【ML251 (Marketing Lab 251)】文化マーケティング・トレンド分析

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音楽の大人の楽しみ方 (石田衣良氏)

2010年11月20日 | 徒然
“オトコが進化する情報マガジン”『R25』はたまに読みます。
一番好きなで真っ先に読むのは巻末エッセイ。

高橋秀実氏と石田衣良氏が交代でご執筆。
お二人とも僕と同世代。
しかもお二人の感性は僕とも近い(と思う)。
そんなオッサン達が(違和感あるかな?)、
R25世代達向けに雑感めいたことを書かれているのだが、
上から目線ではない、巧みな文章。

高橋秀実氏のアイロニカルながら、自己をメタ化する視点が好きだ。
氏の著作(文庫本)も数冊読んでいる。
『からくり民主主義』(新潮文庫)で、
村上春樹が書かれた「解説『僕らが生きている困った世界』」を読んでいると、
高橋氏のお人柄が、よく伝わってくる。

で、『R25』(2010 11.18 No.276)の巻末エッセイは、
石田衣良氏の「空は、今日も、青いか?」第121回「ビートルズ再訪」。

原稿執筆に煮詰まっていた石田氏が、
The Beatles のリマスター盤BOXセット(CD16枚)を聴いたそうだ。

リアルタイムでは天邪鬼で“ビートルズ不感症”だった石田氏(僕もよくわかります)が、50年近くも前のアルバムを順繰りに聴いていく。
初期から解散までのドラスティックかつドラマティックな変遷。

「時代の粗熱がとれてしまえば、やはり、ポールの音楽性が、ジョンの哲学性をしのいでいるというのが正当な評価ではないか」

石田氏は言う。
どのジャンルでも、その創世記に全ての可能性を実現してしまう巨人がいると。

・ロック:ビートルズ
・ソウル:スティービー・ワンダー
・クラシック:バッハ
・交響曲:ベートーベンの全9作品
・日本の近代小説:夏目漱石

夏目漱石など、特にそうですな。

「そうした巨人の作品を一枚ずつ歴史を追ってきいていくのは、こたえられない大人のたのしみだ。携帯音楽プレーヤーで気にいったヒット曲だけちょいぎきするのはそろそろ卒業しよう。パッケージソフトにきちんとお金をつかうというのは悪くない習慣だし、やはり感動やよろこびの深さが違ってくる」

引用が長くなっちゃってゴメンナサイです。
でも、いいこと言うよね。

*巨匠じゃないかもしれないけど、
 自分のCDコレクションで、最近のマイブームはこの人。
 彼のギターの音色とフレージングが、
 僕のアンチ・エイジングに効果がある(と思う)。

Gary Moore - Cold Day In Hell LIVE 

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第3回CDショップ大賞 ノミネート作品発表

2010年11月13日 | マーケティング話
「第3回CDショップ大賞」のノミネート全25作品が発表されました。

「CDショップ大賞」とは、全国のCDショップ店員の投票だけで選ばれる賞です。

「いま音楽を取り巻く様々な課題がある中、 ショップの現場から、もっと音楽を盛り上げていくために設立されました。メジャー、インディーズを問わず過去1年間に発売された作品を対象とします。」(全日本CDショップ店員組合のサイトより)

全日本CDショップ店員組合のサイトによると、
第3回の概要・プロセスは以下の通りです。

▼作品数は全25作品。
▼内訳は、10月4日(月)から10月18日(月)の期間中に行われた、
 一次投票の結果選ばれた上位17作品に、
 北海道から九州まで全国の8地域から選出された地方賞8作品。
▼11月10日(水)から11月22日(月)で行われる二次投票によって
 10作品の「入賞」が決定(12月上旬予定)。
▼「準大賞2作品」と「大賞1作品」は、2011年月中旬に開催予定の授賞式にて発表。

5月に「新人類ジュニアたちのRock」 という記事を書きましたが、
「ファンファーレと熱狂」 andymori、「EARTH」世界の終わりは見事に被ってます。





それもそのはず、記事で書いた通り、とりあげた作品とアーティストは、
ほぼ「WAVE大宮店」のコーナー展開で知りましたんで(笑)。
モーモールルギャバンの「クロなら結構です」も入ってますね。



