つれづれなるままに聴いたジャズ

  よるの雨の音は

さびしい胸にともしびのように

   ともる



 

椿

2013-02-28 16:34:51 | ジャズ

 花びらの 肉やはらかに 落椿 (飯田 蛇笏)


 「やはらか」という言葉、実はそのものの厚み、肉の厚みを暗にほのめかす言葉である。
  薄っぺらなものには使わない。花ならば桜や朝顔の花びらには「やはらか」などとはいわない。

  やはり、この言葉がふさわしいのは肉厚の花である。
  百合、薔薇、ベコニア、なかでも椿ほどこの言葉がしっくりとなじむ花はないだろう。

  蛇笏、昭和21年春、還暦の年の作である。

  このとき、蛇笏ははるか昔に疾風怒涛(しっぷうどとう)の青春時代を走り抜け、世界大戦の時代
  を生き、息子たちを病気や戦争で失っていた。人生の喜びも、またそれを上まわる悲惨も十分になめた
  後の作品である。

  「やわらか」という措辞(そじ)一つにしても、この言葉のもつ世界のすみずみまで知り尽くしたうえで、
  この句のここにそっと置いている・・・



  今日聴いたジャズ・・・


  GRANT STEWART・・・「PALYS THE MUSIC OF DUKE ELLINGTON & BILLY STRAYHORN」


  本作は、1971年6月4日 カナダ、トロント生まれ、ジャズ・サックス奏者、グラント・スチュワートの
  リーダー・アルバム。ワン・ホーン・カルテット作品。

  タイトルどうり、デューク・エリントン、ビリー・ストレイホーン集。

  全8曲、アップテンポで熱いブローを聴かせる曲もあれば、スローテンポで落ち着いて、しみじみと聴かせる曲
  もあり、その中には、ピアノ、ベース、ドラムスをそれぞれフィーチャーしている曲もあって、聴きごたえのある
  一枚に仕上がっている。


1・RAINHECK・・・2・TONIGHT I SHALL SLEEP・・・3・ANGELICA・・・4・I LET A SONG GO OUT OF MY HEART・・・
5・IT DON’T MEAN A THING・・・6・SOMETHING TO LIVE FOR・・・7・THE STAR CROSSED LOVERS・・・
8・THE FEELING OF JAZZ・・・


  個人的には、スローに演奏される、2、7、8が特に気に入っている。


  GARNT STEWART(ts)
  TARDO HAMMER(p)
  PAUL GILL(b)
  JOE FRANSWORTH(ds)


   2009年1月26日録音・・・

水仙

2013-02-27 17:04:34 | ジャズ


  ” 水仙へ 目を開けてゐる 赤子かな ”(中田 剛)・・・


  一輪の水仙の花と一人の赤ん坊。

  赤ん坊が顔を横に向けると、障子の裾に文机があって、上に置かれた一輪挿しに一本の水仙。
  その頂のつぼみの一つは今、花びらを開いたばかり・・
  面をややうつむけて赤ん坊の方へまなざしを投げかけている。

  先のとがった六枚の花びらが形作る水仙の白い花と、それに囲まれる太陽の黄金の花冠。

  聖母の胸に抱かれながら天井から差し込む輝かしい光を驚いて見上げる幼子イエスのように、
  赤ん坊は明るく澄みきった空気の中で水仙の花を見ている。

  どちらもこの世に生まれて間もない一つの命と一つの花・・・



  今日聴いたジャズ・・・


  REGARO・・・「山口真文」



  本作は、1946年9月1日、佐賀県唐津市生まれ、ジャズ・サックス奏者、山口真文のリーダー・アルバム。
  ワンホーン・カルテット作品。

  山口真文は、佐藤允彦、ジョージ大塚、ジョン・スコフィールド、ケニー・カークランドを始め世界の一流
  ミュージシャン達との共演も多く、現在もエネルギッシュに活動を続けているベテラン。

  全7曲、一曲(6)を除いてオリジナルで構成されている。佳作ぞろいで彼の意欲作の一枚。
  四人とも、きっちりと良い仕事をしていて、それぞれのプレイをじっくりと堪能できる内容の作品に
  仕上がっている。

とりわけ、 タイトル・チューンの 「レガロ」、 ラストの 「ライト・イン・オーガスト」の美しさは筆舌に尽くし難いものがある。


1・EMPTY MIRROR・・・2・TRUE FACE・・・3・REGALO・・・4・MIROS・・・5・STRAW HAT ON YOU・・・
6・NEFERUTITI・・・7・LIGHT IN AUGUST・・・


  山口真文(ss ts)
  入江 宏(key)
  水上信幸(b)
  小山太郎(ds)


