三、政治的保護の下でのヤクザ組織の経済活動
1、ヤクザ会社:不法業務と暴力営業
ヤクザ組織を背景に持つ会社は主に不法営業と独占営業に従事する。これらの会社は営業の中でしばしば法律やビジネスルール、公衆道徳に違反する。対外的には役人との間の政治的保護関係だけに頼って会社への圧力をかわし、対内的にはヤクザのおきてで「処罰」する。会社組織の名称だけを見ると、ヤクザの作った会社と正規の合法的会社との違いはない。同じように、取締役会長、社長、副社長、事業部長、事務員、経理、出納などの職位がある。しかし、正規の会社と比べると、ヤクザを背景に持つ会社は次の二つの面で大きく異なる。
まず、正規の会社は仕事に基づいて職員を配置するが、ヤクザを背景にした会社は人に基づいて役職を決める。会社の中の地位とヤクザ組織の中での地位は対応しており、ふつうは「親分」が絶対的な権力を握って部下の生殺与奪を左右する。これらの会社の「営業」と「利潤」分配も正規の会社と大きく違う。たとえば、雲南省昆明鉄道局公安分局東駅派出所の警官楊天勇のヤクザ組織は殺人・自動車泥棒などを「営業活動」と称し、毎回の「活動」で得た所得の20%を「活動資金」とし、残りを二段階で分配した(13)。次に、これらの会社は企業としての合法的な外見を装っているが、正規の会社のように市場競争や製品、サービスに依拠して市場のシェアを得て収益を上げるのではない。これらのヤクザ会社は合法営業を営んでいたとしても、組織暴力を後ろ盾にして市場のシェアを得たり、その地区のその業種を独占したりしている。河南省鄭州市の「ゴッドファーザー」宋留根は盛んなときは「中原の商都」と称された鄭州の大小数百の卸売市場を独占していた。彼の主な手段は不正競争であり、無数の血なまぐさい暴力事件を起こし、競争相手を殺したり重傷を負わせて障害者にしたりした(14)。正当な商店はこのようなヤクザを背景とする会社とは競争できず、ついには暴力の脅迫の下に市場から退出することとなる。
ヤクザを背景とする会社は各種の合法経営で隠蔽してはいるが、主な収入源は不法経営である。娯楽産業へのかかわりはほとんどのヤクザ組織の共通点である。中国は貧乏人が多く金持ちが少ない社会だから、市場ニーズは軟弱で販売競争は激しい。商店は正常な営業だけではなかなか利益を上げられず、ヤクザ的手段を使って利益を上げるのがこのような経済環境の下では近道となる。ヤクザ組織は政府権力だけを恐れる。なぜなら政府権力に彼らの「商売」の庇護を求めることが営業成功の前提だからである。とりわけ、賭博や風俗業など一部の特殊な業種は、中国の法律では違法であるから、地方警察機関と文化取締機関が後ろ盾にならなかったら、一日も持たないだろう。だから中国の風俗産業には特色がある。すなわち、「黒ヤクザ」と「白ヤクザ」が握っているのだ。「白ヤクザ」とは役人をさす。役人は風俗産業を行うヤクザ組織に庇護を与える。政治権力が役人の出資する資本なのである。そして、役人の風俗産業への支配と利益分配は、「黒ヤクザ」を通じて実現される。2000年、全国人民代表大会教育科学文化衛生委員会が発表した専門調査報告書によると、中国では売春が相当盛んで、風俗営業者は全国的に膨大かつ特殊な社会集団を構成している。海南省であれ甘粛省であれ、省都であれ貧困県であれ、歌舞娯楽施設があればどこでも「風俗嬢」(売春婦)を見ることができる。これら風俗店の背後では公安機関とその他の政府機関の役人が不法営業者の後ろ盾となり、「白ヤクザ」と呼ばれている。この報告の中にはまた、問題のディテールを物語る事実もある。「調査期間中、ほとんどの経営者と風俗嬢が『ここは絶対安全だ。もし検査があっても、先に知らせてくれる人がいる。』と語っていた。今晩検査があることを知っていたかと聞いたら大部分の風俗嬢が検査グループの所属機関を言い当てた」(15)。このことからも、娯楽業界の役所の政治的保護への依存の深さが見て取れる。
2、合法産業経営の操縦
もし娯楽産業(風俗業と賭博業)を経営するヤクザ組織が主に警察との政治保護関係に依存しているとすれば、ほかの分野で経済活動を行うヤクザ組織は政府機関とより幅広い政治的保護関係を結ばなくてはならない。中国各地のヤクザ組織が関係する合法産業はすべて同じではないが、ひとつだけ共通点がある。それはつまりある地方のある業種・産業の利潤率が高ければ、ヤクザ組織はその分野の会社を設立してその業種を独占しようとするということだ。こうした企業という名で実際はヤクザ組織の会社は、その設立から拡大までを完全に実権を握る役人たちの支えに頼っている。
