伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

マスカレード・ゲーム

2023-05-31 23:00:20 | 小説
 人が死んだにもかかわらず加害者の刑が軽く、遺族が納得できない思いを持っている事件の加害者がナイフで刺されて殺害され、しかし遺族には確かなアリバイがあるという事件が3件立て続けに発生し、警視庁捜査1課の係長となっていた新田らは交換殺人を疑う。3遺族の行動確認を続ける中で、3遺族がそろってクリスマス・イブにホテル・コルテシア東京に宿泊予約をしていることを知った警察は、4件目の殺人事件の発生を阻止するため、新田を中心にホテル・コルテシア東京に潜入捜査を開始するが…というサスペンス小説。
 「マスカレード・ホテル」シリーズの第4作または長編第3作。
 警察の利害とホテル側の利害、多数の客等がゆきかう中での警察の焦り、その中で次第に惹かれ合う新田と山岸、終盤に待つ意外な展開…といったこのシリーズのお約束が手堅く書き込まれ、大きな驚きはないものの静かな満足感を与えるできになっていると思います。
 人が死んでいるのに刑が軽すぎるというマスコミが大好きな問題提起も、糾弾一方というところからは少し外したところもあり(もちろん、反対には行きませんが)落ちついた印象を持ちます。「弁護士も無力だと痛感した」(327ページ)は、同感するところと外野席からそんなこと言われたくないという思いが半ばしますが、続けて「結局のところ裁判なんて、罪の重さを賭けた検察と弁護側のゲームに過ぎないと思った」(327~328ページ)などと言われるのは心外です。世間からはそう見られているのであれば、業界として反省すべきことはあるのでしょうけど。


東野圭吾 集英社 2022年4月25日発行
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そういふものにわたしはなりたい

2023-05-30 21:45:32 | 小説
 2年C組の学級委員長の睦月澄香が川で溺れて意識不明となり入院中というシチュエーションで、睦月の強さに憧れる同級生の浅田佳織、浅田にちょっかいかけていじめ続ける学園の人気者の小森真也、派手な化粧をし小森とつるんでかつては睦月と仲が良かったが今では嫌っているB組の安藤知里、安藤と中学からの付き合いで安藤から告白されてお断りし放課後を図書室で過ごし続ける高田純平、そして当の睦月澄香(ただし意識不明になる前)、高田と中学時代からの塾友で睦月と付き合っていた楠山友が過ごす学園生活を、「雨ニモマケズ」のフレーズを冠して綴った短編連作。
 高校2年生の、ありたい自分と自己認識のギャップ、周囲の者への憧憬と反発等が、甘酸っぱいノスタルジーを感じさせます。
 それぞれの人物の章の隙間に「・・・・・・・・・・猫」の段を配して猫から見た説明を入れるのは、「犬がいた季節」(伊吹有喜)にも見られますが、話の展開・つなぎに便利なテクニックに思えます。猫だけじゃ足りなくて「・・・・・・・・・・友」まで使っていますけど。
 奇数ページの左下が黒猫が走るパラパラ漫画になっているのも和みます。


櫻いいよ スターツ出版文庫 2019年10月28日発行

 
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医事法入門[第6版]

2023-05-29 21:26:10 | 実用書・ビジネス書
 医療に関する法律と法律問題について、医事法総論、医療関係者の資格と業務、医療提供体制、診療情報の保護、感染症対策および保健法規、人の出生に関わる諸問題、医学研究と医薬品をめぐる問題、医療事故をめぐる問題、脳死問題と臓器移植、終末期医療、特別な配慮を必要とする患者(未成年者、高齢者、精神疾患を有する患者等)、グローバリゼーションと医事法(医療ツーリズム等)の12章に分けて解説した本。
 医療に関する幅広い領域の法律問題をコンパクトに頭に入れられる便利な本だと思いますが、特に前半ではさまざまな法律、指針等について、用語等の定義と規定している項目を羅列しているところが少なくなく、それはそれでその法律が何について規定しているかを把握できるとは言えますが、無味乾燥な記述が続き読んでいて眠くなり読破するのは辛いところです。
 弁護士の立場からは、私は医療事件は基本的にやっていません(同僚が医療過誤事件の専門家なので、相談が来たら横流ししてお任せしているので…)が、医療事故(医療過誤)、脳死・臓器移植、延命措置と安楽死・尊厳死問題などが続く後半が興味深く読めました。


