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消費構造の変遷と音楽消費(粗っぽい仮説) ③

2010年01月16日 | 消費構造の変遷と音楽消費-粗っぽい仮説
第3回目です。

前回、冒頭で自分の成人式のとき不貞寝してたと書きましたが、
ちょうどこんな状態。。。
(リアルタイムで聴いてた「BAD NEWS」。俳優として風格でてきた凌さん、この頃の切れ味 Great♪)

で、第1回目2回目では、若年層の消費をテーマにした書籍の概要をかいつまんできました。

今回は本題である「音楽消費」について書きます。

小泉恭子氏の『音楽をまとう若者』という書籍を取り上げます。



東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了された著者は、
兵庫教育大学助手、愛教育大学助教授を経られて後、
2003年、ロンドン大学教育研究所博士号(Ph D.)を取得。
本書刊行時(2007年)は、愛知教育大学助教授、という肩書です。

*そういえば4年前に読んだ『メディア時代の広告と音楽』でも共著で書かれておりました。



本書は、小泉氏のロンドン大学での博士論文を基にされているようです(「あとがき」より)。
よって、とても読み応えのある学際的な内容です。
本書の目的は、「質的研究の手法により高校生のポピュラー音楽実践を実地調査することで、学校内外の音楽文化を比較し、アイデンティティ構築とポピュラー音楽の関わりについても解明」すること(「はじめに」より)。
先行研究もわかりやすく整理されておられますし。
とりわけプルデューの、文化的能力の獲得様式「相続資本」「獲得資本」などは、
明確な分析軸を提供してくれます。

*「相続資本」:家庭で親などから受け継いだ文化資本
*「獲得資本」:学校やメディアから得られた文化資本

そして何よりも小泉氏がカテゴライズされた「音楽の三層構造」は秀逸です。



私なりにこんな形(↑)でイメージ化してみました。

◆ パーソナル・ミュージック

 ・生徒が日常生活で個人的に好んでいる音楽
 ・アイデンティティに密接に関わるため、公に曝すことは慎重になりがち
 ・私的な性格
 ・教室などフォーマルな空間でぶつけ合うと会話が成立しない
 ・「みんなの歌」にはなりにくい
 ・“皮膚”に近い感覚
 ・インフォーマルな空間

教室のようなフォーマルな空間では、「パーソナル・ミュージック」を曝け出せない。
しかし、グループに共通した音楽をまず確認しなければ、自分の立ち位置は確定できない。
つまり、個人の音楽嗜好の位置を測る目安となる“グループ共通の音楽”が必要になる。
それが「コモン・ミュージック」(↓)。

◆ コモン・ミュージック

 ・同世代に共通する音楽で、生徒同士が話す場面で共有される
 ・公的な性格
 ・カラオケなどで友人同士で盛り上がるレパートリーなど
 ・CD売上ランクよりも、通信カラオケランクのほうが参考になる
 ・「みんなの歌」にしかなり得ない
 ・“私服”に近い感覚
 ・セミフォーマルな空間

◆ スタンダード・ミュージック

 ・教師や親世代と会話する場合の音楽
 ・異世代とも共通する音楽
 ・大人世代の承認という正統化の過程を通して初めてフォーマル空間に入る
 ・一時の流行を超えて長く歌い継がれた「コモン・ミュージック」がスタンダード化
 ・特定の文脈を脱して、テクストとしての自律性が高い
 ・「時を超えた名曲」
 ・“制服”に近い感覚
 ・フォーマルな空間

「そもそも、ジャンルとはレコード産業のような作り手側が主導して決めた区分で、聴き手の実態に寄り沿った区分ではない。高校生からみればジャンルは大人が決めた論理で、自分たちの音楽実践の実態から離れているのだ。生徒にとっては決められたジャンルにしたがうよりも、音楽の語り口をとおして仲間内での自分の立ち位置を守り刷新していくことのほうが、はるかに重大事なのである。」(56ページより)

