伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ついに1か月毎日掲載達成 (^o^)v

2013-05-31 21:48:17 | Weblog
 東日本大震災・福島原発事故の後、読書日記絶不調が続いていましたが、この2か月回復し、今月(2013年5月)は1か月間毎日、読書日記掲載できました。
 振り返ってみると、2006年7月の読書日記ブログ開始以来初めての快挙です。1か月の読書数では2007年6月の37冊が最多記録なんですが、この月も3日間お休みがあります(その分、1日2冊とかがあったわけですけど)。
 1か月に30冊超えも、この2007年6月以来です。そして年間300冊読破も2007年を最後に、その後ないわけですが…
 このまま、完全復活といけるといいですが。今月も終盤は、記録がかかってるという意識で、ちょっと無理気味に読み書きしたので、またへばるかも…
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たったひとり

2013-05-31 21:32:43 | 物語・ファンタジー・SF
 27年前に土砂崩れで1人が生き埋めになりそのまま廃墟となっているラブホ「ホテル・シャトーブランシェ」を訪れた大学の廃墟探索サークルの男女5人が、27年前の土砂崩れ直前にタイム・スリップし、しかも土砂崩れに遭う度に前回の2分後に戻るというタイム・ループに巻き込まれたという設定のファンタジー・ミステリー小説。
 サークルのリーダー葦原隆介が、27年前の事件と同じ状況で土砂崩れを迎えないとタイム・ループから抜け出せないのではないかと言い出し、正解に至るまで順番に1人がホテル内に残ることになり、5人が1人ずつ残って土砂崩れを待つというスタイルで順次各人の過去を振り返り、試行錯誤し、死の恐怖を前にして焦る様子を描いていきます。前半で在学中に司法試験予備試験に合格し本試験の合格も予想されている法学部の天才的な学生真野坂譲が思い切り鼻持ちならない奴でしかも卑怯者に描かれているのを見て、やっぱり秀才で弁護士って嫌われ役だよねと思いましたし、恵まれない2人の純愛ストーリーに収斂していくと思われました。しかし、読み終わると、真野坂がいやな奴であることは最後まで貫かれますが、結局は作者は全員が嫌いというか、どこに向けてもそうは問屋が卸さない救われないストーリーを紡いでいることがわかります。そういうひねくれた展開を、なかなかやるなと思えるか、読後感が悪いと見るか、好みが分かれそうです。


乾ルカ 文藝春秋 2013年1月20日発行
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あと少し、もう少し

2013-05-30 21:08:57 | 小説
 山間部の中学で駅伝のメンバーも足りない陸上部員たちが、ベテランのコーチを異動で失って陸上のことを何も知らない新しい顧問の下で、授業に出ずにテニスコート脇で昼寝している落ちこぼれや孤高を保つ吹奏楽部員、バスケットボール部員らを説得してメンバーを集めて、駅伝のブロック大会を戦う姿を描いた小説。
 大会で1区から6区を担当する6人それぞれの立場からの小学生時代から中学に入るまでと陸上とのつきあい、思い、そして大会に至るまでの過ごし方や練習風景、本番の様子を書くという構成になっています。それぞれの登場人物の周りから見た様子と本人の思いのズレ、鬱屈した思いと陸上を通じての爽快感・吹っ切った感へのつながりが読みどころと思います。田舎町の、県大会の予選と位置づけられるブロック大会で、メンバー集めから苦労する当たりの、スポーツエリートではないクラスの設定をして、ふつうの中学生っぽい悩みや鬱屈感を描くのが、読者の共感を得やすいという狙いと思われ、その狙いがふつうに当たっている作品と評価できます。
 2区の落ちこぼれ大田君のすねた純情と奮闘、4区の斜に構えた渡部君の照れと素直さあたりが、私には響いた感じです。全体を覆うキャプテン桝井君の不調は、最後まで読ませる力にはなるけれど、終盤まで重苦しさを漂わせ続けた挙げ句、不調の原因と最後の走りがうまく処理されたという納得感が十分とは思えず、そういう設定がよかったかどうか、私には功罪相半ばに思えました。


瀬尾まいこ 新潮社 2012年10月20日発行
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「持たない」ビジネス 儲けのカラクリ