手嶋豊 有斐閣アルマ 2022年12月20日発行(初版は2005年6月20日)
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ゴッホの犬と耳とひまわり

2023-05-28 18:14:25 | 小説
 大学時代に薫陶を受けた文化人類学者の河島から、パリのデパートが販促用に作成して配布した1888年版のダイアリーと広告ページからなる Vincent van Gogh という署名のある家計簿にぎっしりと手書きでなされた書き込みの翻訳を依頼された小椋弥也が、河島から送られてくる大部の「送り状」の解説を読みつつ、その家計簿の出自を調査し、真相を追うというミステリー仕立ての小説。
 当初は、なされている書き込みを翻訳しながら時代の背景や書き込み者の状況を推理判断していくものと思いながら読みましたが、いつまで経ってもそちらには行かず、その点が予想外でした。
 長々しく続く河島の語りでゴッホに関する蘊蓄、当時の時代背景、美術や製本等に関する技術が語られ、そこが楽しめるかが、この作品をどう評価するかの大きなポイントになると思います。
 登場する関係者が、出てくる端から実は小椋や河島の親族・知人とわかっていくという展開が、とても異様というか都合良すぎという印象を持ちます。最終的にはそれもある種の必然かと思えるようになりますけれど。


長野まゆみ 講談社 2022年11月22日発行
「群像」連載
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大人の教養 博識雑学2000

2023-05-27 19:04:15 | 趣味の本・暇つぶし本
 雑学のネタ2000個(たぶん。数えていません)をライフ編、ことば編、文化・習慣編、生き物編、地球・宇宙編、地理編、人体編、スポーツ編、歴史編、ワールド編、食べ物編、モノ・企業編、芸術・娯楽編の13テーマに分けて書き並べた本。
 宝くじで1等が当たる確率は(2021年の年末ジャンボで)2000万分の1、隕石で死ぬ確率160万分の1より小さい(9~10ページ)のだとか。そう言われてみると哀しいですね。その例えを聞くと、昔、まだスリーマイル島(TMI)原発事故が起こる前に、アメリカの原発100基で炉心溶融事故が起こる確率はヤンキースタジアムに隕石が落ちる確率と同程度などと宣伝されていた(ラスムッセン報告)ことを思い出し、そういう物言い、計算がどの程度信用性があるのかには疑問を感じますけれども。
 人間もチンパンジーもゾウも、体重が3キロ以上ある哺乳類なら排尿にかかる時間は同じ約21秒だって(279ページ)。本当か?年をとって排尿にやたら時間がかかる自分を省みて(改めて測ってみたら、60秒前後かかってる)、そうするともう哺乳類の枠に入らないのかと考え込んでしまいます。
 匿名のどういう人たちなのかわからない著者グループの執筆で、地震の説明に際して「マグニチュードが1増えるとエネルギーは1.6倍」(345~346ページ)なんて書いている(マグニチュードが1増えると地震のエネルギーは32倍というのは、もう常識だと思うんですが)のをみると、自分が知らない話をどこまで信じていいのか、不安になるのですが…


雑学総研 株式会社KADOKAWA 2022年7月15日発行

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魂の痕

2023-05-24 23:12:16 | 小説
 日本支配下の済州島で日本軍と朝鮮総督府にすり寄って私腹を肥やそうとする地主の家に嫁いだ李春玉が、姑にこき使われ、10歳の夫と姑に疎まれ、婚家を出て大阪に渡り、踏みつけられながら生き抜いて行く姿を描いた小説。
 日本人たちに土地を奪われ、生きる術を奪われて、それでありながら生活のために日本に渡らざるを得なかった済州島の人々の姿を描くことは、在日韓国・朝鮮人2世である作者のルーツを示すものと考えられます。抑圧と屈従、暴力と被虐の描写が続くこの作品を読み続けるのは、正直、辛く憂鬱でしたが、作者のこの問題にかける気持ちを思うと投げ出せないというところで読み切れたという感じです。
 非道な日本人にも増して、同胞を裏切った韓国人たち、そして韓国人の中での男性の女性に対する差別と暴力への告発が中心的なテーマになっているように思えます。
 巻末に、「本書は『本の時間』(毎日新聞社)2010年7月号から2013年3月号に掲載された『魂の流れゆく果て』(未完)を全面改稿のうえ、加筆したものです。」と記載されています。1990年代から2000年代にかけて多数の作品を生み出した作者は、2012年以降この作品を除いて出版がなく、この作品の後、今のところ出版がないようです。この作品がいったん未完のままに打ち切られた事情、その後7年を経て改稿して出版された事情は、私にはわかりませんが、作者の苦しみとこの作品の重みを示しているのだろうと思います。