   1995年11月26日 1996年3月2日録音・・・

寒牡丹

2013-02-26 00:37:03 | ジャズ

 
 ひうひうと 風は空行く 冬牡丹 (鬼貫)

 凩(こがらし)が口笛を吹きながら大空を飛んでゆく。藁(わら)で編んだ薦(こも)の
 陰では、季(とき)ならぬ牡丹の花があえかな花びらを風に震わせている。

 「風は空行く」がいいなあ。鬼貫(おにつら)は芭蕉とほぼ同じ時代の人。伊丹の造酒屋上島家の
 三男坊に生まれ、学問に励み、後に西国諸藩の藩政改革に腕を振るった。

 俳諧一筋に進んだ芭蕉とは異なり、実家にも秀でていた。そうした経歴からも、またその俳句からも
 落ち着いた印象を与える人である。

 友とすれば心強く、敵とすればまた敵として付き合っていける人ではなかったか。

 その鬼貫、一世一代の名セリフを残している。「誠のほかに俳諧なし」。
 真心のこもる句に勝る句はない。空虚に言葉を飾るなかれ。
 俳句への時代を超える戒めである。

 この句にしても、互いに何の飾るところもない凩と冬牡丹があるばかり。それなのに凩はいかにも
 凩らしく冬牡丹は冬牡丹らしい。鬼貫の人柄のしのばれる句である・・・



  今日聴いたジャズ・・・


  ARCHIE SHEPP & MAL WALDRON・・・「LEFT ALONE REVISITED」


  本作は、1926年8月16日、ニューヨーク生まれ(2002年12月2日 76歳で死去)
  ジャズ・ピアニストで作曲家、ハード・バップ、ソウル・ジャズの奏者として知られる、マル・ウォルドロンと
  1937年5月24日、フロリダ州フォート・ローダーディル生まれ、フィラデルフィア育ち、サックス奏者、
  アーチー・シェップとのデュオアルバム。

  アルバムタイトル:追憶~レフト・アローン

  ビリー・ホリデイの愛唱曲を集めるという企画の作品で、ふたりのビリーへの思いが強く伝わってくる内容
  になっている。レコーディングの上ではこれが二人の初共演盤。

  マル・ウォルドロンが最良のパートナー、アーチー・シェップと巡り合い再び彼女の魂と向き合い完成された
  作品といってもいいと思う。

  アーチー・シェップのサックスは、力強く、泥臭いプレイが魅力でコルトレーンの影響下にあるアーティスト。
  個性的な音色なので、好き嫌いが分かれるかも知れない。「52番街のブルース」ではヴォーカルも披露している。


1・LEFT ALONE(朗読)・・・2・LEFT ALONE・・・3・NICE WORK IF YOU CAN GET IT・・・
4・EVERYTHING HAPPENS TO ME・・・5・EASY LIVING・・・6・WHEN YOUR LOVERS HAS GONE・・・
7・瞳は君ゆえに・・・8・52番街のブルース・・・9・I LOVE YOU、PORGY・・・10・LADY SINGS THE BLUES・・・



  MAL WALDRON(p)
  ARCHIE SHEPP(ts ss vo)


  2002年2月7、8日 パリにて録音・・・

  

はるいち(春一番)

2013-02-25 15:57:22 | ジャズ

 二月中旬、冬型の気圧配置が緩み、低気圧が日本付近を通る。
 日本海を発達しながら進めば、逆に南方から暖かい強風が吹きこむ。
 これが《春一番》。通称「はるいち」。

 山では雪をとかし、雪崩や融雪洪水を引き起こす。

 春一番は気象用語ではなく漁師言葉。春一番の目安は”立春から春分までの間、日本海
 低気圧に向けて南寄りの8m前後以上の風が吹き、前日より気温があがること”(気象庁)
 とある。

