伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

青くて痛くて脆い

2020-08-09 18:38:47 | 小説
 人に不用意に近づきすぎないこと、反対意見をできるだけ口に出さないことを心がける大学生田端楓が、懐に飛び込んできた理想を語る純真な秋好寿乃に引っ張られて「秘密結社」的なサークル「モアイ」を作るが、モアイが拡大していく過程でモアイが変質した、あのとき笑った秋好はもうこの世にいないと、現在のモアイを否定し、壊して元に戻すんだと主張して画策する青春独りよがり小説。
 自分自身が、思ってもいない言葉を駆使し演技して就活に奔走して内定を得ていながら、就活のためのパーティーや交流会等を開催する「モアイ」が就活サークルになってしまったと、非難する主人公の立ち位置、端的に言って自分にかまってくれていた秋好が遠くに行ってしまったということに拗ねて自分が抜けて行きながら、遠くからモアイを非難し続ける歪んだ執念深さ、人を不快にさせないようにするという最初に語る信条と現実にすることの乖離など、この主人公の言うことなすことにただ気持ち悪さを感じ、読んでいてずっと居心地の悪さを感じました。
 ネットの匿名性の陰に隠れて昏い悪意を持ち続ける人々には、こういう第三者からは独りよがりの歪んだ考えにしか見えないものが、相手が変質した、相手が悪い、自分が正しいんだと見えているのだろうなと、思わせてくれます。そしてラストには、そういう独りよがりのことをしていても悔い改めれば相手は許してくれるという本人のムシのよさと作者の温かさのハーモニーが待ち受けていて、どう受け止めていいのか悩ましい読後感でした。


住野よる 株式会社KADOKAWA 2018年3月2日発行
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検証 財界 中西経団連は日本型システムを変えられるか

2020-08-08 22:43:34 | ノンフィクション
 経団連や商工会議所等の経済団体、財閥の組織と現状等を紹介する読売新聞の連載(「解剖 財界」2018年10月~2020年1月)を単行本化した本。
 サブタイトルと「改革を加速する中西経団連」と題するプロローグに象徴されるように経団連の現執行部を「改革派」と位置づけて賛美し持ち上げています。その「改革」の中身は何かと言えば、就職活動の指針の廃止と官製春闘の拒否です。前者は採用等の時期の縛りをなくして企業に自由な、好き放題の採用活動をさせようということ、後者は政府からの賃上げ要請を批判し賃上げについても自由にさせろ(実質的には賃上げを抑え込みたい。日本の大企業は業績がよくても賃上げを抑え込み続けて巨額の内部留保を積み上げてきている)ということです。いずれも企業、特に強者である大企業が自分の都合だけを最優先して好きなようにやりたいというむき出しの欲望(わがままと言ってもよい)を示しているもので、労働者に対する保護(のための規制やこれまでの慣行)を撤廃してさらに労働者をいじめろということを意味しているのですが、読売新聞はそういう点には目を向けずに、大企業のやりたい放題を推進することを賛美しています。その方向性が明確な(露骨な)前半に比べて、後半では経済団体の活動が行き詰まってきている現状に特段の解決策も示さず(示せず)に閉塞感を持つ記述が続いていますが。
 大企業や権力者が自己を縛る「規制」をきらい、好き放題にやりたいから規制を緩和しろ(権力者の場合は憲法を改正しろとか)ということはありがちですが、その規制の多くは弱者を保護するため、あるいは社会を守るためでもあるわけです。それを無視して、大企業や権力者の希望(欲望)を無批判に支持し、反対者を批判することは、規制により守られていた弱者を切り捨てていいという判断を意味しています。この本では、大企業と利害が対立する労働者(従業員)や消費者(お客様)側の視点はまったくと言ってよいほど欠落しています。
 そして、取材対象の経済団体、大企業=財界を、批判的な目で検討していない記事を「解剖」(新聞連載時)とか「検証」と題して出版する神経には驚きます。


読売新聞経済部 中央公論新社 2020年4月25日発行
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ほんとはかわいくないフィンランド

