伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

保健室から見える親が知らない子どもたち

2021-06-21 18:54:25 | 実用書・ビジネス書
 養護教諭を25年務め、その後教育コンサルタントとなった著者の経験から、問題行動を繰り返す子どもや保健室を度々訪れる子どもたちの悩み・相談に対して、教師や親がどういう対応をしてはいけないか、どう対応すべきかを論じた本。
 タイトルからは、保健室を訪れる子どもたちの悩みの内容が紹介されている本のように見えますが、子どもの側では、そこよりも大人たちの言動、特に問題点を指摘し、叱責し、指導したり反省を求めたりするそのやり方を子どもがどう受け止めることが多いか、そしてそのようなやり方がいかにまずいか、無意味かの指摘が繰り返されています。
 基本的には、よくない自分、好きになれない自分も、それは自分の一面として受け止め、失敗や問題行動は「そうしてしまった自分」ではなくその行動の問題と受け止めて、どうすれば次はもっとよくできるかを自分で考えさせ、試行錯誤させる、過去に注目し続けるよりは未来においてどうなりたいか、どうなっていたいかから、逆算してそのためには今何をするかを考えていくことが勧められています。
 子どもの話を聞くときに、自分(大人)の評価・意見を挟まないで、①実際にあったこと、見たこと、聞いたことは何か(事実)、②そのときにどんな気持ちになったか(感情)、③どうしてそんな気持ちになったか(感情の理由)、④その気持ちになりどんな反応(行動)をしたか(反応)、⑤その結果どうなったか(反応の結果)、⑥本当はこうしたかったということはあったか(本当の気持ち)、⑦次に同じような状況になったときに今回とは違うことをするとしたらどういうことができるか(選択)に分けて丁寧に聞いてみてくださいと書かれています(182~183ページ)。聞く側が冷静さを保ち根気よく聞くということ自体がなかなか難しく、大人の側がクールダウンするためにも、項目分けして聞き続けるという方法論は有効かなと思いました。


桑原朱美 青春出版社 2021年2月25日発行
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不滅の子どもたち

2021-06-20 18:45:24 | 小説
 ニューヨークで紳士婦人服仕立店を営むユダヤ人家庭に生まれた13歳のヴァーヤ、11歳のダニエル、9歳のクララ、7歳のサイモンの4人きょうだいが、1969年の7月のある火曜日、人が死ぬ日がわかるという噂を聞いて、占い師の女の部屋を訪ね、一人ずつ自分が死ぬ日を知らされ、その後4人がどのように生きたかを短編連作のような長編のような枠組みで描いた小説。
 それぞれが自由を、また計画を持って、自分の人生を積極的に歩む展開から、自分が持つ不安定要素が拡大しあるいは自信を失い理性的な部分が後退し綻び滅びていく場面が多く見られ、人の性、人生の悲哀を感じます。
 自分が死ぬ日を告知されたらその後どう生きるか、どのようにその日を迎えるかは、人それぞれの考えと経験によると思います。幼いとき、若いときであれば、とにかくやりたいことをやっておきたい、その日までに悔いを残したくないと考えるのでしょうし、老いていればおそらくはそれまでの人生とさして変わりない日々を送るのだろうと、すでに61歳の私は考えます。しかし、難病にかかって医師から宣告されるのであればともかく、見知らぬ占い師から言われたことがそれほどその後の人生を左右するのでしょうか。子どもの頃の経験、特に恐怖が子どもの人生に強く影響するということがよく言われ、そういうことがあるのかも知れませんが、納得できない思いも残ります。


原題:The Immortalists
クロエ・ベンジャミン 約:鈴木潤
集英社 2021年4月30日発行(原書は2018年)
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原発事故 自治体からの証言

