思いつくまま

みどりごを殺す「正義」はありや?
パレスチナ占領に反対します--住民を犠牲にして強盗の安全を守る道理がどこにあろう

王力雄:新疆問題解決策の検討

2009-09-21 19:16:32 | 中国異論派選訳
本文は2009年8月6日にBBCのホームページに発表されたインタビュー記事の翻訳

王力雄:新疆問題解決策の検討

7月5日の新疆の騒乱からすでに1か月が過ぎた。中国当局は千名以上の容疑者を続々と逮捕している。また新疆騒乱をきっかけに人々の少数民族政策に対する検討も続いている。

中国の独立作家〔政府機関に所属していない作家の意。中国では普通作家は文聯職員として政府から給料を支給される。〕、民族問題専門家の王力雄は2007年に新疆問題を探究した著書『私の西域、君の東トルキスタン』を出版している。

王力雄は80年代からたびたび新疆を訪れている。その中の1回新疆で資料収集している時に「国家機密窃取」を理由として逮捕された。しかしまさにその監獄体験で、彼はウイグル人の友人を得て、ウイグル人の心の内側に入り込むことができた。

新疆騒乱後、中国政府はラビア・カーディルに率いられた国外勢力が今回の騒乱の黒幕だと非難したが、学者や専門家の多くは中国政府は自身の少数民族政策を反省すべきだと考えている。

では、新疆問題の解決にはどのような新思考が必要なのだろう? 王力雄はBBC「中国叢談」のインタビューに対し彼の新疆問題解決についての考え方を述べている。

以下はBBC中国語ネットの王力雄インタビュー記録である。

問:『私の西域、君の東トルキスタン』において、あなたは新疆問題がチベット問題に取って代わり、中国の最も厄介な問題になるだろうと予言している。あなたが当時そう予測した根拠は何か?

王力雄:それは当時の新疆問題の進展状況と新疆に存在する民族矛盾の多くの形跡から判断できた。もし思慮深く新疆問題を見れば、みんな分かることだ。

問:今回の新疆の騒乱、流血の衝突はあなたの予測を実証し、さらにひどくなっていくのだろうか?

王力雄:そうだ。なぜなら今回の問題は解決されることなく、抑えつけられただけだからだ。このように抑えつけたら矛盾はさらに蓄積する。チャンスが来ればまた爆発するだろう。

問:あなたは以前、民族矛盾が民族紛争になったら深刻だと言ったが、今回の流血の衝突はすでに民族矛盾が民族衝突に転化する臨界点に達したと言えるだろうか?

王力雄:そうだ。私はそう見ている。最大の危険はこのような変化だ。私個人はすでにその臨界点を超えたと感じている。実は少し前、数年前からはすでにこの方向に向かっていた。今回の矛盾はすでに民族紛争になった。完全に民族で線引きされている。

問:今回の新疆騒乱は中国の少数民族政策に対する広汎な検討と議論を引き起こしている。中国政府が少数民族に対する優遇政策を打ち出したのは、どのような考慮に基づいていたのか?

王力雄:中国政府が好意だけでやったとも言えないが、何らかの陰謀だったと言うこともできない。政府は大きな面、例えば政治面では少数民族に対して厳しい鎮圧を行い、それとのバランスを取るために、他の小さな面では少数民族を優遇した。
だが、そのことが紛争の種になった。つまり、少数民族の政治的な抑圧に対する不満が、小さな面での優遇を借りて表出した。例えば刑事や民事の面で少数民族に対しては判断が漢族と違い、少数民族に対しては若干寛大なので、少数民族はその機会を借りて政治的な抑圧に対する不満を表出する。
その結果法律の執行における不平等の状況が出現し、ひるがえって漢人の間に不平等に対する不満が募る。このように大きなところでの鎮圧、小さなところでの放縦という今の少数民族政策は悪い効果しか生まない。

問:もし最初から胡耀邦の比較的寛容な民族政策を採用していたら、王震や王恩茂らの進めた民族政策より良かったのではないか? 今日のような結果は招かなかったのではないか?

