伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

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獣の奏者 Ⅰ闘蛇編 Ⅱ王獣編

2007-09-30 20:44:10 | 物語・ファンタジー・SF
 捕獲されて戦闘用に飼育された龍のような大蛇「闘蛇」と翼のある巨獣「王獣」、闘蛇を兵器として用いる大公と王獣に守られた伝説を持つ女系の真王、闘蛇・王獣を操る術を持ちつつ昔そのために破局的な戦争が起きたことから術を封印して秘匿し放浪する霧の民。その駆け引きと陰謀の中、そのような事情を知らずに闘蛇の世話係だった母が闘蛇が死んだことの責めを負わされて処刑されて孤児となって蜂飼いに拾われて放浪するうちに野生の王獣を見て惹かれ蜂飼いが王都に戻ることになって王獣保護場に住み込み王獣の世話をすることになり、傷ついた王獣の世話をするうちに王獣と意思疎通ができるようになった少女エリンが、王獣を守りたいという気持ちと、王獣とそして王獣を操ることができるエリンを利用したい者たちの思惑に挟まれ翻弄されながら自分の思いを貫こうとするというようなストーリーの物語。
 前半は、どちらかというと動物園の飼育係奮闘記みたいな感じで楽しく読めますが、後半はエリンが政争に巻き込まれていく上に、特に終盤でエリンがエリンを連行しようとした男たちに逆上した王獣がその男の1人を襲いそれをかばったエリンの左手が王獣に噛み砕かれて以降はエリンも王獣と距離を置き王獣が嫌がる音無笛を吹かざるを得なくなって、読んでいて暗くなりちょっとつらい。
 エンディングあたりまで、エリンのいざとなったら自分がすべてを背負い込んで死ねばいいという悲壮感というかやや投げやりともいえる思いが引きずられ、ラストに少し変化があるとはいえ、なんか切ない読後感でした。


上橋菜穂子 講談社 2006年11月21日発行
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猫鳴り

2007-09-29 19:11:14 | 小説
 オレンジの縞の大きな牡猫モンとその周りの人々を描いた小説。
 第1部と第2部は中年女性と少年がそれぞれに幼児や小動物にいらだちからの憎悪・殺意を抱き、あれこれ自分に言い訳しながらも猫を執念深く何度も捨てに行ったり幼児への暴行を繰り返し殺害を計画したりするが無抵抗な子猫との接触を持つうちに少し人間らしさを取り戻すというストーリー。
 それに対して第3部は、それから年月がたち老猫となったモンが飼い主の老人とつきあいながら老いを深め大往生していく話で、ある種老いと死のあり方を問いかけ模索するというテーマ。
 3つの話を通じて登場するモンと第1部・第3部で登場する飼い主の男性は共通するものの、テーマや雰囲気は第1部・第2部と第3部で明らかに断絶していて、月刊誌掲載時はそれでよかったのかも知れませんが、1つの話として読まされるとちょっと違和感がありました。別の話として、私は第3部の方向でそこに向けて前半を作った方がよかったと思いました。第1部・第2部の主人公の幼児や小動物への憎悪ぶりがおぞましくて嫌悪感を持ったためではありますが。


沼田まほかる 双葉社 2007年8月25日発行
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やってられない月曜日

2007-09-28 08:16:04 | 小説
 大手出版社にコネ入社した経理部勤めの背が高く髪の毛が硬い150分の1サイズのドールハウス模型作りを趣味とするOLの会社勤め・人間関係を描いた小説。
 同じくコネ入社で同人誌作りを趣味とする同僚とのコミカルな愚痴り合いを軸に会社勤めにありそうななさそうな事件を絡めた読み切り連載6回分。
 ひがんだり愚痴ったりしながらも頭の中ではちょっと引いて自分の境遇がむしろ恵まれていることも認識している主人公は、ドタバタしながらも(社内の身の処し方は)危なげなく、ある種安心して見ていられます。
 社会人のちょっとした息抜きにフッと力を抜けるような軽い娯楽読み物だと思います。


柴田よしき 新潮社 2007年8月20日発行
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裁判員制度の正体

