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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ゴミ収集の知られざる世界

2025-03-07 00:41:38 | ノンフィクション
 ゴミの収集・運搬、中間処理、最終処分の実情等について説明した本。
 自らゴミ収集等の作業に従事し、清掃労働者の過重労働や危険、通行人の反応とそれに対する清掃労働者の対応と心情を自らあるいは身近に感じながらレポートする姿勢は、労働者側の弁護士の私の目からは好感します。
 ただ、そういった立場で清掃労働者と接している著者が、ゴミをきちんと分別せず、さらには飲み残しやタバコの吸い殻などを入れたペットボトルなどを投棄するような不心得な一般人や差別的言動を行う者に怒りを持つのは理解できますが、そのような一般人を悪者にして、(清掃労働者への理解を求め、また敬意を表することはいいのですが)自治体や中間処理事業者などの関係事業者を礼賛するばかりでいいのか、事業者の実態や産業廃棄物処理施設や処分場に問題はないのかという疑問も、私には残りました。著者としては、まずもって一般人が自覚してもらうことが先、それだけでもかなりよくなるという意識と、取材先を悪く書けない/書きたくないという事情があるのかも知れませんが。


藤井誠一郎 ちくま新書 2024年10月10日発行
東洋経済オンライン連載
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妊娠したら、さようなら 女性差別大国ニッポンで苦しむ技能実習生たち

2025-03-05 22:41:27 | ノンフィクション
 技能実習生、留学生等として日本に在留するベトナム人女性が妊娠すると切り捨てられ帰国を強いられるなどして、著者が代表を務めるNPO法人に支援を求めてきた事例を通じて、技能実習生らの置かれた状況、低賃金労働者として利用する企業の身勝手さと無知などを報じた本。
 技能実習生が妊娠を伝えるとすぐに契約打ち切りを決めた受け入れ企業が、地域合同労組として団体交渉を申し入れるや退職強要などなかったとして産休は当然の権利だなどと言いだした(70~81ページ)とか、シングルマザーとなる留学生が児童扶養手当の申請をすると市役所が児童相談所に通報して児童相談所が母親から乳児を取り上げて「保護」した挙げ句、父親に認知を求める調停を起こしている間に入管に通報して強制帰国させようとした(86~98ページ)など、企業や行政の横暴ぶりに憤慨し、心が痛みます。
 また、技能実習生らが来日までに多額の借金を抱え、郷里の親族らが仕送りに依存しているなどで、技能実習生らの選択が縛られていることも哀しいところです。
 著者が経験した事例の紹介で、個別性が強いものではありますが、技能実習生らの苦境と日本社会・企業・行政の実態を垣間見させてくれます。


吉水慈豊 集英社インターナショナル 2024年10月9日発行
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家で死ぬということ ひとり暮らしの親を看取るまで

2025-02-09 00:11:17 | ノンフィクション
 一人で大丈夫といって、入院も透析も拒み在宅医療と在宅死を希望する80代の慢性腎臓疾患の父親を伊豆の実家に通いながら介護・看取りをした経験を綴ったノンフィクション。
 慢性腎臓疾患で、次第に腎機能が落ちて行き、さまざまなことができなくなって行く父親の姿は、身につまされます。
 腎臓の数値が悪化し大腿骨骨折で入院中で要支援2、88歳で重度の貧血で倒れて救急搬送されるような状態で「非該当」となって介護保険打ち切り、死んでから要介護3の認定が降りたという経過は、本人の意地っ張りとか主治医や周りの不手際もあるとはいえ、今の日本の社会福祉の貧困を如実に感じさせます。
 訪問看護師、訪問医、ヘルパーの人柄や心遣い、プロ意識に著者も感心し、読んでいて勇気づけられる面がありますが、そういった個人の献身でなりたつ現状は、やはりもろく先行きに不安を持たせます。


石川結貴 文藝春秋 2023年8月30日発行
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透析を止めた日

2025-01-14 23:36:58 | ノンフィクション
 腎機能が著しく低下し、透析クリニックで透析を受けている患者が体調の悪化等で通院ができなくなった後、透析を止めれば数週間も持たないが、癌と重症心不全以外には緩和ケアの保険適用がない日本でどうすればいいのか、その出口のなさを、夫の看取りの経験とその後の取材で描いた本。
 父親が透析を受け続けていた身には、いろいろと沁みる本でした。
 終末期以前に、現在日本で約35万人が受けている透析自体の過酷さを、畳針のような太い針を腕に深々と差し込み不自然な激しい血流で血液を回すことによる体への負担、その状態で寝返りも打てずに過ごす4時間、自分で真似てみたがただ4時間同じ姿勢を保つのは無理だったというノンフィクションライターらしい観察(25~28ページ)が秀逸です。離れて暮らしていたし一度も透析に立ち会わなかった私には想像力が及びませんでした。
 「多くの透析クリニックは元気に通ってこられる患者、少なくとも座位を保つことができる患者を前提としている。トラブルが起きた患者は、提携する大病院に送ってしまえばいいのだ」(129ページ)、「そこから先はもう“永遠の入院透析”しか選択肢がない」(280ページ)という実情は、私も2023年1月に父親が透析を受けていたクリニックに呼び出されて、もううちでは対応できないから入院させるかあるいはもう覚悟をするようにと通告され、経験しました。
 前半の闘病記録の生々しい迫力に対し、透析治療の現状等を語る後半は、抑えた記述を心がけているということかも知れませんが、現状批判はやや遠慮がちに思え、他方で解決をほぼ腹膜透析(自宅で可能な透析)への期待に一元化していることに、それでいいのかなぁという思いを持ちました。
 2023年1月に透析クリニックで説明を受けた際には、腹膜透析は、家族側で説明を聞いてやれそうに思えませんでした。それが医者側でも認識が深まっていない、患者家族側の偏見だということなのでしょうけれども。


