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ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

ホームレスの雨

2021-02-23 18:37:15 | 
追いかけてくる夏にせかされて、雨は激しさを増していく
ここらあたりで落とされる雨粒は不幸だ
勢いの良いのは今のうちだけで、まもなくコンクリートの上で乾き死ぬ
照りつける真夏の子に殺される

泥土に落とされた雨粒は幸せを感じた
柔らかな感触に飛び込む喜び
やがて誕生する小さなオアシス
しかし、その場所も幸せではない
照りつける真夏の子に殺される
順番が遅くなるだけで、むしろ長く苦しんで死ぬのだ
一瞬の快楽と引き換えに

海に落とされた雨粒は幸せだ
真夏の子らと戯れながら、真夏の子に温められて
ホームレスの雨のことなど知らずに

遥かな光よ

2021-02-23 16:22:58 | 
いま夜を眩しく照らしている星たちの光は
遥か昔に発せられたものだという

あの星はゴッホ、目に鮮やかな光
あの星はモーツアルト、耳に優しく届く光
あの星はダザイ、失格の光

自らが放った、強烈な光に苦しむ者もいる
遥か昔に発した光に
永遠に抜け出せない、どす黒い暗闇の中で

孤独の、悲しみの、苦悩の、怒りの光たちよ
輝きを搾り出せ
未来を焼き尽くすほどに

 僕らは今日にしか死ねない

2021-02-23 16:12:09 | 

見知らぬ少女が死んだという
外国で戦渦に巻き込まれたのではなく
事件や事故でもなく
闘病生活を送っていたわけでもない
元気だった少女が突然、死んだという

不条理という言葉が浮かぶが、少し青くさい
もう長いこと生きてるんだから

僕らは他の生物との違いを見せつけるため
心の土地に思想や希望
それから理想や尊厳、努力、未来
さまざまな、美しいと感じる物を作り上げてきた
良かれと思い、作り上げてきたのだ
そして、その心の風景を眺め、うっとりしていた

しかし、こうして少女が突然、死んだ時
それらの建物が揺れだし、崩れそうになり、僕らは動揺を隠せなくなる

どうしたのだろうかと?
他の生物たちが、僕らを蔑むような目で見ている

「もう、いい加減分かれよ」と
僕らは明日に死ねない
みんな今日、死ぬんだ
3日後の今日、30年後の今日、50年後の今日

僕らが生命の一員である限り、死は特別なことじゃない
そんなことまで忘れていた。忘れようとしていた
心の埋め立てに夢中になって
そんなことまで忘れていた

ふたつの結論

2021-02-23 14:27:20 | 
仮に天分を存分にいただいたとしても
平凡や普通の前には頭を下げるしかない
それがこれまで生きてきた僕の結論

時を重ねるごとに
平凡や普通の内に秘められた高貴や偉大の力に圧倒され
憧れは募るばかり

それに比べて、天分とか天性という危うさ、脆さ、弱さ
毒性すら帯びているという疑念が強くなる
時を重ねるごとに

それでも僕は才能を愛するという、もうひとつの結論を出す
いつかは枯渇する儚さ
ひと時の美にちがいない
ひと時の眩しさにちがいない
よく分かっているつもりだ
それでも僕は抱きしめていたい
その限りなく疑わしいものを


 

独りよがりの幸せ

2021-02-23 12:51:14 | 
きっと今夜あたり
僕はベッドの上で
このまま眠って、眠って、眠り続け
二度と目覚めることなく、眠り続けたいと思うのだろう

そんな独りよがりの幸せを祈りながら
生きたいと願う僕の体のどこか、心のどこかと衝突して
その痛みで明日の朝
頬に涙が伝っているのだろう

病院の桜

2021-02-23 12:13:05 | 

いつもと同じ時間の
いつもの電車に乗り
いつものように立ったまま2駅
駅から少し歩き、僕は病院へ吸い込まれていく


18の時から目がアスファルトばかりを欲しがるようになった僕に、桜が上から呼びかけてくる
「早く見ないと、散っちゃうよ。今日が最後だよ」と
まだ桜は咲いていた
満開といってよかった


病院内は暗く沈んでいて
それでも、ぱっと電気はついたのだ
小さな子が手をいっぱいに広げて
ふわふわに膨らんだ空気を持ち運んで、母親にプレゼントする
その笑顔を見て、僕はいつものように缶コーヒーを飲みながら、少しだけ優しくなれた


帰り際、アスファルトはひらひらと淡く色づいていた
はっとして桜を見ると、変わらずに咲いていた
また来年、足元しか見ない僕には想像もつかない遥か未来
明日は花散らしの雨らしい
次にここに来る頃には葉桜