リスクパリティ戦略のファンドも買わざるを得なくなる。さらに、直近の経済指標から景気モメンタムも改善しており、そうなると中長期の運用資金が株式市場に向くことになりそうだ。今は踏み上げを主体とした金融相場の動きだが、業績相場に移行する可能性もある。
短期筋の買い戻しに、これら中長期の資金が流入した場合は、押した場面ではすぐに買いが入るため、そうなると株価は下げにくい。予想外の上昇を考える必要が出てきたといえそうだ。s
<第一生命経済研究所 主任エコノミスト 藤代宏一氏>
日本株は予想外に強い動きとなっている。後付けの理由になるが、景気対策が尽きないという見通しが相当固められてきたからではないか。今回のコロナ危機は自然災害的に発生したため、責任を追及するべき犯人がおらず、困っている人を新しい政策で救おうという話がすんなりと通りやすい。
実際、日本でも特別定額給付金で一律10万円が配られ、一時的に所得が潤う人がいる。そのように考えると、企業収益は落ちるかもしれないが、マクロでみて民間部門は傷つかないというストーリーが少しずつ出てきそうだ。
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コロナ「第2波」が来たら、なし崩し的に給付金第2弾、第3弾となっていく可能性もある。政策に対する期待がとてつもなく強い、ということが今の株高の説明付けとして適しているのではないか。株価は3月に底打ちした後、ここまで押し目らしい押し目がなく上昇してきただけに、政策の打ち止め感が出た場合は失速して調整する可能性が高いとみている。
*内容を追加しました。
Reuters Staff
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[東京 4日 ロイター] - 4日の東京株式市場で続伸して始まった日経平均は、2万3000円が意識される水準まで上昇した後は足踏み状態となり、マイナス転換する場面もみられた。市場関係者の見方は以下の通り。
<みずほ証券 投資情報部部長 倉持靖彦氏>
日経平均はほぼコロナショック前の水準まで回復した。感覚としてはほぼ全値戻しとなるため、利益確定売りが出るのは自然な流れだ。新型コロナウイルスの感染拡大抑制に伴い、各国が経済活動再開に向けて動き始めた。大規模な景気対策も実施されており、経済活動再開への動きが世界的なコンセンサスになりつつある。これまでは思惑で買っていたが、今週は思惑が事実に変わるのを実感できた1週間となったのではないか。
物色も広がっており、出遅れ株にも買いが入るようになった。ただ、物色の拡大は踊り場形成のシグナルでもあるため、当面はもみあいが継続する可能性がある。
一方で、ITや半導体関連ではコロナ前の水準よりもさらに上昇する銘柄がみられる。新型コロナ以降、テレワークの拡大などを受け、より高度な技術が求められるようになった。データセンターや半導体装置にこれまで以上の設備投資が行われるようになり、価格が上がりやすいステージに入りつつある。ポストコロナの産業構造の変化は今後の大きな注目ポイントとなる。
<東海東京調査センター シニアストラテジスト 中村貴司氏>
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マーケット関係者の中では、ショートポジションが積み上がった状況から、6月限メジャーSQ(特別清算指数)算出まで高く、日経平均で2万3000円台の相場にというのがコンセンサスになっているが、そうした想定を上回るアップサイド・リスクがあるとみている。
現在は買い戻しが中心で、騰落レシオ、RSIなど過熱感を示すテクニカル指標の異常値を許容している格好だが、実際に2万3000円を回復した場合は、リスクパリティ戦略のファンドも買わざるを得なくなる。さらに、直近の経済指標から景気モメンタムも改善しており、そうなると中長期の運用資金が株式市場に向くことになりそうだ。今は踏み上げを主体とした金融相場の動きだが、業績相場に移行する可能性もある。
短期筋の買い戻しに、これら中長期の資金が流入した場合は、押した場面ではすぐに買いが入るため、そうなると株価は下げにくい。予想外の上昇を考える必要が出てきたといえそうだ。s