梁石日 河出書房新社 2020年1月30日発行
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いつか君が運命の人 THE CHAINSTORIES

2023-05-23 22:21:58 | 小説
 横須賀の高校に通う高2の安藤花耶が恋人になった膝を痛めたバスケットボール選手市村征一から16歳の誕生日プレゼントにもらったイミテーションダイヤの指輪が、「運命の人」を結ぶ赤い糸が見える指輪になり、横須賀の海辺の公園で高校生加藤雅に拾われ、小田原の定食屋「くま屋」の経営者熊谷繁子を経て、両親の離婚に伴い小田原から仙台に引っ越した中3の佐伯かんなの手に渡り、どういうわけだか飯田橋駅付近の予備校の教室で29歳の事務職員中谷由希子に拾われ、どういう事情でか東京の井原山食品の営業社員湯川肇の手に渡って湯川の転勤先の神戸で知り合った柳未音に渡され、柳未音の母柳未来世の入所していた茨城の介護施設で入所者の孫の高校生楽野李花に拾われて、第2志望の横須賀の福祉大学に入学した楽野李花が横須賀に…という経緯で、その指輪を手にした者たちの「運命の人」との出会いを綴った短編連作。
 最初の話からさまざまな地域と性格の人を経て最後に横須賀に戻して帳尻を合わせていますが、指輪で全体を結ぶというコンセプトにしては、途中で指輪の引継の設定がいい加減になっているのが雑な印象を与えます(仙台から東京に移動した経緯がなくて、湯川が入手した事情はまったく触れられもしていませんし)。
 もし指輪の力で小指を結ぶ赤い糸が見えたとして、それが運命の人だと考えて結ばれよう、一緒になろうと思うものでしょうか。それじゃあまるで統一教会の合同結婚式みたいなものじゃないか、と思ってしまう私はひねくれ者でしょうか。
 「ずんだシェイクの味に感動した」「ここの味を知れただけでも仙台に引っ越して来た甲斐がある」(113ページ)という作者の猛烈なお薦めに、今度仙台に行ったら飲んでみようと決意してしまいました。ヨレヨレスーツの国語教師も一度飲んだらハマっちゃった(118ページ)のだそうですし。


宇山佳佑 集英社 2023年3月30日発行
「小説すばる」連載

 
コメント (2)
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「まさかのときに備える」知っておきたい遺族年金

2023-05-22 23:41:04 | 実用書・ビジネス書
 国民年金や厚生年金加入者が死亡した場合に遺族が受ける遺族年金の受給条件と受給額の基準等について解説した本。
 年金等に関する法律はとてもわかりにくくできていて読む気になれないのですが、ケーズごとに区分けしてわかりやすく説明されても、スッキリとは頭に入らず、全体像をきちんと整理して頭に残すことはできそうにありません。実際に問題になる際に該当部分を読み直さないと、正しくはわからないんだろうなと、改めて思いました。
 全体的な印象は、毎月相当な額を支払わされても、それで自分が死んだときに遺族が遺族年金をもらえる場合は決して多くはなく、また生活に十分な額がもらえることはほとんど期待できないなぁ(やっぱり国ってけちくさいよな)というところです。医療保険(国民健康保険、健康保険)よりはましなんでしょうけど…
 わかりにくいとはいえ、受給条件とか受給額の基準はさまざまなケースで共通部分が多く(でも一部違っていたりするのが落とし穴になり得るわけですが)、ケース分けしての記載はどうしても同じ説明の繰り返しが多くなり、通し読みはけっこう辛いものがあります。実質的には、自分が当てはまるケース部分を拾い読みする本ということになりそうです。


脇美由紀 ビジネス教育出版社 2023年2月7日発行
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心をととのえるスヌーピー 悩みが消えていく禅の言葉