この知見はとても重要でしょう。

小泉氏のフィールドワークの結果によると、
男子は「議論」という「前線」にたって「パーソナル・ミュージック」を語り、
女子は「前線」を避けて、秘密裏の作戦で「パーソナル・ミュージック」を隠すとのこと。
グループアイデンティティ構築の力学に則ると、
女子は「パーソナル・ミュージック」を胸の内に秘め、
仲間と「コモン・ミュージック」を共有して連帯感を演出する傾向が強い。
こういう男女差は面白いですよね。

同世代共通の「コモン・ミュージック」や、
異世代共通の「スタンダード・ミュージック」を、
「円滑な」コミュニケーションの道具として使い、
「パーソナル・ミュージック」を隠すためにまとう二重三重の「鎧」とする。
こういった他者との関係性の探り方のありかたが「音楽の三層構造」。
「目に見えにくい腹の探り合いを続ける女子高校生の作戦」などは、
こういった「三層構造」の視点で見ればよく理解できることでしょう。

実際、小泉氏の高校生へのインタビューでも、
フォーマルな空間やセミフォーマルな空間で、
“嫌いなアーティスト名を挙げてパーソナル・ミュージックを隠す”
といった“作戦”を見出すことができます。

また小泉氏は、様々な位相の高校生のバンドメンバーへのアプローチから、
個人の「パーソナル・ミュージック」とバンドの「コモン・ミュージック」の葛藤を、
ダイナミックに抉ったりもしています。
このあたりは、高校生に限らず、バンドというものをやったことのある人には、身にしみていることだと思いますよ。

10代後半の時期、音楽への関与が最も高いことの裏付けの一つでは?
と考えられる知見も書かれてます。

「成人に比べて音楽にのめりこんだ年数が浅い高校生は、さまざまな年齢のリスナーが集う場でそれぞれの世代のコモン・ミュージックを瞬時に理解し、パーソナル・ミュージックを語ることで立ち位置を確保して自分を差異化できるほど経験を積んでいない。異世代リスナーと集う際には、スタンダードの知識も当然要求される。リスナーとしてひとり立ちするには、高校生ではまだ若すぎるのだ」(159~160ページより)

「そう言われると、確かに・・・」という実感は私にもあります。
当時ならではの音楽への強い吸収欲と言いますか。

「音楽の聴取とは極めて個人的なもので、コモン・ミュージックの形で他者と共有するものではない。そもそも他者から評価を受け、干渉される性質のものでもない。それゆえに、聴取者は私的な場でのホンネの音楽嗜好と、公の場でのタテマエの「好きな音楽」の間にはっきりと線引きしようとするのだ」(155ページより)

小泉氏は、高校生へのフィールドワークを通して、
「他者から干渉されない自分の精神世界を築き上げたいが他者ともつながっていたいという、アンビバレントな心境」(161ページ)を見出します。

このような鋭い知見は、調査対象の高校生に限定されることなく、
我々の音楽との関わりを探る上で有用だと考えます。

そして、何よりも「音楽の三層構造」モデルですね。

長くなりましたし、疲れたので今回はここまでです。

gooブログって、文字入力に物凄いストレスを感じるんですよ。
通常の1.5倍ぐらいの時間がかかります。
せめて、mixi並みに使いやすければいいんですけどね。。。
他のブログサービスにスイッチしないのは、面倒だから。
こういうのを僕らの専門用語では“みせかけのロイヤリティ”と言います(苦笑)。
「面倒臭い」というのは“スイッチング・バリア”。

次回は「音楽の三層構造」モデルと若年層の消費実態・意識(U&A)を絡めます。
粗っぽいですが大胆に(笑)。
第4回目アップまでの間、別の記事を入れたりもしますが。
因みに私のブログは動画リンクをはじめ、これでもか!という位の「パーソナル・ミュージック」大放出です(笑)。

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