伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

熟睡者:新版 Sleep,Sleep,Sleep

2024-09-30 07:21:34 | 自然科学・工学系
 睡眠不足の弊害を指摘し、朝太陽光を浴び午前中に運動し夕食は軽めにし夜のパソコン・スマホ使用を止めるなどして熟睡することを推奨する本。
 覚醒中脳が記憶した雑多な情報から重要なもの(繰り返し記憶したり記憶時に重要と意識したもの等)を長期記憶に移し、不要な情報を捨てる、言わば脳の空き容量を増やす/確保する作業が深い睡眠時になされ(142~151ページ、41~42ページ等)、体を動かすスキル(手続記憶)は浅い睡眠時に定着する(151~152ページ)、レム睡眠時は海馬が統制しないため通常は同時に活性化しない新鮮な記憶と過去の記録がランダムな組み合わせで活性化して、支離滅裂な夢となり、合理的な思考からは生まれえない創造性に結びつくこともある(174~176ページ)などの指摘が、なるほどと思いました。やっぱり睡眠は大切だ。
 個別事情なので、だからどうしたとも言えますが、アインシュタインはロングスリーパーで1晩に10時間眠った(177ページ:さらに昼寝もした)というのも、近年いくら寝ても眠い私(ふつう、年をとったら睡眠時間減るっつうに)には心強いです。


原題:SOMN,SOMN,SOMN(スウェーデン語)
クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル 訳:鈴木ファストアーベント理恵
サンマーク出版 2023年7月25日発行(初版は2020年12月、原書は記載はないですが2018年11月のもよう)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ママが死んでよかった

2024-09-29 20:53:18 | ノンフィクション
 ティーンドラマの主役級だった女優が、子役時代からステージママに身も心も支配されていたこと、母の下を離れても摂食障害とアルコール依存等に苦しみ続けたことなどを綴ったノンフィクション。
 タイトルと冒頭の母親の危篤シーンでも母への愛を語る様子などから、フィクションだと思って手に取り読み始めたのですが、主人公が著者の名前だし…と思って途中で検索したらノンフィクションとわかり驚きました。
 後半の摂食障害(過食症と嘔吐)やアルコール依存のエピソードは凄絶とも言えますが、タイトルにされている母との関係は、まわりの者に虐待だとか言わせているのに、著者自身はずっと母を愛している、母の幸せがすべてだとか言い続けています。どこかで著者が母親を批判し、タイトル通りの言葉が出るものと思っていましたが、最後までそれは出てきません。これは何なのだろう、自分の母親は虐待者で鬼だったけれども自分はそうは思っていない、自分は虐待されても恨みに思わない「いい人」って設定でいたいのだろうかと思ってしまいました。いやいや、親の支配・虐待の根は深い、そう簡単にはその影響から脱せない、最後に精神的にも離れたというだけでもたいへんなんだ、立派なものだ、とそう読むべきで、私などは被虐待者の心を理解できない未熟者だということなんでしょうね(でも、それならどうしてこの本を書いたのかねとも思ってしまうのですが)。


原題:I'm Glad My Mom Died
ジェネット・マッカーディ 訳:加藤輝美
徳間書店 2024年6月30日発行(原書は2022年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

遺族の心を整理する 遺品整理業の使命

2024-09-28 22:44:34 | 実用書・ビジネス書
 遺品整理事業を行う著者が、自らのビジネスモデルと遺品整理業のあり方等について所見を述べる本。
 主として、著者が不要品回収業から遺品整理業に重点を移した経緯や、遺品のうち再利用可能なものをフィリピンに輸出してオークションにかけることで利益を出したり、整理分別作業を障害者就労支援施設を設けて委託していることなど、自社の運営を支えているやり方・ビジネスモデルの説明が中心となっていて、どちらかというと同業者、これから遺品整理業を行おうとしている人に向けて書いているのかなと思えます。
 一般読者が関心を持つであろう遺品整理業の実情について書かれているのは、報道されたことと、あとは概ねこういう業者もいると聞いているというようなふわっとした話で具体性がなく、ちゃんとした業者(例えばうちのような)に頼みましょうねという程度で終わっているような感じです。


