つれづれなるままに聴いたジャズ

  よるの雨の音は

さびしい胸にともしびのように

   ともる



 

直人 (ただびと)

2014-08-30 12:39:06 | ジャズ


  尾崎喜八の詩に、「名もなく貧しく美しく生きる / ただびとであることをお前もよろこべ」という一節があります。

  そして「森で拾った一枚のカケスの羽根のおもいもかけない碧さこそ今朝の秋の富ではないか」と結んでいます。

  「直人」や「徒人」とも書く「ただびと」とは、特別な性質や能力をもった神や怪物でもない普通の常人であること。

  ところで「秋の寝床は土に近い」といいます。

  灯りを消して目を閉じれば、虫の音や葉を揺らす風の囁きも聞こえてきます。

  ただびとなら、移ろいの音を枕に小さな喜びと富を感じる処暑の夜です・・・




   今日聴いたジャズ・・・


   KASPER VILLAUME TRIO・・・「ESTATE」



  本作は、1974年 5月30日生まれ、ジャズ・ピアニスト、キャスパー・ヴィヨームのリーダー・アルバム。

  イェスパー・ボディルセン(b)、モーテン・ルンド(ds)を従えたトリオ編成。スタンダード集。

  日本のM&Iがマシュマロレーベルからリリースしたアルバムで、上不三雄氏のプロデュースによる作品。

  マシュマロレーベルといえば、デューク・ジョーダンやジーン・ディノヴィといったベテランから、ヤン・ラングレン、カーステン・

  ダールまで人間味あふれるブルージーな響きが共通して感じられる。



  ※ キャスパー・ヴィヨームは1994年から1999年まで、コペンハーゲンにあるデンマーク・リズミック音楽院に学び、
    1997年には自らの音楽修行のため、アフリカとアメリカに滞在し、エリス・マルサリスとケニー・ワーナーに師事している。

    これまでに共演(もしくは師事)したミュージシャンとして、ジミー・コブ、ジョン・アバークロンビー、ビリー・ハート、
    ボヴ・ブルックマイヤー、ジム・マクニーリー、ジェリ・バーガンジ、デイブ・リーヴマン、リッチー・バイラーク・・など。


  ※ イェスパー・ボディルセン(b)は、1970年1月5日生まれ、ユトランド音楽院で5年間学び、1999年に卒業。
    学生時代から一流ミュージシャンと共演。2000年には森泰人のスカジナビアン・コレクションの一員として初来日している。



  ※ モーテン・ルンド(ds)は、1972年9月13日生まれ、ユトランド音楽院を1999年に卒業。学生時代からクリューバーズ・
    ビックバンドなどで活躍。現在、北欧でもっとも期待されている一人。
    2001年からヤン・ラングレンのレギュラー・ドラマーに抜擢されている。



1・BLUES FOR MAIKEN・・・2・あなたと夜と音楽と・・・3・ESTATE・・・4・HALLUCINATION・・・5・BLAME IT ON MY YOUTH・・
6・OUR LOVE IS HERE TO STAY・・・7・IT’S ALL RIGHT WITH ME・・・8・I FALL IN LOVE TOO EASILY・・・
9・BUTCH&BUTCH・・・10・YOU MUST BELIEVE IN SPRING・・・11・MY MAN IS GONE NOW・・・




          KASPER VILLAME(p)
          JASPER BODILSEN(b)
          MORTEN LUND(ds)