2013-05-29 23:17:39 | 実用書・ビジネス書
 マイホームと企業の不動産・生産部門等を対象に、資産を持つことのリスクを論じ、身軽で機動的な選択の優位性を論じる本。
 第1章では一般人のマイホームと借家の選択を論じ、不動産の資産価値上昇の幻想とマイホームの維持費・修繕費負担、借家の職住近接選択と劣化には転居で対応できることなどを挙げて、借家の優位性を指摘しています。持ち家といっても住宅ローンが終わるまでは金融機関から家を借りているのと同じ(15ページ)、「住宅ローンは現代の小作農だ」(46ページ)など、住宅ローンに縛られた生き方に対する指摘は、持ち家政策の偏重やマイホーム幻想へのアンチテーゼとして興味深く読めます。しかし、個人の人生で考える限り、老後の収入が乏しくなる時点で、持ち家は家賃が不要で修繕費をかけなくても暮らすことは可能であるのに対し、借家では家賃負担が最後まで続くという点をどう解決すべきかの説明がないのでは説得力に欠けると思いました。
 第2章以降は、店舗を不動産として所有するがために不採算店舗も撤退が遅れる、生産部門を自社で持っているが故に売れなくなっても稼働率を高め不良在庫の山をつくってしまうなどの企業経営における資産保有のリスクを事例を挙げて指摘しています。そして、技術革新と市場ニーズの変化が速い現代では、極論すればノウハウと現金以外は保有しない、製造はすべて複数業者にアウトソーシングし競争させて品質を高めつつもっとも利益が出る形で行い、結果が悪ければ傷口が小さいうちに即時撤退する、というのが著者のお勧めの経営形態ということになります。
 一企業の利害のみを考えて、理論上の経済合理性を追求すればそういうことになっていくのでしょうけれど、社会の中で位置づければ長期的に合理性のある考えとは思えません。著者自身、「あとがきにかえて」では「持たない経営は経営者層にはプラスに働くように見えますが、前述の通り、一般的な労働者の雇用も失われることも事実です。労働者は消費者でもありますから、国内から労働者が減少すると国内市場も縮小することになるため、行き過ぎた『持たない経営』は結果的に経営者層にもマイナスに働きます」として、著者はこれまで経済関連の専門誌に持たない経営の手法を執筆してきたが何が幸せなのかわからなくなったと打ち明けています(152~153ページ)。そうなると、この本は一体何のために書かれているんだかという気がします。


金子哲雄 角川ONEテーマ21 2012年9月10日発行
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その科学が成功を決める

2013-05-28 22:55:49 | 人文・社会科学系
 自己啓発や幸福について書かれた本の中で広く常識とされていることについて、心理学の文献を元に検討した本。
 プラス思考、ポジティブシンキングについて、欠点について考えることやマイナス思考を抑え込もうとすると、人はかえってその考えに囚われてしまうことが指摘されています。「たとえば、ダイエット中の人にチョコレートのことを考えないようにしなさいと言えば、よけいチョコレートを食べてしまう。そして国政に馬鹿者を送り込んではいけないと大衆に訴えると、彼らはジョージ・ブッシュに投票してしまうのだ」(21ページ)。この例示だけでも素晴らしい。日本では誰がここに当てはまるでしょう?
 トラウマを克服するには、それを人に話すよりも、日記に書いた方がいい(22~24ページ)。書くことで問題が自分の気持ちの中で整理されるからでしょうか。辛い体験をした人は、その辛い体験から得たプラス面を書き出していくと怒りや不快感を沈静化させる効果がある(188~191ページ)とか。このあたり、うまく使いたいエピソードという感じがします。
 人をやる気にさせるには「ご褒美」はむしろ逆効果で、「報奨の額や仕事の内容に関係なく、ニンジンを鼻先にぶら下げられた人たちは、報奨を約束されなかった人たち以上の成績をあげられなかった」(48~50ページ)。成功した自分を強くイメージする方法も逆効果で、テストでいい成績を取った自分を毎日数分間思い浮かべた学生グループは、それをしない対照グループと比較してあまり勉強しなくなりテストでいい点が取れなかった(90~93ページ)。集団でアイディアを出すブレーンストーミングは個人個人で考えるよりアイディアを出せなかった(124~126ページ)。そして集団で決断すると、1人で決断するよりリスクが高い決断や極めて保守的な決断という極端に走りやすい(238~242ページ)って。ブレストも会議もするな、3人寄れば文殊の知恵は嘘ってことでしょうか。
 世間でよくいわれていることが、心理学の実験結果で次々否定されていくのは興味深く、ある種小気味いいところではありますが、実験の詳細は書かれていません(文献引用はたくさんなされていますからそれを読めばいいんでしょうけど)し、実験からそこまでの結論を導くのは少し飛躍があるように思える例もあります。とりあえずの読み物という線で押さえた方がいいかもしれません。
 仕事の先延ばし傾向を克服するためには、とにかく「ほんの数分」手をつけてみる(104~106ページ)というのは、経験上まったくその通りだと思います。時間が足りない、まだ準備ができていない、できる心身の状態ではないなどと考えて今日はできないなぁと思っていた仕事が、無理無理にでもやり始めてしまうと、あっさりその日のうちにできあがるということはよくあります。ただ気が乗らないからできない口実を作っていたのか、やり始めれば力が沸くのか(著者のいう最後までやらないと気がすまない人間の性質なのか)は何とも言えませんけど。