荒津寛 幻冬舎 2024年7月30日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

このビル、空きはありません! オフィス仲介戦線異常あり

2024-09-27 23:19:16 | 小説
 従業員数12名のオフィス専門不動産仲介業者ワークスペースコンサルティングに新卒で入社した咲野花が、入社10か月で初めて成約するかと思われた契約が土壇場で壊れ、営業での実績0のまま、別フロアでアルパカのような古参社員早乙女が1人でいる「特務室」に異動となり、ブッカク(物件確認:賃貸条件等の聞き込み)、X案件(問い合わせ・苦情)への機械的拒否応答、CU案件(「ちょっと受けられない」案件)対応に取り組むうちに不動産業界の実情を知りチームとしての成功につなげて行くという不動産業界お仕事小説。
 相手に寄り添い信頼関係を作って行くこと、情報を収集しその確認を丁寧にすることが基本だということが語られています。
 この作品の会社はオフィスの賃貸の仲介がメインなので登場しませんが、破産管財人になると、不動産業者から売却する不動産はないかという問い合わせのFAXがたくさん来ます(以前は電話もよくかかってきました)。そうでなくても弁護士事務所には無料で査定しますというDMもよく来ます。いろいろ大変なんだろうなとは思います。


森ノ薫 集英社オレンジ文庫 2022年12月25日発行
ノベル大賞受賞作
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

空芯手帳

2024-09-26 22:11:13 | 小説
 紙筒製造会社の生産管理事務を担当する柴田が、同じように働く中で部内唯一の女性社員である自分だけが名前のないさまざまな雑務を強いられる中、ある日納期が迫りエクセルで作業中に誰かが打ち合わせをした後のコーヒーカップの片付けを部長から命じられ、そのカップ内にタバコの吸い殻が突っ込まれているのを見てプッツンして、自分は妊娠していてコーヒーの匂いが無理と言い立て、その後妊婦として定時帰りを続け、マタニティエアロビに通うなどする様子を日記形式で綴った小説。タイトルは柴田の身籠もっていない腹/子宮と業務で扱っている空洞の紙筒を掛けたもの。
 職場での女性社員に対する扱いと、出産後の育児での男=父親の無責任さに対する怒りに満ちた作品です。
 その怒りと不条理を読むのはいいのですが、読みながらどこに行くのか、特に後半には「?」と思う謎が生じてきて、ストーリーの行く末というか作者はこれをどう収めるつもりだろうかに関心が向かうのですが、そこに謎解きというか説明なく、ポンとラストに行ってしまうところに、拍子抜けというか腑に落ちないものが残ってしまいました。作品として、それは説明すべきでない、説明不要であるという意見もあるのかも知れませんが。


八木詠美 河出文庫 2023年3月10日発行(単行本は2020年11月)
太宰治賞受賞作
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

特許法・著作権法 [第4版]

2024-09-25 21:42:58 | 実用書・ビジネス書
 特許法と著作権法についての入門書ふうの教科書。
 知財ビジネスのプレイヤーが儲けのために策略をこらし抜け穴を突こうとするのを解釈や法改正で塞ぎ、儲けの分け前を調整してきた様子がそこはかとなく窺われます。著作権法の方はそれなりに知っているけど特許法の方はなじみがない私には、特に特許法の方にそれを感じました。
 法律の条文を説明することなくいきなり、何条何項はこの場合適用を排除されるなんて記載が散見されます。手許に六法か、e-Gov 法令検索を開いて条文を参照する覚悟がある勉強したい人が読者層として想定されていて、「読み物」として読むのは難しいと思います。
 「それってパクりじゃないですか?」を読んでからこれを読むと、特許法の教科書の半分近い項目は「それってパクりじゃないですか?」で一応説明されていたのだなと感じました。理屈としてはこちらの教科書を読んでから小説の方を読めばよくわかるということかと思いますが、初学者には小説を先に読む方が理解できそうです。


小泉直樹 有斐閣 2024年5月15日発行(初版は2012年10月30日)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