2020-08-04 09:39:58 | エッセイ
 フィンランド人と結婚してヘルシンキに住む著者が、フィンランドでの食事や生活習慣、出産や子育てなどを綴ったエッセイ集。
 著者がフィンランドで2人の子どもを出産した経験から、出産関係の話が一番多く、日本よりゆったりと構えおおらかな様子が語られています。次いで、生食も含めて魚がうまいぞとかソーセージなどの食生活関係の話、長期のゆったりした休暇と旅行の話、サウナなどの生活習慣の話が続きます。
 タイトルからしてフィンランドに「かわいい」という印象があることが前提なんですが、日本人がフィンランドを「かわいい」と思うふつうに考えれば最大のファクターのムーミンネタが、ずーっと出てこず、おお敢えてこのネタを外すつもりかと思いますが、ラス前になって出てきます(著者は子どもの頃ムーミンが怖かった、特にリトルミィが怖かったと述べています:196~197ページ。そういう事情から触れたくなかったのかも)。
 フィンランドには「オーロラアラート」があってオーロラが見られそうなときに速報が来る、ヘルシンキでも立派なオーロラが見られるとか(168~173ページ)。日本では、「アラート」はろくでもない遭遇したくない災厄についてばかりですが、こういうアラートがあるといいですね。


芹澤桂 幻冬舎文庫 2020年6月15日発行
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君の××を消してあげるよ

2020-08-03 00:01:16 | 小説
 4年前の事件のトラウマを引きずる中学3年生の小笠原幸が、地元のテレビ局がバトン部に密着取材を申し込んできたのを機にバトン部を辞めると言い出し、そのことと幸と幼なじみの片桐との関係をめぐって、親友のバトン部長水沢志帆との間に微妙にすれ違い・軋轢を生じ、さらに捉えどころのないクラスメイトの海月が絡んで錯綜する青春小説。
 作中で、幸が聞いた日本語と英語が混じった曲で「♪ アイヒアヨーボーイス」のフレーズだけが思い出せる(102ページ)、英語と日本語の混じった歌詞「♪ I hear your voice ~」(186ページ)という紹介があり、これは Pay money To my Pain というロックバンドの Voice という曲なのだそうです(116ページ)。私は、そのバンドも曲も知らず、当然にこれは ZARD の Get U're Dream のことだと思って読んでいました。世代の違いを感じました。


悠木シュン 双葉社 2019年5月25日発行
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恋愛禁止

2020-08-02 00:04:44 | 小説
 高校のときのクラス担任教師と同棲しDVを受け逃げてもつきまとわれ脅された木村瑞帆が、夜間駐車場内でその相手を刺し殺してしまったが、なぜか殺人事件が報道されることも警察に呼ばれることもなく2年が経過して結婚し娘が生まれた後に、「全てを知っている」という者から連絡があり…というサスペンス小説。
 複数の教え子に手を出した挙げ句にDV・ストーカー行為を続けるどうしようもない男に追われた女たちの姿に涙し、救われない思いを持ちます。私には、読後感が悪い作品です。
 そういう女性たちの運命の理不尽さや瑞帆の前に立ち現れる人物の思考の異常さと徒労感も含め、アイディア・展開的には、「容疑者Xの献身」(東野圭吾)をイメージしてしまいました。


長江俊和 角川書店 2019年12月25日発行
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白馬山荘殺人事件

2020-08-01 00:38:20 | 小説
 信州の山奥にあるペンション「まざあ・ぐうす」の客室内でトリカブト毒により死亡した兄原公一が自殺として処理されたことに納得できない大学3年生の腹菜穂子が友人の沢村とともにそのペンションを訪れ、兄の死亡の謎に挑むミステリー小説。
 ペンションの各部屋がマザーグース由来の名前を持ち各部屋にマザーグースの歌を記した壁掛けがあり、それをヒントにした暗号解きと、密室ものを組み合わせたミステリーです。ミステリーとしての仕掛けやツボは押さえられていると思います。マザーグースの歌の暗号は、ちょっと読むのがしんどいかなと思いました。
 殺人事件の謎解きよりも、殺人事件以外を含めた過去のできごとをめぐる人間関係の機微や性を読ませる作品かなと思いました。


東野圭吾 光文社文庫 新装版2020年6月20日発行(初版は1990年4月20日、カッパ・ノベルズ1986年8月)
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マスカレードホテル

