ブラームスのピアノ四重奏曲は全部で3曲ある。CDの解説では、3曲とも1854~55年に構想されたとしている。1854年はシューマンが投身自殺をしてブラームスもジュッセルドルフに駆けつけ、そののちクララ・シューマンとの関係が深まるきっかけとなっている。ブラームス21歳と若い時である。先日取り上げたピアノの「バラード集」(作品10)はこの年に出来上がっている。しかしピアノ四重奏曲はすぐには完成していない。
第1番(作品25)と第2番(作品26)は1857~59年に草稿ができたと記してある。完成は1861年でクララ・シューマンのピアノで初演されたようだ。翌年にブラームスのピアノで初演され、ピアニスト・作曲家としてデビューしている。ブラームス28歳の歳である。
第3番(作品60)が完成するのは1875年と構想から20年後で、ブラームスは42歳となっている。暗く悲愴な曲想といわれ、解説には作曲者自身が「楽譜の扉にはピストルを頭に当てている男の姿を書くと良い」と記していると記載してある。20年前のシューマンの自殺未遂の衝撃を引きずっていたのであろう。
第1番と第2番は対照的な印象を受ける。第1番はどちらかというと暗い感じであるが、第2番はどちらかというと明るく快活な印象を受ける。どちらも若いブラームスの心の中の一面を表しているのだろうか。メロディーは私には第1番の方が親しみやすい。特に第3楽章のヴァイオリンとヴィオラによって奏されるのびやかなメロディーは忘れられない。
また、第3番の第3楽章のチェロに始まるメロディーもまた忘れられない。
シェーンベルクはこの第1番をことに評価をして管弦楽用に編曲をしている。無調性・十二音階技法で現代音楽の旗手のようなシェーンベルクと、古典的なブラームスの接点として有名である。私はまだこのシェーンベルクの管弦楽編曲版を聴いていない。是非聞きたいと思っているがまだ機会がない。