広西自治区岑渓市には三大「支柱産業」がある。石材、木材、液化ガスである。90年代初期にはこの三大産業は県共産党委員会書記の娘婿欧杰雄の「共発実業有限公司」に握られていた。この県共産党委員会書記が退職すると、この産業はヤクザ組織の頭目の程学満と程学徳の兄弟に握られた(16)。「二程」兄弟がなぜこの三大産業を独占できたかというと、県長程柱徳、県共産党委員会副書記莫以海など13名の役人の保護があったからである(17)。福州の「凱旋集団」取締役会長陳凱のヤクザ組織の犯罪事件に連座した役人は113名に上った。福州市共産党委員会、公安局、裁判所、省安全庁、汚職防止局、税務局、銀行、および娯楽産業許可審査を主管する文化局の党官僚、政府官僚と事務職員がすべてその中に網羅されており、陳凱の力強い後ろ盾となっていた(18)。中でも、文化娯楽産業許可審査を管轄していた福建省文化庁社会文化処(この処はゲームセンター、ナイトクラブ、キャバレーなどを管理していた)副処長銭香進、福州市文化局共産党委員会書記兼文化局長呂贛明らは陳凱の出世に主要な役割を果たした。公安局副局長、治安警ら総隊政治委員および文化局の文化査察隊隊長は陳凱の「身内」を演じていた(19)。
多くのヤクザ組織が違法手段で合法産業を経営している。2003年はじめ、黒龍江省チチハル市の張執文のヤクザ組織の宇龍公司は競争入札で落札できなかったので、張執文は落札した会社のセールスマンを誘拐・強迫して、代理権を譲らせた(20)。
3、資本ゼロからの出発
すでに公表されている事件を見ると、会社化したヤクザ組織の頭目の多くが貧困家庭の出身であり、元手があったわけではない。多くのこのような会社の資本蓄積は主に銀行の違法貸付による。たとえば福州の陳凱である。陳凱が銀行から何度も巨額の金を引き出せたのは、関係網の中に重要な銀行官僚がいたからだ。中国銀行福州支店の元支店長陳秀竹である。陳秀竹が資金面で陳凱を助けたから、陳凱の娯楽王国が急速に拡張することができたのだ。陳凱の事件が発覚してから、中国銀行福州支店の不良債権調査で、陳凱が陳秀竹から得た貸付金は2億元に上っていたことが明らかになった。そのほとんどが違法貸付だったり、実力のない企業への保証だったり、担保物件のない貸付だった。これら貸付は期限が過ぎても戻らないばかりか、利子さえ3千万元あまりも支払いが滞っていた(21)。浙江省温嶺のヤクザ組織の頭目張畏の13社の企業はいずれもペーパーカンパニーだった。彼の主な資金源もやはり銀行からの詐取で、事件発覚時には8,420万元あまりの残高と、56万元あまりの利子が返せない状態だった。張畏が銀行から金を騙し取るのを手伝ったのは10名の銀行内部の職員だった。
銀行をだまして貸付を受けるほかに、ヤクザ組織と政府機関が手を携えてほかの会社から数億の巨額の資産を奪うという事件も発生している。2004年3月香港美邦集団の社長でヤクザの頭目の国洪起が江蘇省公安庁に逮捕されてから、彼と北京市第二商業局の役人が手を組んで香港嘉利来の数億元の資金を横領していた事実が明らかになった(中国のメディアは「北京ゲート事件」と呼んでいる)。国洪起はまた北京、山東、江蘇、広東などでの数10億元に上る金融詐取事件の首謀者でもある。すでに報道された限りの情報によれば、国洪起は長期にわたって証券と投融資分野で活動しており、巨大な関係網を築いていた。逮捕前に香港と内地で数十社の会社を所有し、支配下の資産は80億元以上であった。そのうち多くの資金が彼と役人が手を組んで奪い取ったものだった(23)。
中国の証券業の発展に伴い、ヤクザの触角は証券市場にも伸びている。2001年に明らかになった蘭州ヤクザの証券ブラックマーケット操縦、株主からの数億元の略奪事件は典型事例である。調査によると、何人かの証券ブラックマーケットの黒幕は、株主の財産を奪った後、資金を合法産業(主に不動産)に投資していた。彼らの関係網は入り組んで政界の隅々にまで伸びていた。事件発覚後工商局は詐欺罪の嫌疑で事案を公安局に移管したが、現地の公安局は証拠不十分という理由で先延ばしにし、引き続き詐欺を続けさせた。全国の世論が非難し始めてやっと犯人は捕まった(24)。