        2002年 1月24、25日録音・・・

嵐を呼ぶ雲

2014-08-25 17:22:17 | ジャズ


  「日入りはてて、風の音虫の音など、いとあわれなり」。『枕草子』では秋の最高の趣を「夕暮れ」としています。

  夕方、日が沈み、低い雲が地球の影に入っても、地平線の彼方から光を受けて空一面が茜色に輝きます。

  処暑の頃は、夕焼け空が視線を一身に集めるような色を見せてくれます。

  「夕焼けは晴れ」といわれますが、「夏の夕焼けは嵐の前触れ」ともいいます。

  とくに不気味なほどの色を見せる夕焼け雲は、嵐を呼ぶ張本人なのです・・・



  今日聴いたジャズ・・・


  LASSE TORNQVIST & JAN LUNDGREN・・・「EVERYTHING HAPPENSS TO ME」



  本作は、スウェーデンのSWEET JAZZ TRIOのリーダーとしてもお馴染み、コルネット奏者、ラッセ・トゥーンクヴィストと、

  同じく、スウェーデン・ジャズ界を代表するピアニストのヤン・ラングレンが織りなす美しいデュオアルバム。

  ライナーにもあるように、音には、そのミュージシャンのすべてが表われるというけれど、人生の喜びは喜びととらえ、悲しみや

  傷みは静かに彼方へと消え去るのを待っている。ラッセのコルネットのおだやかな響きは、そんな人生の機微をきわめたところから

  生まれてくるもののような気がしてならない。

  一方、ラングレンは、メロディックによく歌う演奏を聴かせることで定評があり、自身のトリオを中心に活躍を続けるいっぽう、

  さまざまなフォーマットへの自在な適応性もっているピアニスト。


  本盤を聴いていると決して派手さはないものの、お互いがそれぞれの実力を認める間柄らしく、優雅なインタープレイが繰り広げられて

  いく。ラッセは、メロディを慈しむかのように、淡々とテーマを吹き、繊細なアドリブ・メロディーを綴りあげていく。また、

  先輩であるラッセの持ち味を充分に引き出すべく、美しいバック・グラウンドを弾き上げていくラングレンのピアノが印象的。

  全12曲、30年代に書かれたという、”LITTLE MAN YOU’VE HAD A BUSY DAY ”、、イギリスのジャズ・トラペッター、

  ハンフリー・リトルトンの ”WE FELL OUT OF LOVE ”、、北欧を代表する伝説的なバリトン・サックス奏者、ラース・ガリン

  53年に書いた哀愁のメロディー ”DANNY’S DREAM ”、、ピアニスト、ジューク・ジョーダンによって書かれたロマンティックな

  ”MY QUEEN IS HOME TO STAY”、、また唯一ラッセのオリジナル ”ジル”など多種多彩なナンバーを採りあげている。



  ※ 私の長年の夢はコルネットとピアノのレコーディングを果たすことであった。ある日、もう何年も前のこと、
    とあるパーティーでかの偉大なピアニスト、ヤン・ラングレンの演奏を耳にすることができた。彼のなんとも素晴らしいピアノ
    の扱い方に聞き惚れ、「ぜひ二人でレコーディングしたい」と彼に伝えた。
    ヤンの答えは、「もちろん、ぜひやりましょう!」そして、今やっとそれが現実になったのだ!
    プロデューサーの佐々智樹氏に多謝!そしてヤン・ラングレン!そして私の最愛の妻、ジル!

    私にはすべていいことが起こってくれる!   ---ラッセ・トゥーンヴィストーーー


  ※ ラッセとの共演は大きな喜びだった。
    彼はピュアでメロディアスで、とても誠実なスタイルを持っている。 ---ヤン・ラングレンーーー




1・EVERYTHING HAPPENS TO ME・・・2・THANKS A MILLION・・・3・枯葉・・・4・I’M CONFESSIN’・・・5・LITTLE MAN
  YOU’VE HAD A BUSY DAY・・・6・MOON LIGHT BECOMES YOU・・・7・DANNY’S DREAM・・・8・THE VERY THOUGHT
  OF YOU・・・9・JILL・・・10・WE FELL OUT OF LOVE・・・11・MY QUEEN IS HOME TO STAY・・・
12・風が森にそよいで・・・




      ラッセ・トゥーンクヴィスト(コルネット)  

      ヤン・ラングレン(p)


     2010年8月26、27日 ストックホルムにて録音・・・

処暑

2014-08-23 12:45:58 | ジャズ


  今日、8月23日は「処暑」

  「暦便覧」には「陽気とどまりて、初めて退きやまんとすれば也」とあります。

  処暑とは暑さがおさまる意味。

  涼風が心地よく、収穫の時も目前ですが。台風襲来の時期と重なります。

  当地では今日は昨日のきびしい残暑とうって変って涼しく小雨。

  大雨で被害に遭われた方々、亡くなられた方々に、心よりお悔み申し上げます。



  今日聴いたジャズ・・・


  LUCIO TERZANO QUARTET・・・「SO IN LOVE」



  本作は、チェット・ベイカーとの共演歴もある、イタリアのベーシスト ルーチオ・マッシモ・テルツァーノのリーダー・アルバム。

  コール・ポーター集。ワン・ホーン・カルテット作品。


  コール・ポーター集といえば、ピアノトリオでの作品が多いけれど、本盤では、ホーンが入ることによって、

  一味違った趣のアルバムに仕上がっている。加えて、ベーシストがリーダーであることも珍しい。

  全9曲、4人、それぞれがバランスよく「聴かせる」プレイを披露している。強いていえば、ホーンをフィーチャーしているように

  感じられる向きもあるけれど、コール・ポーター集としては面白い作品だと思う。



1・DREAM DANCING・・・2・SO IN LOVE・・・3・EV’RY TIME WE SAY GOODBYE・・・4・I GET A KICK OUT OF YOU・・・
5・FROM THIS MOMENT ON・・・6・I CONCENTRATE ON YOU・・・7・GET OUT OF TOWN・・・8・I’VE GOT YOU UNDER MY
  SKIN・・・9・YOU DO SOMETHING TO ME・・・




     PIETRO TONOLO(ss,ts)
     PAOLO BIRRO(p)
     LUIGI BONAFEDE(ds)
     LUCIO TERZANO(b)



      2004年6月28日録音・・・

  