<第一生命経済研究所 主任エコノミスト 藤代宏一氏>
日本株は予想外に強い動きとなっている。後付けの理由になるが、景気対策が尽きないという見通しが相当固められてきたからではないか。今回のコロナ危機は自然災害的に発生したため、責任を追及するべき犯人がおらず、困っている人を新しい政策で救おうという話がすんなりと通りやすい。
実際、日本でも特別定額給付金で一律10万円が配られ、一時的に所得が潤う人がいる。そのように考えると、企業収益は落ちるかもしれないが、マクロでみて民間部門は傷つかないというストーリーが少しずつ出てきそうだ。
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コロナ「第2波」が来たら、なし崩し的に給付金第2弾、第3弾となっていく可能性もある。政策に対する期待がとてつもなく強い、ということが今の株高の説明付けとして適しているのではないか。株価は3月に底打ちした後、ここまで押し目らしい押し目がなく上昇してきただけに、政策の打ち止め感が出た場合は失速して調整する可能性が高いとみている。
*内容を追加しました。
日経平均は45円程度高、Core30では東京海上、NTT、村田製が値上がり率上位
13:18 配信
モーニングスター
現在値
東京海上H 4,830 +113
NTT 2,499 +45
村田製 6,348 +108
KDDI 3,212 +47
ソニー 7,238 +87
4日午後1時10分すぎの日経平均株価は、前日比45円程度高い2万2660円前後で推移する。後場に入り売りが優勢の展開となり、午後零時32分には、同111円95銭高の2万2501円81銭と、きょうの安値を付ける場面がみられた。ただ、その後は、押し目を拾う動きが優勢となったもようで、上げに転じている。ドル・円相場は1ドル=108円90銭台(3日終値108円74-75銭)で、午後に入りやや円安方向にあるようだ。
主力大型株が中心のTOPIX Core30指数は、前日比2.61ポイント高の743.11ポイントと4日続伸。同指数採用銘柄の値上がり率の上位には、東京海上 <8766> 、NTT <9432> 、村田製 <6981> 、KDDI <9433> 、ソニー <6758> が入っている。
提供:モーニングスター社
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モーニングスター
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東京海上H 4,830 +113
NTT 2,499 +45
村田製 6,348 +108
KDDI 3,212 +47
ソニー 7,238 +87
4日午後1時10分すぎの日経平均株価は、前日比45円程度高い2万2660円前後で推移する。後場に入り売りが優勢の展開となり、午後零時32分には、同111円95銭高の2万2501円81銭と、きょうの安値を付ける場面がみられた。ただ、その後は、押し目を拾う動きが優勢となったもようで、上げに転じている。ドル・円相場は1ドル=108円90銭台(3日終値108円74-75銭)で、午後に入りやや円安方向にあるようだ。
主力大型株が中心のTOPIX Core30指数は、前日比2.61ポイント高の743.11ポイントと4日続伸。同指数採用銘柄の値上がり率の上位には、東京海上 <8766> 、NTT <9432> 、村田製 <6981> 、KDDI <9433> 、ソニー <6758> が入っている。
提供:モーニングスター社
東証後場寄り 一進一退 一時100円安、アジア株安が重荷
2020/6/4 13:06
4日後場寄り付きの東京株式市場で日経平均株価は一進一退。下げ幅を広げ、100円超安まで下落する場面があった。その後は下げ幅を縮め一時上げに転じた。足元は前日比10円ほど安い2万2600円近辺で推移している。アジア各国・地域の株価指数が軟調に推移し、東京市場でも利益確定売りが優勢となっている。日経平均は先週から今週にかけて2000円以上株価水準を切り上げており、心理的節目の2万3000円を前に高値警戒感も出ているようだ。