堀川惠子 講談社 2024年11月20日発行
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フジコ・ヘミング 魂のピアニスト

2024-12-31 23:27:02 | ノンフィクション
 遅咲きのピアニスト、フジコ・ヘミングの自伝。
 文庫版刊行に寄せての冒頭に「1999年2月、TVのドキュメント番組で一夜で人気の出た私」とあるようにNHKの番組で注目を浴びたことをきっかけにブレイクした著者ですが、この本の中では「わたし自身のことやわたしの演奏が、NHKで取り上げられ、放映されたことの大きかった」(200ページ)とあるだけで、その内容も経緯も記されていません。その他の著者の人生での節目となる大きなできごとも、時期を示して時系列で整理して具体的に述べるところが少なく、著者の人生の事実を知るというよりも、著者の信条や心情を知るという風情の本です。その点で、自伝ではありますが、むしろエッセイ的な読み味の本だと思います。
 お金がなくなって砂糖水だけで過ごした(66ページ)、ドイツだろうと、どこだろうと、国籍を問わず、どこにでも意地悪をする人間はいて、外国人だと見ればすぐに苛める、本当にどこにでもいる(68ページ)、後年、わたしは数え切れないぐらい何人もの音楽家に会ってきたが、世間一般がいうところの、表の名声とは違って、人間としてあまり尊敬できない音楽家がずいぶん多いように思う(97ページ)など、苦労が偲ばれる記述とそれと闘って勝利し溜飲を下げる記述の対比が印象的です。


フジコ・ヘミング 新潮文庫 2008年11月1日発行(単行本は2000年5月、求龍堂)
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アメリカ合衆国連邦最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグの「悪名高き」生涯

2024-12-17 23:09:13 | ノンフィクション
 1993年にクリントン大統領に女性として史上2人目のアメリカ合衆国連邦最高裁判事に任命され2020年に病死するまでその職にあり、弁護士時代から性差別撤廃のために闘い続けたルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)の2015年までの半生を紹介した本。
 2010年代前半、保守派が多数を占めた最高裁でリベラル派の最古参となって反対意見を書かざるを得なくなったギンズバーグがフェミニストや若者のアイコンとして人気を博していったことを背景に書かれた本なので、RBGのさまざまな面を読みやすく紹介することに力点が置かれています。
 弁護士の目からは、最高裁でのRBGの活動などは、「RBGの反対意見まとめ」(226~232ページ)みたいなキャッチコピーやワンフレーズ斬りではなく、より事案・背景とRBGの意見の狙いや工夫もちゃんと紹介して欲しかったなと思います。この本が繰り返し、RBGが冷静に実務的に緻密に論を重ねていったこと、少しずつの着実な勝利を目指していたことを述べていることからしても、その着実さ緻密さがより読み込み実感できる方が説得力があったと思います。まぁ、そうすると業界外の人に読みにくくなるのでしょうけど。


原題:NOTORIOUS RBG : The Life and Times of Ruth Bader Ginsburg
イリーン・カーモン、シャナ・クニズニク 訳:柴田さとみ
光文社 2024年9月30日発行(原書は2015年)
 
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検証 政治とカネ

2024-12-09 21:24:31 | ノンフィクション
 政治資金規正法違反や自民党の裏金問題の告発を続けて来た政治資金オンブズマン代表で憲法学者の著者が、政治資金規正法のしくみと問題点、政治家の資金集めと報告書記載を逃れる手口、報告書の入手やチェック方法と政治資金規正法違反の見つけ方などを解説した本。
 細川内閣の下での「政治改革」では、企業献金禁止を目指すことをいってその代わりに税金から数百億円もの政党助成金を交付することとし、小選挙区制を導入したのですが、政党への企業献金は禁止されず企業が政治家のパーティー券を買うことも禁止されず実質は企業献金がフリーパスのままである上に政党は多額の政党助成金を得られてまさに盗人に追銭だし、小選挙区制と多額の政党助成金が政党を通して議員(建前は「政党支部」)に配られることで自民党の総裁への権力集中が進んだと説明されています。まったくそのとおりだと思います。不祥事がある度に再発防止対策と称して実質的に規制が緩められて行く火事場の焼け太りは、原発でも繰り返されてきました。懲りない面々への監視と追及はとても重要で、続けている人には頭が下がります。


