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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

カザアナ

2021-03-19 23:56:55 | 小説
 平安時代末期、八条院暲子内親王のお抱えの「風穴」と呼ばれた異能の徒、空読、石読、虫読の子孫天野照良(テル)、岩瀬香瑠、虹川すず(鈴虫)の3名が、近未来の日本(「東京五輪の景気効果が肩すかしに終わり」…日本が起死回生をかけた観光革命に打って出て、約15年後:145ページ)で、景勝特区に指定されて家屋を純日本風に維持することを指導され、外国文化が排斥される東京の辺境の町藤寺町に現れ、フリー記者の入谷由阿、その娘の中学生里宇、息子の小学生早久らと絡む小説。
 ドローンカイトによる空からの監視や手首に付けた「MW」認証による行動管理等、行政による個人の行動監視が進み、伝統文化の維持と海外文化の排斥の圧力が強くなった近未来の日本社会の圧迫感・閉塞感の下で、日本政府に抵抗する地下組織ヌートリアがハッキングや鳥を用いたテロ活動を行うが、主人公となる入谷一家は行政の圧力に反感を持ちつつもヌートリアにも共感できずにマイペースで生きるという構図で、日本で急速に進行している監視社会化、国粋・排外傾向を批判的に描きつつも、それと闘うグループも好意的には描かないという立ち位置の作品です。「風穴」の子孫たちも、超能力があり、地域とは利害を持たない少し引いた第三者的な意識で対応していますが、現代にタイムスリップしたのではなく現代に生まれた子孫なので、文化的な断絶があるわけではなく、まったく違う価値観を提示する存在にはなっていません。その意味で平安時代とつなげる意味は、それほど大きくはないように思えます。
 現代日本の、政治・行政に生きぐるしさを覚えつつ、政権交代を積極的に希望していない一般人の意識・感覚を示しているのではありましょうけれど、よそからの超能力者の助力に期待するという方向性を持つというのも、哀しく思えます。


森絵都 朝日新聞出版 2019年7月30日発行
「小説トリッパー」連載
 
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表現の自由に守る価値はあるか

2021-03-17 01:11:50 | 人文・社会科学系
 ヘイトスピーチ(の規制)、テロリズム促進的表現(の規制)、リベンジ・ポルノ(の規制)、インターネット上の選挙活動の解禁(しかしまだまだ残る制限)、フェイク・ニュース、「忘れられる権利」の6つのテーマについて、表現の自由(日本国憲法では第21条)との関係でどこまで表現の自由の制約が許されるか、現行法や司法判断が妥当かを論じた本(論文集)。
 いずれの問題についても、著者は表現の自由を守る立場から、規制は必要最小限にとどめるべきであり、現在の法規制や司法判断の多くがあまりに広汎(一般的)な対象について必要以上の規制をしている、そもそも新たな立法前の法律で多くは対応できたのではないか、より緩やかな手段で足りたのではないかと、現在の法規制や司法判断の多くが行き過ぎで、憲法違反ではないかと論じています。
 ある意味では挑発的な、諦め気味のひねたタイトルは、「あとがき」の「ヘイトスピーチ、テロリズム促進表現、リベンジ・ポルノ、フェイク・ニュース、『忘れられる権利』、いずれについても国民の多くは表現の自由の制約を支持している。政府はそういった国民の声に押されて、表現の自由を制約しようとしているものといえる。多くの国民は、これらの表現の自由は、いずれも行き過ぎであり、保護に値しない行為と受け止めているものと思われる」(383ページ)という著者の認識に由来しています。
 歴史的経緯を重視し(忘れず)権力者/政府による人権侵害への警戒心を持ち、政府に価値のある表現とそうでない表現、何が真実で何が虚偽かなどを判断/選別させることを忌避する著者/伝統的な憲法学者の立場と、現実社会での迫害を政府による規制で防ごうとする運動の立場の相違/対立が鮮明に感じられます。弁護士としては、私が若き日(1980年代末から1990年代前半)に日弁連広報室にいて、人権委員会や刑事法系の委員会(前者の立場で政府/権力の横暴を抑制することを目指す)と民暴対策委員会、消費者委員会、女性の権利に関する委員会(後者の立場で政府の政策で現状の是正を図ることを目指す)に挟まれて、これが1つの組織なのかと呆然としたことを思い出します。悩ましい問題ですが。
 アメリカの法制度と司法判断、カナダの最高裁の判決、ヨーロッパのEU指令と裁判所の判断等を紹介した著者の議論は勉強になりましたが、ヘイトスピーチ規制に関して平等権(日本国憲法では第14条)が根拠となり得ないとするところ(47ページ、51~52ページ等)は、アメリカではセクシュアルハラスメントが性差別と位置づけられて禁止されているので職場における女性差別的発言や女性従業員を不快にさせるような性的表現はたとえ表現であっても性差別として禁止の対象となり表現の自由を侵害するものではないと考えられている(44ページ)こととの関連/相違をもう少しきちんと説明して欲しいと思いました。日本では、セクシュアルハラスメントは性的人格権/自由を侵害する不法行為として(あるいは職場環境整備義務違反として)位置づけられて、性差別としては位置づけられず、これを専ら性差別としてその違法性を基礎づけるアメリカの議論はほとんど知られておらず理解されていません。セクシュアルハラスメントが性差別である故に女性差別的発言の禁止が正当化されうるのであれば、ヘイトスピーチ禁止もヘイトスピーチを差別と位置づけて平等権から正当化する余地がないのか、それが可能と考えるにしても、無理だと考えるにしても、差別と差別是正/差別禁止をめぐる歴史をひもといた考察を読みたいところです。