それってパクりじゃないですか?4 新米知的財産部員のお仕事

2024-09-23 22:24:24 | 小説
 中堅飲料メーカー月夜野ドリンクの知的財産部に所属する藤崎亜季が、3巻で問題となった小規模の食品メーカー今宮食品が月夜野ドリンクの看板商品の「緑のお茶屋さん」が今宮食品の特許を侵害していると主張し始めた事件はパテント・トロール(特許を利用してトラブルを起こし大金をせしめようとする特許転がしの会社)「総合発明企画」が背後で糸を引いていたものと知り、総合発明企画と戦うという知財部お仕事小説。
 3巻から引き続く藤崎亜季の大学時代の知人・元彼瀬名良平との対決から始まりますが、率直に言って、戦闘系の話は悪役が小粒だと興ざめします。4巻の早い段階で選手交代して、比較的まっとうな裁判所と特許庁での攻防に切り換えたのは正解でしょう。
 ライバル企業が使いそうな技術領域で「うまく引っかかってくれればいいなと」「手広く権利を確保し」ライバル企業のライセンス要請を受けて「契約すればなにもせずとも利益が転がり込むし、しなければライバル商品が生まれない」(238~242ページ)というのを、それがビジネスだと位置づけています。まさに、知財部のお仕事らしい話ですが、その大企業の知財ビジネスのために、よりよい商品が世に出るのが阻まれ、消費者がそれを享受できない、社会の進歩が遅れるという側面もあるわけです。あくまでも大企業の知財への利害に沿った視点で語られるこの作品では触れられることはありませんが。


奧乃桜子 集英社オレンジ文庫 2024年7月23日発行

1巻は2023年9月1日の記事で紹介
2巻も2023年9月1日の記事で紹介
3巻は2024年9月22日の記事で紹介

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

それってパクリじゃないですか?3 新米知的財産部員のお仕事

2024-09-22 20:39:23 | 小説
 中堅飲料メーカー月夜野ドリンクの知的財産部に所属する藤崎亜季が、法務部出身の熊井部長、弁理士資格を持つ切れる上司北脇雅美の下で、小規模の食品メーカー今宮食品から死蔵していた苦み特許の購入を打診されたこと、月夜野ドリンクの看板商品の「緑のお茶屋さん」の模倣商品が他国で発売され人気を博していることへの対策に取り組む様子を描いた知財部お仕事小説。
 今宮食品の特許については、特許権侵害をしている(可能性が高い)ことを知財部が予め把握しながら、特許に新規性・進歩性がないという主張が可能で訴訟になったら勝訴する可能性が高い、製法の特許だから(月夜野ドリンクの製造工程を確認できない)今宮食品が月夜野ドリンクの特許権侵害を知ることは困難という判断で放置、買取拒否を決断します。それがビジネスというものだという書きぶりです。今宮食品単独ではなく、パテント・トロール(特許権ビジネスで稼ぐハゲタカファンドみたいな企業)が裏で糸を引いているという構図で、月夜野ドリンク側に理があるように印象づけていますが、月夜野ドリンク側が小規模企業の特許権を侵害し、そのことを正当化しようとしていることには変わりありません。1巻から一貫して大企業側の視点、大企業に都合のいい視点で描かれていて、大企業の側に立たない私には、知財ビジネスにいそしむ人たちってのはそういうもんだよねというシラケた感想を持たせてくれます。
 1巻から2巻まで3年半間隔が空きましたが、2巻から3巻は6か月、3巻から4巻は10か月と急ピッチに書き継がれています。日テレでのドラマ化決定という事情によるのでしょうね。


奧乃桜子 集英社オレンジ文庫 2023年9月24日発行
2023年4月期 日テレドラマ化
1巻と2巻は2023年9月1日の記事で紹介
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