2021-06-16 20:26:30 | ノンフィクション
 福島原発事故当時とその後の地元自治体の状況と対応に関して、大熊町の前副町長と浪江町の前副町長へのインタビュー、自治労の調査等に基づいてレポートした本。
 大熊町の前副町長(事故時は農業委員会事務局長)の話で、役場と福島第一原発をつなぐホットラインは地震で断線したのか通じず、災害対策本部が本来設置されることになっていた部屋は確定申告で使われていたので別の部屋に設置、その部屋にしかないオフサイトセンターとのテレビ会議システムはセットできず、ファックスはなぜか17時まで動かず、訓練では東電からファックスを送ったという連絡が来るが本番では連絡もなく、動き出したファックスは大量の文書を吐き出し、地震関係の情報が大量にある中でわずかに混じる原発関係のファックスは紛れて気がつかなかった(59~63ページ)とか、役所には放射能漏洩の情報は全然来ず、かえって避難所では東電の協力会社の作業員がもうヤバいから逃げなくちゃというのを職員が聞いていたが、当然そういう情報は役場に入っていると思っていたので役場には報告しなかった(64~65ページ)、放射線量が上がっているとは誰からもいわれなかったのでマスクもせずに住民の避難誘導をしていたし放射線測定器も持ち出さなかった(69ページ)など、事故が現実に起こると想定していた対策・対応ができず、機能せず、情報がうまく入手できず伝わらないという実体験がとても貴重に思えます。書類上の、机上の計画なり対策がいくらきちんとできているように見えても、本当の事故災害の際にはそのとおりには行かないもの。対策があるから安全ですなんて考えで、対策がうまく行くことを前提に進めてはいけないということですね。
 自治体職員が住民のために献身的に働く様子、住民からの激しいクレームに消耗する様子、一部には出勤しなくなる職員、その後も続々と退職していく人たち、他方で住民からの感謝や労いの言葉に励まされモチベーションを保つ様子などにも、大変だなぁという思い、頭が下がる思い、仕方ないよねぇという思いを持ちました。


今井照、自治総研編 ちくま新書 2021年2月10日発行
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校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術

2021-06-10 19:34:18 | 実用書・ビジネス書
 毎日新聞の校閲記者グループが、新聞の校閲の実情、ありがちな誤植・変換ミスその他のミスについて紹介した本。
 1970年に司馬遼太郎の論文で「銘酊」の用語が用いられ、当時の毎日新聞用語集も「銘酊」、さらに当時の広辞苑も「銘酊」となっていたことが紹介されています(67~68ページ)。校閲記者はまさか司馬遼太郎が書き間違えるとは考えられず広辞苑に助けを求めたら広辞苑も堂々と「銘酊」となっていた(第2版)というのです。辞書が誤植をしていたら、何に頼ればいいのか、校閲記者の悩ましさを感じました。
 言葉の中の数字が漢数字か洋数字かは、「ほかの数字に置き換えられないような言葉は漢数字」(72~73ページ)なんですね。「一人住まいの気安さ」「アパートに1人住まいの生活」「一人旅」などの文例(73ページ)を見ても、区別は微妙な気はしますが。
 「諫める」は、目下の者が目上に忠告することで、上司が部下に注意するときは使わない、そのときはたしなめるとか、諭すとか、戒めるを使うって(199ページ)。なるほど。祇園精舎(平家物語)でも「諫めをも思い入れず」は暴君たちのことでしたしね。


毎日新聞校閲グループ 毎日新聞出版 2017年9月5日発行
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ダークブルー

2021-06-09 22:30:11 | 小説
 新たに開発されたロボットアームを装着した実証試験のため有人深海調査船「りゅうじん6500」を乗せてフィリピン海盆に向かう「日本海洋科学機関ジャオテック」の潜航士大畑夏海らと研究開発チームが乗船する支援母船「さがみ」がシージャックに襲われ、メンバーは侵入犯が求める過酷なミッションにチャレンジするが…という小説。
 国際協力が進んでいると思われる海・航海の世界で、今どき、船長に乗組員の「人種」を嘆かせ(43ページ:フィリピンやベトナム、インド人は、日本人と「人種」が違うんでしょうか…?)、シージャック犯・テロリストはインドネシアとみられる東南アジアの少数民族、それを「日本人は殺したくない」と考える者か否かで善玉・悪玉を選別するという、とてもナショナリスティックな価値観に満ちた設定とストーリーです。
 日本の組織人たちの士気の高さ、結束の強さ、使命感等が序盤で強調されています。読んでいて私は、なんとなく、東野圭吾の「真夏の方程式」を思い起こしてしまったのですが、JAMSTEC(海洋開発研究機構)という組織は、取材をした作家に、是非とも誉め讃え味方しなければという気持ちを、自発的にか他発的にか、沸き立たせるところなのでしょうか。


真保裕一 講談社 2020年3月23日発行
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朝焼けにファンファーレ