松井茂記 有斐閣 2020年12月20日発行
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たおやかに輪をえがいて

2021-03-15 00:11:57 | 小説
 飲料メーカーの課長の夫俊太郎と大学2年生の娘萌と暮らし、ホームセンターでパートタイマーとして働く52歳の酒井絵里子が、夫の風俗通いの疑いを持ち、夫にも親族にも勤務先の同僚や友人にも相談できずに悶々としていたが、同窓会で大胆にイメージチェンジをしていた旧友内藤詩織と会いその仕事や私生活に驚き知らなかった世界を知って行く中で考えと態度を改めて行き…という展開を見せる小説。
 52歳で自分を見つめ直し、新たなスタートを切れる、現実世界でそのような条件がどの程度満たされうるのか、疑問も問題もあるとは思いますが、そういうことを考えに入れることができるだけでも、人生と日常生活に張りが出そうです。そういう読者ニーズに合わせたものではありましょうけれど、背中を押してくれる、少し元気が出そうな(夫側で読むと萎れそうですけど)作品です。


窪美澄 中央公論新社 2020年2月25日発行
「婦人公論」連載
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あのこは貴族

2021-03-14 00:22:20 | 小説
 渋谷区松濤の豪邸に住む開業医の末娘として生まれ、カトリック系の名門女子校を出て、豪商の名家に生まれた慶応内部生出の企業法務弁護士の青木幸一郎と結婚する榛原華子と、地方小都市出身で慶応大学に入学したものの親からの仕送りがストップしてドロップアウトし水商売からなんとか東京で職を得て生き抜いている時岡美紀が、青木幸一郎をめぐって邂逅し交流するという小説。
 一見階級差がないように見える日本社会が、実は厳然たる階級社会で東京の上層はその中で、地方出身者はその中で、互いに近い生まれの者としか交わらず出会わないという状況を描いています。
 その階級/グループを超えて邂逅した華子/逸子と美紀が、近松門左衛門の「心中天網島」を題材に、女同士の義理を語り、女同士を分断する社会と価値観、女同士を分断して闘わせる男を批判する下りが、この作品の真骨頂に思えます。
 映画の方を先に見たのですが、映画はそこが薄められ、美紀の格好良さ/魅力を損ねているように思えました。原作の方がテーマが明確だし、美紀がカッコいいと感じました。


山内マリコ 集英社 2016年11月30日発行
「小説すばる」連載
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専門医が教える声が出にくくなったら読む本

2021-03-13 22:56:54 | 実用書・ビジネス書
 声の不調の原因や治療法、音声障害の専門医の探し方などを説明した本。
 喉の不調を治す上で止めるべき9つの習慣というのが書かれています(170~180ページ)。タバコを吸う、過度な飲酒、咳払いするクセ、頻繁に裏声を使うはいいとして、早口でしゃべる、甘いものや脂肪分の多いものを食べ過ぎる、しゃべりすぎるは止められそうにありません。「体の血のめぐりが悪い」は改善法として上半身を少し上げて寝る、「口呼吸をしている」は改善法としてマスクをしたまま寝るか口に絆創膏を貼って寝るって…ますますできそうにない。
 声帯の手術方法がいくつか紹介されています。声帯を手術すると声の高さを好きなように変えられるんですね(102~110ページ)。手術で声紋を変えて完全犯罪とか…