前引け後の東証の立会外で、国内外の大口投資家が複数の銘柄をまとめて売買する「バスケット取引」は約506億円成立した。12時45分現在の東証1部の売買代金は概算で1兆4905億円、売買高は8億8318万株だった。
武田が一段安。日産自やSUBARUも下げ幅を広げた。オリックスや東レ、国際石開帝石の下落も目立つ。一方、HOYAが上げ幅を拡大。東京海上やT&Dが引き続き高い。ユニチャームやキリンHDも買われた。
〔日経QUICKニュース(NQN)〕
2020/6/4 13:06
4日後場寄り付きの東京株式市場で日経平均株価は一進一退。下げ幅を広げ、100円超安まで下落する場面があった。その後は下げ幅を縮め一時上げに転じた。足元は前日比10円ほど安い2万2600円近辺で推移している。アジア各国・地域の株価指数が軟調に推移し、東京市場でも利益確定売りが優勢となっている。日経平均は先週から今週にかけて2000円以上株価水準を切り上げており、心理的節目の2万3000円を前に高値警戒感も出ているようだ。
前引け後の東証の立会外で、国内外の大口投資家が複数の銘柄をまとめて売買する「バスケット取引」は約506億円成立した。12時45分現在の東証1部の売買代金は概算で1兆4905億円、売買高は8億8318万株だった。
武田が一段安。日産自やSUBARUも下げ幅を広げた。オリックスや東レ、国際石開帝石の下落も目立つ。一方、HOYAが上げ幅を拡大。東京海上やT&Dが引き続き高い。ユニチャームやキリンHDも買われた。
〔日経QUICKニュース(NQN)〕
米コロナ死者が10万人突破、本当はもっと多い?
2020年5月28日ナショナル ジオグラフィック日本版
米疾病対策センター(CDC)の死亡統計局のチーフであるロバート・アンダーソン氏は毎朝、米国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者数を最新のものに更新するという気の滅入る作業を監督している。この国の死者数は現在、世界最多だ。
「亡くなった方たちのために、重要な務めを果たしているのだと感じています。死者の数をしっかりと数え、彼らの経験が、他の人たちを助ける計画や政策に反映されるようにしているのです」と、アンダーソン氏は語る。
2020年5月27日(日本時間28日)、米国の死者数がついに10万人を超えた。こうした数字は、科学者や政府関係者がパンデミックの深刻さを知り、検査や、物理的距離確保の要請といった予防措置を的確に講じるための指針となる。
この作業は一見、遺体の数を数えるだけの単純なものに思える。しかし、たとえ最適な条件が揃っている場合でも、すべての死者数を集計することが困難であることは、過去の経験が示している。診断の見落としや変則的なデータ、予防接種を受けていないといった事情が関わる関連死は、今回のパンデミックの破壊力を曖昧にしてしまう可能性がある。
新型コロナウイルスに関しては、他国でも同様のパターンが報告されている。イタリアの統計の暫定分析は、最も被害の大きかった地域の実際の死亡率が、公式発表のおよそ1.5倍になる可能性があることを示している。
英国の研究チームは、年齢、慢性疾患、政府の対応などを加味したうえで、コロナウイルスが今後1年間の死亡率にどのような影響を与えるかを予測した。最悪のシナリオでは、英国内でさらに60万人近い死者が出る可能性があるという。こうした分析からわかるのは、新型コロナウイルスによる影響の全貌を明らかにすることは長期的な課題であり、常にある程度の不確実性を含むということだ。
「混乱が収まるまで、死者についての正しい集計はわからないでしょう。ですからわれわれは、データがそもそも不完全であることを自覚している必要があります」と、米エール大学の疫学者ダニエル・ワインバーガー氏は言う。「それでもこの情報を元に、数多くの重要な政治的決定が下されるでしょう」
次ページ:死者数を追跡する理由
死者数を追跡する理由
猛暑となった1665年の夏、ロンドンはペスト(黒死病)の流行に見舞われていた。このとき同市の役人は、市内で発生したすべての死者を、その原因とともにリストアップする「死亡表」を週ごとに作成していた。