1、ヤクザ会社:不法業務と暴力営業
ヤクザ組織を背景に持つ会社は主に不法営業と独占営業に従事する。これらの会社は営業の中でしばしば法律やビジネスルール、公衆道徳に違反する。対外的には役人との間の政治的保護関係だけに頼って会社への圧力をかわし、対内的にはヤクザのおきてで「処罰」する。会社組織の名称だけを見ると、ヤクザの作った会社と正規の合法的会社との違いはない。同じように、取締役会長、社長、副社長、事業部長、事務員、経理、出納などの職位がある。しかし、正規の会社と比べると、ヤクザを背景に持つ会社は次の二つの面で大きく異なる。
まず、正規の会社は仕事に基づいて職員を配置するが、ヤクザを背景にした会社は人に基づいて役職を決める。会社の中の地位とヤクザ組織の中での地位は対応しており、ふつうは「親分」が絶対的な権力を握って部下の生殺与奪を左右する。これらの会社の「営業」と「利潤」分配も正規の会社と大きく違う。たとえば、雲南省昆明鉄道局公安分局東駅派出所の警官楊天勇のヤクザ組織は殺人・自動車泥棒などを「営業活動」と称し、毎回の「活動」で得た所得の20%を「活動資金」とし、残りを二段階で分配した(13)。次に、これらの会社は企業としての合法的な外見を装っているが、正規の会社のように市場競争や製品、サービスに依拠して市場のシェアを得て収益を上げるのではない。これらのヤクザ会社は合法営業を営んでいたとしても、組織暴力を後ろ盾にして市場のシェアを得たり、その地区のその業種を独占したりしている。河南省鄭州市の「ゴッドファーザー」宋留根は盛んなときは「中原の商都」と称された鄭州の大小数百の卸売市場を独占していた。彼の主な手段は不正競争であり、無数の血なまぐさい暴力事件を起こし、競争相手を殺したり重傷を負わせて障害者にしたりした(14)。正当な商店はこのようなヤクザを背景とする会社とは競争できず、ついには暴力の脅迫の下に市場から退出することとなる。
ヤクザを背景とする会社は各種の合法経営で隠蔽してはいるが、主な収入源は不法経営である。娯楽産業へのかかわりはほとんどのヤクザ組織の共通点である。中国は貧乏人が多く金持ちが少ない社会だから、市場ニーズは軟弱で販売競争は激しい。商店は正常な営業だけではなかなか利益を上げられず、ヤクザ的手段を使って利益を上げるのがこのような経済環境の下では近道となる。ヤクザ組織は政府権力だけを恐れる。なぜなら政府権力に彼らの「商売」の庇護を求めることが営業成功の前提だからである。とりわけ、賭博や風俗業など一部の特殊な業種は、中国の法律では違法であるから、地方警察機関と文化取締機関が後ろ盾にならなかったら、一日も持たないだろう。だから中国の風俗産業には特色がある。すなわち、「黒ヤクザ」と「白ヤクザ」が握っているのだ。「白ヤクザ」とは役人をさす。役人は風俗産業を行うヤクザ組織に庇護を与える。政治権力が役人の出資する資本なのである。そして、役人の風俗産業への支配と利益分配は、「黒ヤクザ」を通じて実現される。2000年、全国人民代表大会教育科学文化衛生委員会が発表した専門調査報告書によると、中国では売春が相当盛んで、風俗営業者は全国的に膨大かつ特殊な社会集団を構成している。海南省であれ甘粛省であれ、省都であれ貧困県であれ、歌舞娯楽施設があればどこでも「風俗嬢」(売春婦)を見ることができる。これら風俗店の背後では公安機関とその他の政府機関の役人が不法営業者の後ろ盾となり、「白ヤクザ」と呼ばれている。この報告の中にはまた、問題のディテールを物語る事実もある。「調査期間中、ほとんどの経営者と風俗嬢が『ここは絶対安全だ。もし検査があっても、先に知らせてくれる人がいる。』と語っていた。今晩検査があることを知っていたかと聞いたら大部分の風俗嬢が検査グループの所属機関を言い当てた」(15)。このことからも、娯楽業界の役所の政治的保護への依存の深さが見て取れる。
2、合法産業経営の操縦
もし娯楽産業(風俗業と賭博業)を経営するヤクザ組織が主に警察との政治保護関係に依存しているとすれば、ほかの分野で経済活動を行うヤクザ組織は政府機関とより幅広い政治的保護関係を結ばなくてはならない。中国各地のヤクザ組織が関係する合法産業はすべて同じではないが、ひとつだけ共通点がある。それはつまりある地方のある業種・産業の利潤率が高ければ、ヤクザ組織はその分野の会社を設立してその業種を独占しようとするということだ。こうした企業という名で実際はヤクザ組織の会社は、その設立から拡大までを完全に実権を握る役人たちの支えに頼っている。