原題:59SECONDS:Think a little , Change a lot
リチャード・ワイズマン 訳:木村博江
文春文庫 2012年9月10日発行 (単行本は2010年、原書は2009年)
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記憶する技術

2013-05-27 22:02:56 | 実用書・ビジネス書
 受験を中心に知識を引き出して使いこなすための記憶の技術について論じた本。
 記憶するためのテクニックの部分は、復習は1時間以内と寝る前の5分とか、繰り返しで少しずつ増やしながら覚える、視覚・聴覚情報と結びつけ妄想も含め経験として頭に入れるなど、わりとどこでも聞くような話が多いです。
 むしろ、記憶や受験勉強にまつわる著者の解釈や人生論的な部分が読みでがある感じです。フィギュアスケートの例で一流選手は失敗しやすいジャンプの練習に時間を割くがそうでない選手は成功したジャンプをより磨くために時間を使うとして、上達するためには自分の失敗に注目しなければならない、失敗しないのであれば意識的に失敗するような状況をつくってしまえばいい、例えば絶対に全部できない制限時間でトライして弱点をあぶり出すというような方法論を提示しています(27~29ページ)。長所を伸ばせが主流のご時世に欠点の是正の先行を言う著者は、やはり私より少し年上。それをおいて、この事例から弱点のあぶり出しまで持っていく展開力の方に、ちょっと興味を覚えます。ストレスを抱えているとき、自分はもうストレスに慣れたんだと意識してそういう記憶を脳につくり出してしまえばストレスは克服できる、過去の苦い記憶も、そこから自分はこんなことを学びとってそれは自分にプラスのできごとだったというように記憶を自分によい意味に書き換えてしまえという(39~42ページ)一種のポジティヴシンキングも、苦い記憶自体は否定しないで「もう慣れた、積極的な意味もあった」と追加することで克服しようとする点で興味深いところです。プラスに変換できない過去の記憶、根も葉もない悪口や悪意に満ちた嫌がらせは忘れた方が幸せだし、どんなに努力しても文句を言う人はいる、万人に好かれる人などいない(157~159ページ)という割り切りも、そうだよねぇと思います。
 著者が記憶術の実践で聴いた講義を帰り道・電車内で振り返りセルフレクチャーしていたら「電車の中でふと気づくと、私の周りだけ空間ができていたこともあった。とはいえ、混んでいる電車の中でも快適に過ごせるのだから、願ったりかなったりだ」(75ページ)というのは、やはり強者だと思います。「部屋の整理がまったくできておらず、整理が苦手という人は、記憶力も弱い気がする」(86ページ)は耳が痛いですが…


伊藤真 サンマーク出版 2012年3月30日発行
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湿原力 神秘の大地とその未来