おかげで現代の歴史家たちには、同年に7万人近いロンドン市民がペストで死亡したことがわかっている。また、それとほぼ同数の人たちが、マラリアとみられる症状や、「歯とぜん虫」と呼ばれる謎めいた病が原因で亡くなっている。この死亡表から得られたデータは、集団の健康に関する、世界最初期の統計分析の基礎を形作った。
現代においては、死者数の集計方法はより正確かつ洗練されたものとなっている。だが、こうしたデータの重要性が公衆衛生の核であることに変わりはない。
米国では、だれかが亡くなった場合、葬儀社、医師、検死官は48時間から72時間以内に、その原因とともにしかるべき書類を州に提出することになっている。州はその後、データをCDCの死亡統計局に転送する。死因が自動車事故であってもCOVID-19であっても、プロセスはほとんど変わらないとアンダーソン氏は言う。ただし、ある人物が亡くなってから、その死が死亡統計局に記録されるまでには、1、2週間の遅れが生じる場合もあるという。
米国ではずっと新型コロナウイルスの検査が足りていない。つまり、入院しているすべての人が必ずしも検査を受けるわけではない。だからこそCDCは、死因の確認について医師の判断に任せる場合もあるのだと、アンダーソン氏は言う。
問題は、症状のみからCOVID-19と診断した症例(可能性例)を勘定に入れている州がある一方で、そうしていない州もあることだ。また、死亡診断書に記載されている原因が正確でない可能性もあると、ワインバーガー氏は言う。
パンデミックの初期には、COVID-19による死者が見落とされていたケースもあった。また、死因の誤認は常に起こり得る。3月の肺炎による死者数の急増は、COVID-19によらないとされていたものの、CDCのデータを使って予備的な分析をしたところ、検査率が低いせいで誤った判断が下されていた可能性もあることがわかっている。もし検査がより広く行われるようになれば、こうした懸念は低下するかもしれないとワインバーガー氏は言う。
予備分析を行ったエール大学のチームによると、米国が発表している新型コロナウイルスによる死者数は、可能性例を考慮に入れてもなお、著しく過少であるという。今回のパンデミックの発生源とされる中国、武漢市もまた、4月17日、新型コロナウイルスによる死者数を50%過小計上していたことを当局が発表し、その数は3869人に増加した。
「こうしたデータの集計に一貫したやり方は存在せず、数字は必ずしも正確とは限りません」。米メイン海事大学の危機管理防災学教授で自らを「災害学者」と呼ぶサマンサ・モンターノ氏はそう語る。
パンデミックの初期段階においては、新しい情報が入るたびに、死者数が上向きにも下向きにも修正されるものだとモンターノ氏は言う。後から検死を行えば、真の死因がCOVID-19とは無関係の病気であることが明らかになる場合もあれば、検査が日常的に行われるようになる前のサンプルから、コロナウイルスの感染が明らかになる場合もあるだろう。
わざと一貫しないやり方を行って、最終的な集計が影響を受ける場合もあると指摘するのは、NPO「人権データ分析グループ」の統計学者ミーガン・プライス氏だ。たとえばイラク戦争の最中、当局は死亡率を隠蔽したり、政治的に都合のいい物語を誘導するために、既存のデータから特定のものだけを選び出したりしていた。戦争はパンデミックとは扱いが異なるとはいえ、COVID-19のデータもまた、この種の操作の対象とされる危険性があるとプライス氏は考えている。
次ページ:流行のインパクトを示す「超過死亡」
流行のインパクトを示す「超過死亡」
新型コロナウイルスによって世界中の人々の生活は根底から覆された。コロナ禍のさまざまな問題により、人々が死亡する可能性も高まっているとプライス氏は言う。
手遅れになるまで病院に行かなかったせいで、心臓発作で亡くなる人がいるかもしれない。薬物を過剰摂取した後、社会的に孤立しているせいで命を落とす人もいるだろう。パンデミックの全容を理解するということは、こうした間接的な死者数を勘定に入れ、その数を過去数年と比較して、全体の死亡率がどの程度変化したのかを判断することを意味する。