広西自治区岑渓市には三大「支柱産業」がある。石材、木材、液化ガスである。90年代初期にはこの三大産業は県共産党委員会書記の娘婿欧杰雄の「共発実業有限公司」に握られていた。この県共産党委員会書記が退職すると、この産業はヤクザ組織の頭目の程学満と程学徳の兄弟に握られた(16)。「二程」兄弟がなぜこの三大産業を独占できたかというと、県長程柱徳、県共産党委員会副書記莫以海など13名の役人の保護があったからである(17)。福州の「凱旋集団」取締役会長陳凱のヤクザ組織の犯罪事件に連座した役人は113名に上った。福州市共産党委員会、公安局、裁判所、省安全庁、汚職防止局、税務局、銀行、および娯楽産業許可審査を主管する文化局の党官僚、政府官僚と事務職員がすべてその中に網羅されており、陳凱の力強い後ろ盾となっていた(18)。中でも、文化娯楽産業許可審査を管轄していた福建省文化庁社会文化処(この処はゲームセンター、ナイトクラブ、キャバレーなどを管理していた)副処長銭香進、福州市文化局共産党委員会書記兼文化局長呂贛明らは陳凱の出世に主要な役割を果たした。公安局副局長、治安警ら総隊政治委員および文化局の文化査察隊隊長は陳凱の「身内」を演じていた(19)。
多くのヤクザ組織が違法手段で合法産業を経営している。2003年はじめ、黒龍江省チチハル市の張執文のヤクザ組織の宇龍公司は競争入札で落札できなかったので、張執文は落札した会社のセールスマンを誘拐・強迫して、代理権を譲らせた(20)。
3、資本ゼロからの出発
すでに公表されている事件を見ると、会社化したヤクザ組織の頭目の多くが貧困家庭の出身であり、元手があったわけではない。多くのこのような会社の資本蓄積は主に銀行の違法貸付による。たとえば福州の陳凱である。陳凱が銀行から何度も巨額の金を引き出せたのは、関係網の中に重要な銀行官僚がいたからだ。中国銀行福州支店の元支店長陳秀竹である。陳秀竹が資金面で陳凱を助けたから、陳凱の娯楽王国が急速に拡張することができたのだ。陳凱の事件が発覚してから、中国銀行福州支店の不良債権調査で、陳凱が陳秀竹から得た貸付金は2億元に上っていたことが明らかになった。そのほとんどが違法貸付だったり、実力のない企業への保証だったり、担保物件のない貸付だった。これら貸付は期限が過ぎても戻らないばかりか、利子さえ3千万元あまりも支払いが滞っていた(21)。浙江省温嶺のヤクザ組織の頭目張畏の13社の企業はいずれもペーパーカンパニーだった。彼の主な資金源もやはり銀行からの詐取で、事件発覚時には8,420万元あまりの残高と、56万元あまりの利子が返せない状態だった。張畏が銀行から金を騙し取るのを手伝ったのは10名の銀行内部の職員だった。
銀行をだまして貸付を受けるほかに、ヤクザ組織と政府機関が手を携えてほかの会社から数億の巨額の資産を奪うという事件も発生している。2004年3月香港美邦集団の社長でヤクザの頭目の国洪起が江蘇省公安庁に逮捕されてから、彼と北京市第二商業局の役人が手を組んで香港嘉利来の数億元の資金を横領していた事実が明らかになった(中国のメディアは「北京ゲート事件」と呼んでいる)。国洪起はまた北京、山東、江蘇、広東などでの数10億元に上る金融詐取事件の首謀者でもある。すでに報道された限りの情報によれば、国洪起は長期にわたって証券と投融資分野で活動しており、巨大な関係網を築いていた。逮捕前に香港と内地で数十社の会社を所有し、支配下の資産は80億元以上であった。そのうち多くの資金が彼と役人が手を組んで奪い取ったものだった(23)。
中国の証券業の発展に伴い、ヤクザの触角は証券市場にも伸びている。2001年に明らかになった蘭州ヤクザの証券ブラックマーケット操縦、株主からの数億元の略奪事件は典型事例である。調査によると、何人かの証券ブラックマーケットの黒幕は、株主の財産を奪った後、資金を合法産業(主に不動産)に投資していた。彼らの関係網は入り組んで政界の隅々にまで伸びていた。事件発覚後工商局は詐欺罪の嫌疑で事案を公安局に移管したが、現地の公安局は証拠不十分という理由で先延ばしにし、引き続き詐欺を続けさせた。全国の世論が非難し始めてやっと犯人は捕まった(24)。