南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

リオデジャネイロはプレゼンテーションも見事だった

2009-10-05 00:01:03 | オリンピック
東京が負けたことで、「最初からリオデジャネイロに決まって
いた」という発言がいろんなブログで散見されていました。
「東京はプレゼンはシンプルで一番よかった、しかし政治的
判断でリオに決まった」というようなコメントも見受けられま
した。はたして本当にそうだったんでしょうか?リオデジャネ
イロは確かに事前の評価は高かったのですが、投票になってか
らも気を抜けませんでした。上のグラフで見ても、第一回投票
ではマドリッドに二票負けていました。

二回目の投票では、一回目でシカゴに投票していた人たちが、
リオデジャネイロの応援に回った感じです。同じアメリカ経済
圏なので、メリットで選択した人たちも多かったのでしょう。
もし、最初の投票で東京が落選していたとしたら、リオデジャ
ネイロはここまでの票を稼げなかったでしょう。もしもシカゴ
が最後まで残って、リオデジャネイロとの決定戦になっていた
としたら、票はどのように別れていたのでしょう。一回目の
投票でシカゴが破れたことで、リオデジャネイロは勝利が見え
たのではないでしょうか。

リオデジャネイロは、南米での始めてのオリンピックという
大義で勝ったというふうに言われていますが、プレゼンテー
ションの映像をあらためて見てみると、やはりそのプレゼン
は素晴らしいです。これと比較してみると、東京のプレゼン
の貧弱さをあらためて感じ、同じ日本人として、また本籍地
が東京にある人間として恥じ入ってしまいたくなります。
東京の敗因は、政治力学とかではなく、プレゼンが下手だっ
たことと、オリンピックを東京で開催しなければならないと
いう意義が希薄だったことによると思います。今後の参考の
ためにリオのプレゼンをレポートしたいと思います。

日本人が英語でのプレゼンテーションにハンディーを持って
いるというのなら、ポルトガル語が母国語のブラジル人たち
も条件はそれほど変わりません。しかし、国際的なコミュニ
ケーションということに関しては、日本人はどうしてこんなに
苦手なんでしょう。それに比べて、ブラジルの皆さんは、
英語の発音はものすごくなまっているのですが、コミュニケー
ションの達人です。我々は彼らから学ぶところも多いと思い
ます。

今回、リオデジャネイロのプレゼンターとしてステージに
登場した皆さんは、それぞれがプレゼンターとして秀逸でし
た。申し訳ないのですが、東京のプレゼンターと比較しても
役者が一枚も二枚も上です。全員が見事なコミュニケーター
です。政治もビジネスもこういう人たちがリードしている国
はこれからぐんぐん伸びると思います。

まず登場するのは、チームリーダー役のヌズマン氏(Carlos
Arthur Nuzman)です。

1942年生まれで、元バレーボールの選手。1964年の東京
オリンピックの時にブラジル代表で出場したのだそうです。
この人のスピーチは見事でした。母国語でないので、英語は
決して流暢というわけではありません。しかし、一言一言に
全身全霊がこもっているという感じで、聞き惚れました。

世界地図を出して、これまでにオリンピックが開催された
場所をビジュアルにマッピングし、まだオリンピックが一度
も開催されていない大陸=南アメリカ大陸での開催意義を
アピールするプレゼン手法は見事です。また500年も前の
大航海時代の比喩で、新たなオリンピックへの航海を始め
るべき時だというレトリックも見事でした。オバマ大統領
真っ青の見事な演説。また外国語であある英語を一生懸命
に喋っているという姿勢にも好感が持てました。(東京の
人たちは、上っ面のみ奇麗な英語を喋っているという感じ
がしました。)

ヌズマン氏のスピーチの後、ビデオ映像が上映されます。
このビデオは、リオデジャネイロを紹介するようなもので
サンバのリズムでカーニバルとか、観光名所とか紹介され
るのですが、これはそれほど特筆するものではありませんで
したが。

その次に登場してきたのが、セルジオ・カブラル(Sergio
Cabral)というリオデジャネイロ州知事。

リオデジャネイロって、市でもあるし、州でもあったんです
ね。しかしビデオ上映の後に登場したカブラル知事。この
人の最初の笑顔が見事でした。すごく親しみのあるおじさん
という感じで話し始めたカブラル氏、その表情は人間味に
溢れていました。プレゼンテーションの大半はその中身では
なく、表情で伝達されると言われています。そういう意味で
はこの人も見事なプレゼンターでした。(東京のプレゼン
ターたちのほとんどが極めて無表情であったのとは対照的で
す。とくに東京のプレゼンターの人たちは、目が死んでいて、
顔の表情筋をほとんど使っていませんでした)

カブラル氏は、州知事として資金の問題、交通手段の問題
などを大局的な視点で語りました。身振り手振りを交えて
情熱て的に語るカブラル知事を見て、いろんな面で一生
懸命に努力しているというのが伝わってきました。(東京
は、環境だ、コンパクトだ、安全だというだけで、夢の
実現に向けて努力をしているという姿勢が伝わってこな
かった気がします)