ワインバーガー氏らの分析によると、パンデミック初期、ニューヨーク州とニュージャージー州では、心臓発作や脳卒中など、一見呼吸器系ウイルスとは無関係と思われる死因も含めて、死者が1.5〜3倍に増加していることがわかった。
「日常的な予測範囲を上回る死亡者数の割合」と定義されるこうした「超過死亡率」の計算は、新型コロナウイルスの直接の犠牲者を数えるよりもさらにやっかいだと語るのは、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで災害と健康を研究するイラン・ケルマン氏だ。
「地震は災害ではありません。システムが地震に対処できない時、それは災害となるのです」と、ケルマン氏は言う。また災害の余波は通常、最初の危機が去った後も長く続く。プエルトリコ大学と米ジョージ・ワシントン大学の科学者チームが、2017年にプエルトリコを襲ったハリケーン・マリア後に発生した超過死亡率を分析したところ、死者数の増加は少なくともその後1年間にわたって続いていたことがわかった。
超過死亡とされる個々のケースが、本当にCOVID-19に関連しているかどうかを特定することは不可能に近い。
米ジョンズ・ホプキンス大学の人口統計学者、ステファン・ヘレリンジャー氏らは、死者を一人ひとり分析するのではなく、統計ツールを用いて、パンデミックの最中に全体の死者数がどのように増加したかを推定している。こうした変化を計算するためには、パンデミックが発生していない年の米国の死者数パターンを詳しく把握している必要がある。計算には、細菌性肺炎やインフルエンザなどの季節性疾患の研究に由来するモデルなどが用いられる。
たとえば、インフルエンザが猛威を振るっているシーズンには、心血管疾患による死者数が増加する傾向にある。この知見を基に疫学者は、新型コロナウイルスのパンデミックが起こった時、心血管疾患による死者数がどう変化するかを推測できる。
問題は、パンデミックに対する世の中の反応によって、こうした仮定の多くが無意味になってしまう可能性があることだと、香港大学の疫学者ジョセフ・ウー氏は言う。パンデミックによるストレスとそれに伴う経済的混乱は、COVID-19とは無関係に、心血管疾患による死者を増加させかねず、それによって新型コロナウイルスと心臓発作との関係が歪められるかもしれない。
「目指すべきは、手に入る情報を最大限に活用し、可能な限りベストな数理モデルを作ることです」と、ウー氏は言う。
また、そうした分析手法がどれほど精密になろうとも、それはあくまでも推定値に過ぎない。少なくともこの先2年間は、新型コロナウイルスによる総死者数は「まだわからない」としか言えないだろうと、プライス氏は言う。答えが出るのは、すべての検死が終わり、すべての書類が正式にまとめられ、データの質のチェックが済んだ後だ。
真実に近づくには時間がかかる。だが、「わたしは科学を信じています」とプライス氏は付け加えた。
2020年5月28日ナショナル ジオグラフィック日本版
米疾病対策センター(CDC)の死亡統計局のチーフであるロバート・アンダーソン氏は毎朝、米国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者数を最新のものに更新するという気の滅入る作業を監督している。この国の死者数は現在、世界最多だ。
「亡くなった方たちのために、重要な務めを果たしているのだと感じています。死者の数をしっかりと数え、彼らの経験が、他の人たちを助ける計画や政策に反映されるようにしているのです」と、アンダーソン氏は語る。
2020年5月27日(日本時間28日)、米国の死者数がついに10万人を超えた。こうした数字は、科学者や政府関係者がパンデミックの深刻さを知り、検査や、物理的距離確保の要請といった予防措置を的確に講じるための指針となる。
この作業は一見、遺体の数を数えるだけの単純なものに思える。しかし、たとえ最適な条件が揃っている場合でも、すべての死者数を集計することが困難であることは、過去の経験が示している。診断の見落としや変則的なデータ、予防接種を受けていないといった事情が関わる関連死は、今回のパンデミックの破壊力を曖昧にしてしまう可能性がある。
