伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

紅だ!

2022-09-30 23:19:39 | 小説
 コリアンタウンの新宿区百人町の雑居ビル1階の潰れた韓国風チキン屋の後をそのまま借りて事務所にしている「道明寺探偵屋」で、創業者の道明寺葉が焼死した後残された、元テコンドーオリンピック選手の30歳真田紅とやせたイケメンの元警察官28歳黒川橡の2人の探偵が、紅はたまたま出会った何者かに追われている15歳の少女を守るという依頼を、橡は公安警察の先輩藤原から大量にATM入金されたATMを騙す偽札犯の正体を突き止めるという依頼を受け、振り回され調査を進めるうちに…という小説。
 紅と橡のキャラ設定、探偵事務所の設定などは工夫されており、青春小説的には、楽しめると思います。しかし、ミステリーとして読むには、事件と事件関係者のキャラ設定、とりわけ事件の展開に連れた言動が荒唐無稽というか、そんなことどうしてペラペラしゃべる?とかこの場面でそんなこと言ってる/やってる場合か、そりゃないだろうと思うところが多く、無理が多い作品だと感じます。
 冒頭(開始2ページ目)で少女が「ハイタカ」と名乗るのは、作者がアーシュラ・K・ル=グインのアースシーシリーズ( Book of Earthsea :邦訳では「ゲド戦記」という不適切に思えるタイトルが付されています)のファンだということなんでしょうか。


桜庭一樹 文藝春秋 2022年7月30日発行
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共感×つながり 人が集まるSNSのトリセツ

2022-09-29 01:14:15 | 実用書・ビジネス書
 起業コンサルタントの著者が、自らが実践して成功したSNSによる集客方法について解説した本。
 Instagram で写真や動画により感情に訴えて興味を持たせ、リンクでブログや You tube に誘導して自分の価値観や考えを見せ、それに共感した人だけを公式LINEに登録させて、そこから個別対応して納得した顧客に商品(サービス)を購入させる(36~39ページ)というしくみはビジネスとして合理的に思えます。それは著者(事業者)の価値観や考え方に合わない人、要するに顧客となる見込みがない人をふるい落とす過程と位置づけられます。自分の商品を買って欲しい客の具体的なイメージを「ペルソナ」と呼ぶ(53ページ)著者は、「ペルソナでない人は、本来お客さまにはならない人です」として、価値観や考え方が合わない人が来てしまわないような発信をすることを勧め(52~55ページ)、クレーマーが来るのは物腰の柔らかそうな人、この人なら何を言っても受け入れてくれそうと思われるからであり、自分は「『私はお客さまですよ。』といった態度の人には、まったく来てほしいと思っていません。むしろ私自身がお客さまを選ばせていただいています」という内容の記事を発信しているといいます(215~216ページ)。
 確かに、ビジネスとしてみれば、客になる見込みのないピントはずれの電話をしてくる人、ジコチュウで思い込みの強い人などに応答する(食い下がられる)のは時間の無駄であり、疲れ消耗するだけでいいことはまったくないのですが…いろいろと考えさせられます。
 著者は、自分の Instagram のプロフィールを「4児ママ起業 海外在住 小桧山美由紀」から始めて実績、略歴、「ごく普通の私」のことで構成していることを紹介し、同様のやり方を推奨しています(72~76ページ)。最近、Facebook でその種のプロフィールを書いた知らない人からの友だち申請が多くて辟易しています。著者は Facebook よりも Instagram を勧めています(34ページ)し、自分から売り込むなと言っています(31ページ)ので、そういう行動はこの本の著者の影響ではないとは思うのですが。


小桧山美由紀 総合法令出版 2022年7月22日発行
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風と行く者 守り人外伝

2022-09-27 21:19:24 | 小説
 30代の女用心棒バルサを主人公とするファンタジー「守り人シリーズ」の外伝。
 「天と地の守り人」の新ヨゴ皇国とタルシュ帝国の戦の1年半後、戦で片腕を失ったタンダとともに暮らすバルサが新たに護衛の旅に出るところからスタートするこの本は、「天と地の守り人」で完結したはずの「守り人シリーズ」の「外伝」ではなく「続編」かと思いましたが、実は、この新たな旅が20年前のバルサがまだ16歳だった頃、父の親友だったジグロに連れられて就いた護衛の旅とリンクしていて、結局は大半がジグロとともに戦った過去の想い出の物語として語られます。続編として読み始め、実はエピソード0だったというところです。
 これまでの作品に比しても厳しい戦いが続き、まだ16歳のバルサが傷つき殴られる描写には胸を痛めます(その感覚自体が女は弱い者、守られるべき者という偏見だと言われてしまえば、否定はできませんが…)。他方で、若々しくたくましいバルサの姿に爽快感も感じられ、バルサファンには読みたかった1冊と言えるでしょう。