2021-06-07 23:06:40 | 小説
 司法修習生と修習生を受け入れ指導する側の裁判実務関係者たちの日常業務と日常生活を描いた群像劇。
 修習生を受け入れた弁護士事務所の勤務弁護士が不倫の問題をめぐり、家裁少年部(刑事)の書記官が反省の色が見られない少年の審判や調査官面接をめぐり、検察庁の指導教官が双方泥酔した傷害事件や嬰児殺を繰り返した被告人の処遇をめぐり、配属された司法修習生と考え学んでいく話に、最後に後期修習のプレッシャーの中での模擬裁判の達成感と同期内での競争心・足を引っ張る陰謀を描く話を付けた短編連作になっています。
 司法修習生を主役とした作品は、私はこれまで見ませんでしたが、裁判所・検察庁・弁護士事務所それぞれの内情に触れられる、初心というか志のあるある意味で青臭い熱い議論もしやすいという点で、裁判業界ものとしては、書きやすい設定といえそうです。そして、裁判業界の人の多くは、修習生時代にノスタルジーを感じていますので、小説として一定の読者層を獲得しやすい分野ともいえるかも。私は、和光ではなく、研修所は湯島、寮は松戸の世代ですが、それでも久しぶりに修習時代の郷愁に浸りました。


織守きょうや 新潮社 2020年11月25日発行
「小説新潮」連載
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終の信託

2021-06-06 22:48:18 | 小説
 呼吸器科部長を務める医師折井綾乃が3年前に18年間担当し続けた喘息患者江木秦三が重症の最終段階ステップ4-2に達し、そのときが来たらいつまでも苦しめないでお願いします、もう我慢しなくてもいい時を先生が決めてくださいと言い、その後心停止状態で搬送されてきたとき、懸命の蘇生措置で心拍をかろうじて戻し6日後に自発呼吸も回復させたものの植物状態になって、15日目には急性胃潰瘍と思われる出血を目にして、家族を呼んで気管内チューブを抜くがすぐには自然死せずに痙攣して苦しみはじめ、鎮静剤を静脈注射したがそれでも痙攣が治まらず筋弛緩剤を静脈注射して死亡させた件がマスコミに漏れ、検察官の取調を受けるという仕立ての、川崎協同病院事件を題材にした小説。
 技術の発展により生かしておくというだけであれば相当期間の延命治療が可能となり、他方で安楽死を容認する法令上の規定がなく判例上はかなり厳格な要件が課されている現在の日本で、回復の見込みがないのにただ長く苦痛を味わいたくないという患者の希望を向けられた医師はいったいどうすればいいのかを考えさせる作品です。作者の属性から、そういった困難な立場に立たされた医師が、現在の法律と司法の下ではどのように扱われるか、検察官の取調に対して医療について専門家であっても法律・司法を知らない素人がいかに無力かを描くことで、主として法律は、司法はこれでいいのかを問題提起しています。
 表題作とともに収録されている恋人を殺してしまった女性被疑者の警察での取調を描いた「よっくんは今」も合わせ、取り調べられる側の思いが取調官にいかに通じないか、いかに無視されるかを感じさせられます。捜査機関のやり口への批判であるとともに、やはり取調を受けるに至れば、必ず弁護士に依頼しましょう(弁護士に相談しましょう)というアピールでもありますが。


朔立木 光文社文庫 2012年6月20日発行(単行本は2008年6月)
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「グレート・ギャツビー」を追え

2021-06-03 21:31:31 | 小説
 プリンストン大学の図書館から盗み出されたF・スコット・フィッツジェラルドの直筆原稿5編をめぐり、取り戻そうと画策する保険会社のエージェント、その手先となって動く売れない作家、容疑をかけられる書店主、原稿を追う強奪犯、捜査を続けるFBIが絡むサスペンス小説。
 原稿を追うグループの中心に保険金(2500万ドル)を払いたくない保険会社のエージェントを置いたあたり、「原告側弁護人 (The Rainmaker) 」で保険会社の悪辣さを声高に告発したグリシャムが、保険会社に妥協し配慮し機嫌を取ったとみるか、基本的なスタンスは同じとみるか、評価が分かれそうです。
 村上春樹訳を売りにした日本版です(グリシャムよりも村上春樹の名前の方が字が大きい!)が、グリシャム定番の白石朗訳になれた身にも特に違和感なく読めました。逆にいえば、村上春樹訳の特色というのも見えにくい感じがしました。「しかしその時代にあっては離婚は話のほかだった」(266ページ)というのがちょっと引っかかったくらいでした(「話のほか」という文例が、outrage の訳として村上春樹訳「心臓を貫かれて」405ページ、be out of the question の訳として村上春樹訳「心臓を貫かれて」280ページくらいしかネットの訳語辞典で出てきませんでした)。
 ややシニカルさはあるものの角の取れた温かみのある手堅い進行の作品です。そういうグリシャムに興味が持てれば、悪くないと思います。