王力雄:胡耀邦の政策も当時いくつかの問題が出た。例えばチベットでは80年代の後期に抗議や動乱が起こった。だが私たちはそれを文革時代やそれ以前から少数民族が受けてきた強圧政策に対する緩和後の一時的な反発だと考えている。
もし当時の緩和政策を引き続き実行して反発を吸収し消化していれば、民族関係は徐々に良い方向に向かっただろう。だが当時は、一方でそのような反発があったし、もう一方で党内で二つの路線の対立があった。
一部の強硬派は民族間の対立と紛争を意図的に利用したり、操ったりして、穏健派の政策に反対する口実としたので、紛争は深刻化し、最終的に胡耀邦の路線すべてが否定されてしまった。
私は当時が本来中国の少数民族政策が良い方向に向かうチャンスだったが、その機会を失したために今日のひどい状態になったのだと思う。

問:今回の新疆の騒乱の後、中国政府は民族矛盾が原因だということを認めず、国外のテロリスト、分離主義者、イスラム原理主義者が仕組んだものだと決めつけている。つまり自らの少数民族政策の失敗を認めていない。中国政府のこのような態度からして、彼らは自らの少数民族政策を反省し変更するだろうか?

王力雄:少なくとも今までのところそのような形跡はない。少数民族政策を決定する反分裂集団にとって、最大のタブーは他人から自らの少数民族政策の失敗を指摘されることだから、彼らは絶対にそれは認めないだろう。だが新疆事件が発生する1年前にチベット事件が発生しており、1年の間に2つの事件が続けて発生したということからも、政策の失敗は明らかだ。
もし少数民族政策の失敗でなければ、なぜ少数民族地区で立て続けに事件が起きるのだろう? 私は共産党内部の人を含むますます多くの中国人が、問題を認識し始めていると思う。

問:去年発生したチベット騒乱と今回の新疆騒乱は、比べるとどんな違いがあるだろう? 新疆の騒乱にはどんな特徴があるのだろうか?

王力雄:新疆の特徴はチベットよりもより激しかったことだ。それは一方では、その民族性や宗教文化の違いだが、より重要なのは新疆では民族主義の喚起がチベットより広範で、大規模なことだ。なぜなら、新疆の移民問題はチベットよりはるかに深刻だからだ。
大量の漢人が新疆に移住し、しかも新たに移民した漢人はチベットの漢人のように大都市や幹線道路、観光地に集まってはいない。新疆に移民した漢人は農村に入り込み、ごく普通の庶民と面と向かう。その結果日常的な衝突が一般庶民の日常生活に蔓延している。それによってもたらされる矛盾は民族対立を深めるから、一旦爆発すれば大規模で激しいものになる。

問:多くの学者が様々な対策を提案している。民族矛盾を解決するために、少数民族優遇策を取り消すとか、民族間の垣根を取り除くとか、民族自治区を廃止して地方自治制度を導入するとかだが、あなたはどう考えているか。

王力雄:総合的で大規模な転換によって初めて民族問題を解決できる。なぜなら今の民族矛盾はすでに単純に表層的な問題ではなく、全体的な問題になっているからだ。だから、今は非常に困難な状況に直面しており、小手先では問題を解決できない。
だが、大きな変化は中国の独裁体制と相容れない。だからこの問題を解決するのは簡単ではない。多分根本的、全体的に徹底した変化をすることで初めて解決できる。
今一部の人の言っている民族自治区を廃止することは、実際にはできない。なぜなら、中国のこの民族自治制度はすでに多くの利害関係を形成しており、これを廃止することには、妨害も多い。実際に進めようとすれば進退両難のジレンマに陥るだろう。
民族問題は文革後何度も締め付けと緩和を繰り返している。胡耀邦時代の緩和からその後の締め付けと鎮圧において、共産党が試すことのできることはみんな試している。だが、いずれも問題解決の出口は見いだせなかった。最近も楽観的な展望は持てない。

問:もしそうなら、どのような条件と新たな考え方があれば新疆問題を解決できるのだろう?