上橋菜穂子 偕成社 2018年12月発行
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反省記 ビル・ゲイツとともに成功をつかんだ僕がビジネスの“地獄”で学んだこと

2022-09-26 23:17:50 | 実用書・ビジネス書
 パソコン雑誌の走りの「月刊アスキー」等を創刊したアスキーの創業者にしてアスキー・マイクロソフト社長だった著者が、パソコン黎明期にさまざまなパソコンをプロデュースしていった輝かしい経験の自慢話と、その後手を広げすぎて大赤字を出し銀行や出資者からリストラの指示を受けて再建に四苦八苦しながらも失敗や部下の造反等で結局は会社を追われた経緯についての恨み言等を書き連ねた本。
 前半の不眠不休・即断即決で作りたいもの、ネットワーク化された高性能で低価格のコンピュータ作りを目指して、やりたいことを次々と実現していく話が、まぁ実際にはその頃も独裁者として周囲の労働者を抑圧していたのだろうけれども、読んでいて爽快感があります。これが、後半では裏切られた相手への不満・うらみと、それ以上に救済してくれた出資者等に対しての媚び・ヨイショぶりが目につき、経営者というのはそういうもの、そうでないとやっていけないところがあるとは思いますが、卑屈感に満ちていて息苦しくなります。前半があるだけに、後半を読むと、栄枯盛衰・諸行無常を感じるところが読みどころ、なんでしょうかねぇ…


西和彦 ダイヤモンド社 2020年9月8日発行
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5文字で四字熟語

2022-09-25 23:28:25 | 趣味の本・暇つぶし本
 四字熟語を5文字で言い換え、その意味の説明と使い方等の若干の解説を付けた本。
 5文字で言い換えるというアイディアが決め手の本です。「言語道断」が「話にならん」(28ページ)とか、「馬耳東風」が「聞いてない」(106ページ)とか、まぁなるほどと思います。「罵詈雑言」を「ばーかばか」(107ページ)とか、苦しんで無理をしてると感じられるものも散見されますけど。読みながら、自分ならどう言い換えるかを考えるうちに、「絶体絶命」(46ページ)を「百恵ちゃん」と連想してしまう私は…(^^;)
 「波瀾万丈」の「瀾」は大きな波で、万丈は約30kmなんだそうな(56ページ)。「万丈が波の高さなら飛んでる飛行機が水をかぶる。」(56ページ)って、いや、飛行機が飛ぶ高度ってせいぜい10数kmですけど。
 「酒池肉林」(140~141ページ)の肉は食べる肉なんですね。色欲にふけるとか、淫らなという意味合いから、裸ないし半裸の女性のことと思っていました。
 何にせよ、猫のイラストがかわゆい。


すとうけんたろう 講談社 2022年5月30日発行
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快読 「ハリー・ポッター」 ハーマイオニーとロンの結婚をめぐるローリングの“後悔”とは?

2022-09-24 01:50:36 | 人文・社会科学系
 ハリー・ポッターシリーズについて、イギリスの階級社会や人種問題、性的少数者などがどのように反映/問題提起/戯画化されているかなどを考察し、学校物語文学との関係やダンブルドアやハリーの性的指向、ハーマイオニーの位置づけとロンとの結婚の意味などを論じた本。
 あとがきで示されているように(212~213ページ)、英米文学を専門とする学者である著者が過去に発表した5本の論文に加筆修正して出版したものです。ハリー・ポッターの一読者である私には思いもよらない検討もなされていますが、タイトルから期待されるようなハリ・ポタファン向けの書物ではないように感じられます。
 ハリーがロンに恋していて、「死の秘宝」でハリーがロンに「ハーマイオニーは妹みたいなものなんだ」と説明したときハリーはハーマイオニーをロンに渡したのではなくロンをハーマイオニーに渡してロンへの欲望を諦めた、ハリーが唐突にジニーと付き合い始めたのはウィーズリー家の一員となってロンに近づくためという考察(168~175ページ)は、「へぇ」とも「へっ」とも思います。また、ウィーズリー家がしもべ妖精を使っていないことが魔法世界では許しがたいことでありそれゆえに純血主義者たちからウィーズリー家が「血を裏切る者」呼ばれていた、だからハーマイオニーにとってロンはふさわしい結婚相手と評価できるという考察(186~205ページ)も、引用されている(193ページ)ようにモリーがアイロンがけをするしもべ妖精がいればと嘆いていることからしてもウィーズリー家が積極的な意思を持ってしもべ妖精を使わないことにしたとは考えがたいことなどからして疑問を持ちます。
 そういった違和感はありますが、自分が考えつかなかった視点で改めてハリー・ポッターを考えてみることができ、参考になりました。


菱田信彦 小鳥遊書房 2022年7月7日発行
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プロ司書の検索術 「本当に欲しかった情報」の見つけ方