原題:CAMINO ISLAND
ジョン・グリシャム 訳:村上春樹
中央公論新社 2020年10月10日発行(原書は2017年)
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東日本大震災からのスタート 災害を考える51のアプローチ

2021-06-02 00:03:03 | 人文・社会科学系
 東北大学災害科学国際研究所に所属する研究者たち(一部別の機関の研究者を含む)が、各自が担当する東日本大震災とその後の防災に関する研究について紹介した本。
 基本的に、4ページで、「はじめに」「第1節 東日本大震災が明らかにした問題」「何が起きたのか?」「被害の実態」「第2節 震災が破壊したパラダイム」「従来までの常識と必要だった対応」「第3節 新しいアプローチ」「第4節 到達点とこれから」「新たな災害科学の手法」「おわりに~執筆者から」というフォーマットで書かれており(そうでない人もいますが)、読後感としては、学問研究というのは実にさまざまなテーマ領域があり学者研究者はあらゆることを対象とするのだなと感じ、東日本大震災に関してもさまざまな問題があると気づかせ視野を広げる本だなと思いました。他方において研究者の志も表現力もさまざまで、同じ4ページでも、問題提起から研究成果など新たな発見を感じさせてくれるものもあれば、自分の研究の重要さをアピールする以外の内容が読み取りにくいものなど玉石混淆だなと思いました。東京電力との連携ができたと喜び東京電力の言い分をほぼそのまま書いているもの(33~38ページ)など、まぁ学者研究者にはもともと原発推進派がいるわけですけど、大学でも研究者の志もいろいろだなと考えさせられます。コラムで「スポンサーである国や県、企業に忖度するような事業や研究は、ろくな成果をもたらすことができない」と指摘している(141ページ)点が救いというか、清々しいですが。
 「自然災害はどの災害をとっても同じものはない。起きる場所や時間帯・季節によって被害の形は異なる。時間の経過によって状況は変化する。だから、『こうすれば良いですよ』と教える正解は無いのである」(120ページ)という記述を読んで、そのとおりだと思うと同時に、この本のテーマとは全然関係ないのですが、私たち弁護士が扱う事件と裁判についても当てはまる表現だと思いました。裁判でも1つ1つの事件は同じではなく、事件ごとにポイントになる事実や問題点、放置した場合の見通し(被害)は異なってくるし、時間の経過・裁判の展開で状況は変化しますので、すべての事件に当てはまる正解がないのはもちろん、他の事件で正解だったこともその事件で当てはまるとは言えません。考え込まれた指摘には、通じるものがあるなぁという感慨です。


東北大学災害科学国際研究所編 東北大学出版会 2021年3月11日発行
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紅蓮の雪

2021-06-01 19:47:07 | 小説
 「伊吹、ごめん」だけの書き置きを残して自殺した双子の姉朱里の自殺の理由を求めて、朱里が自殺直前に公演を観に行った大衆演劇鉢木座を訪れた牧原伊吹が、看板女形の若座長慈丹に勧められて入座し、旅程をともにして行くうちに、自分たちの親の過去、自分たちの出自、朱里の行動と思いを知っていくという小説。
 近親相姦と共食いのタブー、自己の汚れ、生まれながらにして汚れた存在という「原罪」的な観念、親の言動によるトラウマなどが、主人公の心に重々しくのしかかり、読んでいて重苦しさを感じます。
 主人公は父と母に怨みを持ち続けますが、私は、自らの行為の結果をいつまでも受け容れられずに向き合えない父の覚悟のなさには、ふがいなさを感じますが、母の開き直りには、もう少し諦めず心をすり切れさせずにいられなかったかという思いはあるものの、まぁ仕方ないんじゃないかと思いました。慈丹が、そして伊吹が、終盤でそこまで言うのはどうかと思います。むしろ、現在の自分をすべて親の言動の結果と捉えて(すべてを親のせいにして)うじうじとし続ける伊吹にはあまり共感できませんでした。


遠田潤子 集英社 2021年2月10日発行
「小説すばる」連載
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