2020-07-31 21:59:18 | 小説
 殺人現場に次の犯行場所を示唆する紙が残された事件が続き、4件目の殺人事件予定場所と目されるホテルに警察官が潜入し、ホテル側の協力、戸惑い、軋轢の中、いくつかの怪しい人物、できごとが続き…というサスペンス小説。
 ホテル側のサービス業のあり方、客との関係・間合いの取り方、現在であれば「カスハラ」(カスタマー・ハラスメント)と呼ばれるであろう客側の無理無体なクレームの存在、そしてプロ意識とやりがい・達成感。他のサービス業にも通じるものと思いますが、いろいろと考えさせられます。
 この作品では、女性のフロントクラーク山岸尚美を中心として描いていますが、ホテルの従業員を何の疑問も示さずに「ホテルマン」と書き表し続けています。ホテル業界では、そこ、疑問とされないのでしょうか。
 末尾に「取材協力 ロイヤルパークホテル」と記載されていますが、作中の「ホテル・コルテシア東京」の所在地は、現実のロイヤルパークホテル東京の300mほど南の隅田川の中になっています。ここまでするのならロイヤルパークホテルの場所にしてもよさそうに思えますが、このあたりが落とし所なんでしょうかね。


東野圭吾 集英社 2011年9月10日発行
「小説すばる」連載
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世界でいちばん素敵な大和言葉の教室

2020-07-30 00:14:37 | 人文・社会科学系
 季節に応じたものを中心に大和言葉を紹介し、言葉の意味、語源、使用例等を説明する本。
 多数の写真が掲載され、美しくイメージしやすくなっていて読みやすい形になっています。写真については、クリアで色鮮やかなところが明るく感じられますが、大和言葉のもやっとしたぼんやりとした言葉の印象に合わせるには、より淡い色彩感のソフトフォーカスのものや場合によってはイラストにするという試みがあった方がよかったかも知れません。
 心の中でのみ恋しく思うさまを「心恋」(「うらごい」と読むのですね。予想どおりATOKでも変換されませんでした)という(43ページ)とか、「おくゆかし」は「心が惹かれ、そこに行ってみたい」の意で「心の奥を知りたい」「距離を縮めたい」と思うほど心惹かれることを表している(149ページ:私の世代では「あなたを・もっと・知りたくて」薬師丸ひろ子のイメージですね)とか、ちょっと使ってみたくなります(あとがきで、「三度使えば、その言葉はあなたのものになります」と書かれていますが)。


吉田裕子監修 三才ブックス 2020年7月1日発行
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追いつめられる海

2020-07-28 20:09:30 | ノンフィクション
 地球温暖化に伴い海水温が上昇し海の熱波(以上高温域)の発生頻度が高くなってサンゴ等の生態系に影響し、海面上昇によって高潮・台風被害が深刻化する、二酸化炭素濃度の上昇により海水に溶け込む二酸化炭素が増えて海水が酸性化して生態系に影響が生じる、プラスチックゴミが海洋や海岸を汚染し、マイクロプラスチックが多くの魚介類に取り込まれて海産物を汚染し最終的には人体に取り込まれる、生活排水や農業廃水による富栄養化で大量発生するプランクトンの死骸の分解過程で酸素が大量消費されて低酸素水塊が増えてこれが海水表面の温度上昇により表層と深部の海水が混ざりにくくなる成層化が相まって低酸素領域が増えて生態系に影響し、さらに乱獲により漁業資源が枯渇するなどの問題点を指摘しつつ、洋上風力発電や潮力発電による再生可能エネルギー活用、藻場やマングローブ林、湿地などの保全拡大による二酸化炭素吸収量の増加、養殖の拡大と肉食から魚食への移行など「ブルーエコノミー」を推進すべきことを論じた本。
 様々な点で絶望的な状況が語られ、私の感傷で言えば慶良間ブルーで知られる座間味島(42年前に行ったきりですが…)の海岸で採取した貝類からも大量のマイクロプラスチックが発見された(72ページ)など、悲しくなる話が多いのですが、最終段階での著者の提言は、危機感を煽るよりは、より建設的なというかある意味で楽観的なもので、ちょっと救われます。
 ただ著者自身は記者で科学者ではないこともあり、書かれていることがどの程度の検証を経たものかには注意を要するかも知れません。私が気になったところでは、クマノミのふ化直後の稚魚を二酸化炭素濃度が高い環境下で4日間飼育した後に捕食者のいる通常環境下に戻したときの生存率を調べた実験に基づいて、二酸化炭素濃度が高くなると敵を警戒したり避ける能力に影響するという研究チームの見解を紹介しています(45~46ページ)。元になった研究を私は見ていませんけど、クマノミの稚魚だけを突然二酸化炭素濃度が倍前後の環境に入れてその後また戻しているという環境の激変がクマノミを弱らせている可能性があり(二酸化炭素濃度以外のものでも環境が激変すれば同様の影響が生じる可能性は検討検証されたのか?)、ここで紹介されている限りでは、二酸化炭素濃度が低い環境に置いた場合の比較がなく、また捕食者も同様に二酸化炭素濃度が高い環境に入れたらどうなるのかの比較もなく、さらには二酸化炭素濃度を長期間かけて徐々に高くした場合の比較もありません。私には、ここで触れられている実験だけで二酸化炭素濃度の悪影響を言い、このままのペースで二酸化炭素濃度が上昇すれば(海洋の酸性化が進めば)ニモ(カクレクマノミ)がいなくなるかも知れないなんて言ってしまうのは、科学的な態度とは思えません。