上脇博之 岩波新書 2024年7月19日発行
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獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日

2024-11-18 23:51:34 | ノンフィクション
 公職選挙法違反(買収)で懲役3年の実刑判決を受けて服役した元法務大臣の著者による獄中日記。
 法務大臣経験者の獄中日記ということなので、体験した刑務所・拘置所の処遇の実情と、霞ヶ関で上から見ていた/聞いていたこととのギャップが語られるのかと期待して読みました。そういう記載がまったくないというわけではないのですが、この本の半分くらいは事件についての言いわけと妻案里の無実の主張、検察批判、マスコミ批判、そして安倍晋三への追従・礼賛です。刑務所の処遇についても、刑務官には苦労を労い感謝することが中心でいわば優等生的な文章に満ちています。
 処遇関係では、「思い起こせば、喜連川に移ってから、受刑者の処遇改善について先輩や同僚の国会議員にずいぶん助けていただいた」(236ページ)と、まぁ国会議員が官庁に注文をつけるのはいつもの仕事で、それで刑務所の処遇が本当に改善されるのならそれはいいことと思えますが、ここで出てきているのは元法務大臣、国会議員が収監されているからということで圧力がかけられ特別扱いされたということに見えます。仮釈放前の2週間、ふつうは同衆と共同生活をするのにいざこざが起こりがちということで特別に1人で過ごすことになった(273~274ページ)など特別扱いされていたわけですし。そのことへの疑問は何ら語られません。
 元法務大臣の獄中日記としてよりも、今後の復活・政治生活のために書かれた政治家本として読んだ方がいいかと思います。


河井克行 飛鳥新社 2024年6月30日発行
月刊「Hanada」連載
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在野と独学の近代 ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで

2024-11-10 22:41:56 | ノンフィクション
 独学在野の生物学者・民俗学者南方熊楠がイギリス時代に大英博物館図書館部のリーディング・ルームや(そこを追放された後は)サウスケンジントン博物館や大英自然史博物館で筆写を続け、雑誌投稿を通じて多くの在野の者と情報交換して研究をし発表していたというスタイルを紹介し、官民の格差と区別が際立つ日本との違いやその中で官と民の間でうまく立ち回って成功した例として牧野富太郎、柳田国男らの研究を紹介した本。
 著者の関心は、基本的に南方熊楠で、ダーウィンとかマルクスは出てくるけど、このサブタイトルはどうかなという気がします。南方熊楠と仲間たちとかの方がフィットするかも(仲間ばかりではないか)。
 超能力研究者の福来友吉も紹介されるなど、「わたしは研究や勉強や独学がつねに正しくて清廉潔白なものであるべきだとは思わないし、さまざまな目的や欲望をもったひとたちが集まるからこそ、学問は発展していくのだと考えている。そもそも学問に正しさばかり求めていたら、熊楠研究などできない」(196~197ページ)というあたりに著者の思いというか真骨頂が表れている本だと思います。


志村真幸 中公新書 2024年9月25日発行


 
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イスラエル、ウクライナ、アフガン戦地ルポ 憲法9条の国から平和と和解への道を探る

2024-10-06 21:18:01 | ノンフィクション
 ハマスからの攻撃への報復ないし自衛を主張してヨルダン川西岸とガザ地区で、イスラエル人被害者よりも遙に多数のパレスチナ人を虐殺し続けるイスラエル軍/政府の攻撃とパレスチナ人への虐待が続くエルサレムとヨルダン川西岸地区、ロシア軍の民家や多数の民衆が集まる場所への攻撃とウクライナ軍の反撃が続いているウクライナ、中村哲の用水路事業とその後10年を経たジャララバードを訪問して現地の様子を報じたルポ。
 イスラエル訪問が2024年3月、ウクライナは2023年5月と10月、アフガンは2022年8月までなので、その後事情が変わっているところはありますが、それでも近年のそこで生活する人々の様子が書かれているのに興味を惹かれます。
 イスラエル兵の蛮行とともに「虐殺をやめろ」というプラカードを持つユダヤ人の姿を紹介し(表紙の写真にも使用)、中村哲の事業と姿に焦点を当てる著者のスタンスは、紛争当事国と軍事同盟になく(NATO加盟国でない)平和憲法を持ち他国と戦争をしないことを国是とする日本の政府が紛争解決に取り組めばいいのにというものです。ラストワードの「これからは岸田文雄(あるいは新しい総裁)ではなく、中村哲の時代だ」が印象的です。


西谷文和 かもがわ出版 2024年8月15日発行
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