2013-05-26 21:22:04 | 自然科学・工学系
 北海道の湿原を中心に世界の湿原についてのエピソードを紹介する本。
 湿原の研究を続けてきた植物生態学者の本ですから、著者が長く研究対象としてきたサロベツ湿原などでの植生を中心とした学問的な記述が続くのかと予想していたのですが、前半は湿原をめぐるある種トリビア的なというか雑学っぽいうんちくで、後半は各地の湿原の地勢と歴史の話が多くを占め、湿原と文学とかの文化・民俗的な話に及んでいます。
 湿原で堆積する泥炭の話がそこここにあり、「火力は弱いがほのぼのとした温かさが伝わり一日中家にいるお年寄りには格好のものだったのだ。ストーブの上ではいつもお湯が沸いているし、時間をかけて煮込みやスープを作るのにはもっとも適していた。洗濯物もすぐに乾いた」(65ページ)とか、「麦芽の燻煙に用いられて独特の香りと味を出す泥炭がなければウィスキーは存在しない。逆に言えば、ウィスキー製造には泥炭しかなかったと言うべきかもしれない」(75ページ)などというのを読むと和らぎます。熱帯のマングローブ林でも、植物の生育が早く堆積量が多いので泥炭が堆積するがガサガサなので、農園などを作るために排水溝を掘って水位を下げると、たちまち分解が進んで泥炭層は縮んで薄くなり地盤沈下を起こし結局海水が逆流して植えた植物が枯れる上に泥炭が乾くと燃えやすく火事の危険がある(66~68ページ)という話は、熱帯での乱開発の虚しさを示唆しています。石狩湿原は明治初期には北海道で最も大きな湿原だったが、開発により極めて急速に消滅に向かった、「おそらく湿原の変化としては、もっとも短期間で急激な例と言えるだろう」(107ページ)ということとともに胸に刻んでおきたいところです。


辻井達一 北海道新聞社 2013年3月15日発行
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現代日本の政策体系 政策の模倣から創造へ

2013-05-25 20:18:57 | 人文・社会科学系
 現代の日本においてあるべき政策体系と政党政治についての政治学者である著者の見解を述べた本。
 著者は、「政党共通の競争基盤」となるべき問題分野と政策体系を論ずべき問題分野を分け、前者を第2章で、後者を第3章から第6章で論じています。
 前者では、「1.財政の持続性をいかに確保するか」と題して財政再建の枠組の堅持、「2.経済政策の共通基盤」と題して財政再建のめどをつけた上でのデフレ脱却と経済成長戦略、「3.地方分権の推進」、「4.外交・安全保障政策の前提条件」として日米関係の維持と近隣諸国との良好な関係の維持、日米安保と自衛隊の現状維持を挙げています。何よりもまず財政再建というあたりは財務官僚の回し者かとも思いますし、日米安保も自衛隊も現状維持が共通基盤というのでは、これまでの政党間の対立・論争を政策論争から除外しあるいは不毛な論争と断じて目をそらさせようとしているように見えます。
 「両党の政策位置が近くなることは、決して悪いことではない」「社会全体が安定しているときには、中道的な立場に多くの支持が集まり、人々の意見の分布が正規分布をなすことが多い」「まさに日本で起こっていることは、こうした穏健で正規分布をなす有権者の下で、主要政党の政策的位置が似てきたという状況である」(279ページ)という著者は、端的に言えば、共産党や社民党などを無視して、保守系の2党か3党で、官僚が困らないような穏健な経済政策で競争していけばいいと考えているように、私には見えます。
 政策体系を論ずべき問題分野としては、少子高齢化の下での社会保障のあり方、都市と農村の将来像、環境問題への対応、家族・ムラ等の人間関係に影響を与える教育・治安・情報通信政策を挙げています。政党が政策を競うべき分野の代表はこういうものでしょうか。このあたりにも、保守系でない政党を排除したい著者の思惑が表れているように、私には思えます。この中で、従来の政策対立として際立つ原発・エネルギー政策については「反対論と容認論が、一つのテーブルについて次の一歩について妥協点を探るとともに、将来の形についてはじっくりと議論を重ねて、新たなコンセンサスを作り上げるよう努める必要がある」(203ページ)としています。自らは結論を示さないという立場なのか、「じっくりと議論を重ねる」ことが権力を維持し官僚が舞台回しをする側・時間がたち原発事故の衝撃が薄れることで利益を得る側に有利に進むことを念頭に置いているのかはわかりませんが。
 「はじめに」では「最終的な政策の姿には、あえて複数の可能性を残した」としています(12ページ)が、多くの場面では、著者の意見が1つ書かれているだけで、複数の方向性を示している分野はあまりないように思えます。著者が示唆する政策は、考え方として興味を惹かれ参考となる点も少なからずありますが、現状を根本的に変えるものは少なく、過去の政策について世間では批判が多い問題についてもそう悪くはないと評価してみせる点が多いことも併せ、官僚が歓迎する範囲内のものだろうなと思えました。


