ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

大人になるにつれ、かなしく(47)

2017-01-01 17:48:29 | Weblog
藤沢が意識を取り戻してからというもの、僕は毎日のように有紗へ電話した。有紗も仕事が忙しく、藤沢と過ごす時間は十分には取れていないのは分かっていたが、何か新しい状況が知りたい欲求を抑え切れなかった。

「今日は孝志、どうだったかな?」

「先生や看護師さんに聞いたところでは、それほど変わりないみたい」

「ああ、そうなんだ」

僕は少し落胆した声になった。

「でも、順調だって。焦らず、のんびりと見守ってくださいって」

「そうだね。その通りだね」

「うん。それと、出版社のいくつかに声をかけてみたんだけど」

「駄目だった?」

「いや、B社が乗り気みたい。たぶん、担当者から連絡が来ると思う」

「でも、随分早いもんなんだね」

「もしかしたら、他社に持っていかれるのを警戒したのかもね」

「たった、原稿用紙10枚で?」

「それでも、売れる確率が高いと判断すれば動くよ」

有紗と話し終えた後、僕は寝室で原稿を2,3枚書いた。亜衣が「何、書いてるの?」と尋ねたが、曖昧な返事をした。亜衣は、僕が仕事の準備をしていると思っていたようだ。思えば彼女には話していないことが増えていく。藤沢のことも、本を出版しようと考えていることも。それなりの理由があって話さないでいるつもりなのだが、同時に後ろめたさも芽生えていた。

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