伊東良徳の超乱読読書日記

読んだ本の感想を中心に本に対するコメントを書き散らします。読み終わった本は図書館に返すのでフォローは保証できません。

野良女

2010-06-30 21:40:50 | 小説
 つきあう男が全部短小の上2年間恋人なしでいたら処女膜が再生したと驚くが医者に子宮内膜症と診断され手術を勧められる派遣社員鑓水、地方の名士の娘で年上の会社社長とばかりつきあっている役員秘書朝日、遠距離恋愛ばかり続けるセキュリティソフト営業職の壺井、女を殴る男とばかりつきあっている生命保険外交員桶川、不倫ばかり続けリストカットを続ける派遣社員横山の5人の三十路前女が居酒屋などで群れて飲んだくれながら下ネタで盛り上がり明日の活力を得て男との新たな展開を繰り広げる恋愛系コメディ短編連作小説(といっても「ラブコメ」とはとてもいえない)。
 この作者は、私は、悲恋ものの「群青」から入ったので、こういうのも書くんだと驚きましたが、経歴から見ると逆だったかも。
 下ネタ暴走気味のえぐい小説です。女の本音という紹介もされていますが、それぞれの設定の極端さからしても、ギャグと見た方がいいでしょう。
 暴力男とばかりつきあう桶川のところで、「痛みとともに性交をすると、マリファナを吸った後みたいな陶酔感を味わえる」「少なくともこの快楽を知れば、痛みのない性交なんてサビ抜きのトロみたいなものと気付くだろう」(123~124ページ)、慈悲深い男との優しい性交では性欲を満たせない(115ページ)、「傷とか痣があると、お客さんが憐れんで保険入ってくれるんだよね」(65ページ)とか、DV被害者が見たら逆上しそう。「本音」かどうかよりも、DV被害者をそういう目で見る・そういう目線を煽る人がいることに。


宮木あや子 光文社 2009年7月25日発行
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不気味な笑い フロイトとベルクソン

2010-06-25 21:56:28 | 人文・社会科学系
 フランスの哲学者アンリ=ルイ・ベルクソンの「笑い」における笑いについてジグムント・フロイトの論文「不気味なもの」との対比で考察したパンフレットタイプの論文。
 モリエールの喜劇を中心に相当数の文学作品が引用されるとともに、フランス現代哲学の香りのぷんぷんする本ですから、基本的に小難しい本です。
 しかし、基本線は、滑稽なものと不気味なものの連続性に着目し、繰り返しやひっくり返し、不条理というようなパターンが一定の「枠」の中で自らが観客としての位置を維持できるときは滑稽さとして働き、枠が宙づりになり穴が開き自らが巻き込まれると不気味なものとなるということを論じています。暴力的に要約すると自らの掌のうち(コントロールできる)か対岸の火事で自分に深刻な影響を生じないことは笑ってみていられるが、自分が巻き込まれ先が見えない(コントロールできない)となると不気味/不安になるというようなことだと思います。ある意味、当たり前。
 哲学系の本を読んで、難しい言葉を使って難しい本をたくさん引用しているけど、結局言いたいことは「だから、どうしたの」って言いたくなるようなことだったりすることがよくあります。それはもちろん、私の理解が足りないというか私がディテールに関心を持てないためでしょうけど、そういうことから私はどうも哲学系の本が苦手です。
 それに、この本の本文は正味67ページしかないのに、訳者解説が35ページ。本文の長さの半分以上もある解説って。こういうなが~い訳者解説にありがちですが、本文で取り上げていないことをあれこれ挙げて本文よりさらに小難しいことを書いています。そういうのは、別に自分の本で書けばいいのにと思います。


原題:LE RIRE ETRANGE : BERGSON AVEC FREUD
ジャン=リュック・ジリボン 訳:原章二
平凡社 2010年4月14日発行 (原書は2008年)
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認め上手 人を動かす53の知恵

2010-06-25 21:04:34 | 実用書・ビジネス書
 相手にやる気を出させるために相手を認め、ほめ、表彰を活用しようという本。
 相手をほめてがんばらせようとしても、褒美を与えて動かすのは動物レベルのことで人間には一時的な効果はあっても持続的な効果はないし、日本では下手にほめるとほめられた人が浮いてしまい本人にも組織にも逆効果になりかねない、そこを考えてうまくほめよう、ほめるよりも相手を認めようというのが著者の主張です。
 昨今、従業員の責任感を高め顧客サービスを向上させるためといって従業員の氏名を表示させる企業が増えていますが、これについては従業員が意欲と責任感を高める効果はあるもののストレスでやめる従業員が増えたり、客の見ているところではきちっとやるがその分陰で手を抜くようになる例もある、名前を出して効果があるのは個人の裁量性がある場合でマニュアル通りにやることが求められる従業員の場合は客に監視させる要素が強くなり従業員はやらされているという感じを強めモチベーションは引き出せないと指摘しています(59~67ページ)。
 客からの声はよいものだけを伝える(71~74ページ)、成績発表は上位3分の1だけにする(2分の1まで発表すると名前がないものは標準以下とわかってしまう:75~78ページ)など、従業員の意欲をくじけさせないための配慮があれこれ指摘されています。
 人間を使うって難しいねという実感を持ちますが、同時にいかにコストをかけずに従業員にたくさん仕事をさせるかという目的の本ですから経営者の本音をいかに隠して巧妙に従業員を操作するかといういやらしさがつきまといます。