カブラル知事の後を受けて登場するのが、ブラジル中央銀行
総裁ののエンリケ・メイレレス氏です。

こちらはうってかわって知的な感じ。ブラジル経済が今や
世界第五位の大きさになっていること、広告ビジネスの伸び
(オリンピックの収益源としての有望性)や、石油産業など
の成長などに関しての説明をし、ブラジル経済に対する不安
材料がないことを経済面からアピールします。これも見事。

それを受けて、リオデジャネイロ市長のエドゥアルド・
パエス氏(Eduardo Paes)の登場です。

パエス氏は、オリンピック実行の具体的な計画を説明してい
きます。どこで、どのような競技が行われるのかなどの施設
の説明、交通手段や宿泊の説明など極めて具体的にプレゼン
をしていきます。どんどんオリンピックの現実味が増してき
ます。

この地図の説明から、各競技が開催される場所が次々と映像
で映し出されていきます。すでに事前に選考委員には説明し
てある内容なのでしょうが、それをもう一度おさらいします。
選考員は見ていても、テレビを見ている世界の人々は知らな
いわけなので、こういうのは重要です。ロンドンの時もあっ
たように思いますが、今回の東京のプレゼンでははしょられ
てしまっていました。

また宿泊施設に関しては、ホテルの充実もアピールされまし
たが、豪華客船も宿泊施設として利用できるようにするとい
う計画も説明されました。

何か夢が広がります。東京湾岸でコンパクトにやるという
アピールとは、魅力のレベルが段違いに違う気がします。
東京では、京都などの観光地もあるし、日本独特のお祭り
などもいっぱいあるアピールしていましたが、オリンピック
選手や応援団は観光のためにオリンピックに来るわけじゃな
いので、ちょっと訴求点がおかしい気もしていました。
ましてやカラオケって世界中で人気があるわけじゃないです
し。

そして続いてアスリートの登場です。

サベル・スワン(Sabel Swan)という女性アスリートです。
リオデジャネイロが地元のこの女性は、リオの魅力を語った
後で、サッカーの神様のペレを紹介します。

ペレはここで立ち上がり、笑顔で手を振って挨拶をするので
すが、一言も喋りません。しかし、世界中の誰もが知るペレ
なので、これだけで最高のメッセージとなります。言葉を
使わずにペレが行った瞬間のプレゼンテーションは極めて
効果的でした。

ここまでで、リオデジャネイロのプレゼンテーションは
すでに圧倒的なのですが、だめ押しとも言うべきルーラ
大統領の登場です。

この人は、1945年生ブラジルの貧しい農村の生まれで、
学歴はほとんどなく、靴磨きや、製鉄所工員から、労働
組合を経て、大統領にまで上り詰めた人物。この日の
スピーチはすべてポルトガル語。低く響く声で、リオ
デジャネイロはオリンピックの準備ができていることを
切々と訴えました。宇宙人のような鳩山首相とは違い、
その存在感は圧倒的でした。

そして二番目のプロモーションビデオ。これは秀逸でした。
リオデジャネイロの町のあちこちに、緑の服や、赤い服や、
その他、いろいろな色の服を着た人々の集団が現れます。

何となく、海外から来た選手団の一部のような雰囲気がし
ます。その人たちを、町の人々はとても暖かく迎え入れま
す。これだけでも、いい雰囲気のビデオなんですが、人々
の数がだんだん多くなって、海岸へと移動していきます。
そして、最後のコパカバーナの海岸の空撮。これまで登場
してきた無数の人々が実は、5つの色の五輪の輪を描いて
いたのがわかります。

すばらしい映像でした。この映像の後で、会場は東京の
プレゼンではなかったような拍手が鳴り響きました。
東京の映像とはあきらかに質が違います。

そして最後に、ふたたびヌズマン氏が登場して最後の
お願い。このスピーチも完璧でした。自分たちを選んで
ほしいという情熱がこもっていました。「皆様方の今日の
ボタンの一押しが、オリンピックの新たな歴史を作るので
す」という言葉、素晴らしい広告コピーです。

これがリオデジャネイロのプレゼンテーションなのですが、
全体の組み立てから、それぞれのプレゼンターのコミュ二
ケーション技術、それから個々の内容と、言葉の隅々に
至るまでよく練られている感じがあります。そして情熱が
上滑りしていない。見事なプレゼンテーションです。
東京の招致委員会の人々は、自己満足に浸っているだけで
なく、こういうところから是非、東京のプレゼンで足りな
かったものを学んでほしいと思います。時代を動かすプレ
ゼンとはこういうもなんだということがわかるのではない
かと思います。

リオデジャネイロのプレゼンの動画はこちらのサイトに
出ています。英語だけですが。
http://www.universalsports.com/mediaPlayer/media.dbml?SPSID=105707&SPID=13050&DB_OEM_ID=23000&id=651879&sid=13050

ブラジルの広告代理店に知り合いがいて、コマーシャルの
作品を見せてもらったことがあるのですが、そのスケール
が大きく、大胆な作品は見事でした。音楽が溢れていて、
人間の感情に最も響くものは何であるかを熟知していて、
まるでブラジルサッカーと同じように、パワフルで、
カラフルで、感動させられことを思い出しました。
我々はブラジルから学ぶことも多いと思いました。