2007-09-27 08:58:03 | 人文・社会科学系
 タイトルからイメージされる通り裁判員制度への批判を展開した本。
 裁判員制度に多くの問題点があることの指摘は、おおかたその通りと思いますが、元裁判官の著者の論旨は、職業裁判官に任せておけばいい、現行の刑事裁判制度はうまくいっている、新しい制度を無理に導入する必要などなかったというもの(一番最後に「私もいまのままでよいと言っているのではもちろんありません」(226頁)と書いてはいますがいかにも「アリバイ的」付け足し)でそれには違和感を持ちます。被告人が裁判員制度を辞退できないのは問題、くじ引きで選ばれた人に被告人や被害者の運命を任せていいのか、手続の更新でそれまでの証言を聞いていない人が判決をするのは問題としていてそれ自体はわかりますが、現在の制度でも被告人は職業裁判官による裁判を辞退できないし裁判官の忌避も現実にはできないし、裁判官にも当たりはずれがあるし、裁判官の転勤で更新手続をして証言を聞いていない裁判官が判決することは珍しくもないわけで、裁判員制度を批判するあまりに現行制度を美化しすぎるきらいがあります。国民に過度の負担を課する(時間拘束+罰則)とか、拘束時間を減らすために手抜き審理が横行するおそれがあるとか、弁護体制に不安があるとかはその通りと思いますが。
 第9章で裁判員を免れるための方策がまとめられていて、ここが一番面白いかも。裁判員選任手続で「あの凶悪な顔付きから見てまちがいなくあいつが犯人だと思う」「起訴された以上、被告人は何かやったに相違ない。何もやっていないのなら起訴されるはずがない」「これまでの冤罪の歴史から見て、検察官などは所詮国家権力の手先だから到底信用できない。今回もたぶん冤罪だろう」と言う(210~211頁)とか、裁判員候補者名簿に登載されたという通知が来たら翌年は逮捕の報道がある度に被疑者を告発する(213~215頁)とか、それでも選任されてしまったら初日に飲酒酩酊して出席する(217~218頁)とか、そりゃまあ確実に外してくれるでしょうけど。でも、それをやる人が増えて裁判所がそれでも外さなくなったら、それこそ怖いですね。


西野喜一 講談社現代新書 2007年8月20日発行
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復活のヴェヌス ヴェヌスの秘録4

2007-09-26 20:34:01 | 物語・ファンタジー・SF
 水没した中世のヴェヌスを模擬して海中のドーム内に再建されたコンピュータが管理する近未来の都市ヴェヌスを舞台に、招待された客たちとDNAから復活させられた18世紀初頭の音楽家デル・ネーロ(1巻の登場人物)とローマ時代の女剣闘士ユーラが繰り広げる物語。
 人間の創造という神の領域に手を付けた人間たちに潜入した天使が実行する絶滅戦の地獄の光景といった終盤は、かなり宗教色が強くて、ちょっと勘弁して欲しい感じでした。しかし、同時に破壊されたのはドーム内のヴェヌスだけで、人間世界は、予定通り無事というあたり、バベルの塔やソドムの物語とは違うシニカルさというか冷静さを感じさせています。
 ヴェヌスの秘録シリーズと銘打たれていますが、この最終巻で1巻の登場人物をリンクさせた以外は、共通点は舞台が水上都市ヴェヌスということと魔術ないしは宗教的な色彩が強く感じられることくらいでした。


原題:Venus Preserved : The secret books of Venus ; book4
タニス・リー 訳:柿沼瑛子
産業編集センター 2007年6月30日発行 (原書は2003年)


1巻については2007年6月11日の記事で紹介
2巻については2007年7月6日の記事で紹介
3巻については2007年8月27日の記事で紹介
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地図で読む世界情勢 第2部 これから世界はどうなるか

2007-09-25 09:45:52 | 人文・社会科学系
 地図を示しながら世界情勢を解説する最近はやりのスタイルのムック本。
 フランスの衛星TV局の連続番組が元になっているということで、ヨーロッパサイドの視点がちょっと新鮮。戦争と環境についての現状と今後を語っていますが、地域的にはややアフリカに関心が集まる感じで、解説もアメリカと少し距離を置いた目線です。
 北朝鮮やイランの核開発を米軍に囲まれた地図とリンクさせ(28~29頁)、イランがついに核計画を推進することにしたのはおそらくアフガニスタンやイラクでのアメリカ軍の展開を見て領土をアメリカに侵略されないよう「聖域化」するためと思われると解説したり、イランは核をカードにしてアメリカ政府と接近するしか生き残る道はないのではと解説する(29頁)姿勢は、アメリカサイド一辺倒の日本のメディアでは聞けないコメントでしょう。メディアのテロ事件の報道やテロリストへの定期取材がテロリストの目的達成に貢献している(24~25頁)という指摘も。インティファーダについて「一連の暴力事件」と注釈している(23頁)のはちょっと姿勢に疑問を感じましたけどね。
 ふだん関心が及ばないコートジボワールの内戦(40~43頁)や赤道ギニアのウミガメか石油かの問題(94~97頁)、海洋の重油汚染の原因としてタンカーのバラスト水(空荷のときの重し代わりに積載する海水)の投棄が重大という指摘(78、80、81頁)、地球温暖化で脚光を浴びつつある北西航路(ヨーロッパ-アジア間の北極海ルート:スエズ運河経由より約6000km短縮 98~103頁)とか勉強になりました。


原題:LE DESSOUS DES CARTES , ATLAS GEOPOLITIQUE
ジャン-クリストフ・ヴィクトル、ヴィルジニー・レッソン、フランク・テタール、フレデリック・レルヌー 訳:鳥取絹子
草思社 2007年8月23日発行 (原書は2006年)
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もっと知りたい 雪村

