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ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

珍しく読書

2009-11-08 20:52:27 | Weblog
私は本を読むのが苦手で、それが小さなコンプレックスでもあります。読書好きになりたいですが、なかなか難しいですね。そんな私がこないだ、一冊の小説を読み終えました。東野圭吾の「手紙」です。

殺人犯は憎むべき存在です。その親にも育てた責任はあると思うので同情はしません。ただ、兄弟は別です。殺人犯に兄がいる弟がいる、あるいは姉がいる妹がいると聞くと、彼らや彼女たちはとてつもない重荷を背負っていくのだろうなと想像します。「手紙」にはまさにそのことが丹念に描かれていました。

主人公の直貴の兄は強盗殺人を犯しました。兄は決して悪人として描かれている訳ではありません。様々な要因が重なり、ほんの一瞬、魔がさしてしまったのです。しかし、いかなる理由があろうと兄が尊い命を奪ったことに間違いはなく、直貴もとてつもない重荷を背負うことになります。

直貴は勉強ができ、異性にも好感をもたれるタイプで、おまけに歌もうまい。本来ならば幸せをつかみやすい条件が揃っているのですが、ことごとく兄の存在に邪魔をされてしまいます。その仮定を丹念に、ごく自然に東野さんは描いています。

これまでの私の読書経験上、感覚的には100ページ読んだつもりでも、実際にはまだ60ページしか読んでいないことが良くありました。「手紙」はまったく逆です。自分の感覚よりもページ数は遥かに進んでいました。特にラストシーンは切なさが募ります。この先、兄弟はどうなってしまうのか、直貴を取り巻く人間関係はどう変わっていくのか、とても気になります。続編を期待したくもなりますが、それはなくていいのかもしれない。読者それぞれが物語の続きを描けばいいと思うからです。

かつて五木寛之氏は「難しい言葉を並び立てるよりも、分かりやすい言葉で読者に伝えられる人が本当の一流だ」と語っていたことがありますが、まさにその意味では東野さんは一流です。もっと若いうちに彼の本と出会えれば、私ももう少しは本を読んでいたかもしれません。