井田徹治 岩波科学ライブラリー 2020年4月9日発行
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写真の撮影・利用をめぐる紛争と法理

2020-07-27 21:05:36 | 実用書・ビジネス書
 写真の撮影と公表等の利用に関して、肖像権、プライバシー、名誉毀損、著作権(複製権、翻案権等)・著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、公表権)、パブリシティ等との関係で判断を示した裁判例を整理紹介する本。
 私の業務的な関心(プライバシー関係は一応私も詳しい弁護士と評価されていますし)から裁判例の知識のアップデート目的で読みました。知らなかった裁判例もいくつかありましたし、まとめて読むと新たな発見もあり、勉強になりましたが、最近の裁判例の紹介はちょっと手薄に思えました。
 分野分けはされているのですが、特に肖像権(第Ⅰ章)とプライバシー(第Ⅱ章)と名誉毀損(第Ⅲ章)と写真の撮影等をめぐる裁判例(第Ⅵ章1)は、多くの裁判例が重複していて、判旨(判決文抜粋)は省略されて、それでも「事案の概要」と「実務上の意義」(判示事項の整理抜粋と著者のコメント)はほとんど同じ内容のもの(分野に合わせて省略されたり加筆されている文もないではないですが、たいていはその分野以外の点もそのまま繰り返されています)が繰り返し掲載されています。分野分けするのであれば、判決文のその分野に関する判示を抜き出してメリハリを付けた紹介をしていただいた方が読みやすいですし、それがなされていないためにいたずらに分厚い本になっているように思えます。
 判決文の引用紹介(判旨)の範囲が精選されておらず、「事案の概要」や「実務上の意義」で取り上げられている事項に関する部分が出ていないことも少なくなくて、読んでいて気になりました。例えば告別式で盗み撮りした遺影を写真週刊誌に掲載したことの違法性が争われた事件の判決(33~35ページ)で、肖像権等の人格権は死亡により消滅したが遺族の死者に対する敬愛追慕の情が著しく侵害されたとして損害賠償請求が認容されたことを紹介していながら、判決文は死者の人格権を認めることはできないという判示で終わっているとか、警察による監視カメラ設置の違法性が争われた事件の判決(55~57ページ)で監視カメラのうち1台はプライバシー侵害とされて撤去請求が認容されたことを紹介しておきながら(その判決の紹介が「警察が街頭にカメラを設置し、運用したことが肖像権の侵害にあたらないとされた事例」とされているのも不思議な気がしますが)判決文は原告らの容貌等を録画していると認めるに足りる証拠はないというところで終わっていて監視カメラのうち1台の違法性に関する判示はまったく引用されていないとか、読んでいる側には欲求不満が募ります。逆に、撮影した写真を勝手にアダルトサイトの広告に使用したことの違法性が争われた事件の判決(127~129ページ)では被告の1人である広告制作会社社長が写真入手時には社長ではなかったことから責任を負わないと判示した部分を紹介していますが、それは肖像権侵害の有無には特段の意味もなく著者も「実務上の意義」でまったく触れておらず、紹介している理由がわかりません。
 判決文を紹介する際、判例雑誌からそのまま抜き出しているのでしょうけれども、2006年前後までの判決文では関係者の固有名詞がそのまま紹介されています。出版済の紙媒体は直しようがないのでしかたがないと思いますが、この時期に出版する本で、かつて出版された判例雑誌に実名が掲載されているということで、現在の感覚では仮名(記号)化されるのがふつうになっている関係者の実名をそのまま記載していいのか、プライバシーもテーマとなっているこの本でそれでいいのかという疑問が残ります。
 なお、ロックバンド黒夢の写真集出版に関する判決の紹介で、ロックバンド名を「悪夢」としている(96ページ、427ページ)とか、ごく単純なミス・誤植も目に付きます。
 テーマは興味深く、多数の判決が掲載されていることはありがたいのですが、様々な点で雑さが目に付くのが残念です。


升田純 民事法研究会 2020年3月26日発行
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