2007-09-24 10:50:44 | 人文・社会科学系
 室町・戦国時代の水墨画家雪村の解説付き画集。
 雪村は時代と名前から雪舟と比較されて語られますが、人物や動物のユーモラスな表情というか味わいが特色だと思います。
 蝦蟇鉄拐図(64~65頁)の蝦蟇や、布袋、わりとよく出てくる童はもちろん、龍虎図屏風(28~29頁)のトラがひょうきんだったり、呂洞賓に踏みつけられている龍(38~39頁)さえユーモラスな感じ。
 雪村の出身地の常陸太田市では絵入りの雪村団扇という民芸品が今も作られているとか(9頁)。常陸太田まで脚を伸ばすことがあったらおみやげにしましょうか。


小川知二 東京美術 アート・ビギナーズ・コレクション 2007年8月25日発行
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労働組合Q&A[第2版]

2007-09-24 10:25:34 | 実用書・ビジネス書
 労働組合の作り方や組合活動・団体交渉・争議の進め方についての法的観点からの解説書。
 普通の組合活動家にはちょっと読みにくいかも知れませんが、コンパクトな本のわりにはけっこう細かいところにも触れられていて、使い勝手がよさそうです。編者の事務所の依頼者層を反映してか、特に少数派組合や組合内少数派の立場に目配りされている点が好感が持てます。
 細かいところですが、労働組合のナショナルセンターについて全労連については政党色には触れないで全労協は旧社会党左派系組合中心と書く(66頁)のはいかがなものかなと思います。


東京南部法律事務所編 日本評論社 2007年6月30日発行(初版は1999年)
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カゼヲキル1 助走

2007-09-23 07:51:13 | 小説
 テニス部の補欠から陸上部に転向した女子中学生がその才能を見いだされて成長しマラソンをめざすというようなストーリーの小説。
 1巻では陸上を始めて半年の中学2年生山根美岬が初めての県大会で陸連の強化委員に見いだされて異例の大抜擢で全日本ジュニアの合宿とクロカンの国際大会ジュニアの部に招待され健闘するが大会で骨折して失意の日々を送り再度陸連の強化委員から励まされて再起を誓うまで。
 エースをねらえの岡ひろみ(そんなの知らない?世代の違いが・・・)もビックリの漫画でもありそうにない大抜擢にも動じず天然ボケの応答を繰り返し中学生として他にただ1人参加したライバル(全国大会2連覇のチャンピオン)の冷たい態度に反発する主人公の強心臓はさすが。作者自身が陸上エリート街道まっしぐらなればこそという感じもします。
 主人公はライバルの青井恭子に怪我をさせられたと感じて青井に対する強烈な拒絶感・嫌悪感を募らせますが、クロカンの障害物付近で抜かれかけて進路をふさぐように体を寄せたのは単に抜かれまいとしただけで怪我をさせようとしたというのはちょっと思いこみが強すぎるような感じがします。
 前半一気に展開させて気持ちよく読ませ、後半屈折気味に停滞と、まあある種お決まりのパターンですが、2巻以降の展開で、最近の読者ニーズに沿った陸上爽快ストーリーになるか、請うご期待というところでしょうか。


増田明美 講談社 2007年7月20日発行
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リビアの小さな赤い実

2007-09-22 08:05:14 | 小説
 カダフィ政権下のリビアでの反政府活動家の様子をその息子の立場から描いた小説。
 描かれている反政府活動家の家庭は、夫は滅多に家庭に帰らない、帰ってきても子どもとあまりつきあわない、妻は心の病を持ち結婚を後悔し、子どもは父親のことを好きだといいながらも反政府活動家仲間が逮捕されるや親友だったその子を罵り裏切りいじめ、政府の手先に優しくされると父親が持っていた本を渡したり父親の仲間の名前をいったりするという始末。しかも父親が拷問の末仲間のことを白状して傷だらけで戻されると妻は心の病も治って夫と仲良くなる・・・。まるで反政府活動家の家庭がいかに悲惨で反政府活動をあきらめることがいいことだといいたいかのよう。
 主人公の少年は親友を裏切った瞬間だけは後悔しますが、その後その少年が幼なじみと結婚すると聞いて自分の方が幸せにできるのになどと思うなど、最後までいやな奴だし。まあ9歳の少年だからしかたないと読むしかないんでしょうけど。
 もちろん、カダフィ政権の悪辣ぶりは描かれていて、強権政治が弱い人々をこのように歪めてしまうことを描いているのでしょうけど、なんだかなあ。どうも主人公の少年の行動・考えに違和感ばかりを感じ、爽やかさが感じられない展開も合わせ、読み進むのがおっくうで、読むのにとても時間のかかる本でした。
 ストーリーとは関係ないけど、リビアではよその人との間でも親を子どもの名前との関係で呼ぶんですね(スライマンの父はブー・スライマン、母はウンム・スライマン)。ちょっとビックリ。それからリビアでは反政府活動家の尋問や裁判・処刑をテレビで実況中継するんでしょうか。尋問なんかテレビでやったらかなりリスクが大きいと思うんですが・・・


原題:IN THE COUNTRY OF MEN
ヒシャーム・マタール 訳:金原瑞人、野沢佳織
ポプラ社 2007年8月6日発行 (原書は2006年)
2007年英国王立文学協会オンダーチェ賞
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