王力雄:私は最終的には中国の政治制度の変革によって決まると思う。本当の民主制と人権に対する保障があって初めて、民族間の紛争を根本的に解決できるからだ。

問:あなたは『私の西域、君の東トルキスタン』の中で、一番心配なのは中国の民主社会への移行の過程で民族矛盾が激化することだと書いているが、言いかえれば騒乱が中国の政治転換の開始と言えるだろうか?

王力雄:必ずしも今回の騒乱が中国政治の転換の開始とは言えない。これはもとからの政治体制のもとで抑えきれなかった紛争の爆発だ。だがこの爆発は非常に短く、すぐに独裁政権の鎮圧の力で抑えつけられてしまった。
だが鎮圧によっては問題は解決しない。むしろこの矛盾と憎悪はより深く蓄積し、次の激発の機会を待つ。だから最も危険なのは未来の中国の政治に民主的転換が訪れた時だ。国家の統制力は緩み、独裁的手法も使えなくなり、自由の空間が突然開ける。元々独裁時代に累積した民族的憎悪は政治統制の緩和、民主化の瞬間に再び爆発するだろう。
それは民主化が民族矛盾をもたらすように見えるが、実際は民族矛盾の根源は独裁時代に蓄積されたものだ。だがまさにこの時爆発するので、どうやってこの危険を避けるかということも非常に大きな課題だ。

問:中国に本当にそのような転換の時が来たら、旧ソ連の解体やユーゴスラビア内戦の民族矛盾の流血の紛争よりも深刻な民族紛争が起きるだろうか?

王力雄:私は少なくとも旧ソ連解体の時の混乱より深刻だと思う。なぜならソ連解体は基本的に平和的だったからだ。だがユーゴスラビアの解体、とりわけボスニア・ヘルツェゴビナ戦争は非常に血なまぐさく残酷で、民族浄化と大虐殺を伴った。このような状況が未来の新疆で発生する可能性がある。新疆の人口規模はボスニア・ヘルツェゴビナより三倍以上多いし、土地はさらに広い。だから、その衝突の規模と流血の程度はいずれもボスニア・ヘルツェゴビナの抵抗を上回るだろう。

問題:将来も新疆では騒乱が引き続き発生するだろうか? より深刻だろうか? 今回の騒乱は氷山の一角に過ぎず、一連の民族・人種騒乱の開始だろうか?

王力雄:そうだ! 政府がもし今の民族政策を調整し、民族間の憎悪を解消しなければそうなる。また、民族間の民間交流や対話により、憎悪を除き理解を深めることが必要だ。もしそれができなければ、今の民族関係はごく小さな火花が大規模な紛争を引き起こし、より大規模な流血の衝突となるだろう。そういう可能性がある。

問:中国政府が現政権の安定のため、共産党の統治を維持するために行う民族政策の調整は、状況をより悪化させるだろうか?

王力雄:少しでも責任感と思慮のある統治者なら、そのようなことはしないだろう。だが今中国で少数民族地区と少数民族政策を主管しているのは多くの部門からなる連合体であり、私はそれを反分裂集団と呼んでいるが、この反分裂集団は概して、それ自身の利益、それ自身の社会的地位、それ自身の権力、それ自身の資金源のために動く。そして、反分裂の状況〔分離独立運動〕が深刻になればなるほど、その地位が高くなり、権力も多くなり、資金も豊富になる。
だから、この集団は、反省して自らの路線が間違っていたとは言わない。彼らはいつも責任を国外勢力の操作のせいにする。分離主義勢力だとか過激勢力が云々と言って、取り組みを強化し、鎮圧を強化しなければならないと主張し、彼らの既定路線を強化しようとする。その結果問題はますます深刻になる。これこそが危険の所在だ。
もし思慮のある統治集団であれば、自らの路線を修正するだろう。だが中国の現在の政治構造では、下の官僚集団が統治集団の動向を操り決定することができるから、今後の動向については引き続き観察する必要がある。

原文出典:
http://news.bbc.co.uk/chinese/simp/hi/
newsid_8180000/newsid_8188000/8188056.stm

(転載自由、要出典明記)