ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

大人になるにつれ、かなしく(46)

2017-01-01 13:48:45 | Weblog
僕はカバンから原稿用紙を10枚ほど取り出し、有紗に渡した。彼女はそれを受け取ると、すらすらと読み出し、本当に頭の中に入ったのかという速さで、すべて読んでしまった。4,5日かけて、考えながら書いていた自分が少し馬鹿らしくなるほどに。

「うん、いいと思うよ。想像していたより、上手いし。それにもっと難しい内容だと思ってたけど、私たちにも理解しやすい」

「それは良かった」

僕は言葉とは裏腹に、有紗の顔色を伺った。

「これなら、出版社の人にも話しやすい。友人だから、知り合いだから出版して欲しいと頼んだところで、実現するほど甘くないけど、これを見せれば、説得できるかもしれない。あとは今後の坂木君の頑張り次第かな」

「勿論、頑張るよ。でも、少しホッとしたかな。有紗さんは本の専門家だから」

「早速、いくつかの出版社に話してみるから」

「ありがとう。さあ、そろそろ帰るか」

僕はベッドで寝ている藤沢の顔を眺めた。

「孝志、今日はよく頑張ったね。じゃあ、また来るよ」

僕は孝志に声をかけ、彼らに背を向け、カーテンを開けようとした。

「坂木君、ちょっと待って」

僕は有紗の声に振り向いた。

「孝志さんが、孝志さん」

僕はまたベッドに寄った。藤沢が目を開けている。少し笑っているようにも見える。だから僕も少し笑った。頬から涙をこぼしながら笑った。





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