渡邊雄介 あさ出版 2021年1月30日発行 
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ミレニアム5 復讐の炎を吐く女 上下

2021-03-11 00:36:01 | 小説
 2005年から2007年にかけて話題を巻き起こした3部作を作者の死後別の作者が引き継いだ後の第2作。
 第4巻で命を狙われた少年アウグストを救うためにした行為が罪に問われ、短期間刑事施設に収容されたリスベット・サランデルが、後見人の老弁護士ホルゲル・パルムグレンの面会をきっかけに自らの幼少期のことを思い出して刑事施設のパソコンを乗っ取って調査を始め、国の研究機関による双生児研究の秘密に迫り、他方で刑事施設内で虐待されていたバングラデシュ出身の少女ファリア・カジを助けたことから刑事施設を牛耳っていたボス女囚ベニート・アンデションとイスラム原理主義者に追われるハメになるという展開を見せます。
 女性に対する差別と虐待の告発、国家的陰謀との対峙という前3部作のテーマを、イスラム原理主義者による女性虐待との対決、ナチスばりの優生思想に染まったスウェーデンの学者・研究者たちの独善的な研究の遂行とその隠蔽という設定で書き抜くスタンスは、新作者へのわだかまりを持つ前3部作からの読者にも相当アピールできたものと思われます。
 また、リスベット・サランデルのエピソード0の追求も、前3部作からの読者への訴求力があったと思います。その伴奏にもなるレオとダンの物語が冗長感がありましたけど。
 唐突にミカエル・ブルムクヴィストの「元恋人」として登場するマーリン・フルーデのとってつけた的な都合のよさと、それなりの重みを持たせている設定のはずなのにその軽さは、ちょっと違和感を持ちますが、まぁ前3部作からミカエル・ブルムクヴィストも含めて下半身方面の軽さはこの作品の真骨頂とも考えられますので、それはそういうものかと。
 でも、タイトルの起源の雑誌「ミレニアム」は作品の中ではもうどうでもいい位置づけになっていますね。


原題:MILLENNIUM : MANNEN SOM SOKTE SIN SKUGGA
ダヴィド・ラーゲルクランツ 訳:ヘレンハルメ美穂、久山葉子
早川書房 2017年12月25日発行(原書も2017年)
 
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お墓の建て方・祀り方、墓じまいまで

2021-03-10 23:34:08 | 実用書・ビジネス書
 墓地の種類と選び方、墓石の基本と建て方、納骨堂・樹木葬・散骨・手元供養、法要と祀り方、お墓の承継・改葬・墓じまいなどについて説明した本。
 民営墓地を選ぶときは必ず現地に行って確かめる、「重要な内容ほど、こまかい文字で書かれていることもあるので、書類のすみずみまで、しっかりと目を通しておくことがたいせつです」(48ページ)などと説明し、石材店を選ぶのも実際に店に足を運んで確かめることがよい判断につながるでしょう、仕事に自信を持っているか、石材やお墓についての知識は広いかなど、話しているうちに伝わってくることも多いはず、何軒かたずね比較することも重要(84ページ)としてチェックポイントも挙げています(85ページ)。素人/消費者が業者と契約するのには、そういった心がけ/注意が必要なことはそのとおりだと思います。ただ、この本を読んでいると、民間墓地業者と石材店に厳しく、まぁ問題がある業者も多いということでしょうけど、他方において、お寺にはずいぶんと甘くて、自分から気をつかって心付けをするように、相場がわからなければ「皆さんと同じようにさせていただきたいのですが、皆さんはどうなさっていますか」と聞け(43ページ)と書かれています。お寺に睨まれたら大変だ、めんどうだということでしょうけど、強い者には巻かれろ/媚びろと言われているような気がします。
 「永代供養」墓って、一定期間(33回忌までとか)過ぎたら遺骨・遺灰は合祀されてしまうのが大半なんですね。そういうのを「永代」という名前を付けて売るの消費者のミスリーディングを狙ってるとしか思えないんですが。
 あまり突っ込んでいない入門的な本ですが、ふだん気にしないことがいろいろ書かれていてためになりました。