検証 トヨタグループ不正問題 技術者主導の悲劇と再生の条件

2024-09-21 22:26:14 | ノンフィクション
 2021年以降立て続けに発覚したトヨタ自動車販売店の車検不正、日野自動車エンジン認証不正(ディーゼルエンジンの排出ガス及び燃費についての認証不正)、豊田自動織機エンジン認証不正(ディーゼルエンジン及びガソリンエンジンの排出ガスについての認証不正)、ダイハツ工業認証不正(側面衝突試験等での不正)、愛知製鋼公差不正(エンジン部品用鋼材の公差外れ品納品)、トヨタ自動車の認証不正(エンジン出力試験等での不正)について、その経緯、第三者調査委員会や国土交通省の調査等の結果等を解説し、著者が考える「真相」について述べた本。
 「詳細な取材から突き止めた不正の真相について明らかにしていく」という言葉が何度か記載されているのですが、事実関係については、基本的に公にされている調査報告書と報道によっていて、著者が書き加えているのは匿名の自動車メーカー等の技術者の意見による推測(トヨタ側の主張はあり得ないとか、こうだろうとか)と評価です。著者の主張の根幹は、第三者委員会の調査報告書やトヨタ側の説明では認証を行った部署に責任が押しつけられ、管理職は知らなかったとしているが、認証を行う部署には不正を行う利益がないし技術者が主導でないとそのような不正は行いえないから開発部署が主導であるはずだし、開発部署が不正に手を染めたのは規制をクリアする技術が不足していたためである、管理職が知らなかったなどあり得ないし管理職が許可しなければ予算等の問題で実施できないというようなところです。著者としては、トヨタ側は開発部署の技術力不足は口が裂けても言いたくないところでそれを暴いたところに価値があると言いたいのでしょうけど、全体の印象としては、基本的にトヨタ自動車本体については高い技術力とか会社の体制を評価というか賛美しているので、門外漢の読者にとっては、トヨタ自動車の公式見解とどれほど違うのか、よくわかりません。
 第三者調査委員会の報告書について、「真因に切り込んだと評価できるものは皆無だ」(6ページ)と指摘しているのはそういうものでしょう。部外者が、調査対象企業の従業員にインタビューするだけで、仮に本気でやっても嘘をついたり隠しごとをするものを見破れるかはかなり疑問ですし、そもそも調査対象の企業に雇われて報酬をもらっている人たちが雇い主に不利なことを真剣に暴こうとするはずもないと思います。それで「みそぎ」が済んだとする企業の姿勢に、さらにはそれで真相解明が済んだと扱い「第三者調査委員会」を評価したり賞賛するマスコミの姿勢にも呆れます。
 章を分けて書いているからという面はあると思いますが、同じことが同じ表現で繰り返し書かれているものが多いなぁと感じました。ダブりをカットしてスリムにしたら3割くらいページが減らせるんじゃないかという印象を持ちました。


近岡裕 日経BP 2024年7月16日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

表現の自由 「政治的中立性」を問う

2024-09-20 23:49:32 | 人文・社会科学系
 政治的中立性の名の下に行われている行政による表現の自由に対する制約・圧迫について、公務員に対する政治的行為の禁止、「政治的中立性」を口実とした市民団体の活動などへの差別・排除、放送法の政治的公平の規定を利用したテレビ局への圧力を例に採り上げて論じた本。
 採り上げられている大阪市が実施した職員アンケートのように特定政治家・政党や労働組合との関係などを使用者が労働者に詳細に回答させるという思想・良心や私生活上の言動の調査であるとともに労働組合活動へのあからさまな威嚇であり、労働組合法が禁じた不当労働行為であることが明白なことを、行政が、しかも弁護士市長と弁護士である「第三者調査チーム」代表が主導して行ったこと(66~77ページ)は特筆すべき表現の自由と労働組合への弾圧というべきです。このようなことが近年になっても、というより近年行われる傾向が出てきていることこそが、本書のような本が書かれるべき背景となっているのでしょう。
 こういった権力者と行政がいう「政治的中立」とは、結局のところ権力者・国・行政の意見と同調すること、賛美することが中立で、これに反対することが中立を害することと扱われるわけで、権力者が反対者を迫害・排除するための口実でしかありません。
 憲法学者である著者は、そこをもっと明確に指摘してもよいと私は思いますが、基本的に行政側の言いわけに対しても一定程度理解を示しつつ、多くの場面では(一部、裁判所の判決等を批判している場面もありますが)裁判所の判決や最高裁での少数意見等をベースに穏健な記述を心がけているように感じられました。その意味で「保守的」な傾向の人にも安心感のある読み物かなと思います。


市川正人 岩波新書 2024年7月19日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする