「THE COMEDY OF ERRORS/間違いの喜劇」というシェイクスピア劇を見て来ました。ペンブルックプレイヤーズというケンブリッジ大学の劇団ツアーで、これは2007年から学術文化交流のため毎年開催されているとのことです。私が行った明治大学での公演はなんと無料。でも有料でも2~3000yenと、NTライブよりも安価です。
「十二夜」などに比べ知名度のないこの作品、シェイクスピア初期のもので、私も初めて聞きましたのであらすじを直前に調べました。
ストーリー:
双子の息子とこれまた双子のその子達の従者を持つ夫婦が、航海中の嵐で生き別れとなった。夫婦はそれぞれ息子ひとりとその従者ひとりずつ伴い、お互いの行方は知らずに25年間、別々の町で暮らした。弟の方は兄を探し出したいと従者を連れて旅に出た。ある町で父は逮捕されてしまう。その町では兄が成長し結婚していて、弟と従者もそこに流れ着き、兄の妻や町の人々に弟と間違われて大混乱。そのせいで追われる身となった弟は修道院に逃げ込む。ラストは修道院長が行方不明になっていたお母さんで、自分の夫と息子達、従者達だと気づき、大団円となります。
感想:
シェイクスピア初期の作品だけあって、どこかで聞いたような設定や出来事が散りばめられていました。後に、双子の取り違えは「十二夜」に、嵐で遭難は「テンペスト」に、あと町の有力者(ここでは公爵でした)が町民の行いを裁く、というシーンも「ロミオとジュリエット」を始め多出するのは、シェイクスピアビギナーの私にもわかります。(笑)
この話が成立するトリックがありまして、2組の双子達、2組とも同じ名前なんです。息子はアンティフォラス、従者はドローミオ。だから町の人達は間違えるし、本人達は間違われていることになかなか気づかないのです。いくら双子でも、当時のイギリスでは同じ名前をつけたことがあったのか、それとも外国の話にしてるから、そういう土地があるかもね、くらいの暗黙の了解なのか・・・
そしてペンブルック劇団では、今回従者を女性の双子にしていました。主な登場人物には、生き別れの家族以外に、兄の妻、その妹、宝石商と3人いるのですが、全員女性で、その上双子の従者も女性にしてしまったのでは、多すぎてシェイクスピアの雰囲気じゃないかも?!と思ったのですが、見ているうちに従者達は道化役を兼ねているので、性別がない存在なのだと気がつきました。大学生の劇団ですので、道化役と言えども若い女性達。肉体的にはそうなのですけど劇が進むにつれ中性的に見えて来るので演技が巧いのでしょうね。
息子の双子の方は、ふたり同時にステージに立つのは最初と最後だけで、ほぼ1度にひとりだけを観客は見るようになっています。髪型と髪の色、衣装はほぼ同じで、違いはズボンの丈と靴の色。だから本当にそっくりな人達に見えて町の人と同様に騙されてる気分になれるんですが、ラストでふたりがお互いを見つける時は、ステージ上で線対称に見つめ合って立つと、実は身長が10cm以上も違う人だったと分かるの面白かったです。それでも劇中では奥さんが自分の夫はどっちなのか区別がつかないくらいソックリということになっていて、観客はその時点では「全然違うふたりじゃん」と見比べているから思うのですが、シェイクスピアのお話につきあって「ソックリなのね~」と騙されたフリをするのがまた楽しいです。
他の劇場や大学もツアーでまわっていて、セミナーをやった大学もあったので出席したかったのですけど、それはそこの大学生限定だったので残念でした。やはりシェイクスピアの台詞は私には難しくて、否定文の文法の違い、thouなどの現代文にはない代名詞があることくらいは分かって来たのですけど、さらに詩的な表現にはメタファーも多いし、せめてこの時代の文法くらいは勉強しないと聴き取れなくて眠くなるのが辛いです。がしかし、ハムレットいくつか見た時点でなぜ勉強しなくちゃいけないと気づかなかったのか。くく。
今回のキャストでは弟役をやった背が高い方の俳優さんがイケメンでした。この劇団からはピーター・クックやエリック・アイドルも出ているし、スモーカーズと呼ばれるコメディショーではモンティ・パイソンが初めて出会った場所として有名とのことですが、コメディ以外でも彼ならこの先活躍するんではないかと思います。
ところでお客さんの入りはまあまあ、満員ではないけど寂しくもないくらいでした。この企画を続けるためにはお客さんが来ることが必要とケンブリッジでコミュニケーション&インフォメーションを教えている先生が挨拶で言っていました。ぜひ続くことを願っています。ツイッターでは私もお知らせをRTしたのですけど、来年はもっと英国大使館とかブリティッシュ・コマース(商工会議所)などを使って告知したらいいのに。しまった、今日終わった後に気づいてたら先生に言って来れたのに。
私は会場時間に行ったら1番前の席に座れたのですけど、劇中で弟息子がバナナを持った従者の手をたたいたんです。そしたら、バナナの中身の上半分が私の足もとに飛んで来て、それを踏みつけるのが嫌で、その後の観劇はスリリングなものとなりました。劇が終わってバナナを見おろしたらすでに半分茶色になっていました。