太田肇 東洋経済新報社 2009年6月25日発行
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競売不動産を買うときの基礎知識

2010-06-23 22:35:54 | 実用書・ビジネス書
 一般人が裁判所の競売手続で不動産を買う際の手続や注意点を解説した本。
 比較的わかりやすく書かれていると思いますが、それでも法律用語が頻繁に登場するので、一般人がどこまで読めるかはやや疑問です。まぁこの程度の法律用語に怖じ気づく人はそもそも競売なんぞに近寄るなという足切りの意味もあるかもしれませんが。
 旧法時代に書いた本の再改訂ということからかなと思いますが、売却基準価額と最低売却価額(買受可能価額)が混同されているところが少なからず見受けられますし、事例と本文で数字が合ってなかったり(142、172ページ等)、作りが雑な印象を受けます。実事例によるシミュレーションでは、住所等を隠しながら地図(165ページ)に「調布」「吉祥寺」の文字が残り特徴的な形の区・市境界がそのままになっていて、簡単にマンション名まで特定できてしまいます(部屋は図面で特定されてるし)。著者は法律事務所勤務の経験もあるそうですが、個人情報を守る配慮って難しいものだと、自省の念も込めて思います。


小柴一生 ぱる出版 2010年5月6日発行
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無銭優雅

2010-06-22 22:30:55 | 小説
 両親と同居し友人と小さな花屋を営む42歳独身の斉藤慈雨が、乗り物酔いのために自転車で行ける範囲を超えて遠出できない42歳バツイチ男北村栄と「運命的な」出会いをしてから恋に落ちいちゃつき続ける恋愛小説。
 恋愛小説といえば、普通は美男か美女が登場して恋人になるまでの思いや駆け引きが描かれ、美しい思い出や危機がありかっこよく感動的に展開するものですが、この小説では風采の上がらない中年男女が周りの者の目をまるで気にせず最初から恋に落ちて二人の世界に浸っていちゃつき続けるという点で斬新です。中年でも恋に落ちていい、劇的なことなど起こらなくてもいい、人がどう見てようが関係ないという開き直りが、むしろ快い。中年のおじさんとしては、こういう身構えないゆるい、そしててらいもなくいちゃつける関係っていいなぁと思います。
 ただ、アイディアはいいんだけど、後半若干の事件は起こるもののほとんど事件もなく二人がいちゃつき続ける流れが延々と続くのはちょっとだれます。中盤をもう少し省略した方がよかったんじゃないかなと思います。
 あと、文体がである調にですます調が混在する上に、会話に文語体が入ったりしてばらばらすぎで読みづらく感じました。


山田詠美 幻冬舎文庫 2009年8月10日発行(単行本は2007年)
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ありえない恋

2010-06-21 22:27:41 | 小説
 親友の理名の弟3つ年下高校生に恋してしまった大学生未冬、未冬の父32歳年上妻子ありに恋してしまった理名、未冬の愛読書の作者に抗議のメールを送るうちにまだ見ぬ恋愛小説家森まりもに恋してしまった未冬の父、死んでしまったギタリストの恋人真人を忘れられないまりも、まりもの親友のむつみに恋してしまった真人の幽霊、結婚を直前に惑うむつみ、そしてむつみの前に現れたマジシャンは・・・というリレー形式で短編連作風に綴られた恋愛小説。
 年齢差や親友の家族といった点でのありえなさから、果ては幽霊の恋愛まで出す悪のりぶりでちょっとずれたシチュエーションを展開していますが、恋愛小説ですから、恋するものには何でもありな訳です。
 「ありえない恋」に悩む者への作者のメッセージは、「好きと思っているその感情を、全面的に認め、全面的に肯定して」「なぜなら、すべての悩みは、自分を否定するところから始まるの。否定する必要もないのに、否定してしまうことから」「どんな人にたずねても、正しい答えは見つからない。なぜなら理名ちゃんの答えは理名ちゃんの心の中にだけ、あるの」「恋には一般論は役立ちません。数学みたいに決まった答えもありません。百人の人がいたら、そこには百の恋があり、百種類の喜びがあり、悲しみがある」(75ページ)。こういう目線にこの作者の柔らかさを感じます。


小手鞠るい 実業之日本社 2009年9月25日発行
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現代語訳 帝国主義

