平安時代末期、八条院暲子内親王のお抱えの「風穴」と呼ばれた異能の徒、空読、石読、虫読の子孫天野照良(テル)、岩瀬香瑠、虹川すず(鈴虫)の3名が、近未来の日本(「東京五輪の景気効果が肩すかしに終わり」…日本が起死回生をかけた観光革命に打って出て、約15年後:145ページ)で、景勝特区に指定されて家屋を純日本風に維持することを指導され、外国文化が排斥される東京の辺境の町藤寺町に現れ、フリー記者の入谷由阿、その娘の中学生里宇、息子の小学生早久らと絡む小説。
ドローンカイトによる空からの監視や手首に付けた「MW」認証による行動管理等、行政による個人の行動監視が進み、伝統文化の維持と海外文化の排斥の圧力が強くなった近未来の日本社会の圧迫感・閉塞感の下で、日本政府に抵抗する地下組織ヌートリアがハッキングや鳥を用いたテロ活動を行うが、主人公となる入谷一家は行政の圧力に反感を持ちつつもヌートリアにも共感できずにマイペースで生きるという構図で、日本で急速に進行している監視社会化、国粋・排外傾向を批判的に描きつつも、それと闘うグループも好意的には描かないという立ち位置の作品です。「風穴」の子孫たちも、超能力があり、地域とは利害を持たない少し引いた第三者的な意識で対応していますが、現代にタイムスリップしたのではなく現代に生まれた子孫なので、文化的な断絶があるわけではなく、まったく違う価値観を提示する存在にはなっていません。その意味で平安時代とつなげる意味は、それほど大きくはないように思えます。
現代日本の、政治・行政に生きぐるしさを覚えつつ、政権交代を積極的に希望していない一般人の意識・感覚を示しているのではありましょうけれど、よそからの超能力者の助力に期待するという方向性を持つというのも、哀しく思えます。

森絵都 朝日新聞出版 2019年7月30日発行
「小説トリッパー」連載
ドローンカイトによる空からの監視や手首に付けた「MW」認証による行動管理等、行政による個人の行動監視が進み、伝統文化の維持と海外文化の排斥の圧力が強くなった近未来の日本社会の圧迫感・閉塞感の下で、日本政府に抵抗する地下組織ヌートリアがハッキングや鳥を用いたテロ活動を行うが、主人公となる入谷一家は行政の圧力に反感を持ちつつもヌートリアにも共感できずにマイペースで生きるという構図で、日本で急速に進行している監視社会化、国粋・排外傾向を批判的に描きつつも、それと闘うグループも好意的には描かないという立ち位置の作品です。「風穴」の子孫たちも、超能力があり、地域とは利害を持たない少し引いた第三者的な意識で対応していますが、現代にタイムスリップしたのではなく現代に生まれた子孫なので、文化的な断絶があるわけではなく、まったく違う価値観を提示する存在にはなっていません。その意味で平安時代とつなげる意味は、それほど大きくはないように思えます。
現代日本の、政治・行政に生きぐるしさを覚えつつ、政権交代を積極的に希望していない一般人の意識・感覚を示しているのではありましょうけれど、よそからの超能力者の助力に期待するという方向性を持つというのも、哀しく思えます。

森絵都 朝日新聞出版 2019年7月30日発行
「小説トリッパー」連載