ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

大人になるにつれ、かなしく(60)

2017-01-03 12:16:51 | Weblog
かつて、毎日のように自転車で通った通学路。歩くと、意外と距離がある。駅前はクリスマスムード一色だが、次第に、華やかな12月は失われていく。肌に突き刺す風が、枯葉すら奪われた裸の木々が季節を主張しているだけだ。僕は藤沢の喜ぶ顔見たさに、印象深い建物や街路樹、アスファルトに至るまでスマートフォンで撮った。喫茶店「樹々」から12、3分。母校のK高校の校庭では、いくつもの運動部が活動していた。十数年前とそれほど景色は変わらない。サッカー部だった藤沢も、この場所で夢中でボールを追いかけていたはずだ。

陸上部に目を移す。楽しそうに走っていた有紗。自らを追い込んで走っていた有紗。夕陽が、彼女の肌を赤く染めた日々を思い出していた。あの頃と変わらない場所で、夕陽は校庭を照らしている。赤く照らされた彼らは眩しかった。やる気のある、なしを問わず、彼らは一様に輝いているのだ。記憶の中の藤沢も、有紗も、あろう事か、冴えなかったはずの坂木誠まで輝いている。

僕は否定しようとした。自分はあの頃よりも色々な物を手に入れた。しっかり者の妻、2人の幼い子供、臨床心理士、出版した本は5万部を超え、10万に迫ろうとしている。そのおかげで、臨床心理士として、いくつかの病院から誘いを受けている。あの頃の自分なんかに負けるはずがない。理屈では間違っていない。しかし、何故だろう。目の前で汗を流している彼らの頃に戻りたいという感情は。何故、大人になるにつれ、悲しくなるのだろう。僕は母校の写真を一枚も撮ることができなかった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大人になるにつれ、かなしく... | トップ | 大人になるにつれ、かなしく... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