2010-06-21 21:59:33 | 人文・社会科学系
 大逆事件で処刑された幸徳秋水が1901年に出版した「廿世紀之怪物帝国主義」の現代語訳。
 比較的薄い啓発書(パンフレットというには厚すぎます)で、読んでいると、社会主義者としてよりもジャーナリストとしての論というか流れの巧さを感じます。「愛国心を論ず」では、愛国心とは国を愛することではなく他に敵を作り上げてその敵を憎むことで団結することだということが、例を挙げて繰り返し語られることでだんだんと説得されていきます。こういう例の挙げ方と繰り返しが巧みな感じです。この説得力に、政府と軍部は脅威を感じて弾圧事件と相成ったのだなと、納得してしまいます。もっとも、例のうち近代の軍人とかは、当時はよく知られていたのでしょうけど、私にはわからない・ぴんとこない例が多くて、ちょっと読みにくかったのですが。
 明治も後半の本を「現代語訳」とは・・・とも思いますが、明治時代の文章で岩波文庫とかいうと読むのがつらい身には、こういう試みは大変ありがたい。出版社側としてはそういう発想よりも著作権切れで利幅が大きくなるという程度の動機かもしれませんけど。


幸徳秋水 訳:遠藤利國
未知谷 2010年5月25日発行
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エスケープ!

2010-06-20 17:24:54 | 小説
 しょぼい会社に内定をもらったばかりの将来に希望の持てない学生のシュウが、恋人のチカゲから結婚と両親との面会を求められているが積極的になれないでいるうちに、チカゲの友人のセレブのフーちゃんの豪華な暮らしを耳にし、雑誌の特集「プロが語る!空き巣手口のすべて」を読むうちにフーちゃんの家に空き巣に入るが家に人がいて失敗する話を軸に、シュウ、フーちゃんの家にいた男、チカゲの3者の視点から話を展開するコメディ小説。
 将来に希望の持てない若者、長年まじめに働いてきたがリストラと妻の不興を買って離婚を突きつけられる壮年男の絶望という世相を反映し、やや社会的な問題提起も感じられないでもないですが、結局は現状肯定的に不満が回収されています。
 そこそこ巧みにストーリーを展開させていますが、まぁ大筋読める展開ですし、ラストも小ネタで終わります。コメディですから読者をびっくりさせるよりニヤリとさせるラインを選択したのかもしれませんが、もう少しサプライズがある方がよかったかなと思います。
 軽い読み物としてはいいかなと思います。


建部健 幻冬舎 2009年7月25日発行
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ドーン

2010-06-18 22:28:40 | 物語・ファンタジー・SF
 人類初の有人火星探査船ドーンのクルーたちの宇宙での経験と地球帰還後の運命に、広域に張り巡らされた監視カメラ網とそのデータを顔認証検索できる「散影」システムとアメリカが介入して泥沼状態の「東アフリカ戦争」とそこでの民間戦争請負会社の開発した致死率100%のマラリア原虫を乗せた生物兵器「ニンジャ」を絡めて展開されるアメリカ大統領選の行方を描いた近未来SF小説。
 舞台設定は2036年で、有人火星探査や顔認証検索システム、さらにはその散影を運営する無領土国家プラネットなど、近未来的な道具は26年後ならありかなぁという適度なリアリティを持っています。でもそういうテクニカルな発展があってもアメリカ大統領選挙の争点は変わらないのねという感心とも諦めともつかぬ思いを持たされます。
 ちょっと、あれこれの要素をごちゃごちゃと持ち込みすぎてプロットがすっきりしない、最終的にすべてが大統領選挙に収斂するという点ではまとまっているのでしょうけど、初期にドーンのクルーの物語っぽく進んでいることもあり、なんかそっちがどうもすっきりしない感じがしてしまいます。
 日本語の小説なのに、どこか翻訳小説っぽいニュアンスがあるのも、好みの分かれるところでしょう。


平野啓一郎 講談社 2009年7月9日発行
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教えて!左巻先生 いまさらきけない化学の疑問

2010-06-16 23:17:39 | 自然科学・工学系
 インターネットのQ&AサイトOKWaveの質問から化学系の質問を選んで学者や教師たちが回答を書いた本。
 質問がすでにできているので執筆者が作らなくてもいい上に、一般人が現実に聞いたものだから一般人の興味にそこそこ合っているので読まれやすいという、編集者にとっては安直で手堅い企画の典型ですね。執筆者が多数で答え部分のわかりやすさや文章の読みやすさに落差がありますが、企画の手堅さの方が生きて、それなりにおもしろく読めます。
 感度の高い血痕判定方法として刑事事件で多用されてきたルミノール反応が、血液だけじゃなくて大根おろしとか西洋わさびやキュウリでも生じるという話(159~161ページ)はちょっとショックを受けました。古い刑事事件ではそれが原因の冤罪事件もあったのかも、と思うと。


左巻健男監修 技術評論社 2009年7月1日発行
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