飯尾潤 ちくま新書 2013年3月10日発行
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「暁」の謎を解く 平安人の時間表現

2013-05-24 20:48:05 | 人文・社会科学系
 平安時代の日付の変更時刻、暁は何時頃かなど、平安時代の文学作品に見る時間について、通説と異なる著者の説の論証を試みる本。
 著者は、平安時代の日付変更は午前0時ではなく午前3時であった、暁は寅の刻の午前3時から5時までを指し、「つとめて」はその後の卯の刻で午前5時以降、「有明の月は暁のそれも暗い時間帯に出ている月を表現するのが平安時代の有明の一般的用法だった」(78ページ)、「明く」は夜が明けるの意味ではなく日付が変わることすなわち午前3時になること、「夜もすがら」も「今宵」も午前3時までを指すという主張をし、源氏物語や枕草子、更級日記、和歌などの用例でその論証を試みています。
 大変興味深いものですが、論証としては、日付変更が午前3時であること、そこから「明く」は午前3時が過ぎること、暁は午前3時からと順次前の論証ができていることを前提として次の論証をしていくという構成になっているので、1つが崩れると総崩れになりかねないリスクを抱えているように思えます。そこは、この点は論証できているからと前提にするよりも、全体としてこう解釈した方がさまざまな用例を説明できるでしょという説得の方がいいように見えます。
 有明の月について、「夜が明けても、なお空に残っている月」とする古語辞典の通説的見解を誤りとして、有明の月は暁の時間帯の闇の時間に出ている(99ページなど)としていますが、著者が百人一首にある「有明」で唯一検証対象から外した(91ページ)「朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪」は、有明の月を薄暮の空の月と考えないと理解しにくいように思えます。この点は、有明は午前3時以降を意味するので「暁の時間帯以降、例えば薄暮の空に薄く白く出ている月もやはり有明の月」(78ページ)という記載もあるのでいいかもしれません。しかし、「夜が明ける」の意味で動詞の「明く」が使われる可能性については、「もちろん、全くないとは言えないが、ほとんどその可能性はない」(104ページ)と著者は述べています。そうだとしたら、百人一首の「明けぬれば暮るるものとは知りながらなお恨めしき朝ぼらけかな」について、著者が論じる前提事実の「明けぬ」は午前3時になった、男女の別れは暁(午前3時から5時の暗い時間帯)ということからすると、この歌の作者が恨むべきは「朝ぼらけ」ではなく「暁」ではないかという疑問を生じます。
 この本で論証ができたという位置づけではなく、通説への疑問をそれなりに小気味よく展開した本という読み方がいいかなと思いました。

小林賢章 角川選書 2013年3月25日発行
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横道世之介

2013-05-23 19:34:43 | 小説
 長崎の海辺の町で育ち東京の大学に入った学生横道世之介の大学1年生の生活と知人たちが中年になって振り返るエピソードで構成する青春小説。
 「昔の小説の主人公で理想の生き方を追い求めた男の名前」に由来する(16ページ)名前と、素朴なひたむきさが周囲と少しずれているためにコミカルに見える世之介と、知人たちとの交友関係を描き、そのエピソードがコミカルでずれてる感はあるもののたいていの読者には学生時代に自分も似たようなことしてたよなとか似たような友達がいたよねと思わせてくれるところが巧みなところです。言い換えれば、多くの人が学生時代に経験したようなエピソードを少しずらせてコミカルに描いた作品といってよいでしょう。
 そういう目で見ると、好き好きオーラを放つ世間知らずで気が強くて純情で正義感のある、結果少しずれた祥子ちゃんに一直線で行かずに結局は「もう原因も思い出せないような些細な喧嘩から」(375ページ)別れてしまうことや、怪しげな魅力の年上の千春に惹かれてしまうことも、学生時代だったらそうだよなぁ/そうかもと思います。今だったら…う~ん、危なそうな話はやめておきましょう(‥;)


吉田修一 毎日新聞社 2009年9月20日発行

映画の感想は「映画な週末」の2013年5月3日の記事で紹介しています。
 
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