2022-09-22 23:44:48 | 実用書・ビジネス書
 大学図書館でレファレンスサービスに従事している司書の立場から情報の探し方について解説し論じた本。
 基本的に手堅い信頼性のある情報源からの情報収集を勧め、インターネットでの無料の検索の限界を示し、より充実した情報収集のために図書館を訪れ、司書に相談しながら、図書館で利用できる有料データベースも駆使して検索することを推奨しています。
 ネットでの検索の方法や無料の情報源の使い方もいろいろと説明してくれているのですが、プロの司書はいろいろな探し方、情報を持っていて、司書に相談してもらうのが結局は速く深い情報を収集できるということを述べている第1章(「司書のアドバイスは総じて適切です。利用者にとって最大ではないものの最高のデータベースにもなれるでしょう。その力の源泉は、カンと先端性という二つです」:43ページ、「情報の最前線にいるプロだけが使える技術は現在でもあるのです。そのプロは、図書館のカウンターにいます」:48ページなど)、デジタル情報化のみに頼ることのリスクを語る第7章など、司書の存在感と自負を述べるところが、この本の眼目のように見えます。日本では司書が専門職と捉えられていないが、イギリス図書館情報専門家協会が2018年に行った「信頼できる情報を提供する専門家は?」という調査で図書館員の順位は法律家より高い4位だった(218~219ページ)、新型コロナウィルス禍の中で全国の図書館が「不要不急の施設」とみなされて閉館を余儀なくされたことははからずも図書館の魅力を際立たせた、早く再会してほしい、論文が書けない、勉強が進まないという声が溢れた(228ページ)などの記述に著者の思いが表れていると感じられます。
 有料データベースの中で著者は「日経テレコン」を強く推奨しているので、基本使い勝手重視で勧めていると思いますが、人事情報では「WhoPlus」(日外アソシエーツ)を第1順位で挙げ(117~118ページ)、雑誌検索でも第1順位ではないですが「MagazinePlus」(日外アソシエーツ)を「広範な分野をカバーしています」と勧めていて(97ページ)、その本が日外アソシエーツの出版だというのは…


入矢玲子 日外アソシエーツ 2020年10月25日発行
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ボーイズクラブの掟

2022-09-21 22:53:30 | 小説
 ハーバード大学、ハーバード・ロースクール出で世界最大規模の法律事務所に入った新人弁護士アレックス・ヴォーゲルが、恋人にはワークライフバランスを考えてM&A部門は避けると言っていたのに、競争率の高さ、エリート意識を見せつけられてM&A部門を目指してハードな長時間労働競争にのめり込み、さらには接待のために深酒や薬物摂取も常態化して…というワーカホリック小説。
 事務所・弁護士とクライアントの関係、幹部・パートナーとアソシエイトの関係、新人弁護士の意識等、企業側の大手法律事務所の内情がさまざまに描かれているのが、業界人としては参考になり興味深いところです。作者自身が、匿名(仮名)ではありますが、大手法律事務所勤務の弁護士ということですので、相当程度信憑性があると見ていいのでしょう。
 もっとも、構成としては、冒頭から主人公のアレックスが所属事務所の最大手のクライアントが被告の民事訴訟の訴訟前証言録取(ディスカヴァリー手続)を受けているという過程で、その証言内容なのか回想なのかという形でストーリーが進行し、それがどのような裁判なのか、その中でアレックスはどのような位置づけ・関係を持つのかに関心が向くという意味での「サスペンス」となっているのですが、そこに関しては、同業者として疑問を持ちます。ネタバレになってしまうかもしれませんが、まず、626ページで「無罪」という言葉に呆然とします。いや、これ民事裁判じゃなかったのか? そして、同じページで「わたしの証人尋問が決め手になると信じていた」って、何ですか。アレックスの証言はいわゆる「悪性格の立証」に過ぎず、そんな証言は本来裁判で重視されてはならず、裁判官も陪審員もそれに依拠しないよう心がける類いのものでしょう。弁護士が書いた作品で、主人公の弁護士がそんな素人みたいな判断をしてるというのでは、他のところがよくできていたとしても、そこでもうがっくりしてしまいます。


原題:The Boys' Club
エリカ・カッツ 訳:関麻衣子
ハヤカワ文庫 2022年6月15日発行(原書は2020年)
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点滅するものの革命

