「チーム・バチスタの栄光」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞して作家デビューした海堂尊が宝島社の田口・白鳥シリーズと並行して角川書店から出版し「桜宮サーガ」へと海堂ワールドを拡げる嚆矢となった作品にして、田口・白鳥シリーズ第6弾「ケルベロスの肖像」の前日譚となっている作品。
幼い頃に両親を交通事故で失いその賠償金を食いつぶして生活する東城大学医学部の落第生天馬大吉が、幼なじみの雑誌記者別宮葉子の策略で、桜宮の終末医療を一手に引き受けてきた碧翠院桜宮病院に潜入し、東城大学から治癒見込みのない患者を送りつけられて利用されてきた挙げ句にバチスタスキャンダルで患者が減った東城大学から再度終末医療にも侵食されて経営危機に陥り、桜宮一族が末期患者を食いつぶしながら東城大学への怨念をたぎらせる様子を見聞きしつつ、一卵性双生児の美人医師小百合・すみれに翻弄されながらすみれへの思いを募らせて行くという展開です。
天馬大吉という怠惰で受動的で優柔不断でありながら、他人への批判的意識だけは先鋭で衒学趣味的で自意識過剰な主人公が、私にはどうにも共感できず、最後まで物語に入りきれない感じが残りました。優柔不断ぶりは田口・白鳥シリーズの田口公平も同じですが、田口の場合自分の希望が比較的素直に語られ、自分の限界・ダメさ加減を意識している分読みやすい。作者は、この天馬大吉をこの作品で主人公に据え、「ケルベロスの肖像」でも重要な位置に置き、「ケルベロスの肖像」の対になる作品と思われる「輝天炎上」でも主人公に据えています。どうしてこの人物に惚れ込んでいるのだろうと、どうしても好きになれない私は、不思議に思います。
ミステリーと位置づけられる作品ですが、ミステリーとしては天馬大吉が示唆し続ける犯人像にかなり無理があり、まぁ殺人事件の動機とその縁由はさすがにわかりませんでしたが、そこ以外はふつうに読んでいけば大方は見える感じで今ひとつに思えます。
海堂ワールドの桜宮サーガを構成するパーツとして見ると引き込まれるところがありますが、この作品単体としてみると、主人公が好きになれないためというのが大きいかとも思いますが、あまり魅力を感じませんでした。
海堂尊 角川文庫 2008年11月25日発行 (単行本は2006年11月)
幼い頃に両親を交通事故で失いその賠償金を食いつぶして生活する東城大学医学部の落第生天馬大吉が、幼なじみの雑誌記者別宮葉子の策略で、桜宮の終末医療を一手に引き受けてきた碧翠院桜宮病院に潜入し、東城大学から治癒見込みのない患者を送りつけられて利用されてきた挙げ句にバチスタスキャンダルで患者が減った東城大学から再度終末医療にも侵食されて経営危機に陥り、桜宮一族が末期患者を食いつぶしながら東城大学への怨念をたぎらせる様子を見聞きしつつ、一卵性双生児の美人医師小百合・すみれに翻弄されながらすみれへの思いを募らせて行くという展開です。
天馬大吉という怠惰で受動的で優柔不断でありながら、他人への批判的意識だけは先鋭で衒学趣味的で自意識過剰な主人公が、私にはどうにも共感できず、最後まで物語に入りきれない感じが残りました。優柔不断ぶりは田口・白鳥シリーズの田口公平も同じですが、田口の場合自分の希望が比較的素直に語られ、自分の限界・ダメさ加減を意識している分読みやすい。作者は、この天馬大吉をこの作品で主人公に据え、「ケルベロスの肖像」でも重要な位置に置き、「ケルベロスの肖像」の対になる作品と思われる「輝天炎上」でも主人公に据えています。どうしてこの人物に惚れ込んでいるのだろうと、どうしても好きになれない私は、不思議に思います。
ミステリーと位置づけられる作品ですが、ミステリーとしては天馬大吉が示唆し続ける犯人像にかなり無理があり、まぁ殺人事件の動機とその縁由はさすがにわかりませんでしたが、そこ以外はふつうに読んでいけば大方は見える感じで今ひとつに思えます。
海堂ワールドの桜宮サーガを構成するパーツとして見ると引き込まれるところがありますが、この作品単体としてみると、主人公が好きになれないためというのが大きいかとも思いますが、あまり魅力を感じませんでした。
海堂尊 角川文庫 2008年11月25日発行 (単行本は2006年11月)