新型コロナウイルスに関しては、他国でも同様のパターンが報告されている。イタリアの統計の暫定分析は、最も被害の大きかった地域の実際の死亡率が、公式発表のおよそ1.5倍になる可能性があることを示している。
英国の研究チームは、年齢、慢性疾患、政府の対応などを加味したうえで、コロナウイルスが今後1年間の死亡率にどのような影響を与えるかを予測した。最悪のシナリオでは、英国内でさらに60万人近い死者が出る可能性があるという。こうした分析からわかるのは、新型コロナウイルスによる影響の全貌を明らかにすることは長期的な課題であり、常にある程度の不確実性を含むということだ。
「混乱が収まるまで、死者についての正しい集計はわからないでしょう。ですからわれわれは、データがそもそも不完全であることを自覚している必要があります」と、米エール大学の疫学者ダニエル・ワインバーガー氏は言う。「それでもこの情報を元に、数多くの重要な政治的決定が下されるでしょう」
次ページ:死者数を追跡する理由
死者数を追跡する理由
猛暑となった1665年の夏、ロンドンはペスト(黒死病)の流行に見舞われていた。このとき同市の役人は、市内で発生したすべての死者を、その原因とともにリストアップする「死亡表」を週ごとに作成していた。
おかげで現代の歴史家たちには、同年に7万人近いロンドン市民がペストで死亡したことがわかっている。また、それとほぼ同数の人たちが、マラリアとみられる症状や、「歯とぜん虫」と呼ばれる謎めいた病が原因で亡くなっている。この死亡表から得られたデータは、集団の健康に関する、世界最初期の統計分析の基礎を形作った。
現代においては、死者数の集計方法はより正確かつ洗練されたものとなっている。だが、こうしたデータの重要性が公衆衛生の核であることに変わりはない。
米国では、だれかが亡くなった場合、葬儀社、医師、検死官は48時間から72時間以内に、その原因とともにしかるべき書類を州に提出することになっている。州はその後、データをCDCの死亡統計局に転送する。死因が自動車事故であってもCOVID-19であっても、プロセスはほとんど変わらないとアンダーソン氏は言う。ただし、ある人物が亡くなってから、その死が死亡統計局に記録されるまでには、1、2週間の遅れが生じる場合もあるという。
米国ではずっと新型コロナウイルスの検査が足りていない。つまり、入院しているすべての人が必ずしも検査を受けるわけではない。だからこそCDCは、死因の確認について医師の判断に任せる場合もあるのだと、アンダーソン氏は言う。
問題は、症状のみからCOVID-19と診断した症例(可能性例)を勘定に入れている州がある一方で、そうしていない州もあることだ。また、死亡診断書に記載されている原因が正確でない可能性もあると、ワインバーガー氏は言う。
パンデミックの初期には、COVID-19による死者が見落とされていたケースもあった。また、死因の誤認は常に起こり得る。3月の肺炎による死者数の急増は、COVID-19によらないとされていたものの、CDCのデータを使って予備的な分析をしたところ、検査率が低いせいで誤った判断が下されていた可能性もあることがわかっている。もし検査がより広く行われるようになれば、こうした懸念は低下するかもしれないとワインバーガー氏は言う。
予備分析を行ったエール大学のチームによると、米国が発表している新型コロナウイルスによる死者数は、可能性例を考慮に入れてもなお、著しく過少であるという。今回のパンデミックの発生源とされる中国、武漢市もまた、4月17日、新型コロナウイルスによる死者数を50%過小計上していたことを当局が発表し、その数は3869人に増加した。
「こうしたデータの集計に一貫したやり方は存在せず、数字は必ずしも正確とは限りません」。米メイン海事大学の危機管理防災学教授で自らを「災害学者」と呼ぶサマンサ・モンターノ氏はそう語る。
パンデミックの初期段階においては、新しい情報が入るたびに、死者数が上向きにも下向きにも修正されるものだとモンターノ氏は言う。後から検死を行えば、真の死因がCOVID-19とは無関係の病気であることが明らかになる場合もあれば、検査が日常的に行われるようになる前のサンプルから、コロナウイルスの感染が明らかになる場合もあるだろう。