僕もノミネート作品は全て興味があるんで、
他の作品をチェックするのが楽しみです。

第2回の大賞がマスコミで大きく取り上げられたとき、
「メジャー感がない」 というトンチンカンなイチャモンをつけてきた業界人もおりましたが、
その「メジャー感」がないところがミソなんです。

90年代後半の“音楽バブル”を経て、
ユーザー・リスナーは、マス・マーケティングモデルの“仕掛け”に飽きてしまったんですね。
「マーケティング戦略」も見透かされてるのも周知の事実。
(勿論、今でもマス発のヒットもあるにはあるんですが・・・)
そういうフェーズを経て、
音楽が本来持っていた先端性、
つまり“クールさ”“カッコよさ”というものが、
いつの間にかあせてしまった感が強いんです。

経済産業省 「音楽ビジネスモデル研究会」報告書(2009年5月)にも、
音楽業界の先端性、前衛性、カッコ良さ、求心性喪失のことも触れられてます(23ページ)。

ファッション業界でも、マス受けのため、
ストーリー性もエッジもないスタイルの氾濫が指摘されてます。
(そうなると、品質とコストのバランスが絶妙な「ユニクロ」人気もよくわかりますよね)

音楽の世界も、マス・マーケティングモデルの確立による、
“過去の成功体験”から逃れられなかったことが、
現況の不況の元凶でしょう。
ユーザー・リスナー、特に若い層にとって“価値”が逓減した作品は、
“(違法)コピーで十分”というスタイルが浸透してしまった。

若者は、親の価値観のみに縛られることから“本能的”に逃れ、
最初はマスから受けた音楽やカルチャーの幅を拡げ、深さを追求します。
トレンド云々の話ではなく、人間の根源的なことです。
そういう重要な自己形成期に、必要とされる音楽が効率的に届かない。
それこそ、音楽不況の要因の一つでしょう。

「CDショップ大賞」の意義の一つには、
音楽の持つ先端性(少し進んだカッコよさ)とパワーを、
リスナー(ユーザー)に届けるということがあるでしょう。
“これから流行るもの” の先取りでもあるのです。

第2回大賞受賞「THIS IS MY STORY」のTHE BAWDIESも、マス番組にも露出してきましたし、
9月リリースのシングル「JUST BE COOL」(↓)もオリコンチャートのトップ10に入ったりしてます。
(下北沢Shelterでのライブ音源、メチャ臨場感あり!)



世界の終わりの新譜(SG)も良いです。
ドラマタイアップもあり、
直近のオリコンランキングでは、1万枚超の7位。
(初回盤の白いほうは持ってませんが・・・)



尖閣列島問題、海保ビデオ流出等で議論が湧きおこってますが、
ここはひとつ「天使と悪魔」でも聴いて、冷静になりましょう!
大人の皆さん。

世界の終わり/天使と悪魔 (Audio / HQ)

ノミネート作品の中で僕も持ってる他の作品を挙げときます。

▼ 残響レーベル発ポストロックの代表格の一つ、
9mm Parabellum Bullet の「Revolutionary」
先端的なロックを求める若い人に人気があるのがよくわかります。
表現のコアはぶれてないものの、
ファンの裾野を拡げるためのポピュラリティが重視されているのもポイントです。
そのあたりが、ひしひしと伝わってきます。



▼ School food punishment の 「amp-reflection」

バンド名に特別の意味はないそうですが、
給食の時間が苦痛だった小学校の頃を思い出しちゃいましたよ。。。
基本的なロックのフォーマットに、
機能主義フォルマニズムのサウンドメイキング、
なかなか素敵です。
透明感がありつつつも、微かにパステルがかっている。



で、残念ながら今回ノミネートされなかった、ふくろうず。
やっぱ、“何々のフォロワー” 的なポジショニングが、
バンドのインパクトにマイナスイメージだったのでしょうか?
個人的には、“先輩格の何々のバンド”より、
サウンドへの親近感は高かったんですが。

特に、ニューアルバム(↓)のM8。
ギターの空間系エフェクトのかけ方、
“変態”的なリフは、僕のストライクゾーンど真ん中です。

もちろん、脱力系のようでも、
腹にはちゃんと力が入ってる Vocal さんもナイスです(笑)。



ともあれ、ショップの店員さんたちの選出する「CDショップ大賞」、
発表が待ち遠しいです。
自分の予想が当たれば嬉しいですしね。

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『大ヒットの方程式』 ソーシャルメディアのクチコミの数理モデル