2022-09-20 23:27:07 | 小説
 多摩川河川敷で賞金狙いで殺人犯が遺棄した拳銃を探す父ちゃん(オノダ)とその娘の未就学児ちえ(ちーちゃん)、雀荘を経営している元麻雀プロの鈴子さん、掘っ立て小屋に住む糖尿病で左足を失ったクボヤマさん、蒲田の居酒屋で失恋して飲んだくれていて父ちゃんと知り合った大学生のレンアイことワタナベら、多摩川河川敷で顔を合わせる面々の過ごす夏の日々を描写した小説。
 これらの人びとの憂鬱、停滞、倦怠感を基調としつつ、ひとり突き抜けた感のある鈴子さんの姪の大学生ユッコさんが明るさとふつうの展開・進行の要素を持ち込んでいて、それがスパイスなのか、全体として何を書きたいのかを不明瞭にしているのか、今ひとつ見えにくく思えました。
 また全編を未就学児のちえの視点で書いているのですが、ちえが知り得ない描写も見られ、そこが意識的な「破」なのか、一貫性の追求の甘さなのか、定かでありません。そもそも未就学児の視点で、セックスとかも含め大人の会話や事情が、自分にはよくわからないなどの前置きや評価を付けずにごく当然のように述べられていること自体、設定に無理があるように感じられるのですが(「じゃりン子チエ」みたいにませてひねた子どもという設定でもないわけですし)。
 煙草の煙と麻雀の話題の多い作品を書いているこの作者が1994年生まれというのも、ちょっと驚きました。


平沢逸 講談社 2022年7月7日発行
群像新人文学賞受賞作
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カインは言わなかった

2022-09-19 09:58:42 | 小説
 著名な芸術監督誉田規一率いるHHカンパニーの新作バレエ「カイン」の主役に抜擢された藤谷誠が公演2日前に音信不通となり、誠の行方を追って関係者や実家を探し求める恋人の嶋貫あゆ子、誠の代役となるべくスタジオに泊まり込んで夜を徹してカインのパートの練習に励み続ける誠のルームメイトの尾上和馬、3年前にHHカンパニーの「for Giselle」の主役を直前に降ろされ休日にスタジオで自主練習していて熱中症で倒れ死亡した松浦穂乃果の父親松浦久文、藤谷誠の父違いの弟の画家藤谷豪と交際中またはセフレの不動産会社勤務の皆元有美らの視点から「カイン」の公演までの様子を描いたサスペンス小説。
 誉田規一の非情さ、その指導/しごき/いじめを受けながら誉田に認められようと耐えて修行のような練習を続ける団員たちの情熱あるいは渇望の凄まじさが印象に残ります。今どきでは、誉田規一の言動はパワハラと指弾され、団員は狂信者と評価されるでしょうけれども、他方において、私たちは芸術やスポーツなどの世界で傑出した技を求め、それはそういった常軌を逸した厳しさ、さらに言えば通常の社会の感覚では律しきれない者たち、規格に収まらない者たちによって担われてきたものであろうと思います。超人的なプレイを求めつつ、その練習等の過程でのパワハラを非難する、さらには人格的にも模範生であることさえ求めるという、昨今のメディアや観衆のありようについて考えさせられる作品でもあります。
 この作品では、そしてHHカンパニーの公演「カイン」では、神が弟アベルを寵愛したことに兄のカインが嫉妬してアベルを殺害し「人類最初の殺人者」となったという旧約聖書のエピソードを採り上げています。このエピソードは安倍元総理殺害事件を契機に自民党との癒着ぶりが広く報道された統一教会の教理のとても重要な部分となっています。私は、1990年代初めに裁判で霊感商法は統一教会が信者にやらせているということを論証する準備書面をひと夏かけて書き、その際に統一教会の教理解説書(統一教会では「経典」とは言いません)である「原理講論」を読んでその内容を検討しました。もちろん、もうあまり覚えていませんが、そのとき、「原理講論」の内容を強引に一言で表すとすれば「アベルとカインの歴史は繰り返す」だと、確か書いたと記憶しています。原理講論は、前半では聖書に独自の解釈を施しているのですが、その中で、カインは、神により愛されたアベルに対して従順に屈服すべきであったのにそうせずにカインを殺害した、それが人間の罪/原罪だと評価しています。そして原理講論の後半は、その後の歴史をやはり独自の視点で解説しているのですが、そこでは歴史上の事実をことごとくカインの犯した罪などになぞらえて人間はこのように罪を重ねてきたと繰り返しています。通し読みしていると、人間は神に救われる機会があったのに何度も過ちを犯し罪を重ねてきたと、絶望的な気持ちになります(端から疑ってかかって読んでいる私でさえ、そう感じました)。そして、その罪深い人間を救ってくれるのが「再臨のメシア」文鮮明なのだとされていました(文鮮明の死後どのように説明がされたのかは、私はその後関わっていないので知りませんけど)し、その先祖の犯した罪を日本流に翻訳すると殺傷因縁であったり色情因縁であったりという霊感商法のトークに繋がっていくわけです。こういう時期にアベルとカインの話を読んで、ずいぶんと久しぶりにそういうことを思い出しました。


芦沢央 文春文庫 2022年8月10日発行(単行本は2019年8月)
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