わざと一貫しないやり方を行って、最終的な集計が影響を受ける場合もあると指摘するのは、NPO「人権データ分析グループ」の統計学者ミーガン・プライス氏だ。たとえばイラク戦争の最中、当局は死亡率を隠蔽したり、政治的に都合のいい物語を誘導するために、既存のデータから特定のものだけを選び出したりしていた。戦争はパンデミックとは扱いが異なるとはいえ、COVID-19のデータもまた、この種の操作の対象とされる危険性があるとプライス氏は考えている。
次ページ:流行のインパクトを示す「超過死亡」
流行のインパクトを示す「超過死亡」
新型コロナウイルスによって世界中の人々の生活は根底から覆された。コロナ禍のさまざまな問題により、人々が死亡する可能性も高まっているとプライス氏は言う。
手遅れになるまで病院に行かなかったせいで、心臓発作で亡くなる人がいるかもしれない。薬物を過剰摂取した後、社会的に孤立しているせいで命を落とす人もいるだろう。パンデミックの全容を理解するということは、こうした間接的な死者数を勘定に入れ、その数を過去数年と比較して、全体の死亡率がどの程度変化したのかを判断することを意味する。
ワインバーガー氏らの分析によると、パンデミック初期、ニューヨーク州とニュージャージー州では、心臓発作や脳卒中など、一見呼吸器系ウイルスとは無関係と思われる死因も含めて、死者が1.5〜3倍に増加していることがわかった。
「日常的な予測範囲を上回る死亡者数の割合」と定義されるこうした「超過死亡率」の計算は、新型コロナウイルスの直接の犠牲者を数えるよりもさらにやっかいだと語るのは、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで災害と健康を研究するイラン・ケルマン氏だ。
「地震は災害ではありません。システムが地震に対処できない時、それは災害となるのです」と、ケルマン氏は言う。また災害の余波は通常、最初の危機が去った後も長く続く。プエルトリコ大学と米ジョージ・ワシントン大学の科学者チームが、2017年にプエルトリコを襲ったハリケーン・マリア後に発生した超過死亡率を分析したところ、死者数の増加は少なくともその後1年間にわたって続いていたことがわかった。
超過死亡とされる個々のケースが、本当にCOVID-19に関連しているかどうかを特定することは不可能に近い。
米ジョンズ・ホプキンス大学の人口統計学者、ステファン・ヘレリンジャー氏らは、死者を一人ひとり分析するのではなく、統計ツールを用いて、パンデミックの最中に全体の死者数がどのように増加したかを推定している。こうした変化を計算するためには、パンデミックが発生していない年の米国の死者数パターンを詳しく把握している必要がある。計算には、細菌性肺炎やインフルエンザなどの季節性疾患の研究に由来するモデルなどが用いられる。
たとえば、インフルエンザが猛威を振るっているシーズンには、心血管疾患による死者数が増加する傾向にある。この知見を基に疫学者は、新型コロナウイルスのパンデミックが起こった時、心血管疾患による死者数がどう変化するかを推測できる。
問題は、パンデミックに対する世の中の反応によって、こうした仮定の多くが無意味になってしまう可能性があることだと、香港大学の疫学者ジョセフ・ウー氏は言う。パンデミックによるストレスとそれに伴う経済的混乱は、COVID-19とは無関係に、心血管疾患による死者を増加させかねず、それによって新型コロナウイルスと心臓発作との関係が歪められるかもしれない。
「目指すべきは、手に入る情報を最大限に活用し、可能な限りベストな数理モデルを作ることです」と、ウー氏は言う。
また、そうした分析手法がどれほど精密になろうとも、それはあくまでも推定値に過ぎない。少なくともこの先2年間は、新型コロナウイルスによる総死者数は「まだわからない」としか言えないだろうと、プライス氏は言う。答えが出るのは、すべての検死が終わり、すべての書類が正式にまとめられ、データの質のチェックが済んだ後だ。
真実に近づくには時間がかかる。だが、「わたしは科学を信じています」とプライス氏は付け加えた。