2023-05-21 19:21:17 | エッセイ
 PEANUTS(チャールズ・M・シュルツ作、谷川俊太郎訳)の漫画に禅語と解説をつけた本。
 PEANUTSを素材に禅宗の考え方を学ぶ(としても、体系的な解説ではなく、エッセイ風に)本というべきなのか、禅宗風のコメントをつけたPEANUTSを読む本というべきか、迷います。つけられている解説は、漫画とフィットしているものもあり、こじつけっぽく感じられるものもあります。
 PEANUTS自体がもともと哲学的な漫画なのですが、ピタリと合っていなくてもそれらしい説明に合わせて読むと、単独で読むよりも「深い」と考えさせられます。その意味で、PEANUTSをより楽しめる本と受け止めた方がいいかなと思います。
 私は、どちらかといえばライナス派だったのですが、今回これを読んでいるとペパーミント・パティとマーシーの関係が微笑ましく感じられました。マーシーが女性のペパーミント・パティを1970年頃すでに「SIR」と呼んでいる(125ページ)のも、それを「先輩」と訳しているのも、ちょっとうなりました。


枡野俊明監修 光文社 2021年9月30日発行
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実戦民事訴訟の実務(第6版)

2023-05-20 23:25:49 | 実用書・ビジネス書
 裁判官経験20年、弁護士経験25年余の著者による民事裁判の実務についての解説書。
 民事裁判の制度と実情、実務の運用に関する事実認識と説明はほぼ私の認識するところと同じ(その事実をどう評価するか、それで自分はどう行動するかの部分は必ずしも意見が一致しないところがありますが)で、民事裁判の実務を知るために非常に有益な本だと思います。私が自分のサイトを開設・運営しているのも、民事裁判の実務を一般の人によく理解してもらいたいと考えたから(もちろん、自己PRの目的もありますけど)ですが、この本もそういう趣旨で書かれ、その目的に沿うものと考えられます。
 弁護士が書いたものとしては、かみ砕いて書いてあり、比較的読みやすいと思うのですが、最大の難点は600ページを超える「大著」のため、この本を読んでもらいたい一般人や新人弁護士が読み通せるか、にあります。意を尽くしたいという気持ちからでしょうけれども、同じことを言葉を変えて続けて繰り返しているところが多くあり、大事なことだからだと思いますが、同じことが別のところで何度も繰り返されていて、最初のうちはスルスル読めたのですが、次第に「くどい」という印象を持ってしまいます。
 タイトルが「実践」ではなくて、「実戦」というのも、著者の戦闘意識を示しているのでしょう。訴訟の目的が真実の発見とか適正な裁判の実現というのはきれいごとで、多くの人(依頼者)にとっては自分に有利な真実の発見、自分に有利な裁判の取得が目的ということが繰り返し述べられている(3ページ等)あたりにも著者の思いというか、決意が感じられます。こういうのを読んで、そうだそうだと思ってやってくる依頼者を相手にする(事件を引き受ける)のは、なかなかたいへんだろうなと…
 法廷での裁判官の言動に不満・失望を抱くことが少なくないという説明で「当事者双方の主張・立証活動を真摯に検討していない者、当事者の一方に偏見を抱いているとしか考えられない者、自由心証主義を振りかざす者、極めて非常識な訴訟活動を放任し、法廷をサーカス場にしている者、法廷をジャングルにしている者、居丈高な言動を繰り返す者、怒鳴る者、関係法律を理解していない者、社会常識、社会通念を無視する者、自分の経歴を明言し、振りかざし、当事者の主張を制限しようとする者、科学・技術が密接に関係する訴訟でこれらの知見を無視し、あるいは無知な者、判決は書き方次第でどちらでも書けるなどと広言する者、根拠のない和解を強いる者、法廷のとっさの出来事に適切に対応できず、戸惑うだけの者などの諸相がみられるのである」と書いています(25ページ:ふつうは、問題例を論うとしてもせいぜい3例とか5例くらいまでだと思うのですが、これだけ書かないと気が済まないというのがこの本の特徴で、こういう説明で分厚くなっているという面があります)。裁判官経験者が、ここまで裁判官を詰り、読者に裁判官への不信感を煽るというのは、私には驚きでした。裁判官だけでなく、夏以外でもジャケット、ネクタイを着用しないと「だらしない服装で入廷する実務家」と非難される(226ページ)ので、私も反省しないといけないかなと思いますが…


升田純 民事法研究会 2023年3月19日発行(初版は1997年7月)
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