コウロギ前線

2014-08-21 11:09:24 | ジャズ


  日本人は虫の声をきれいな言葉として、美しい音色として耳をそばだてようとしますが、

  西欧人には虫の声は雑音に感じるのだそうです。

  蟋蟀(こうろぎ)の仲間が耳に届き始めるのは、四国や九州南部で7月下旬、8月中旬には全国どこでも聞こえるようになります。

  螽斯(きりぎりす)の鳴き声が男性的だとすれば、こうろぎの鳴き声は女性的に聞こえます。

  スリムに引き締まった、きりぎりす類と、どこか丸みをおびたこうろぎ類の体型にもよるようです・・・




   今日聴いたジャズ・・・


   RED GARLAND・・・「THE NEARNESS OF YOU」



   本作は、1923年5月23日 テキサス州ダラス生まれのジャズ・ピアニスト、レッド・ガーランドのリーダー・アルバム。

   バラード集。全篇をバラードで通す試みはこれが初めてで、そういう意味でも貴重な作品と言える。

   
   全8曲、すべてスローバラードで綴られており、7曲目の「ラッシュ・ライフ」のみがソロで演奏されている。


  ※  レッド・ガーランドはよく知られているようにプレステッジ・レコードの看板ピアニストとして1950年中盤から
     数々の名作を発表しながら、”意欲喪失” ”家庭の事情”などで、1962年以降約9年間、録音活動をやめている。
     しかし、仲間の要望に応えた彼は、1977年に第一線に復帰し、翌78年にはジャズ・フェスティヴァルのために
     初来日するなどして、再び喝采を浴びた矢先、1984年4月23日、生地ダラスで心臓病のため他界した。


  ※  ガーランドの遺作となった『ミスティ・レッド』で再共演を果たすドラマーのフランク・ガントは、1931年5月16日
     ミシガン州デトロイト生まれ。ソニー・スティットやユセフ・ラティーフらと共演後ガーランドと出会い、頭角を現した
     ヴァーサタイルなドラマー。アーマッド・ジャマル・トリオのレギュラーとしての活躍がよく知られている。


  ※  ベーシストのラリー・リドレイは、1937年9月3日インディアナ州インディアナポリス生まれ。
     フレディ・ハバードと共演後、本格的なプロ活動を始め、ランディ・ウエストン、ホレス・シルヴァー、ソニー・ロリンズ
     らの大物のバンドで活躍。同時に、マイク・マントラーとカーラ・プレイのJCOA(ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ・
     アンソエイション)にも力を貸すなど、幅広い活動で評価を確立した実力派。



1・WHY WAS I BORN?・・・2・THE NEARNESS OF YOU・・・3・WHERE OR WHEN・・・4・LONG AGO AND FAR AWAY・・・
5・I GOT IT BAD AND THAT AIN’T GOOD・・・6・DON’T WORRY ABOUT ME・・・7・LUSH LIFE・・・4・ALL ALONE・・・




      レッド・ガーランド(p)
      ラリー・リドレイ(b)
      フランク・ガッド(ds)


      1961年11月30日 NYC録音・・・

ゆきあひの空

2014-08-18 11:35:38 | ジャズ


  昔の人は夏の風と秋の涼風が同居する立秋の頃や、はるばる訪れた秋の雲と、夏の雲が何やら語り合うような空を

  「ゆきあひの空」と表現しました。

  「行き合う」とは出会う意味で、「行き交う」は来ては過ぎ去ること。

   立秋の頃の風や雲は、夏と秋が互いに移ろいのときを楽しむように、一方は名残り惜しみ、一方は、はやかりながら

  美しい空気感を醸し出しています。

  くっきりと「さやか」ではないあいまいな季節感を味わうことができる頃です・・・



  今日聴いたジャズ・・・


  東京銘曲堂・・・「イン・コンサート!」



  本作は、川嶋哲郎(ts fl)、上村信(b)、岡安芳明(g)の名手3人による、ピアノレス、ドラムレス、トリオ。

  東京銘曲堂(以下 TMD)の結成10周年を記念して行われたライブ・アルバム。

  これまでに聴いてきた、”YOU DON’T KNOW WHAT LOVE IS” ”SEPTEMBER SONG ” ”CRY ME A RIVER”

  どれをとっても期待を裏切らない、名曲、スタンダードをじっくり味わえる作品だった。

  そして本作。。

  全9曲、三人三様、それぞれが随所でソロを聴かせたり、川嶋哲郎のエモーショナルなテナー、、6、7でのフリュート・プレイが

  美しい。また、安定感のあるベース、情感あふれるギター、、TMDは限りなく進化してゆく。

 

  ”名曲には魅惑に満ちた内部という世界があり、そこは何度歩いても歩きつくすということのない、まか不思議な世界だ ”


   ----片岡義男ーーーー(ライナーノーツより)



1・バーティド・・・2・オン・ア、スロウ・ボート・トゥ・チャイナ・・・3・シャイニー・ストッキング・・・4・枯葉・・・
5・カズン・メリー・・・6・スプリング・ヒア・・・7・ホワット・アム・アイ・ヒア・フォー・・・8・あなたと夜と音楽と・・・
9・いそしぎ・・・



      川嶋哲郎(ts fl)
      岡安芳明(g)
      上村信(b)



     2009年10月23日 東京オペラシティリサイタルホールにて録音・・・