主婦の友社編 主婦の友社 2021年2月20日発行
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101歳。ひとり暮らしの心得

2021-03-05 22:20:29 | エッセイ
 歳をとっても快適に暮らす秘訣や心得を語るエッセイ集。
 2冊の単行本(「100歳になっても!これからもっと幸せなひとり暮らし」2015年10月KADOKAWA、「100歳の100の知恵」2018年4月中央公論新社)を編集したもののためか、ダブりや体裁のバラバラ感があります。
 歳をとることでできなくなることを受け容れ愚痴らない、自分ができないことが増えていくことを知ることでできることの量も一人一人違うのだと理解できる(他人ができないことに寛容になれる…といいね)、体の不具合や病気に対しても好奇心を持つなど、老化を受け容れて前向きに捉えていくこと、無理をしないことが、繰り返し語られていて、当たり前のことではありますが、歳をとって生きていくということはそういうことなのだなぁと納得します。
 もっとも、怠けているとどんどん動けなくなるから少しぐらい無理しても動けとも書かれていますが(130~131ページ)。
 「60代はまだ十分に元気なのですから、これからの自分自身の生き方を考える時期だと今にしても思います」(217ページ)という101歳の方のお言葉を、61歳になった者として、噛みしめておきたいと思いました。


吉沢久子 中公文庫 2019年8月25日発行
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フェルメール最後の真実

2021-03-04 20:06:18 | ノンフィクション
 オランダの風俗画家フェルメールの現存する作品(と推定されているものを含む)37点の解説と、フェルメールの絵を外国に/日本に持ち込ませるためのキーパースンとフェルメールの絵を売りにした展覧会実施のための苦労話を書いた本。
 本の内容としては後者(フェルメール展実現の難しさ)に重点が置かれていて、フェルメールの絵を楽しみたい読者には、一応ひととおりの図版と解説はそろっていますが図版の画質は悪いとまでは言えないものの光沢紙ではないので十分とは言えず、絵の解説も突っ込んだものはないので物足りなさがあるでしょう。
 展覧会を企画実施する側の苦労は大変なんでしょうけれども、現実に行われて「成功」した展覧会は、特に東京のものは見る側からは人が多すぎてよく見えなかったりゆっくり見れないことになります。著者が苦労して実現した2008年のフェルメールを7点も集めた展覧会「フェルメール展 光の天才画家とデルフトの巨匠たち」、私が見たときの感想(こちら)を読み返しましたが…立場の違いは如何ともしがたいところがありますね。


秦新二、成田睦子 文春文庫 2018年10月10日発行
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性からよむ江戸時代 生活の現場から

2021-03-03 19:53:08 | 人文・社会科学系
 江戸時代の庶民の性の営み、不貞、出産と堕胎、売買春と私娼の取締等を文献に現れた事例に基づいて解説した本。
 俳人小林一茶が記した「七番日記」の記述によれば52歳で結婚した一茶がその2年後、54歳の時の妻との交合が9日間で30回(14ページ)って…「夜五交」とか6日続けて「三交」でその次の日も「四交」って…54歳ですよ。それも平均寿命が30歳代だった時代に(まぁ、乳幼児死亡率が高かったことが平均寿命を大幅に下げているので、生き残った人の寿命はそれなりに長くなってたのでしょうけど)。著者は「連日連夜の一茶の交合は、子宝を求めての交合といって間違いない」(15ページ)と判断していますので、「精をとぢてもらさず」(養生訓:151~152ページ)でもない。そして、著者はその一茶の交合をふつうのことと受け止めて流して書いています(嘘だろうとも、驚くべきこととも扱っていません)。ここにあまりこだわるのも何ですが、驚きます…え…世間ではこれがふつう?
 寛政の改革期の米沢藩では人口増加政策のため、村役人が結婚を斡旋し、藩で結婚資金を貸与したり、新婚夫婦に家を作るための建築材料を与え、休耕地や耕作が放棄された土地の所有権を与え、3年間年貢を免除し、貧困者には申し出によりおむつ代として最高金1両(現在の価値は、米価を基準とすると約6万円、大工の賃金を基準とすると約35万円だそうな)の手当を出していたことが紹介されています(54~55ページ)。少子化を嘆く現在の政府よりも力を入れた政策がとられていたのですね。行政サービスは本当に昔よりよくなっているのか、まじめに考えてみる必要がありそうです。


沢山美果子 岩波新書 2020年8月20日発行
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