 ただし、春一番が早くても「春が早い」という目安にはならない。
 この時期は一進一退を繰り返す季節で、「冴え返る」「凍て返る」という早春の言葉が
 控えている。

 四国で2月21日、南九州で同22日、北九州・東海で同23日、関東で同26日となっていて、
 「春三番」を過ぎて春本番となるのだそう・・・



  今日聴いたジャズ・・・


  GRUNTZ-LANG-SALUZZI・・・「TRIO TAGE」


  本作は、スイスの二人のピアニスト、ジョルジュ・グルンツとティエリー・ラング、それに
  バンドネオン奏者、ディノ・サルーシが繰り広げるクオリティの高い作品。

  ジョルジュ・グルンツは、古くはフィルウッズとの共演で知られ、TCBの本拠地スイスが誇る
  ピアニスト。ティエリー・ラングも、深く濃厚なリリシズムあふれる音色を奏でるピアニストと
  してファンが多い。ディノ・サルーシは、タンゴ、民族音楽、そしてジャズなどに代表される
  アカデミックな音楽によって演奏家としての才能が開花され、豊かな経歴の中のさまざまな場面で
  影響を与えてきた。。


  全9曲、三人のオリジナルで構成されている。

  ディノ・サルーシ(1、5、6)、ティエリー・ラング(2、3、7、9)、ジョルジュ・グルンツ(4、8)

  この中で唯一、知っていたのはラストの「NAN」のみ。ティエリー・ラングのアルバムタイトルにもなっている。
  ラングの抒情味のあるピアノに、途中、サルーシのバンドネオンが少しだけ加わっている。

  2台のピアノ、バンドネオン・・という珍しい編成・・個人的にはティエリー・ラングのピアノを聴きたくて
  購入してみたけれど、三人の素晴らしい演奏を聴くことが出来て、良い作品に出会ったと思う。


1・MILONGA DEL DUSENTE・・・2・CONTIGO・・・3・ANGEL’S FLY・・・4・VIVALDI・・・
5・I LOVE MY BROTHER TILL THE END・・・6・FRAGMENTO・・・7・A STAR TO MY FATHER・・・
8・INTERMEZZO 5/13・・・9・NAN・・・



   GEORGE GRUNTZ(p)
   THIERRY LANG(p)
   DINO SALUZZI(bandoneon)


   2002年10月31日録音・・・

こころあいの風

2013-02-24 16:33:34 | ジャズ

 暖かな風に誘われて、馬酔木が咲きはじめた。春は「馬酔木にさえかわいい鈴をおくる」
 といった詩人がいたが、白い小さな鈴のつらなりには、浅い春の色がある。

 歌人、吉井勇は生涯の最も苦しい時期に、土佐の猪野々の里にいおりを結び、庭にこの木
 を植えた。

 「寂しければ垣に馬酔木を植ゑにけり棄て酒あらばここに灌がむ」

  「炉辺の酒垣は馬酔木の花もよしこよひも酔ひて安く眠らむ」


  ある作家の本にこう書いてあった・・・

 ”早春のある日、勇のいおりを訪ねて、その馬酔木の白い鈴を見たことがある。渓谷を吹き抜ける風が、
  竹林を鳴らし、クマザサを鳴らし、白い鈴のつらなりをゆらしていた。季節のこころを伝える
  ああいう風のことを「こころあいの風」というのかもしれない・・と・・・



   今日聴いたジャズ・・・


   BUCKY AND JOHN PIZZARELLI・・・「PASSIONATE GUITARS」



   本作は、二人のギタリスト、ピザレリ、それに同じくギタリストのジーン・バートンシーニ、
   RAY KENNEDY(p)、BUTCH MILES(ds)による、とても爽やかなアルバム。

   昼下がりのひとときに、まったりと聴くのにぴったりな作品。

   #8の「MAYBE THIS SUMMER」は「ESTATE」のタイトルでだれもが知る名曲。そういえば”ESTATE”
   とは”邦題:夏”だったと思う。

  ボサノヴァも数曲採りあげていて、ベテラン三人の綴る11曲は緊張を強いることなく、味わい深いプレイが聴ける。
  ピアノもドラムスも終始さりげないサポートに徹している。


1・BESAME MUCHO・・・2・TRISTE・・・3・ONE NOTE SAMBA・・・4・イパネマの娘・・・5・LINE FOR LYONS・・・
6・I FOUND A NEW BABY・・・7・ORCHIDS IN THE MOONLIGHT・・・8・MAYBE THIS SUMMER・・・
9・S’WONDERFUL・・・10・THE DAY IN THE LIFE OF A FOOL・・・11・MEDITATION・・・



   BUCKY PIZZARELLI(g)
   JOHN PIZZARELLI(g)
   GENE BERTONCINI(g)
   RAY KENNEDY(p)
   BUTCH MILES(ds)


    1997年1月15日録音・・・