2010年11月06日 | マーケティング話
ポニーキャニオン時代、数々のヒットコンテンツを産み出された吉田就彦さんが、古くからのご友人で物理学者で鳥取大学教授の石井晃氏、シナジーネットワークの新垣久史氏と共に著された本書は画期的だ。
なぜ画期的かと言えば、タイトルの通り。

映画について書かれたブログの件数の解析から、クチコミ効果が見事にモデリングされたことだ。



マーケの世界では周知のことだが、広告出稿データ(GRPなど)の変数のみでは、商品の販売動向のモデリングはできない。
よく考えるまでもなくそれは当たり前だ。
本来の「目的」と「効果」が違うからだ。

しかし、ブログでそれが出来ることは本書で実証された。

*後述するが、広告出稿は「直接コミュニケーション」だからね。
 ヒットの「必要条件」ではあっても、「十分条件」ではない。

吉田さんに教えられて、先日、仕事帰りに本書の出版記念セミナーにも参加した。
ご興味のある方には本書の購読をお薦めするとし、ここではセミナーのメモを記すのみとする。

■第1部 ヒット数理モデルによるブログの定量分析

・そもそもの発想は物理学の原子の「3体相互作用」 ⇒ アナロジー化して「人」に応用
・変数は、(1) 「外力」(広告パブリなど)、(2) 直接コミュニケーション、(3) 間接コミュニケーション。
 ⇒ 話題性の喚起で重要なのは (3) 間接コミュニケーション
   身近な人からのレコメンドだけではヒットしない
 ⇒ 失敗作の要因分析をすると、“拡がり”がない=間接コミュニケーションがない

定量分析と言うと、やれ調査サンプルの代表性が、バイアスが云々・・・となるが (旧来からの「常識」)、とりわけ嗜好性の強い商品・サービスに関しては、「調査をかける」(=“球を投げる)” ということではなく、ネット空間に遍在するテキストの収集(=“網を投げる”)と解析・読み込みによって十分、モデリングが可能であるということだ。

石井先生の 「モデルの数理化において、フィッティング値は高ければ高いほどいいというわけではない」というコメントも印象的だった。たしかに、対象の本質を記述するために。余計な枝葉を取り去るのがモデリングなんで、成程ですな。

■第2部 ヒットの話題の共鳴分析によるブログの定性分析

定性分析のキーは以下の3点。

・時系列変化 (話題、意向)
・ポジネガ判定
・話題の中心 (構造の可視化)
  ⇒ ここでキーグラフが活躍する

映画の場合、ポジの書き込みの平均は73%、ネガ13%。
「クローズド・ノート」のポジ評価は65%。平均からそう低くはない。
この映画のヒットのためには、エリカ様は会見謝罪すべきではなかった。
(個人的にもご本人のキャラ確立のためにも謝罪すべきでなかったと考える)

映画にしろイベントにしろ、ブロガーが自発的に書いてくれる内容の調査・分析によりフレキシブルな戦術策定が可能ということだ。

■第3部 ヒト×ネタ マーケティングがこれからのマーケティングを変える

「Content Oriented Communication 分析」

・クチコミ効果は「人」、宣伝効果は「ネタ」
・生活者が作る「周辺話題性」と「本音」がクチコミを生む
  ⇒ ポジとネガの偏在が「本音」の証(あかし)
  ⇒ ネガの書き込みも重要
・インフルエンサーの特定も重要
・テレビとの連動=ウインド戦略の失敗例では、ユーザのコンフリクトが見られる
 (一緒に語られるキーワードが、テレビと映画で別というケースなど)
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「チェッカーズ」「おニャン子クラブ」から「だんご3兄弟」まで。
「勘と経験と度胸(3K)」の世界でも、誰も文句をつけられない実績を積まれてきた上に、数理モデルによるマーケティング武装。
石井晃氏と新垣久史氏とのコラボにより最強の吉田さんが十分すぎるほどリスペクトに値することは言うまでもないが、コンテンツ産業にとって、このような試みが生かされないといけない、と痛切に感じた夜でした。

僕の持論を、本書での表現で表すと、「業界仮説」は数値化できるということ。
そして数値化できれば、予測も可能、ということです。

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